Wed 141203 ついにエクスアンプロヴァンスへ 地下鉄と「治安」(夏マルセイユ滞在記4) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 141203 ついにエクスアンプロヴァンスへ 地下鉄と「治安」(夏マルセイユ滞在記4)

 9月1日午前10時、マルセイユのクマ助は、エクサンプロヴァンスの街に向かう。エクサンプロヴァンスとは、Aix en Provenceであって、フランスにもう1カ所Aixという町があり、これを区別をつけるためにen Provenceを後ろにくっつけたわけである。

 秋田県に「羽後境」があり、青森県に「陸奥横浜」という駅がある。もちろん大阪の「堺」や東京の「武蔵境」と区別をつけるために「羽後」がつき、日本第2位の人口を誇る巨大都市とキチンと一線を隠すために、「陸奥の横浜」だと自分の属性を明らかにする。

 兵庫県に「播州赤穂」という駅があって、こりゃ誰が見ても忠臣蔵の赤穂、赤穂四十七士の敵討ち赤穂、浅野内匠頭と大石内蔵助と堀部安兵衛の赤穂であるが、「何でわざわざ有名な赤穂に『播州』なんかくっつけるんだ?」と誰だって疑問がムクムク湧き上がってくる。

 しかし諸君、日本をナメてかかってはいけない。長野県駒ヶ根市に「赤穂」という町があり、「県立赤穂高校」という高校も存在する。するとやっぱり「播州赤穂」でなければならなくて、むしろそっちのほうがカッコいい。秋田県の普通の「湯沢」より、やっぱり「越後湯沢」のほうが風情があるじゃないか。
13549 中央駅
(マルセイユ・サン・シャルル駅前の壮大な石段は、歴史的建造物に指定されている)

 というわけで、ただエクスとかAixというだけじゃ、他のAixと区別がつかないから、「プロヴァンスのエクス」と断り書きをくっつけて、もっとカッコいい響きを身にまとう。ただの次郎長じゃなくて「清水の次郎長」だし、単なる忠治じゃなく「国定村の忠治」なのであって、それでグッと重みも増すのである。

 次郎長と入力して「痔瘻帳」とくると、mac君もずいぶん蒸留酒の飲み過ぎや激辛カレーの食べ過ぎに気をつけているらしいが、まあそういうわけで、今井君は「プロヴァンスの」とご大層な但し書きのついたAixにこれから向かうことにする。

 ただし諸君、プロヴァンスというのは古代ローマ語の「プロヴィンチア」、つまり「田舎の」とか「都から遠く離れた」ということであって、まあハッキリ言えばかなり失礼な形容詞である。「田舎臭いAix」「都から遠く離れたエクス」を訪問するわけだ。
13550 地下鉄駅
(地下鉄ビュー・ポール駅)

 10年前のマルセイユ訪問でも5日ほど滞在したが、各駅停車でたった1時間弱のエクスに足を踏み入れることがなかった。あんまり近いので「明日は」「明後日こそは」と躊躇しているうちに、マルセイユ周辺で大ストライキが発生、電車もバスもみんなビクとも動かなくなって、エクス訪問を諦めるしかなくなった。

 あれから10年、「いつかはエクスに」「どうしても1度はエクサンプロヴァンスに」と激しい執念を燃やし、フランスに入国するたびに「何とかしてエクスに行けないものか」と常にチャンスをうかがっていた。

 今回のマルセイユ滞在が決まった時、アルル・アヴィニョン・ニーム・エグモルトなど、他にも小規模旅行の候補はいくらでもあったけれども、「何よりもまずエクサンプロヴァンス♨」という固い意志は揺るがなかった。

 初日にコートブルー線を選び、美しいカランクの光景を目に焼きつけた後は、「何を置いてもとにかくエクス」「意地でもエクス」「槍が降ってもエクス」というエメラルドみたいに硬質で不変の意志の力で、ひたすらエクスを目指したのである。
13551 地下鉄1
(すっかりキレイになったマルセイユ地下鉄)

 マルセイユからエクサンプロヴァンスへは、新幹線TGVも利用できる。ただし、岐阜羽島や三河安城や安中榛名、新尾道や新岩国や新倉敷の駅が、市街地から遠く離れてヤタラに不便なのと全く同じように、TGVのエクス駅は連絡バスに20分も30分も乗らないと市街地に出ない。

 そりゃさすがにメンドーだから、旅慣れた今井君はTGVを回避。ノロノロ山あいを縫うように走る鈍行列車を選んで、ゆったりゆったりエクスの町を目指すことにした。

 鈍行だろうがTGVだろうが、とにかく出発点はサン・シャルル駅。宿泊しているビュー・ポールからは、地下鉄で2駅である。サン・シャルル駅周辺は、昔も今もたいへん評判が悪い。特に用事のない移民系の男たちが数人ずつのグループを作って駅前にタムロしているし、道ゆくヒトに金品をねだって生計を立てている人の姿が目立つ。

 路上にひろげたゴザの上に家族全員で座り込み、年長の女の子が幼い弟や妹を引き連れて果敢に小銭をねだりにくるのであるが、彼女たちの将来のことを考えると、やっぱり暗然とした気持ちにならざるを得ない。
13552 地下鉄2
(地下鉄車内も安心な感じ)

 それでも10年前に比較すれば、治安は格段に好転したのである。10年前には、誰にどう頼み込まれても、誰がどんなふうに土下座しても、クマ助はマルセイユの地下鉄に乗るのはイヤだった。

 というか、あの頃の薄暗い地下鉄構内にノコノコ踏み込むのは、ほとんど「飛んで火にいる夏の虫」というか、さまざまな趣向を凝らして旅人を陥れようとしている悪いヒトビトの渦のど真ん中に、徒手空拳で飛びこもうとしているような、完全に孤立無援の危機を感じるほどであった。

 だから、まさに「隔世の感」である。マルセイユからエクスまで、電車も1時間に1本、バスは30分に1本、ほぼ定時運行を続けている。遅れも運休もほとんどない。

 この「遅れもほとんどない」が、フランスやイタリアの鉄道としては驚異的。平気で「遅れ45分」「遅れ60分」の表示が出ても、それが日常茶飯なので文句を言うヒトもほとんどいないのが普通。マルセイユ⇔エクス間は、フランス国鉄全体の模範となっていると思われる。
13553 エクス
(エクサンプロヴァンスに到着)

 サン・シャルル駅の長い石段は「歴史的建造物」に指定されている。石段を登りきった所からは、山上の巨大なマリア像も含め、マルセイユの街全体が一望できる。

 真夏の太陽が降り注ぎ、気温が35℃近くまで上昇したお昼の時間帯に、この階段を登るのはマコトにツラいものがあるが、幸いなことに地下鉄から国鉄の乗り場にはエスカレーターという文明の利器がある。

 ホンの10年昔は、残念なことにこの「文明の利器」も故障しがち。というか「ほぼ例外なく常に故障」だったり、「珍しく動いていても、何の前触れもなく突然停止する」だったり、文明の名に値しない状況が続いていた。2014年、2週間に及ぶマルセイユ滞在中に、そういう困った事態は1度も見かけなかった。

 やがて、滞りなく電車はサン・シャルル駅を発車。ウネウネと続くなだらかな山道を落ち着いて走りづけた電車は、時刻通りに快晴のエクサンプロヴァンスに到着。プラタナスの美しい並木が続くミラボー通りには、大小さまざまな泉が湧き出して、「おお、さすがセザンヌの町」というマコトに落ち着いた雰囲気に包まれていた。

1E(Cd) Jandó:MOZART/COMPLETE PIANO CONCERTOS vol.8
2E(Cd) Jandó:MOZART/COMPLETE PIANO CONCERTOS vol.9
3E(Cd) Jandó:MOZART/COMPLETE PIANO CONCERTOS vol.10
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5E(Cd) Eschenbach:MOZART/DIE KLAVIERSONATEN 1/5
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