Thu 141225 センター試験雑感 マンタローと泉鏡花 畠芋之助(夏マルセイユ滞在記23) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 141225 センター試験雑感 マンタローと泉鏡花 畠芋之助(夏マルセイユ滞在記23)

 1月17日夜、早速メールで送られてきた今年のセンター試験の問題に目を通し、「なぜ今になって、こんな問題形式の変更が必要だったのかな」と、どうも判然としない気持ちに満たされた。

 この20年間、定番として必ず出題されてきた読解問題が1問、形式としては姿を消した。長文の中に3カ所の空欄があり、その空欄にあてはまるセンテンスを選ぶ形式の4者択一問題である。

 今井君はこの形式が大好きで、基本的な読解力を試すのにはベストの形式と信じていた。それがフッと姿を消して、新しい形式の問題が導入されている。

 新形式はずいぶん凝っていて、何と「8者択一」。しかし中身としてはあまりにカンタンだ。第2問のCであるが、順列&組み合わせみたいなこの8つの選択肢、ホントに必要だったんだろうか。

 ついでながら、昨年から導入された第3問のBも、今井君はキライである。こんなに黒々とアンダーラインばかり引いて、何だか威嚇的だ。それでなくてもビクビクしている受験生諸君を、こんなにたくさんのアンダーラインで威嚇して、しかも中身は笑いが巻き起こるほどカンタンである。

 どうも「形式によるコケおどし」が多すぎないか。あと数年で廃止されるらしいセンター試験で、何も今になって煩わしい形式変更なんかしなくてもよさそうな気がするが、とにかく間もなくいろいろ統計の数字が出てくるわけだから、これ以上軽率なことは書かないでおく。

 ま、イチ予備校講師の分際で、ツベコベ文句を言っても致し方ない。また「解説授業」「対策授業」や「時間配分」を練り直して、来年の受験生たちのために地道に備えることにしよう。
広場
(ニーム、カフェの集まる市役所前広場)

 さて、9月6日のクマ助は、古代ローマ帝国の偉大な業績を次々と見て回り、頭も身体もすっかり茹であがったような気分。そりゃそうだ、ポン・デュ・ガールの水道橋に圧倒され、ニームみたいな小さな街にも円形闘技場をしっかり建設した丹念さを見せつけられたのだ。

 しかもそれらが全て2000年前のもので、2000年の歳月に耐えぬいて現在も使用可能。毎年毎年のセンター試験や、その形式変更に右往左往している予備校講師の世界とは、やっぱりワケが違う。

 昨日映画を見て感激しちゃった青函トンネルは(昨日の記事参照)、2000年の風雪や海底の漏水に耐えられるだろうか。古代ローマ帝国がどれほど丹念なメンテナンスを続けたか、気が遠くなるような思いがする。

 もちろんそれとともに、そのメンテナンスがなくなってからの(つまり西ローマ帝国滅亡後の)1500年間、メンテナンスなしで耐えぬけるほどの建造物であったことにも、諸君、感激するじゃないか。

 その1500年は、暗黒の中世と、宗教改革と動乱、火薬と鉄のニオイに満たされた近代の戦争との連続だったのである。古代の建築物がメンテナンスなしでスックと立ち続けられるような、穏やかな1500年ではなかったはずだ。
カリソン
(カリソン。アーモンドとメロンジュースを混ぜて固めたプロヴァンス銘菓。ニームで1箱買って、あっという間に平らげた)

 諸君、感動しすぎて今井君はノドが渇いた。ニーム到着の直後、ニームの駅前で冷たいビールを1杯。ポン・デュ・ガールからのバスの暑さで茹であがっていたせいで(一昨日の記事参照)、「ここで飲まなきゃ ☞ 熱中症」という危機感もあった。

 少し落ち着いてから、ニームの旧市街をグルリと回り、円形闘技場やメゾン・カレの勇姿に感激。旧市街の旨そうなレストランやヨサゲなカフェに誘惑され、しかし誘惑に負けないで、再び駅前に戻ってきた。

 時計は18時、さすが夏のプロヴァンスも夕暮れが迫り、駅前のカフェも「そろそろ店じまい」と浮き足立っていたが、クマ助はさっきビールを飲み干した店の向かいのカフェに闖入。「マンタロー」という恐るべき飲み物を注文してみた。

 諸君、いくら何でも「マンタロー」はないじゃないか。大昔の日本に「久保田万太郎」という作家がいた。いかにも今井君の好きそうな作家であって、泉鏡花、久保田万太郎、中島敦ときちゃうね。
マンタロー1
(マント・ア・ロー。ミントと水が別々に運ばれてくる)

 ここで話がグーンとそれるのは、まあ許してくれたまえ。ボクチンはマコトに古い人間であるから、せっかく日本中の若者が受験するセンター試験なのに、現代文で出題される文章がどうも好きになれない。

 今井君の好き嫌いなんかどうだってかまわないし、そりゃ「屁でもない」だろうが、せっかく2年前だか3年前だかに小林秀雄を出したんだから、中島敦や泉鏡花がヌッと顔を出したっていいんじゃないかね。

 トラになっちゃう「山月記」の中島敦は、泉鏡花の大ファン。厳しい喘息に喘ぎながら泉鏡花を耽読し、その随筆に
「日本人に生れながら、あるいは日本語を解しながら、泉鏡花の作品を読まないのは、折角の日本人たる特権を抛棄しているようなものだ」
とまで書いた。
マンタロー2
(マント・ア・ロー。ミントと水を好みの割合に混ぜて飲む)

 あの中島敦先生がこれほど手放しで絶讃する作家を、どうしてもっと表にださないの? クマ助は岩波書店の鏡花全集を全28巻、「別巻」と「月報」まで所有しているツワモノだから、大作家・鏡花先生にもっと活躍してほしいのだ。

 だって諸君、泉鏡花がデビューするかしないかの頃に使っていたペンネームを知っているかね? 驚くなかれ「畠 芋之助」だ。間違いじゃないから、もう1回書いておく。畠 芋之助。「はたけいものすけ」と読む。これで好きにならないヒトが、この世に存在するだろうか。

 もちろん泉鏡花をセンター試験で出したりすれば、いまや天下の難問奇問と言われかねない時代。だからこそ、「難問奇問」とマスメディアに揶揄され、30年も50年も叩かれ続けてきた早稲田大学の出番じゃないか。

 どうだい、来年あたり、文学部か文化構想学部あたりで、泉鏡花や久保田万太郎。マスコミがこぞって「正気を失ったか」「早稲田大学の凋落」と盛り上がり、盛り上がりすぎて沸騰し、ブクブク泡立ってたいへんなことになりそうだ。そのぐらい思い切ってやっちゃうからこそ、早稲田の早稲田らしさなんじゃないか。
駅前
(国鉄ニーム駅前。小川の水がゆったり流れ、初秋の夕風が爽快で、人々の笑い声も和やか。何だかとっても豊かな街であった)

 諸君、ニームのカフェで「マンタロー」を注文しただけで、今井君の頭の中を以上のような激しい想念が駆けめぐる。その点は「想念が駆けめぐる」を ☞「壮年が賭けめぐる」と変換してくれるMac君の頭脳にも負けるものではない。

 なお、ガイドブックには「マンタロー」という恐るべき文字が書かれているけれども、フランス語では「Menthe a l'eau」。ガイドブックも、できれば「マンタロー」はヤメにして「マント・ア・ロー」にしたほうがいいんじゃないかと愚考する。

 Mentheはミント、eauは水のことで、ミントの濃厚シロップを水で割って飲む爽快なドリンクである。黙っていれば普通の水が運ばれてくるが、ウェイターに「ペリエで」とお願いすれば、ブクブク泡立つマント・ア・ローが楽しめる。難問奇問にブクブク泡立つのもいいが、同じ泡立つならマンタロー、久保田万太郎で泡立っちゃいませんかね。

1E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du Pré:BEETHOVEN/PIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS 3/9
2E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du Pré:BEETHOVEN/PIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS 4/9
3E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du Pré:BEETHOVEN/PIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS 5/9
4E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du Pré:BEETHOVEN/PIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS 6/9
5E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du Pré:BEETHOVEN/PIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS 7/9
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