Mon 140310 〆はラーメン パンをオカズにおかゆを食す マタマタパリ(マタパリ最終回) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Mon 140310 〆はラーメン パンをオカズにおかゆを食す マタマタパリ(マタパリ最終回)

 長かった「マタパリ」の旅の記録も、さすがにそろそろ終わりにしなければならない。12月28日、ホテルに荷物を預かってもらってまで最後の3時間をエンジョイしたけれども、まさかいつまでも豚のアンヨをホジクリかえしているわけにもいかないじゃないか。
 まだクリスマスツリーが飾られているヴァンドーム広場を通って、オペラ座前のホテルに引き返す。昨年末のパリ滞在では、連日連夜オペラ座のボックス席に入り浸って、それなりに知的で豪華な滞在を楽しんだのだったが、今年は演目にこれと言ったものが見あたらず、結局オペラ座には一度も足を踏み込まなかった。
 もちろん、それはそれで構わない。そのぶん、たくさんの遠出を楽しんだ。まずリヨン。続いてルアーブル、オンフルール。ストラスブール、コルマール。最後にブロワ、オルレアン。よほど張り切らないと足を伸ばすこともない7つの街をめぐって、それで十分に満足である。
ヴァンドーム1
(ヴァンドーム広場で 1)

 あえて不満をあげれば、「今年はラーメンがまずかったな」である。フランス語に詳しいヒトに尋ねたら、ラーメンはフランス語で「nouilles」または「une soupe avec des nouilles」なのだそうだ。単なるnouillesじゃ、要するに「麺」のことなので、むしろ素直に「ramen」と呟いたほうがいいらしい。
 昨年のパリのラーメンは見事に「アタリ!!」が続いて、誰もが知っているウルトラ有名店「ひぐま」も旨かったし、有名店のあんまり長い行列にビックリして入った無名店のラーメンも、やっぱり胃袋に染み込むほど旨かった。
 しかし今年は、うーん、「ひぐま」のオペラ座前店が一番ダメだった。何でもペロリと平らげるクマさんが、クリスマスの夜のあのラーメンだけは、半分ちょっとしか食べられなかった。冷たい雨の降る凍えるような夜に、ラーメンを半分も残すなんて、よほど気に入らなかったに違いない。
 そこで最後の最後、今年のパリの締めくくりに、「ラーメン屋、もう1軒行っていいかな!?」と考えた。もちろん答えは「いいとも!」であって、そういう問答を一人で繰り返していれば、「いいとも」が終わってもタモ・ロスな症状にならずに済むのである。
 入ったのは、ヴァンドーム広場からルーブル美術館のほうに折れたあたりの「サッポロラーメン」。韓国や中国のヒトビトで大混雑だったが、運よく列に並ばずに、すぐにテーブルにつくことができた。
 出てきたラーメンは、下の写真に示す通りのモノ。「これって、どこがサッポロなんですか?」と、もし質問されればみんなが答えに窮する類いの、フシギなサッポロラーメンであった。
ラーメン
(パリ「サッポロラーメン」のサッポロラーメン)

 ま、いいじゃないか。今年のパリではラーメン運が悪かったんだ。しかもついさっき「豚のアンヨ」で、生牡蠣12個や豚のアンヨやオニオングラタンスープをたらふく平らげたばかり。こんなに満腹じゃ、何を食べても「旨い!!」と絶叫するような気分になれないのは当たり前である。
 午後3時、預けておいた荷物を受け取って、ホテルの近くからシャルル・ド・ゴール空港行き「ロワジーバス」に乗りこんだ。タクシーなら空港まで60ユーロ、ロワジーバスなら10ユーロ。諸君、こういうところで贅沢するのはカッコ悪いじゃないか。
 ヒコーキの時間までタップリ余裕があったので、クマ蔵どんはスターアライアンスのラウンジに入って休むことにした。写真に示す通りマコトに閑散としたラウンジであるが、最近ここのサービスがグッと向上して、もちろんお酒も飲み放題、以前はフードが貧弱だったけれども、昨年からメニューにカレーが加わった。
 だって諸君、カレーであるよ。「無料でいくらでもカレーが食べられます」と言われて、それでも「いや、ワタシはカレーなんか食べません」と平然としているような冷たいヒトはキライでござる。
 もちろんここはまだパリだから、残念なことにカレーにライスはつかないけれども、ライスなしのカレーだけを貪り食うのもまた、クマ蔵の旅の流儀。こうして、クマどんのポンポンの中はたいへんなゴッタ煮状態になった。
 生牡蠣にラーメン、オニオンスープにカレー。こんなありさまでヒコーキに乗れば、「ゲロでも吐かないか」が心配になるけれども、帰りは普通のプレミアムエコノミー席だ。機内ではゲロに直結するほどの御馳走は出ないから、まあ一安心である。
ラウンジ
(パリ、シャルルドゴール空港ターミナル1のラウンジ)

 ビックリしたのは、その10時間後である。「あと2時間で成田に到着」という段階で食事が出るのだが、そのメニューを今ここに書くから、諸君も一緒に今井君の驚きを体験してくれたまえ。覚悟はいいかな? 諸君、「おかゆとパン」である。
 この場合、おかゆが主食でパンがオカズなのか、パンが主食でオカズがおかゆなのか。判断がマコトに難しい。この理解困難な献立に、ヨーグルトとフルーツ、バターと塩とコショーがついてくる。
 帰国直前の今井君は、この事態に予備校講師として深く考えさせられるものがあった。つまり、我々の生活にもonとoff、主食とオカズ、主と従、そういう関係の2要素がある。この2要素をどんなふうに考えるか、その辺をチャンとしておかなきゃいけないのである。
 一般的な講師にとっての主食は、どうしても日々の授業なのであって、そこに全力を注ぐのは当たり前。しかし授業が終われば、多いか少ないかの違いはあっても、誰にでもoffの時間、オカズの時間がやってくる。そのオカズをどうするか、そこがなかなか微妙な問題なのである。
 おかゆを主食と考え、パンがオカズだと考えれば、最も模範的な予備校講師が出来上がる。つまり、たっぷり授業をしてきた後で、offの時間に受験用の学習参考書を執筆するわけだ。
ヴァンドーム2
(ヴァンドーム広場で 2)

 この場合、授業と参考書執筆は「どっちがどっち?」という判断もつかないほど似通っているから、まさに「パンをオカズにおかゆを食べる」という日々になる。出来れば、味も食感も全然異なるオカズが欲しいが、そういう贅沢は一切言わずに、ひたすら参考書を書きまくる。
 今井君みたいな怠惰なクマには、そんなツラい日々は考えにくいのであるが、世の中の予備校講師のほとんどはそのタイプであって、マコトに頭の下がる思いがする。授業を録音したものを文字におこして、それがそのまま参考書になったりすれば、もうおかゆとパンの区別もないのである。
 そういう日々にウンザリした講師は、おかゆの中にありったけのバターと塩とコショーをぶち込んで、おかゆの味をグッと濃くする手に出る。すると、パンが主食、おかゆはオカズとしてドロドロの濃い口スープに変貌する。
 それが英語の講師だとすれば、onの授業がパン、offにはもともと主食だった授業を濃密に変形させて、例えばTOEICやTOEFLの講師、オトナのためのカルチャースクールの先生、場合によっては大学の英会話講師、そういうふうに生活を組み立てる。
ツリー
(ヴァンドーム広場で 3)

 しかし諸君、その場合、今井君としては「何だか心の両立が難しいな」と感じるのである。例えばonの授業で京都大学あたりの難解な英文をじっくり&ゆっくり和訳してみせる。日本語の表現まであれこれコムズカシイことを言って、「カンペキに分かっていなければ、全く分かっていないのと同じなんだ!!」と大見得を切る。
 ところがoffになってオトナを相手に喋り始めた途端、「大学受験時代みたいなコムズカシイことを言っていたら、話せる英語は身につきませんよ」「間違いを恐れずに、どんどん話してみてください」と、グーンとトーンを変えなければならない。朝の顔と夜の顔が裏と表みたいに変わったんじゃ、自分の中で整合性をとるのが難しいのは当たり前じゃないか。
 そこで今井君は、おかゆはおかゆとして、パンはパンとして、主従関係や主食とオカズの関係を持ち込まずに、それぞれを全く別の存在としてエンジョイする道をとる。だから、1枚のプレートの上におかゆとパンが同居していても、そこに関係性を設定せず、飄々とそれぞれを味わい尽くすスベを考える。
 こうして、onはひたすら授業、offはひたすら旅、そういう日々ができあがる。旅の記憶を授業で話すことがあっても、無理やりその両者を関係づけようなどと意図しているのではない。
 「そんなに文章力があるんだから、もっと本を書いたらいいのに」と言ってくれるヒトはたくさんいるが、今のところあまり執筆に興味が湧いてこないのは、そうやっておかゆとパンに関係性を持たせると、たちまち旅の面白味が削がれてしまうからである。
 とかなんとか、よく分からんことをこねくり回しているうちに、ヒコーキはどんどん高度を下げて、目の前に大きなスクリーンに成田空港の滑走路が姿を現した。2013年のマタパリはこれで終わり。2014年末にマタマタパリをやるかどうかは未定であるが、今回もまた間違いなく素晴らしい旅であった。

1E(Cd) Karajan:BACH/MATTHÄUS PASSION③
2E(Cd) Bobby Coldwell:AUGUST MOON
3E(Cd) Bobby Coldwell:CARRY ON
4E(Cd) Bobby Coldwell:COME RAIN OR COME SHINE
5E(Cd) Bobby Coldwell:BLUE CONDITION
total m50 y361 d13281