Sat 140412 拡張編挿入の弁解 ニース滞在 ガッシュ(ヨーロッパ40日の旅 拡張編1) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sat 140412 拡張編挿入の弁解 ニース滞在 ガッシュ(ヨーロッパ40日の旅 拡張編1)

 さて、長大なこの旅行記もすでに1ヶ月書き続けて、さすがに終盤を迎えることになった。しかし終盤に入るにあたって、ここに4~5回に渡る「拡張編」、さらにもう4~5回に及ぶ「拡大編」が必要であることに気づいた。
 予備校講師の身辺雑記にしか関心のない読者にはマコトに申し訳ないが、当ブログはあくまで「一個人の日記」という体裁を確保したい。「読者の興味をあまり惹かないのではないか」と思われる事柄でも、筆者がどうしても書きたいことならば、たとえ退屈でもお付きあいいただくしかないのである。
 筆者クマ蔵が「拡張編」で書きたいのは、「40日の旅」の半年後に実行したニース滞在の記録である。言わば「旅行記中の旅行記」であるが、いいじゃないか、まあ許してくれたまえ。
 「ハムレット」のクライマックスは、ハムレットがクローディアスの陰謀と犯行を確信する瞬間、「劇中劇」のシーンである。むかしむかし、劇の中に劇があり、小説の中に別の小説が挿入され、一枚の絵の中に小さな絵が描き込まれて、描かれる世界が決定的に豊かになるという考え方があった。
 旅行記の中に旅行記が挿入されたからといって、またまた「長過ぎる」「何のブログだか分からない」とタメイキをつくようでは、うーん、アタマの中の構造があんまり単純すぎないか。劇中劇をしっかり見定める忍耐力がないと、ハムレットの構造は半分も分からない。
ニース1
(9月上旬のニース)

 というわけで、クマ蔵どんのささやかな「拡張編」は、この半年後のニース滞在記となる。夏の終わりの9月上旬、ニースに1週間滞在して、カンヌ、モナコ、エズ、マントン、グラース、レラン諸島に日帰り小旅行を繰り返した。
 きっかけになったのは、「40日の旅」の後半、昨日書いたジェノバからマルセイユへの列車移動である。3月上旬、オフシーズンの真っただ中だったが、その海岸線の優美さに感激、「これはどうしても夏にチャンとこなきゃいけないな」と決意を固めた。
 パリでヒコーキを乗り継げば、ニースまで2時間弱。ニースには「ネグレスコ」という超有名ホテルがあって、今なら間違いなくネグレスコを選ぶだろうけれども、当時のクマ蔵はまだその勇気がない。ネグレスコのお隣の「ウェストエンド」という中途半端なホテルを選択した。
 「どうしてウェストエンド?」であるが、何のことはない、読んで字の如く「西の端っこ」という意味である。美しい砂浜に沿って「プロムナード・デザングレ」という一本道が走っており、有名ホテルが林立している。その一番西の端に位置するのが「ウェストエンド」というわけだ。
ニース2
(手前がウェストエンド、向こう側の赤いお屋根がネグレスコ)

 実際にはそれは強がりに過ぎないので、そのさらに西側にネグレスコが厳然と存在するのであるが、さすがにネグレスコは別格中の別格。別格すぎるので、あえてその存在を無視してしまい、思い切って「西の端っこはオレたちだ」とスカッと言い放ったような、少なからず自暴自棄な命名である。
 しかし、無理してネグレスコに高いオカネを払わなくても、ホテルからの眺望はやっぱり素晴らしい。幸い海側の最上階のお部屋がとれたので、「ネグレスコに泊まったって、海側の部屋じゃなかったらサイアクじゃないか」という負け惜しみにも、十分な正当性を感じたのである。
 部屋に入って窓を開けた段階で、「これはもうずっと窓から海を眺めているだけでいいな」と考えたぐらいである。ニースまで来たら、もちろんカンヌもモナコもエズもすぐ近くだ。行ってみないわけにはいかないが、一瞬、そんな小旅行はどうでもよくなってしまった。
ニース3
(ホテル・ウェストエンド最上階からの眺望)

 夕方には、よく夕立が襲ってきた。もう9月だから、シーズンオフが近づいている。滞在中は日一日と海岸が寂しくなっていき、海岸に寝そべる人はまだたくさんいても、実際に海に入って泳ぐ姿は少ない。夕立が襲ってくると、海岸のヒトビトは一斉にホテルに引き上げて、秋の訪れがシミジミと身にしみた。
 やがて夕立を降らせた黒雲が去って、西のほうから再び明るい陽が射してくると、ビックリするぐらい大きな虹が目の前にかかった。窓を開けて腕を伸ばせばすぐ手に取れるぐらい間近である。
 それでも、夕立のせいで落ちた枯葉が乾いていく香りに秋を感じる。夕立前には汗が噴き出すほどの暑さだったのに、夕立が去った後は上着を着ても鳥肌が立つぐらいの冷風が海岸を走った。
 ニースに滞在するとしたら、もしもコドモみたいに海でバシャバシャやるのが目的でないなら、7~8月の超ハイシーズンよりも、こういう9月上旬がいいと思う。そもそも夏休みの真っ最中じゃ、ニースでもカンヌでもオカネがかかりすぎるのだ。
ニース4
(夜のネグレスコ)

 夜になると、ニースの街はまだまだ大いに賑わっていた。「ヨーロッパ中の」とは言わないまでも、少なくとも「フランス中のオカネ持ち」がニースの夜に繰り出して、豪華ディナーを満喫しているようであった。
 もちろん、「ホントのオカネ持ち」はこんなところには来ないのかもしれない。
「ホンモノのリッチ階級は、もっと他のリゾートに大きなヴィラがあって、ヘリかプライベートジェットでヴィラに向かう。ニースなんか、言わば昭和日本の『熱海』であって、中途半端なオカネ持ちのタマリバに過ぎない」
そう言って冷笑する物知りな御仁だっているだろう。
 しかし諸君、「中途半端」、素晴らしいじゃないか。若いころから懸命に働いてオカネを貯めたジーチャン&バーチャンが、人生の秋をこういう場所で笑いながら過ごす。生牡蠣を頬張り、ロブスターや分厚いステーキを心ゆくまで噛みしめ、若い頃の自慢話に花を咲かせる。ニースの夜は、マコトに陽気に更けていく。
ニース5
(ニース、夜の賑わい)

 かくいうクマ蔵どんは、ニースではひたすら貝類を平らげた。「コキヤージュ」または「フリュイ・ド・メール」と言って注文すれば、山盛りの生牡蠣、同じく山盛りの得体の知れない貝類、毛蟹ぐらいのカニの半身、そういうものを大皿2枚重ねまたは3枚重ねにして、ウェイターが楽しそうに運んでくる。
「どうだ、小食の日本人がこんなに平らげられるか?」
という笑顔である。
 もちろん周囲のジーチャンもバーチャンも、楽しそうにこちらを眺めている。
「オマエ、無理だろう」
「まさか日本人がそんなに食えるわけがないだろう」
ということであるが、案に相違してクマ蔵が余りにワシワシ食べまくるものだから、周囲からは「ガッシュ!!」という声が漏れはじめる。だって諸君、今井君は特に生牡蠣が得意。生牡蠣15個あっても、5分もかからない。
 「ガッシュ」とは「My gosh!!」または「Oh my gosh!!」の略であって、激しい驚きの表現である。大っきなカニの半身を持ち上げた時、お隣に座っていたオバサマ2人組が「Gosh!!」と声を揃えたが、ま、いいじゃないか。日本人だって、目いっぱい腹が減ったとき、好物が並んだ時には、こうして激しく食べまくるのだ。

1E(Cd) Ashkenazy(p) Müller & Berlin:SCRIABIN SYMPHONIES 3/3
2E(Cd) SECRET OF ISTANBUL
3E(Cd) 1453
4E(Cd) Schreier:BACH/MASS IN B MINOR②
5E(Cd) Schreier:BACH/MASS IN B MINOR①
total m60 y526 d13456