Fri 140418 レラン諸島 鉄仮面の牢獄 海の嵐と雷 (ヨーロッパ40日の旅 拡張編6) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 140418 レラン諸島 鉄仮面の牢獄 海の嵐と雷 (ヨーロッパ40日の旅 拡張編6)

 ニース滞在6日目。残り2日となったニース滞在で、どうしても訪ねておきたい場所がまだ2カ所残っていた。マントンと、レラン諸島である。「どっちを先にするか」であるが、この日は朝からどうもお天気がハッキリしなかったので、レラン諸島のほうを選ぶことに決めた。
 マントンは、日本ではそれほど名前が売れているとは言えないが、フランスではニースやカンヌやアンチーブに劣らない憧れの避暑地。2月下旬から3月初めにかけての「レモン祭り」でも有名。出来ればスカッとキレイに晴れた日に出かけたい。
 一方のレラン諸島は、修道院と砦と牢獄の島々。牢獄や砦などというものが、「スカッと」とか「カラッと」とかしているんじゃ、どうもあんまり恐ろしくないじゃないか。本来なら暗く曇った晩秋の夕暮れ、オドロオドロしい雰囲気をタップリ味わいたい。
眺望
(レラン諸島、サント・マルグリット島からの眺望)

 季節はまだ9月上旬。晩夏というか初秋というか、気温はまだ30度に近いけれども、ニースの海岸は朝から重い雲が垂れ込めて、砦に牢獄に修道院を訪ねるには悪くない空模様になった。生あたたかい微風、時おりポタポタ落ちてくるヌルい雨粒、古いダンジョン探訪にはうってつけである。
 レラン諸島には、カンヌから船が出ている。ニースからカンヌまでは、すっかりお馴染みになったターミナルから、2時間かけてバスで行く。電車だと、モナコからの帰りみたいに地元高校生集団に占拠される可能性がある。そのほうがダンジョンよりずっとコワい。あんな馬鹿騒ぎの真っただ中にいたんじゃ、せっかくのダンジョンめぐりの味わいも台無しになる。
 カンヌ旧港の西の端っこに、レラン諸島行きの船着き場がある。1日10往復だから、まあかなり頻繁に行き来しているわけだが、お客の数はマバラ。そりゃそうだ。ルイ14世の時代に作られた古い牢獄なんかを眺めに、わざわざ雨の日に傘を差して出かけてくるような物好きは、このクマ蔵ぐらいのものである。
城塞
(城塞。リシュリューが命じてつくらせた)

 船は15分ほどで目指すサント・マルグリット島に着く。船着き場から左に向かって歩いていくと、すぐに目指す牢獄に到着。もともとはリシュリューの命令で作られた城塞だが、主に牢獄として使用され、「鉄仮面」がここに収監されていたことで有名である。
 「鉄仮面」は、実在の人物。アレクサンドル・デュマの小説で有名になり、日本では黒岩涙香→江戸川乱歩のラインで、むかしむかしの少年少女を血湧き肉踊る物語の世界に導いた。
 仮面をかぶせられ、厳重に身柄を拘束されているけれども、監獄内ではごく丁重に扱われている貴人である。実際の鉄仮面が誰だか分かっていないことから、メッタヤタラにいろいろな憶測が広がった。
「ルイ14世の異母兄だった」
「それどころじゃない、実はルイ14世自身だった」
「マザランの陰謀でルイ14世がここに閉じ込められ、王座にはマザランの言いなりになる身代わりが座っていた」
など、荒唐無稽なウワサまで飛び出した。
鉄格子
(牢獄の窓には、荒々しい鉄格子)

 こうなると映画の世界だって黙っているワケはなくて、ディカプリオどん主演の映画になったりする。20世紀末の作品「仮面の男」がそれであって、17世紀の囚人を主人公に、老いた三銃士が大活躍、ダルタニャンも王妃とアブナイ関係に陥る。
 諸君、あくまで「三銃士」であるが、それを「三十四」と変換するMac君が、ボクチンはたまらないほど好きである。映画の原題は「THE MAN IN THE IRON MASK」。その主人公・鉄仮面が、何とこの砦のこの部屋に収監されていたのだという。感動じゃないか。
 窓に何重にも取り付けられたこの荒々しい鉄格子を見てみたまえ。おお、これこそ昔の貴種流離譚や、血湧き肉踊る冒険活劇の象徴だ。うーん、Mac君の変換は「某県活劇の小腸」。オマエは何を考えとるんじゃ。
 ユゴー「氷島奇譚」でも、スタンダール「パルムの僧院」でも、デュマ「黒いチューリップ」でも、牢獄というのは19世紀前半のフランス文学には欠かせない舞台。雄々しい主人公が鉄格子の牢獄に閉じ込められ、やがて彼を愛する女性の献身的協力によってここを突破→脱出し、ついには彼の本懐を果たす。
 サント・マルグリット島をめぐる険しい岩の城塞を眺め、鋼鉄のヤスリで何十年立ち向かっても決して切り開くことの出来そうにない鉄格子を眺めていると、クマ蔵どんもやっぱり昔の少年少女よろしく、血は湧き肉も踊りだす。いやはや、冒険活劇ほど面白いものはないでござるよ。
海賊対策
(砦は、海賊対策も兼ねていた)

 さて、ダンジョンめぐりが終われば、帰りの船の時間まで、島をブラブラ歩き回るだけである。すぐ目の前にカンヌの街を眺めながら、穏やかな波の打ち寄せる波打ち際をのんびり散策した。怠け者のクマにとって、こんなに暢気で楽しい時間は、他にあまり考えられない。
 海岸は、砂でもなければ砂利でもない。そのちょうど中間の、アズキ粒ぐらいのキレイな小石が浜を覆い尽くしている。その小石の浜に、ヤドカリが無数に隠れている。むかし縁日で売っていたような大きなヤツじゃなくて、やっぱりアズキ粒の大きさの巻貝を拾ってみると、中から小さなヤドカリが顔を出してジタバタするのである。
牢獄
(城塞の中の牢獄)

 そうやってヤドカリの浜でしばらく怠け、午後3時ごろの船でカンヌに戻った。この頃から天候が決定的に悪くなって、バスでニースに戻った頃には、強い南風に乗って、海のほうから雨がたたきつけるように降った。さかんに稲光がして、海に雷鳴が重々しく轟きつづけた。
 その夜、午前1時ごろ、そういう嵐の真っただ中で非常ベルが鳴り響いた。ちょうど眠りについた頃である。廊下に出てみると、そこいら中のドアが開いてオジサマやオバサマが苦笑いしている。
 ホントならもっとマジメに逃げる仕度をしなきゃいけないところだが、外の嵐やカミナリさまと、ホテルの非常ベルが連動してしまったらしい。いやはや、まったく人騒がせな非常ベルでござるね。

1E(Cd) Luther Vandross:NEVER LET ME GO
2E(Cd) Luther Vandross:YOUR SECRET LOVE
3E(Cd) Luther Vandross:SONGS
4E(Cd) Bernstein:HAYDN/PAUKENMESSE
5E(Cd) Holliger:BACH/3 OBOENKONZERTE
total m87 y553 d13483