Tue 140408 靴底がペロリ メガネ修繕 ナポリの街の殴り合い(ヨーロッパ40日の旅25) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 140408 靴底がペロリ メガネ修繕 ナポリの街の殴り合い(ヨーロッパ40日の旅25)

 イタリアに入ってから何となく停滞気味だった疑似放浪の旅であるが、ローマ・サンピエトロ寺院で起こったマコトに小さな事件あたりから、またまた波瀾万丈=事件盛り沢山に戻ったようである。
 旅というものは、スムーズに進みすぎてはつまらない。というか、予定通りに見学を進め、見るべきものをサッサと確認して「ああ、ガイドブックの写真と同じだ♡」と頷きあってホッとするだけなら、別に旅なんかする必要はないだろう。
 ガイドブックの写真がホンモノと違っていたとか、予定の列車が来なかったとか、バスの行き先表示が間違っていたとか、靴の底が突然ペラッと剥げ落ちたとか、全面ストライキが始まって列車の運行が全て止まってしまい、駅のホームで呆然とするとか、その程度の事件が次から次へと起こってこそ、旅の妙味は深まるのである。
ヴェスビオ山
(青いナポリ湾をはさんで、ヴェスヴィオ山を望む)

 何を隠そう、諸君、つい5日前のことだ。オランダ滞在中の今井君は、足の裏の異変に気づいた。履いていた靴の底が、歩くたびにペラペラ翻っている。左足の爪先あたりで靴がパクパクお口を開いて、お話をしているみたいなのだ。アムステルダム中央駅前を歩いている時だった。
 普通のヒトなら、やっぱり体面を考えてこの珍事を隠し通そうとするだろう。しかし諸君、今井クマ蔵はやっぱり普通ではない。「剥げかかったものは、いっそのことスッキリと剥がしてしまったほうがいい」。そういう考えがムクムク湧き上がってきた。
 マコトに乱暴な、クマ独特の解決法であるが、「まさかそうカンタンに剥げることはあるまい」と、その場で靴の底を引っ張ってみたのである。すると諸君、驚くじゃないか。靴の底はペラペラ音をたてて、ものの見事に1枚のゴムとなって剥げ落ちた。
 こうして、完全にスッキリと事件を解決した今井君は、再び颯爽とアムステルダムの闊歩を始めた。もう一度繰り返すが、「剥げかかったら、剥がしてしまえ」こそ、最も手っ取り早い解決策なのである。
サンタルチア
(ナポリ、サンタルチア港)

 ところが諸君、そのままステーキ屋を目指してしばらく闊歩を続けていると、今度はもう片方(右足)の靴のカカトのあたりが、パクパクお口を開けてお話でもしているようにピラピラし始めた。右足クンも左足クンのマネを始めたらしい。
 普通のヒトならやっぱり体面重視で、ホテルにコソコソ逃げ帰るんじゃないだろうか。しかしそこはそれ、やっぱりクマどんは強烈だ。「右足クン、そんなに左足クンと同じ目に遭いたかったら、すぐにそうしてあげましょう」。クマ蔵はさっきと同じように靴の底を引っ張ってみた。するとやっぱり、靴底はペラリと無惨に剥がれて落ちた。
 右も左もゴム底が1枚剥がれたわけだから、これはマコトに都合がいい。右と左で靴底の厚さが違ったんでは、歩きにくいこと甚だしい。両方とも剥がれ落ちてくれなければ、コトの本質的解決にはならないじゃないか。
 こうして、靴底のゴムが1枚ずつキレイに剥がれ落ちた靴を履いて、平然とステーキ屋に入り、平然と巨大ステーキを注文する。しかも諸君、諸君には信じがたいだろうが、今井君は「ステーキのオカワリ」を2度もやってのけた。
 300グラムもある「グランデ」というステーキを10分ほどで平らげ、ウェイターに手を挙げて、「同じグランデを、もう1枚注文していいか?」と尋ねるわけである。「日本人は小食だ」などと言われたら、悔しいじゃないか。
 こうしてステーキ2枚=600グラムをペロリと平らげた帰り、スーパーに立ち寄って、強力接着剤を購入。胃袋では牛のお肉600グラムを消化しながら、剥がれた靴の底をピッタリと貼り合わせる。マコトに模範的なマルチタスクだとは思わないかね?
ナポリ
(スパッカ・ナポリのあたり)

 3月3日、ローマからナポリに出かけた日も、マルチタスク♨今井は健在だ。昨夕サンピエトロ寺院の静寂の中で壊れてしまったメガネを、まずキチンと修理する。ネジを1本紛失したぐらいで、いちいち意気沮喪していてはならない。
 ホテルの部屋に備えつけの針と糸を使えば、メガネぐらいカンタンに修理できる。「は? メガネを縫ったの?」などと、バカなことは言わんでほしい。ネジの穴に黒い糸を通して、レンズが落ちないようにしっかりと結びつけただけである。仕上がりはカンペキ。そのまま20日間、日本に帰るまでメガネには何の問題も生じなかった。
 ローマからナポリまで、特急ESに乗れば1時間45分ほどの旅。急行ICでも2時間だからホンの15分しか違わないが、何となくESに乗ってみたかった。これが間違いで、ユーレイルパスではESに乗ることができない。検札のオジサマが回ってきて、ES料金20ユーロを徴収された。叱られはしなかったけれども、何となくションボリしてナポリの駅に降り立つことになった。
 ナポリ・チェントラーレ駅前にも、アフリカ系の移民のヒトビトがズラリと立ち並んで、フェイクバッグを売っている。その列の長いこと、チェントラーレ駅から歩いても歩いてもその列が途切れることがない。ウンベルト1世通りとドゥオモ通りが交わるあたりまで、彼らはほぼ一定の間隔を置き、白い敷物の上にバッグをキレイに並べて立ち尽くしている。
 もちろん、そんな場所でフェイクバッグを手に取ってみるヒトなんかいない。彼らもそれをイヤというほど知っているから、ただ立ち尽くすだけで道行く人に声をかけることさえしない。寂しげに、遥か遠くに視線を投げているだけである。
高級ホテル通り
(ナポリ、高級ホテルが立ち並ぶあたり)

 ここからのナポリ日帰り旅は、まさにお手本通り。スパッカ・ナポリを直進し、サンタルチア港に出て、タマゴ城に入る。しかし日本で売られているガイドブックでは、ナポリの扱いは不当なぐらいに小さい。
 街の規模では小さいフィレンツェやヴェネツィアばかり熱心で、しかも美術館やら博物館の紹介だらけ。「See Naples and die」のはずの栄光のナポリは、日本ではいかにも「おざなり」という感じが否めない。
 おそらくその理由は「治安が悪い」。「シエスタの時間帯に地下鉄に一人で乗ってはいけません」「この地域は地元の人でも敬遠するほどです」みたいな情報が錯綜し、まるで紛争の真っただ中にあるみたいなビクビクぶりである。
 ナポリは、カプリ島・イスキア島・「帰れソレントへ」のソレント・ポジターノ・アマルフィ・ポンペイ・プローチダ島など、ウルトラ有名観光地への中継点。ナポリの歴史を知ることは、イスラムを含めた各国勢力が入り乱れる南ヨーロッパの変遷を知ることでもある。
 絵画や彫刻にばかり熱心な日本人は、ちょっと反省したほうがいい。治安だなんだとメンドーなことをこねくり回すのは、この程度でヤメにしていいのだ。治安の悪さで悪名高いスパッカ・ナポリだって、実際に歩き回ってみれば、新宿歌舞伎町や渋谷センター街に慣れたクマ蔵の目でみるに、「はるかに大人しいじゃないか」というレベルに過ぎない。
 そのスパッカ・ナポリが、「スパッカ」だったか「スッパカ」だったか、はたまた「スカッパ」だったか「スッカパ」だったか、その程度の区別さえつかない愚かなクマでさえ、スリにもカッパライにも遭わずにすんだ。カッパライやスカッパライ、スパッカライやスッパカライ、そんなものばかり気にしていたら、旅だってちっとも楽しくないはずだ。
タマゴ城
(ナポリ、タマゴ城からサンタルチア港付近を望む)

 カンツォーネ「サンター、ルチィーアーー♨」で有名なサンタルチア港から、すぐ目の前のタマゴ城に入ると、「さすがに南の国♡」と感動する真っ青な海をはさんで、かつてポンペイを壊滅させたベスビオ山が青い空を背景に美しくそそり立つ。
 タマゴ城から眺める3月の海の青さにも、「さすが南の国」「さすがレモンの花咲く国」というタメイキが漏れる。ドイツや北欧の人が憧れたイタリアは、フィレンツェでもヴェネツィアでもない、実はナポリとソレント、アマルフィとカプリであって、南イタリアを「治安が悪い」と敬遠するようでは、いくら何でも臆病が過ぎるというものだろう。
 タマゴ城は、サンタルチア港からさらに海に突き出した岬にある。12世紀にノルマン王が建て、17世紀に改修された。イスラムに対する砦にもなり、政治犯の牢獄にもなった。お城の基礎にタマゴが埋め込まれ、そのタマゴが割れたら城も街も滅ぶという伝説がある。
 そのタマゴ城を眺めながら、サンタルチアの有名レストランで昼食をとっていると、いやはや、やっぱりこの街のヒトビトは血気盛んなのだ。いきなり目の前で殴り合いのケンカが始まった。「ボカッ」という第1撃の重苦しい響きは、今もなお忘れない。
 しかしさすがにベスビオ山から吹き下ろす風はまだ冷たい。こんな寒風の中でケンカが熱を帯びるわけもない。2発3発の応酬があり、激しい罵りあいが続いて、モメゴトはホンの3~4分で収まった。平和に慣れた日本人にとっては、この程度でも十分「治安が悪い」という結論になるのだろうか。

1E(Cd) 村田陽一 & Solid Brass:WHAT’S BOP
2E(Cd) Bobby Coldwell:AUGUST MOON
3E(Cd) Bobby Coldwell:CARRY ON
4E(Cd) Incognito:LIFE, STRANGER THAN FICTION
5E(Cd) Incognito:FUTURE REMIXED
total m40 y506 d13426