Tue 140916 断捨離からの復活 フローラホランドへ路線バスで(おらんだ先生訪問記47) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 140916 断捨離からの復活 フローラホランドへ路線バスで(おらんだ先生訪問記47)

 こうしていったんは断捨離を決めたクツ君であるが(昨日の記事参照)、何しろ心のヌクヌク暖かい今井君のことである。そうカンタンに断捨離の意志を貫くことはできない。
 どのぐらい心がヌクヌクしているかと言えば、ヌクヌクと温かく沸きたち、やがて朦々と湯気が生じて、その湯気で小籠包ができそうなほどである。それでもまだ足りなくて、湯気を利用して蒸し風呂をつくり、この蒸し風呂によって100人のヒトの神経痛でも治療できるぐらいである。
 それほどヌクヌクした今井の背中に、クツ君が語りかけてくる。老いたクツは、十分に老成すればお話だってできるようになるのだ。まして底のゴムがベロンと右も左も剥げるほどのベテラン靴。お話ぐらい、お手のものである。
 彼の訴えは、要約すれば以下のようなことであった。
「これほど長年アナタにお仕えしてきたものを、たかが底のゴムが剥がれ落ちたぐらいでポイ捨てだなんて、ずいぶん白状じゃないですか。老いた忠臣が『もうヒト花咲かせたい』『最後にもうヒト旗あげたい』と懇願しているなら、たとえ足手まといでも、もう1度旅のお供をさせて下さるのが人情。違いますか?」
青い薔薇
(フローラホランド、青いバラ)

 なるほどこのクツ君の訴えには一理あって、カンタンにポイ捨て、それを「断捨離」の美辞麗句に隠れて非情に断行しようとしていた自らを、今井君は深く反省したのである。
 確かにクツ底の黒いゴムは見事に左右とも剥がれ落ちた。だからこそ「もう治療の方法はない」と判断したのだ。思い起こせばこのクツ君のために、すでに接着剤1本をカラッポにしている。底のゴムがあちこち剥がれてくるたびに、旅先のスーパーで接着剤を購入。治療に治療を重ねて、ついに今日の日を迎えたのである。
 しかし、さすがに治療の方法はもうなくとも、残った真っ白いウレタン質だって、まだまだクマどんの体重を支えることはできそうだ。若干痛々しいけれども、せめて次の旅まで、このクツ君に奉公させてやりたい。今井ヌクヌク之助は、そんなふうに考えたのである。
拡大図
(青いバラ、拡大図)

 「さあワタシの出番ですよ」と近くにに控えて張り切っていたリリーフ君には、「まあ次のチャンスまで待ちなさい。必ずキミの出番は来るから」と言い含めた。リリーフ君もすぐに納得して、スーツケースの中に戻った。さて、忠臣クツ左衛門殿、オランダも今日が最終日、どこに出かけますかね。
 するとクツ左衛門は、「せっかくのオランダです。たくさんの花を眺めて締めくくりましょう。フローラホランド生花市場でいかがでしょう」と応える。確かに今回のオランダの旅は、2週間前のキューケンホフ、どこまでも続くチューリップ畑の光景で始まったのだ。ラストが生花市場なら、まさに首尾一貫というものである。
 「さすが忠臣クツ左衛門、いいことを言うではないか」とニンマリしたクマ殿様は、クツ底の白いウレタン質をピカピカ光らせながら、さっそくアムステルダム中央駅に向かった。
生花市場1
(フローラホランドにて 1)

 フローラホランドとは、「FloraHolland」であって、要するに「オランダの花」である。オランダ中から膨大な数の生花がここに集められ、売り手集団と買い手集団がいっしょに花の束を眺めながら厳しく鑑定し、やがて花々は日本へ・アメリカへ・アジアへ・EU諸国へとはるばる送られていく。
 どのぐらい膨大な数かと言えば、それは実際にフローラホランドに行ってみないと分からないので、「最後にもうヒト旗」と張り切っている忠臣クツ左衛門殿トともにこの驚くべき生花の光景を眺めるのも、また素晴らしい体験である。お花屋さん数万軒ぶんの花が一同に会する光景なんか、滅多に見られるものではない。
 昔のクマどんなら、こういう時はすぐに「タクシー♡」と考え、ホテル前からカッコよくクルマに乗り込んで、目的地に颯爽と乗りつけた。それがカッコいいと信じていたし、「時間の節約こそエリート♨」みたいな考えに、首までドップリつかっていた。
 しかし諸君、そんな発想は下らんのだ。クツ左衛門殿に最後の奉公をさせてあげるためなら、やっぱり基本は地元の乗合バス。徒歩とトラムでアムステルダム中央駅まで出たクマどんは、駅前で待っていた172番バスに乗り込んだ。
生花市場2
(フローラホランドにて 2)

 時刻は朝8時。観光客の姿はない。同じ172番バスに乗り込んだのは、フローラホランドで働く従業員のオジサマ&オバサマばかりである。目的地まで1時間ほど、観光客が従業員と一緒のバスに揺られながら、ゆっくり居眠りしていく姿を想像してみたまえ。これこそ正しい旅のやり方というもんじゃないか。
 「朝8時のバス」だなんてのも、今井君の旅としてはマコトに珍しいことである。いつもなら、「そろそろ起きるかね」という時刻。しかし、相手は広大な生花市場だ。お昼過ぎに駆けつけても後の祭、もう生花の取引は終わってしまっている。遅くとも朝9時には構内に入っていなければ意味がない。
 というわけで、フローラホランド到着、9時。「早起きなら任せなさい」というジーサマ&バーサマ集団が、もう大型バスで押し寄せていたけれども、乗合バスの今井君も、こうしてキチンと間に合った。だって諸君、「従業員たちといっしょ」なら、まさか遅れることはないじゃないか。
路線バス
(フローラホランドへは、172番バスで)

 忠臣クツ左衛門とともに眺めたフローラホランドの様子は、明日の記事に詳しく書こうと思う。今日写真を掲載した青いバラをはじめ、構内は息を飲むような光景に満ち、例え我が友mac君が「青いバラ」を「葵腹」と変換しても、その美しさはビクともしない。
 そして結果として諸君、クツ左衛門殿は、この次の「夏マルセイユ滞在記」でも大活躍することになる。アムステルダム滞在が4月、マルセイユへの出発が8月30日であったから、約4ヶ月もスーツケースの中で居眠りしていたことになる。
 4ヶ月のオネムのせいで、マルセイユへの出発時にも老臣は意気盛ん。「まだまだ若い者には負けぬぞよ♨」という勢いで、リリーフの登場を抑え込んだ。モノは、愛情を込めて使えば、長持ちするだけではない。持ち主にさまざまなことを語りかけ、さまざまな助言をして、旅をますます楽しくしてくれるものなのである。

1E(Rc) Backhaus:BACH/ENGLISH SUITE・FRENCH SUITE
2E(Rc) Ewerhardt & Collegium Aureum:HÄNDEL/オルガン協奏曲
3E(Rc) チューリッヒ・リチェルカーレ:中世・ルネサンスの舞曲集
4E(Rc) Collegium Aureum:MOZART/EINE KLEINE NACHTMUSIK & SYMPHONY No.40
5E(Rc) Rubinstein:THE CHOPIN I LOVE
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