Thu 140821 ザーンセスカンスヘ マクロな朝食 風車に突進(おらんだサトン事件帖32) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 140821 ザーンセスカンスヘ マクロな朝食 風車に突進(おらんだサトン事件帖32)

 4月24日、風車の村・ザーンセスカンスを訪問する。アムステルダム中央駅から各駅停車Sprinterで15分、コーグ・ザーンダイクの駅で下車すれば、ザーンセスカンスまで徒歩15分。何でヤタラに「ザーン」「ザーン」がくっつくんだと思ったら、なるほどこの村は「ザーン川」のほとりなのだった。
 いくら環境面で優等生のオランダであっても、まさかこの21世紀に風のエネルギーだけで生きていくことは無理だから、ザーンセスカンスに残る数基の風車は、オランダ各地に残っていた18~19世紀の風車をここに集めて移築したもの。重要文化財で1つの村を作り、まとめて保存しちゃおうというわけである。
 電車を降り、駅の地下道をくぐって、何の変哲もない田舎道に出る。オランダの4月下旬は、東京なら3月下旬のような気候。暖かな日差しにツクシが顔を出し、スズメノカタビラにオオイヌフグリなど、春のはじめの小さな雑草たちの上にまだ朝露が残っている時刻であった。
 10分も歩かないうちに、のどかな春の川風を顔に感じる。目を上げると、まだ冷たそうなザーン川の流れがあり、その対岸はるかに数基の風車の勇姿が並んでいる。まず3基、いや4基、遠くにはさらにまだ風車が並んでいそうだ。ふと感激の涙が流れそうになる一瞬である。
風車群
(ザーン川対岸のカフェから、遥かな風車群を望む)

 いっしょに電車を降りた人たちは、アジアからの観光客がほとんどである。中国や韓国のヒトビトは、こういう場合まさに先を争うように前進する。至るところで強烈なポーズをとって写真撮影に励みつつ、とにかく目的地に向かってエネルギッシュに驀進するのである。
 ところが諸君、日本の暢気なクマ代表は、「目的地への驀進」が最も苦手なタイプ。目的地を遠巻きに、ある程度の距離をおいて「矯めつ&眇めつ」というのが好きである。「とみこうみ」と言ってもいい。
 「とみこうみ」☞漢字では「左見右見」と書く。さすがにMac君の許容範囲を超えたらしく、彼はいま今井君の目の前で「とみこうみ」☞「富美子海」とやってみせた。怪しいお相撲さんのシコ名みたいな変換はヤメにして、諸君も漢字の問題で間違えないように、よく学び&よく遊びたまえ。
 いきなり接近して見つめるより、遠くから全体を眺めたい。これが受験英語の長文読解だと、「ミクロの目だけじゃなくて、マクロの目も持たなきゃダメだぞ」というお説教になる。ミクロとマクロ、学部で習う経済学の基礎みたいであるが、「一語一語を徹底的に正確に読む」がミクロ、「文章全体の構成に目を向けようぜ」がマクロである。
看板
(ザーンセスカンス入口)

 15年ほど昔の予備校の世界に、「ミクロ派」vs「マクロ派」の激しい対立があって、今井君もその当事者のうちの一人だった。というか、何を隠そう当事者そのもの、当事者それ自体であったが、あれももう15年以上も前のこと。予想していたこととは言え、対立の舞台はついに規模を大幅に縮小、もはや「ツワモノどもが夢の跡」である。
 「マクロ好き」は、旅行中にも必ず顔を出す。1つの街を訪ねても、いきなり教会や美術館や博物館に突進して「ミクロ」「ミクロ」「意地でもミクロ!!」みたいなことはしない。遠くから全体を矯めつ眇めつ&左見右見して、マクロで街全体を把握する。
 ミクロの世界に突進するのはその後にしたほうがいいので、旅に関して今井君が驚くべき記憶力を発揮するのは、常にマクロを優先するから。博物館に収められた過去の遺物ばかりジッと眺めても、やがて全てが混じりあって混沌が生じ、あの街とこの街の区別がサッパリつかなくなる。
 そこでザーンセスカンスの今井君は、次々とザーン川を渡ってミクロの世界に驀進していく中国&韓国の皆様に道をゆずり、自分は川のこちら岸に留まって、しばらく「川の向こうの風車群」を満喫することにした。
風車
(風車に接近の図)

 だって諸君、4基も5基も並んだ風車群の勇姿を眺めるには、川のこちら側に居残るほうが圧倒的に有利だ。川を渡ってしまえば、そりゃ1基ずつは目の前に眺められるだろうが、群としての風景を観ることは出来ない。陳腐な言い方だが、まさに「木を見て森を見ず」である。
 しかし「森を見る」を優先するにしても、何もしないで呆然と眺めているだけじゃ、能がないというか、ノーがなければイエスもなく、とにかくあんまり楽しくない。こういう穏やかな朝に一番いいのは、「風に吹かれながらの朝食」をプラスすることである。
 今井君のささやかな経験であるが、朝食に理想的な街は、初夏ならきっと北フランスのオンフルール。夏の終わりならイタリア・マッジョーレ湖畔か、マルセイユの船着き場。チーズとハムとレタスをパンにはさんで、朝ではあるけれども、旅行中ならちょっと赤ワインぐらいいいじゃないか。
 そして春ならば、おそらく間違いなくこのザーンセスカンス、しかも川のこちら側から風車群を眺めながらの朝食である。「似合わねー♨」とか言ってないで、一度やってみたまえ。春の暢気なクマどんは、川のほとり、橋のたもとに、朝食にピッタリのカフェを発見。☞「こりゃ、何が何でも朝食だ!!」と即決したのである。
3EGGS
(朝食の「3 EGGS」。おいしゅーございました)

 桟橋みたいに川にせり出した広いテラスがあって、テーブルが5つほど。川面には水鳥がたくさん浮かび、近所のネコも遊びにきて、アクビしながら日向ぼっこ中。山ではまだ雪解けが終わっていないのか、川は豊かな水をたたえて悠然と流れていく。
 その川の向こうに、200年もの歴史を誇る風車群が並んでいてみたまえ。朝食は、それだけで数倍も旨くなる。ましてや、たった今そこで焼いてくれたタマゴやローストビーフまで出てくるんじゃ、「ついでにビールも♨」の一言が漏れたって、誰にも咎めだては出来ない。
 注文したのは、「Three Eggs」。こういう時は、メニューに一番自慢げに出ているヤツを選んでおけばまず間違いない。10分ほど待って、大きな皿が運ばれてきた。タマゴ3個を目玉焼きにして、その下に巨大ローストビーフが4枚。さらにその下にはデカい食パンが2枚敷かれていた。
 なるほどThree Eggs、その名の通りのエネルギッシュな朝メシである。「オランダ人って、朝メシからこんなに激しいの?」であるが、確かにこれなら「男子の平均身長190cm」という事態も十分に理解できるというものである。
 ついでに注文したビアは初めての「NEUBOURG」。ブルーのボトルがマコトに美しい。たっぷりのタマゴにハムと一緒に飲んだせいか、春の川辺と風車群の風景のおかげか、これまでの長い人生で一番旨いビールの1つだったように思う。
ビア
(ビア「NEUBOURG」。たいへんおいしゅーございました)

 さて、朝食に1時間もかけて、風車群のマクロな左見右見はこれで終了。大きな船が通過するたびに、店の横の「跳ね橋」が大きく開かれるのを見ながら、いよいよ「ミクロへ驀進」を始めたい。早く始めないと、クマの怠け心がこのままムクムク大きくなってしまう。
「この店がこんなに気持ちいいなら、1日ここに座っているのも悪くないな」
「何も近くに行って見るだけが能じゃないだろう」
「人間関係と同じで、近づきすぎれば落胆も多い。夢は遠くから眺めて、憧れに留めておいたほうがいいかもしれない」
 いやはや、この類いの怠慢は今井君のお手のもの。しかし諸君、そんな怠慢は、やっぱり後悔を伴うのが常である。
「怠慢で後悔を感じるぐらいなら、むしろ接近して幻滅を味わうほうがマシだ」
英語の例文集みたいな決まり文句をツブヤキながら、今井君は風車に向かってドン・キホーテよろしく突進を始めたのである。

1E(Cd) Ashkenazy:RACHMANINOV/PIANO CONCERTOS 1-4 1/2
2E(Cd) Ashkenazy:RACHMANINOV/PIANO CONCERTOS 1-4 2/2
3E(Cd) Wigglesworth & Netherland radio:SHOSTAKOVICH/SYMPHONY No.4
4E(Cd) Ashkenazy(p) Müller & Berlin:SCRIABIN SYMPHONIES 1/3
5E(Cd) Ashkenazy(p) Müller & Berlin:SCRIABIN SYMPHONIES 2/3
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