Wed 140618 有明海のフシギな魚介類 いよいよ本吉屋 ワラスボ台風、ついに九州へ | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 140618 有明海のフシギな魚介類 いよいよ本吉屋 ワラスボ台風、ついに九州へ

 さて、いよいよウナギである(スミマセン、昨日の続きです)。
 何しろ、絶滅危惧種に指定されてしまった。あと3~4年もすれば値段が高騰してしまうという情報も、マコトしやかに流れている。もしも東京のフグ並みの値段になっちゃったら、「1年に2回味わえるかどうか」の高嶺の花になってしまう。今のうち、食べられるうちにどんどん貪ってしまいたい。
 今井君はお金持ちのオウチに育った幸せなヒトビトとは違う。ウナギなんて、オトナになるまで食べたことがなかった。外見が外見だから、あのニョロニョロしたニョーロニョロ君っていうのは、さぞかし旨くないヘビみたいヤツなんだろうと勘違いしていた。
 というか、「あんな変なもの、絶対に旨くない」と教え込まれて育ったようなものである。高校生になってついにオウチの食卓に登場したウナギ君も、チャンとしたウナギじゃなくて、見栄えの甚だよくない、スーパーで投げ売りしていた売れ残りであった。
本吉屋1
(福岡県柳川、元祖本吉屋のせいろ蒸し)

 最初の一口を噛みしめて「おお、ウメエ!!」と絶叫するほどの、ホンマモンのウナギを口にするようになったのは、社会に出て10年目、要するに「オレも中年のオジサマになったな」と実感するようになってからである。
 それも諸君、何しろ今井君は控えめなクマであるから、金銭的に余裕があっても「うな重!!」のヒトコトがなかなか言えなかった、「重」だなんて、贅沢すぎるんじゃないか。今のところは自重して「うな丼」にしておいたほうが、神様もホトケサマも許してくださるんじゃないか。
 そんなふうにビクビクしながら1歩1歩ウナギの階段をのぼって、ようやくここまできた。うな丼から、うな重(梅)へ、梅は竹になり、竹が松になり、松が特上になるまで、数百年の歳月が流れ去った。
 こうして幾星霜、ニョロニョロ君と気の遠くなるような歴史を重ねて、ついに今井クマ蔵は「うな重」単独では済まさない別世界に突入する。まず「うな重・特上」を注文。しかしウナギどんが蒸し上がるまで時間がかかるだろうから、その間の時間をつぶすためのものが必要である。
 そこで、もちろん夜なら「お酒」ということになるが、今日は真っ昼間だ。「お酒」はまあちょっと遠慮しておこうじゃないか。すると当然「白焼き」「蒲焼き」と言ふことになり、「う巻き」とか「うざく」とか「肝焼き」とか、クマ蔵が年齢を重ねるとともに、テーブルの上はどんどん賑やかになっていった。
白焼き
(本吉屋のうなぎ白焼き)

 柳川は、有明海の街である。北原白秋の生家からほど近いところにも、海産物のお店がたくさん並んでいて、メカジャにアゲマキ、ワラスボにクッツォコ、異様な姿の魚介類がズラリと並んでいる。
 アゲマキとは、長さ10cmぐらいの細長い貝。マテ貝と似ているが、種類は全く違うらしい。スペイン・バルセロナ滞在中に海辺の飲み屋で連日むざぼっていた「ナバジャス」ないし「ナバハス」とソックリで、醤油焼きが旨い。漢字では「総角」と書く。むかしの女性の髪型から来た呼称らしい。
 ワラスボは、映画エイリアンのモデルになったというウワサさえある怪しいお魚。イワシかシシャモぐらいの大きさなので、思わず「頭からガブリ」をやりたくなるが、ギザギザの歯がきわめて丈夫で凶悪。万が一「頭からガブリ」を実践した場合、4~5日は口内炎に悩むことになる。漢字では「藁素坊」。有明海随一の怪魚と言っていい。
 「クッツォコ」はシタビラメの一種。標準語的に発音すれば「くつぞこ」であって、漢字表記なら「靴底」であるが、確かに靴の底の皮が剥がれたような外見。骨の髄まで熱い九州人は、「くつぞこ」などとまどろっこしい発音はしない。発音することさえジレったげに「クッツォコ」と言い放つが、これがマコトに美味、ワラスボとは天と地の差である。
中庭
(本吉屋。お座敷は明るくて開放的だった)

 柳川を訪れたら、有明海のこういう珍味をテーブルに満載してもらうのも悪くない。しかしそのためには、じっくり夜まで柳川市内を観光して、柳川に1泊か2泊するぐらいの余裕が必要。柳川藩主の元藩邸「御花」という立派な料亭旅館があって、それこそクッツォコでもワラスボでもマコトに美味しく料理してくれる。
 しかし今日の今井君には、時間と心の余裕がない。何しろ仕事をするために九州に滞在しているのであるし、心のほうは「うなぎ♡」「うなぎ♡うなぎ」「蒲焼きも白焼きも」と浮き立っているので、胃袋にも頭脳にも欲望にも、ワラスボ君やクッツォコ君が割り込んでくる余裕はないのである。
 元祖本吉屋本店は、北原白秋の生家からは遥かなかなたである。ほぼ正方形の運河に囲まれた古い城下町を想像してみたまえ。白秋生家はその正方形の南西の角にあたり、元祖本吉屋は北東の角にあたる。要するに「対角線の端と端」であって、もしも歩けば30分は軽くかかりそうだ。
 城下町だから、たいへん奥ゆかしい地名がたくさん見つかる。京町、鍛冶屋町、長柄町。袋町、恵美須町、小道具町。本吉屋はその「京町」付近で、すでに300年もの歴史をもっている。白秋どんもきっとクルマに乗って、城下町の対角線を何度も往復したことだろう。
本吉屋2
(元祖本吉屋、店舗外観)

 店舗の外観を見てみたまえ。奥ゆかしいことにかけて、これほど奥ゆかしい飲食店を、今井君はそれほど多くは知らないのである。予約は11時。滅多に通りかからないタクシーをようやくつかまえて店にたどり着くと、すでに1組の男女がせいろ蒸しを前に悪戦苦闘しているところだった。
 広いお座敷は庭園に面し、木の葉の間から眩しい夏の光が降り注ぐ。クマ蔵はどっかと床の間の前のテーブルにつき、待ちわびた「白焼き」&「せいろ蒸し」を注文。キップのいい女将さんがまず運んできた白焼きの、その素晴らしい歯触りを心ゆくまで満喫したのである。
 覚悟していたことだが、さすがにこの巨大なせいろ蒸しは、滅多なことで食べきれるものではない。特に、「白焼きをもう1皿」と追加して、それもまた平らげてしまった後なのだ。
 ゴハンとゴハンの間にもう1枚ウナギのはさまったせいろ蒸しはマコトに美味であるが、こりゃ胃袋がもう1つ必要。もう2つあったほうがいいかもしれない。胃袋3つなら、「せいろ蒸しもオカワリ!!」という暴挙に出ることだって出来るじゃないか。
 こうして諸君、今井君の柳川速攻攻略は無事終わりを告げた。「あれれ、名物・舟下りは?」であるが、夏の日差しが照りつけるお舟には、屋根もついていないのだ。大切なお仕事がたくさん控えている身なのに、こっそり柳川の舟下りなんかを楽しんで、それで仕事に差し支えたらたいへんだ。
九州新幹線
(ガラガラの九州新幹線「つばめ」。6両編成の電車全体で、合計20名も乗っていない)

 7月9日、とうとう台風8号どんが、九州の真西の東シナ海まで上がってきた。天気図を見るに、小さな九州の目の前で、凶悪なワラスボの化け物がカーッ!!と大きな口を開け、今にも九州を飲み込もうとしているみたいである。
 しかし、一時はモンスター台風とまで呼ばれていたくせに、今やもうヨレヨレなのが衛星からの写真でバレバレだ。ついこの間までクマ蔵も「渦巻き君」と呼んであげていたけれども、何だ、もう渦巻きでも何でもない。雲の切れ端をいくつかお空にバラまいた程度の、穏やかな感じのヤツである。
 もちろんそう思って侮っていればバチもあたるだろうから、用心に越したことはない。今井君は夕暮れ5時の九州新幹線に乗り込んで小雨の筑紫平野を南下、熊本県玉名の街を目指した。
 いつもガラガラの車両が多いが、今日はまた格別にガラガラだ。そりゃそうだ。天気予報でもニュースでも、気象庁の記者会見でも、「経験したことのないような大災害が間近に迫った異常事態である」と繰り返し、「また避難勧告が出ました」のテロップが頻繁に出るような夕暮れ時に、新幹線で仕事に出かけるほうがきっとおかしいのだ。
 それにしても「避難勧告」という割りに、「外出に危険を感じたら家の中にとどまるように」と続く。このへんの違和感は、どうにかならないものか。「2万人に避難勧告が出ました」の直後に、「避難所に11人が避難しています」と報じられると、我々はどこまで危機意識を持つのが正しいのか、判断に首をかしげるのである。
 
1E(Cd) Weather Report:HEAVY WEATHER
2E(Cd) Sonny Clark:COOL STRUTTIN’
3E(Cd) Kenny Dorham:QUIET KENNY
4E(Cd) Shelly Manne & His Friends:MY FAIR LADY
5E(Cd) Sarah Vaughan:SARAH VAUGHAN
total m90 y1057 d13987