Wed 140507 クマはムックリ起き上がったかもしれない サントリーホールでブルブル震える | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 140507 クマはムックリ起き上がったかもしれない サントリーホールでブルブル震える

 5月30日、いやはやマコトに暑い1日であって、今井君は温暖化が心配でたまらない。寒い土地で育った生き物だから寒いのは全然かまわないが、まだ6月にもならないのに「30℃」などという数字を聞かされれば、これから先の数ヶ月を思っただけで、日なたのバターみたいに肉体の先っぽからダラしなく融けはじめる。
 しかし、そんなにデロデロ融けてばかりもいられないので、午後からは吉祥寺に出版の打ち合わせに出かけた。考えてみればすでに5年近く、参考書も書かずに怠けてばかりいた訳である。そろそろ「眠れるシシ」もいい加減にしないと、待ってくれている諸君に申し訳ない。
 5年近くも参考書を書かなかったのは、本屋さんに出かけるたびに、ビックリするほどの新刊書の洪水を見てムクれていたからである。見渡す限り、同じようなハウツー本の山。若い人々が読むべき古典はいくらでもあるのに、大事な古典の面々は、ハウツー本の山のカナタに隠れてホコリをかぶっている。
2匹
(誰かお客さんが来たみたいだ)

 ソポクレスはどこなんだ? アイスキュロスとエウリピデスはどこなんだ? ゾラもユゴーもフロベールも、いったいどこに押しのけられちゃったのか、存在するかどうかもわからない。古典とは言えないかもしれないが、高見順も武田泰淳も中山義秀も、「そんなヤツ、知らねーぜ」という不当な扱いを受けている。
 いまや本屋で目につくのは「30分で…がわかる本」「…したかったら○○しなさい」みたいな本ばかり。考えてみれば、われわれ予備校講師が書く学習参考書というのは、まさにそういう本の代表格なのかもしれない。
「難しいことでも、この本さえ読めばカンタンに理解できますよ」
「苦労するのはアホー。苦労しないで…できるウマーいホーホーがありますよ」
と、怪しいセールスマンよろしく本屋の片隅から語りかけるようなハウツー本やビジネス本が、今も少なくない気がする。
 だから、アルゼンチンやウルグアイを渡り歩き、サンパウロやマルセイユを闊歩するクマ蔵としては、そういうハウツー本を眺めると、中南米の両替屋の声を聞いた気がしてイヤなのだ。
 「カンビオ、カンビオ(両替しますよ)」と、しゃがれた声でどこまでも追いかけてくるのが脱法両替商。「銀行なんかでマトモに両替するのはアホですよ」「ズルく立ち回れば、いくらでもお得に両替できますよ」という訳であるが、そんなズルい両替屋に付き合うと、どうせロクなことにはならない。
スフィンクス
(ナデシコのエジプト旅行。「あれがスフィンクスかな」の瞬間)

 しかし諸君、考えてみれば、だからこそチャンとした本をたくさん書いて、ホンの少しでもマジメな受験生諸君の役にたつように努力すべきなんじゃないか。この4~5年本も書かずにフテくされていた分を、取り返すぐらいに努力すべきじゃないか。
 いやはや、5月30日のクマ蔵は、冬眠の穴の奥で突然ムックリ起き上がったような気分だった。ふと目が覚めて、頭をブルンブルン揺すぶって、「ああよく眠ったな」「では、そろそろ眠りから醒めるかな?」と呟いてみたような感覚である。
 まず書こうと思うのは、長文読解の参考書。もちろん、学習法の本でもいいし、単語集や文法の問題集も作りたい。しかし最近の受験生をみていると、「もうワンランク難しいことに積極的にチャレンジしてみたい」という熱意と熱気を感じる。
 ならば、やっぱり「読解」である。しかも、どこまでもマジメに、圧倒的なほど硬派に、ごく当たり前の方法論でごく当たり前に長文を読みこなす読解の参考書をどんどん書きたいじゃないか。
 そういうわけで、今むっくり起き上がったクマどんは、マジメな読解の参考書を次から次へと書いていこうと思う。レベルは、旧7帝大。それに一橋や東工大や早慶を入れて、あくまでマジメに、あくまでひたむきに、「3冊でも4冊でもめげずにチャレンジしてやろう」という諸君を念頭に置いて、バリバリ書いてやろうじゃないか。そういうわけである。
定期演奏会
(早速サントリーホールに駆けつける)

 こうしてムックリ起き上がったクマどんは、早速サントリーホールに駆けつけることにした。「あれれ、むっくり起き上がったら、すぐにPCに向かうんじゃないの?」という諸君、キミたちはまだよく分かっていないのである。
 「よーし、やるぞ!!」と決意したときほど、ヒトは素晴らしい芝居で感激し、素晴らしい音楽を聴いて、ゾクゾク鳥肌が立つほどの感動を味わうべきなのだ。感動も感激もないまま、無理やりPCの前に座ったって、その作業から生まれるのはどうせスカスカのシボリカスばかり。どうせロクなものは生まれてこない。
 久しぶりのサントリーホールは、ラザレフ指揮の日本フィル。2階席ではあったが、ステージに向かって左側、指揮者の顔も演奏者の顔もごく間近にみられる絶好の席であった。
 曲は、リスト「プロメテウス」、スクリャービン「プロメテウス」、ラヴェル「ダフニスとクロエ」。いつもは観客が入る指揮者正面の席を500人余りの「晋友会」の合唱団が占めて、それこそステージと観客席が一体化するほどの、マコトに素晴らしい演奏になった。
 「プロメテウス」を2曲も聴いて、今井君の肉体の中の炎がいよいよメラメラと燃え上がりはじめたのである。演奏終了後に15分のトークまで繰り広げてくれた指揮者ラザレフに喝采。観客席まで巻き込むエネルギッシュな指揮には、今井君なんかもしっかり学ばなければならない要素がタップリ含まれていた。
じゃこ
(今井屋の名物、「ジャコ山椒と山椒昆布」。お腹がいっぱいになった後にオススメ)

 さて、終了後のお楽しみは、もちろん焼き鳥である。ステーキでもいいが、六本木に開店したばかりの「ウォルフガング」は、金曜夜ということもあって、満員。「22時からでは、すぐにラストオーダーですよ」と冷たくあしらわれたので、むしろこちらからお断りした。
 ニューヨークのウォルフガングが大好きで、54丁目店、33丁目店、トライベッカ店をすでに制覇。33丁目店ではすでに「お馴染みさん」に近づいているが、六本木店にはまだ縁がない。電話に出る人間がもう少し臨機応変に対応しないと、お店の評判が上がるのに苦労しそうな予感がする。
 少々ムッとした時には、やっぱり恵比寿の「今井屋総本店」がいい。カウンターの隅っこに陣取って1時間、秋田の比内地鶏を心ゆくまで味わって、「よおし、いよいよ久しぶりの本を書くぞ」という決意を高めた。いぶりがっこ、おいしゅーございました。稀少部位・セギモ、おいしゅーございました。
ウーロンハイ
(テーブルについたらすぐに「ウーロン割り2つ」と注文する。1つカラッポになったらすぐに次の1つを注文。とにかく、決して途切れさせないのが今井スタンダード)

 何でそんなに「おいしゅーございました」が連続するのかというと、どうも「ウーロン茶割り」に徹していることに原因がありそうである。今夜も8杯、余裕で飲み干した。
 今までの今井君は薄い酒に抵抗があって、ウィスキーでもジンでもロック、ブランデーはもちろんストレート、ワインや日本酒なら「ガブ飲み」がモットー。そうやって四半世紀も酒を飲み続け、どんなウマい料理でも「あくまで酒のツマミ」というスタンスであった。
 それがどうしたハズミか、4月末にオランダから帰ってきて、いきなりお茶割り派に変身。確かに「ウーロンハイ8杯」というスタンダードは異様な気がするが、とにかく今までとは比較にならないぐらい料理がウマく感じる。
 「酒が主、メシは従」という人生から、何だか決定的に卒業したような、高揚した気分である。こりゃどうも、やっぱりどんどん本が書けそうだ。今年の受験生諸君にも間に合うぐらいの勢いで、バリバリ書いていきたい。というわけで、そのまま5月31日午前5時まで執筆準備に励んだクマどんである。

1E(Cd) George Benson:LOVE REMEMBERS
2E(Cd) George Benson:STANDING TOGETHER
3E(Cd) Chicago:CHICAGO
6E(Cn) ラザレフ指揮:日本フィル第660回定期演奏会:サントリーホール
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