Sat 140816 コンサートと美術館 切手の間接チュー ウシ切手(おらんだサトン事件帖28) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sat 140816 コンサートと美術館 切手の間接チュー ウシ切手(おらんだサトン事件帖28)

 ここからオランダの旅は後半に入る。後半は、旅のクライマックスとして設定した国民の大祝日「国王の日」があり、ザーンセスカンスとかキンデルダイクなど、田舎の路線バスを乗り継いでいくちょっとハードルの高い小旅行もあって、かなり旅慣れたつもりの今井君としても、いよいよ緊張の高まるところである。
 4月23日、お昼前にホテルを出て、まず向かったのがコンセルトヘボウ。「12時半ごろから無料のランチコンサートがある」との情報があり、「おやおや、無料ですか」「そりゃ駆けつけなくちゃ」と勇んで出かけていったわけである。
 ホール入口にはたくさんのヒトビトが詰めかけ、「入口はどこなんだ」「入場はいつなんだ」と、今か今かと待ち受ける様子。しかし諸君、驚くじゃないか。ランチコンサートとは名ばかり、チケット売り場付近のスクリーンに昔の映像が流れ、音楽はもちろんスピーカーから。いやはや、ヒトビトは潮が引くように去っていった。
ランチコンサート
(コンセルトヘボウ、ランチコンサート)

 仕方がない、こうなれば「とりあえず美術館をほっつき歩く」という選択肢が浮上する。コンセルトヘボウからゴッホ美術館までは徒歩で5分ほど。ヒマワリや糸杉や、黄色い部屋や夜の黄色いカフェや、黄色の絵の具を厚塗りにした油絵の数々を眺めて、街歩きのスタートにしようじゃないか。
 ところが諸君、下の写真の長蛇の列をみてくれたまえ。世界中から集まった無数のゴッホファンが4月下旬の陽光に照らされ、小さな美術館を1周でも2周でもしそうな勢いだ。むかしむかしそのむかし、予備校の夏期講習の申し込み開始日には、確かにこのぐらいの長蛇の列ができたものだが、それももう遥かな昔話にすぎない。
 この列に2時間も3時間も並んで、ようやくゴッホに出会っても、その時はこっちの足が棒になっている。美術館の規模から考えて、「押すな押すな」「オマエが背が高すぎて、ちっともゴッホが見えないじゃないか」というお祭り騒ぎは必定だ。せっかくのアムステルダム、何かもっと別な楽しみがありそうなもんじゃないか。
行列
(ゴッホ美術館の長蛇の列)

 そこで思い立ったのが、ダム広場東側の「切手市」。小学3年から5年にかけて切手収集に夢中になり、当時のコレクションはいまだに書棚の片隅に眠っているが、今でもなお「切手」という言葉に敏感なのだから「三つ子の魂、百まで」という諺に間違いはないようである。
 この諺、英語ではThe child is father of the manという。前置詞ofをtoにかえてもOK。7つか8つまでに人間の性格は決まってしまうので、小3で「切手大好き」ということになれば、796歳になってもやっぱり切手が好き。そもそも「切手なんか大キライだ!!」などという珍妙な嫌悪感が、この世の中に存在するだろうか。
 バルセロナでも、日曜の広場で開かれていた切手市に夢中になった。パリのセーヌ左岸には「ブキニスト」と呼ばれるたくさんの古本屋さんがいて、古本以外に古手紙や古切手を大量に積み上げて売っている。ブキニストはセーヌ右岸にもズラリと並んで、19世紀や20世紀初期の古手紙を満載している店もある。
 そんな古手紙を買って、ヒーバーチャン&ヒージーチャン世代のラブレターなんか発見したら、恥ずかしくて&恥ずかしくて、余りの恥ずかしさに4~5日はメシも喉を通らないハメに陥るだろうが、手紙じゃなくて切手なら、どれほど古くても恥ずかしさに苦しむことはなさそうだ。
 こうしてクマ君は「1パック20ユーロ」みたいな古切手の山を、暢気に買って帰ることになる。1パックに何枚入っているのか、買うほうばかりか売るほうも見当がつかないから、「1パック○○○グラム」と、重さで表示されている。
オランダネコ
(今日もオランダのネコさんと仲良くなる)

 この類いの古切手は、封筒に貼った切手を剥がすことさえせずに、封筒の一部分ごと千切ってある。そういうのを買ってしまうと、剥がす作業が厄介だ。1パック丸ごと水につけて数時間、50年前や100年前の切手の糊が溶けて、洗面器の水がドロドロになってしまう。
 100年単位の世界中の糊が、敵も味方も憎しみも愛もひっくるめて、みんないっしょくたに21世紀東京の水に溶けていく。昔は切手を舌でペロリと嘗めて唾液で封筒に貼ったから、いま洗面器の水に溶けていく糊たちは、汚い話ではあるが「世界中の間接チュー」なのである。
 まあ、感慨も深い。20世紀、ヒトビトは国境線を跨いで激しく憎みあった。ドイツとフランスが長く宿敵同士だったなど、今では全く信じがたいが、スペインもイギリスもロシアもトルコも、100年前の状況を考えれば、ケンカの大キライな今井君なんか、今でも絶望的になるぐらいに憎しみあっていた。
 しかしこうして、憎しみの時代の糊が東京のお風呂場の洗面器の中でドロドロに溶け、混沌とした間接チューが進んでいく。何度も何度も水を代え、封筒部分は捨て、濡れた切手を乾かす。その作業に丸1日費やすことになる。
カフェ
(カフェ・ルクセンブルグでグロールシュをグビグビやる)

 こうして時間を無駄遣いしていると、「おお、これこそ間違いなくThe child is father of the manであるね」と苦笑いするが、まだまだ仕事は終わらない。剥がした切手を丁寧にストックブックに収めていく仕事が待っている。
 「グラムいくら」で購入した古切手でも、その1枚1枚にこめられた憎しみなり愛情なりを考えれば、そう気安くぞんざいに扱うわけにもいかないのである。諸君、その仕事にまたまた1日を費やすのである。
 今井君はそういう性格であるから、性懲りもなく切手市を訪れた場合、大切なのは「グラムいくら」というパック売りの切手に、絶対に手を出さないこと。何かテーマを決めて、「ネコの切手」「ヒコーキの切手」「ラクダの切手」というふうに、キチンと自制を働かせないと、もうキリがなくなってしまう。
切手
(ウシ各種の切手を購入する)

 この日のアムステルダムでは、あいにく切手市がお休み。「市」という華やかな舞台に立つことは出来なかったが、ダム広場の西側に古切手屋さんが4~5立ち並んだ一角があり、そこで「三つ子の魂」を存分に発揮することにした。
 テーマは「ネコ切手」と「フェルメール切手」であって、ネコもフェルメールも世界中で発行された切手のアソートではあったが、まあオミヤゲとしては悪くないのが手に入った。
 ついでに「ウシ切手」も購入。さすがオランダはチーズの国&酪農の国。都心を一歩離れれば、そこいら中にウシ君やウシちゃんが寝転がっているし、牛パパに牛ママ、牛ジーチャンや牛バーチャンだって気持ちよさそうに日向ぼっこの最中だ。
 2軒目の切手屋さんで、さまざまなウシだけをテーマにした1シートを発見。三つ子の魂君はホクホクしながら、迷うことなくそれも購入したのであった。

1E(Cd) Bobby Coldwell:COME RAIN OR COME SHINE
2E(Cd) Bobby Coldwell:BLUE CONDITION
3E(Cd) Boz Scaggs:BOZ THE BALLADE
4E(Cd) The Doobie Brothers:MINUTE BY MINUTE
5E(Cd) Grover Washington Jr.:WINELIGHT
total m88 y1383 d14313