Sun 141019 鎌倉時代の石仏を見て回る 名古屋の高校生集団 草餅を貪る スズメバチ軍団  | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sun 141019 鎌倉時代の石仏を見て回る 名古屋の高校生集団 草餅を貪る スズメバチ軍団 

 なぜ朝の近鉄奈良駅前にタクシーがいなかったのか、事情はよく分からなかったが、11月7日午前9時のタクシー乗り場には長い列ができていた。お仕事のオジサマも、観光のオバサマたちも、大いにいぶかっている様子。どこの駅前でもタクシーが溢れている東京の情景とは、全く異質な世界であった。

 10分ほど待って、ようやくやってきたタクシーに乗り込み、岩船寺に向かう。奈良と京都の県境を越える旅である。枯れかけたススキが風になびき、遠い丘陵が紅葉の赤や黄色に染まっているのを眺めながら、30分ほど。運賃3000円のプチ贅沢である。

 何しろ県境の深い山の中であるから、岩船寺前もマコトに鄙びた雰囲気。畑でとれたばかりの野菜を売っているバーチャン&ジーチャン、草餅とお団子を並べたお店、晩秋というか初冬というか、季節の境目のこういう光景ほどホッコリ懐かしいものはなかなかなんじゃないだろうか。
わらい仏
(笑い仏。地面には「眠り仏」もある)

 ところが諸君、今井君が草餅を買おうかどうか躊躇していると、岩船寺の山門のほうに並んでいた高校生集団の中に、何だか不穏な動きがある。「発見!!」「今井ハッケン!!」「お♨」「お♨」「お♨」「あれってクマじゃねえの!?」という興奮の波が伝わってくる。草餅なんか買ってる場合じゃないでござるよ。

 晩秋の暢気なクマどんはすぐに居住まいを正し、「優しく陽気な超ベテラン講師♡今井先生」を演ずることになる。まず駆け寄ってきた2人の高校生が、「あのー、もしかして、今井宏サンですか?」と尋ねてくれた。

 確かにワタクシは「今井宏サン」であるが、いきなりフルネームで「今井宏サン」と呼ばれると、「野口英世サンですか?」「樋口一葉サンですか?」と真顔で問われた樋口一葉サンみたいに赤面せざるを得ない。「はい」と頷いただけで、何だか「はい、有名人です」と言っちゃったような気恥ずかしさが走る。

 しかしそこはそれ、ウルトラ♡ベテラン今井でござるよ。余裕の笑顔で「修学旅行?」と訊いてみた。考えてみると、これほどバカげた質問はないので、高校生が集団で奈良や京都のお寺の前にいたら、修学旅行以外の可能性はありえない。
からすの壷
(からすの壷のあたりで。石仏は多くが1300年代のものである)

 高校生2名は目を輝かせて「何でこんな所にいるんですか?」「写真とってもいいですか」「サインもらえますか?」と、矢継ぎ早に質問してくる。「修学旅行のしおり」らしきプリント集をカバンからとりだして、「ここにサインしてください!!」と小さく絶叫するのである。

 諸君、その手が震えている。今井君なんかを目撃してブルブル震えるほど興奮してるんだから、周囲のオトナからみたらマコトに奇妙の光景。しかし幸いにも、「周囲のオトナ」は草餅を売っているオバサマと、野菜を並べているバーチャンしかいない。

 お馴染みのサイン「宇宙征服」を書いていると、高校生がもう一人駆け寄って「ボクもサインいいっすか?」「写真もいいっすか?」と来た。尋ねてみると、名古屋の高校生だという。「C組、受けてます」「これからB組も受講します」とのこと。おお、素晴らしいじゃないか。

 今日これからの予定を尋ねると「石仏群を見て、浄瑠璃寺に行って、そのあと滋賀県で陶器作りです」とおっしゃる。おやおや、「滋賀県で陶器作り」を除けば、今井君の今日の予定とピッタリ重なってしまう。

 他にもまだまだクマ君の受講生がいる様子で、お寺の前から熱心にこっちをうかがっている。ガイドさんと先生が「お寺に入りますよ!!」と盛んに急かしてくれているからいいが、さもないとこの集団に取り囲まれてたいへんなことになりそうである。
草餅
(草餅を15秒でむさぼる)

 こういうふうで、11月7日の小旅行は波乱含み。岩船寺は大急ぎで見て回り、ついでに大急ぎで草餅を買って、これを頬張りながら先を急いだ。名古屋の修学旅行集団を一気に引き離そうという作戦である。

 しかし諸君、鄙びた山里の石仏群をホッコリ眺めて回る旅に、「作戦」とか「一気に引き離す」とか、そういう切羽詰まったコトバは似合わない。道ばたで暖かそうに丸まっていた野良猫さんも(昨日の写真1枚目を参照)、草餅を猛然とモグモグやりながら駆け抜ける初冬のクマを、面倒くさそうに見送っていた。

 岩船寺から浄瑠璃寺まで、ゆっくり山の中の小径を歩いていけば1時間ほどの道のり。この道沿いに鎌倉時代の石仏が並んでいる。笑い仏、眠り仏、磨崖仏、首切り地蔵、愛宕燈籠、からすの壷。修学旅行でここを回るのは珍しいが、一応は有名な観光ルートになっている。

 ところが諸君、このルートの最初の見どころ「不動立像」に向かっていたクマどんの耳に、異様な虫の羽音が聞こえてきた。「一願不動」とも「不動磨崖仏」とも呼ばれるお不動さんであるが、羽音はどう考えてもスズメバチの群れ。おお、今日のクマどんは前途多難であるね。

 場所は、急な石の階段を降りたあたり。見ると、ビックリするぐらい大きなスズメバチの偵察隊が十数匹、セミみたいな羽音を轟かせながら、巣の上空を激しく旋回している。「Alert!!」「Alert!!」と仲間たちに警告しているようである。
薮の中三仏
(もうすぐ浄瑠璃寺に到着)

 確かに、接近している生物は彼らの天敵・クマである。せっかく築き上げた冬越しの巣を、草餅1個を15秒で平らげて意気揚々とやってくるクマなんかに荒らされてはたまらない。「警戒警報発令!!」と偵察隊を出したのは、彼らとしても命がけ、当然の行動である。

 しかし諸君、クマ君としてもこれは十分に「命の危機」である。京都&奈良県境、暗い崖下の地面に、凶悪なスズメバチが大量に潜んで冬越しの巣を守っている。

 偵察隊が「危険なクマ」と判断して、仲間たちに一斉攻撃開始の指令を出せば、黒や褐色のセミみたいなヤツらが無数に飛び出して、ラグビー選手並みの重いタックルを浴びせてくるに違いない。ここはどうしても「退却!!」であって、不動立像も不動磨崖仏もあったものではない。

 後からやってきたオジサマも「スズメバチですね」と呟き、スタコラ先に行ってしまった。昔から「三十六計、逃げるに如かず」と言ふ。無数のスズメバチ軍団に立ち向かうなんてのは、明らかにバカげている。

 そもそも今日の夕方には大阪・泉大津でお仕事があって、クマどんはそのために滞在している。不動立像を見るためにここを突破するのは、愚劣きわまりない勇猛であって、そんな勇猛を発揮しているヒマがあったら、また「与太呂」か「銀平」の鯛めしを貪るほうが百万倍もマシである。

 しかも諸君、後方からは名古屋の高校生集団が追いすがってくる。三十六計どころか、その2倍の七十二計が心にあっても、やっぱり「逃げるにしかず」は変わらない。今井君は足を早めて次の磨崖仏に急いだのである。
あたご灯籠
(愛宕灯籠。これは江戸時代のもの)

 そこいら中で、観光のオジサマ&オバサマが道に迷っている。「こっちですかね?」「あっちには何もありませんでしたよ」「向こうにスズメバチの巣がありましたよ」と、知らないどうしが声をかけあって情報を共有しながら前進する。

 観光会社のIDを首からぶら下げた人や、観光バスの旗をもったガイドさんまで、みんな道に迷っているのはどうかと思うが、あんまり逃げてばかりいるのがこの辺でイヤになって、クマ君はここにしばらく身を隠し、高校生集団に先に行ってもらうことにした。

 物陰に隠れて見守っていると、しめしめ、集団は一列になってどんどん先に行く。列からは「お、いるいる!!」「ホントだ、いるよ、ホントにいるよ」の囁きが漏れるが、何がいるかというに、要するに「今井がいる」のであって、ツキノワグマでも発見したかのような感動ぶりが何となく情けない。

 しかしここからの40分あまりは、静かな山里を心から落ち着いて堪能できた。石仏ばかりではない。道端には近くの農家が作った「つるし売り」の小屋も多く、野菜・山菜・柿・キノコの類いが、やわらかな初冬の日差しを浴び、そよ風に吹かれて揺れている。

 店番の人もいない。一袋200円とか300円とか、「ほしい人はご自由に代金を入れて下さい」という箱が置かれているだけである。そのキノコの大きさにビックリしながら、11時半、今井君は目指す浄瑠璃寺に無事到着したのであった。
 
1E(Cd) Solti & London:MOZART/LE NOZZE DI FIGARO①
2E(Cd) Solti & London:MOZART/LE NOZZE DI FIGARO②
3E(Cd) Solti & London:MOZART/LE NOZZE DI FIGARO③
4E(Cd) Haydon Trio Eisenstadt:JOSEPH HAYDN:SCOTTISH SONGS 3/18
5E(Cd) Haydon Trio Eisenstadt:JOSEPH HAYDN:SCOTTISH SONGS 4/18
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