Tue 140422 今日は身辺雑記 ストライキづくし 劇団員に熱い拍手 ジェルミナール | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 140422 今日は身辺雑記 ストライキづくし 劇団員に熱い拍手 ジェルミナール

 5日ぶりに「身辺雑記」を書くことにするが、どういうわけかこの日の今井君は「ストライキづくし」。することなすこと何でもかんでもストライキで、大のストライキぎらいをもって任ずるクマ蔵としては、マコトに忸怩たる思いであった。
 まず、書いているブログがちょうどフランスの大ストライキの話に近づいてきた。その中身は明日のお楽しみだが、滞在中のマルセイユ付近で全ての電車がストップし、アビニョンからマルセイユに戻るのもママならぬ危機に追い込まれた。
 今井君の父親は日本の旧国鉄の中間管理職。プライベートでは労働組合の幹部にも友人が多いヒトだったが、いったん国鉄労組のストライキが始まれば、連日激しい罵声を浴びせられながら、ストライキ中止を要請するツラい立場に追い込まれた。
 そのくせ国鉄側からは「ストライキを中止させられなければいつクビになってもおかしくない」みたいなことを通告され続けた。おかげで中学時代の今井君は、学校では驚くべき好成績を収めていたのに、厳しい表情の父から「大学には行かせられないかもしれない」と申し渡されることもあった。
 「大のストライキ嫌いをもって任ずる」とは、そういう昔の家庭事情による。ところが諸君、あの時はフランスの大ストライキのせいで、マルセイユに帰ることもできなければ、マルセイユを脱出することも難しくなったのだった。
 それどころか、「この電車に乗らなければ宿泊先に戻れない」という危機の中、まさにその電車が「これから暴動を始めます」という若者たちに占拠され、ハッキリたいへんな危機に陥った。まあそのあたりは明日の記事をお楽しみに願いたい。
赤提灯
(下北沢の赤提灯に行ってきた)

 ブログを書き終わって、夕暮れから下北沢に芝居を見に出かけた。諸君、どうやら日本は長い不況から抜け出したようである。マスメディアの皆さんは「いや、まだ実感はない」と意地でも認めようとしないけれども、夕暮れの下北沢を歩いてみたまえ、2~3年前の火の消えたようなアリサマとは雲泥の差。平日だというのに、真っすぐ前に進めないような賑やかな人出である。
 見に行った芝居は、劇団青年座「見よ、飛行機の高く飛べるを」。ナイロン100℃「百年の秘密」(ケラリーノ・サンドロビッチ作・演出)以来、ホントに久しぶりの本多劇場であった。
 これがまたテーマが「ストライキ」。1910年代、日露戦争に勝利して自ら一流国をもって任ずる日本の女子師範学校が舞台。温順貞淑、良妻賢母教育を強行する学校側に反発した女子学生たちが、ついにストライキにうってでる。
 展覧会でも芝居でも映画でも、今井君は事前の下調べということをしない。先入観があるとつまらないから、何でも行き当たりばったりでとにかく見てみる。どんなことでも失敗があるからこそ面白いので、先入観を確認して頷くだけじゃサッパリ面白くないじゃないか。
 劇場はほぼ満員。今井君の後ろには、大学の授業で「見てこい」「レポートを書け」と教授に命じられたらしい学生集団もいて、若々しい雰囲気だ。東京の劇場は、おそらくオカネがかかりすぎるせいで観客の高齢化が目立つのだが、大学生や高校生がこうしてたくさん詰めかけるのは素晴らしいことである。
うずらさん
(ウズラのピリ辛焼き。何となく可哀そうだ)

 ところが、肝腎のお芝居のほうは、うーん、今までのクマ蔵の長い人生で、「体質に合わないほうから二番目」と言って間違いはない。「じゃ、一番は?」であるが、それもまた本多劇場で見たケラリーノ「百年の秘密」である。もしかして本多劇場そのものが、クマどんの体質に合わないのかもしれない。
 もちろん、否定とか非難とか、そういうことではない。あくまで「今井君の体質に合わない」と言っているだけで、体質の違うヒトには「飛行機の高く飛べるを」もビックリするぐらい感動的だった可能性もある。5月18日まで本多劇場でやっているから、諸君もぜひ見てきたまえ。
 しかしやっぱり正直に、「体質に合わないほうから2番目」だったことは間違いない。ポスターを見た段階で、「こりゃダメかな」という悪い予感があったのだ。明治大正期のカッコをした女子学生10名ほどが、明るい笑顔で上空を見上げている。
 これを「見てきてレポートを書け」と命じられた大学生諸君が、一生お芝居がキライにならなかったかどうか、今井君は心配である。平塚雷鳥と与謝野晶子に憧れ、こっそり田山花袋「蒲団」を読みふける女子学生たちが、ついにストライキを強行。メンバーは80名にふくれあがるが、学校側の巧みな切り崩しにあって、ついに残るメンバーは2名だけになった。
赤ワイン
(13年前のワイン。下北沢「禅べえ」マスターが奨めてくれた)

 これ以上は「ネタバレ」になるから詳細は書かないが、うにゃにゃ、3時間もかかって上演するには、脚本があまりに中途半端。ストライキの最後に残った2名のうちの1人が、若くカッコいい国語のセンセに求婚されてそれを受け入れ、ストライキから脱落。飛行機大好きな愚かな女子が、たった1人ミジメに取り残されたところで終わりになる。
 間違いなく彼女は退学になるはずだが、その結末は示されずにいきなり幕。これじゃあまりに後味が悪いじゃないか。観客の多くがクマどんと同じ思いだったようで、終演後の拍手は控えめ。劇場側もそれを察したか、拍手が止むとすぐに客席の照明をつけ、客は感想を熱く述べあうこともなく、マコトに淡白に劇場を後にした。
 ただしクマどんは、演じた俳優諸君には心から熱い拍手を送ったのである。体質に合わないのは、あくまで脚本と演出。ここまでツラい脚本と演出に耐え、3時間よく気丈に舞台を務めた。彼女ら&彼らの熱演に、熱く優しく喝采しないでいられなかった。
 脚本の出来がよくないと、演じる者はマコトにつらいのである。練習の段階から「こりゃダメだ」「観客は冷淡だろう」と既にみんなが痛感する。事前にダメだと分かっている舞台ほどツラいものはない。初戦で大敗すると分かっている部活みたいなものである。
チケット
(チケット)

 だからこそボクチンは東大野球部の奮戦を素晴らしいと思うのだ。70連敗とか75連敗とか、そういう記録をマスメディアに嘲笑され、それでも神宮の舞台に立つ。相手は甲子園の有名人が揃い、スコアは11-0、14-0、こちらはエラーの連発、3塁までも行けない。ミジメな試合が続くけれども、それでも奮闘する。
 予備校講師も経験の少ない頃は、同じような経験が続く。埼玉県の大宮校で「名古屋大英語」とか、千葉の津田沼校で「九州大英語」とか、そういうミスマッチのテキストを与えられ、隣の教室は思いっきり超満員なのに、自分の教室に集まった5人の生徒はほとんど居眠り状態。それでも授業をやりとげなければならない。
 昨日の青年座の諸君には、そういう雄々しさがあった。発声も滑舌も、基本がキチンとできた役者がほとんどで、基礎基本を重視するクマどんは涙が出そうになるぐらい。しかし何より熱く喝采したのは、脚本がこれほどダメなのに、メゲる様子もなく最後まで熱演した彼女らの心の強さである。
 終演後、いつものように下北沢「禅べえ」。今夜は「鳥づくし」ということで、ホロホロ鳥にウズラの焼き物を満喫、ワインも奮発した。
ソマリ
(税所君からメールが。今は「アフリカの角」、ソマリア北部のソマリランドで活躍中。現地の校長先生に、今井君のビデオを見せた直後の写真だとさ)

 なお、「ストライキづくし」には実はもう1つあって、現在お風呂で熟読中のゾラ「ジェルミナール」がそれである。3段組みの全集本で500ページもある大作、現在300ページまで読み進めているが、諸君、これまた大ストライキの話なのだ。
 フランス人って、19世紀からずっとストライキが大好きなんであるね。ゾラが描いたのは、19世紀末の炭坑で起こったストライキと、その結果として発生した大暴動。いやはや、描写の凄まじい迫力には、今井君の想像を絶するものがある。
 ゾラといえば、誰でも知っているのは「居酒屋」と「ナナ」。「ジェルミナール」はもう図書館でなければ手にすることはできないと思う。1993年制作のフランス映画もあるが、映画じゃなかなか原作の迫力を知ることはできないだろう。諸君、図書館に走りたまえ。
 地底500メートルの暗闇での激しい労働、貧しい坑夫町を静かに襲う飢餓、村祭りのエネルギーと熱狂、青少年の荒廃と堕落、やがて高まる暴動の気配、ついに訪れる暴発、暴発の犠牲者たちのアリサマ、すべて想像を絶する生々しさで描かれる。
 確かに150年も前の小説だ。余りに古くさいと思われるページは読み飛ばして構わない。しかし実際に読みはじめたら、「ここは飛ばしちゃおう」などという人は誰もいなくなると、クマどんは信じている。

1E(Cd) Anita Baker:THE SONGSTRESS
2E(Cd) Anita Baker:RHYTHM OF LOVE
3E(Cd) THE BEST OF ERIC CLAPTON
4E(Cd) Holliger:BACH/3 OBOENKONZERTE
5E(Cd) Brendel:BACH/ITALIENISCHES KONZERT
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