Mon 140217 汽笛一声、札幌を出る 丸いカラダを四角くする 食堂車グランシャリオで
3月6日、サト助はいよいよ「北斗星」に乗り込んで、意気軒昂である。おお、さすが乗り鉃だ。寝台特急のA個室に陣取っただけで、「意気軒昂」どころか鉄道唱歌さえ歌いだしそうな勢いだ。
汽笛一声 札幌を はやわが汽車は離れたり。そこいら中に消え残る 雪を旅路の友として。ただしさすがに冬の札幌だ。消え残った雪があまりにたんまりあるから、旅路の友も何も、どこまで行っても雪また雪である。
それにしても、この車体の老朽化ぶりはどうだろう。まずトイレに入り、洋式トイレのさきがけの頃の、すっかり時代遅れになったシロモノに一驚を喫する。いや、ここは正式には「トイレ」ではなくて「便所」なのだ。ドアにもしっかり「便所」と、身もフタもない文字が大書されている。
諸君、北斗星デビューから30年、日本で一番進化したのはトイレなんじゃないだろうか。イスタンブールでもパリでもサンパウロでも、この2~3年ようやくウォシュレットが普及してきた。ただし諸君、日本のウォシュレットみたいな至れり尽くせりを期待してはならない。
「お湯」を期待するほうが甘え過ぎなので、欧米で出てくるのは、あくまで冷水。しかも普通の水道の蛇口が便器の脇についていて、そのホースを握って自分で例の場所に噴射するという恐るべきシステムだ。
それでもまあウォシュレットと言えばウォシュレットなので、ないよりはマシである。ホンの数年前のトルコなら、便器の横にバケツが置いてあって、そのバケツの水を手ですくって例の部位を手で洗う形式。「紙」という便利で清潔なものも存在しなかった。
これから17時間を過ごす「北斗星」のトイレは、ウォシュレットですらない。便座をシュワシュワしたビニールが覆っていて、スイッチを押すと便座が回転して、新しい清潔なビニールが出てくるシカケ。「だから清潔だ」「不潔ではない」と言い張るわけだが、2014年の日本人の感覚だと、そのシュワシュワなビニールがかえって気色悪い。
(登別の駅に停車)
A寝台の個室だから、「さぞ広々しているだろう」「さぞ快適だろう」と期待していると、その狭さに一驚を喫する。デスクと椅子はあるけれども、そのデスクで読書や仕事ができるほどではない。要するに「設置しました」「存在します」「スゴいでしょ♡」というだけのことである。
そりゃ、昔のB寝台とは雲泥の差だ。あの頃は、3畳間ほどのスペースに6人、向かい合わせの上段・中段・下段に「まるで蚕棚みたいですね」とお互い苦笑しながら収まって、朝までの数時間をただひたすら耐えた。寝台幅52cm。今思えば、ほとんど「非人道的」というか、「人類の生存に適さない」という某国首都のようなアリサマであった。
だから、比較の問題としてはこの個室はマコトに素晴らしい。しかし諸君、これで「列車ホテル」と豪語するには、さすがにちょっと気が引ける。あえて言えば、ビジネスホテルというところか。
今井君はあんまりビジネスホテルというものを利用しないが、昨年だったか一昨年だったか、大分のホテルが軒並み満室で、万やむを得ず「グリーンリッチホテル大分駅前店」といふモノに宿泊を試みた。
あの体験と感激はいまだに忘れられない。クマのデカい肉体を、四角い檻の中に畳み込むように詰め込むと、丸いカラダが四角くなった。どこかの塾のつまらん広告コピーに「四角い頭を丸くする」というのがあるけれども、「丸いカラダを四角くする」となれば、それもまた一生モノの感動である。
(B寝台個室「ソロ」。この字体の古くささが素晴らしい)
3月6日、列車ホテル「北斗星」のA寝台個室に収まったクマ蔵は、再び丸いカラダを四角くなりそうな17時間を経験しようとしていた。椅子とデスクの間に肉体を折り畳んでハメ込んでみると、今度はそこからなかなか脱出できない。
クマ蔵は異様なほど肉体が硬い。前屈なんか、両手が膝に届くか届かないぐらいだ。そこで、どうせ椅子とデスクの間から脱出できないなら、意地でも脱出してやらないことに決めた。だって、たとえその場所から脱出できたとしても、特にやるべきことも見つからないのである。
むしろその狭い空間にはさまったまま、果てしなくお酒を楽しむほうがいい。札幌駅で購入した300ml×3本の「北海道の日本酒きき酒セット」を取り出し、チビチビやりながら夕暮れの車窓を眺めていれば、怠惰なサト助にとってこれ以上の幸せは考えられない。
まもなく列車は南千歳に到着。ついさっきまでこの辺りで「松尾ジンギスカン」を堪能していた。ついで苫小牧に停車。できたら今年の夏にでも、苫小牧のでお仕事に呼ばれたい。苫小牧でもぜひ奮闘して、もっともっとこの地域の高校生を元気づけたいのである。
苫小牧を過ぎて室蘭に近づく頃から、外はほぼ真っ暗になって、窓には今井クマ蔵の激しい姿が映る。車窓に映った自分の姿に見とれているうちに、日本酒1本目がカラになった。
まもなく洞爺に到着。一昨日のローカル線の旅で、五十鈴バーチャンやホッキ貝バーチャンに出会った駅である。「花咲か爺さん」の中に「正直じいさん」と「意地悪じいさん」の名コンビが登場するけれども、まさにあの2人に匹敵するような、素晴らしいバーチャンコンビであった。
(B寝台)
長万部を過ぎる頃、クマ蔵は食堂車「グランシャリオ」に移動。グランシャリオでは、18時から1回目、19時半から2回目のフランス料理フルコースが出て、予約なしのお客はシャットアウトだが、21時を過ぎると「パブタイム」にかわり、フリーの客でもテーブルにつける。
何しろ乗客のほとんどが乗り鉄の皆様と思われるから、パブタイムの利用も皆さんマコトに抜け目がない。10あまりのテーブルがほとんどとっくに塞がっていて、「ご相席でよろしければ」とウェイターに済まなそうな声で告げられた。
もちろん今井君は贅沢グマではない。ご相席、上等じゃないか。30歳代後半と思われるオネーサマが上品にビーフシチューをすくっていらっしゃったテーブルに「相席」になり、無遠慮に「カレー」「ピザ」「ビール」「赤ワイン」と注文しまくった。
(食堂車「グランシャリオ」の風景)
「まもなく函館」のアナウンスとともにオネーサマが席を立って、テーブルはクマの独壇場になった。おそらくオネーサマは、函館の駅で行われる機関車の付け替えを撮影に走ったのである。
函館までの「北斗星」は、ディーゼル機関車の2連結。函館で電気機関車に交代する。その機関車の付け替えが、乗り鉄&撮り鉄の両刀使いの諸君にはまさにMustの対象なので、この寒いのに函館駅ホームは撮り鉄の皆様で大賑わいになる。
もちろん、グランシャリオも相変わらず大盛況。テーブルが空けば、そのテーブル目がけて新しいお客が殺到してくる。その顔つきや体つきも、どういうわけかソックリであって、聞こえてくる会話も鉄道の裏話ばかりである。
「ホントは、廃止直前の『あけぼの』を狙ってたんですよ。でもやっぱりチケットがとれなくて、『北斗星』がむしろ狙い目かと考えたんです」
「ホントに残念ですね、『あけぼの』。最後にもう1回でいいから乗ってみたかったな」
と、そんなふうに熱く語りあい頷きあう乗り鉄の諸君を睥睨しながら、サト助は22時30分のラストオーダーが近づく頃まで、グランシャリオのテーブルを占領して赤ワインを飲み続けたのである。
いつしか、列車の進行方向は反対向きになっていた。函館駅は、ヨーロッパによくある終着駅タイプ。ここを発着する全ての列車は、進行方向が反対向きにならざるを得ないのである。
1E(Cd) Karajan:BACH/MATTHÄUS PASSION③
2E(Cd) Karajan:BACH/MATTHÄUS PASSION①
3E(Cd) Karajan:BACH/MATTHÄUS PASSION②
4E(Cd) Karajan:BACH/MATTHÄUS PASSION③
5E(Cd) Karajan:BACH/MATTHÄUS PASSION①
total m101 y256 d13176
汽笛一声 札幌を はやわが汽車は離れたり。そこいら中に消え残る 雪を旅路の友として。ただしさすがに冬の札幌だ。消え残った雪があまりにたんまりあるから、旅路の友も何も、どこまで行っても雪また雪である。
(深夜、青函トンネルに入る直前の駅に停車。この風景こそ、夜行列車の旅の醍醐味である)
それにしても、この車体の老朽化ぶりはどうだろう。まずトイレに入り、洋式トイレのさきがけの頃の、すっかり時代遅れになったシロモノに一驚を喫する。いや、ここは正式には「トイレ」ではなくて「便所」なのだ。ドアにもしっかり「便所」と、身もフタもない文字が大書されている。
諸君、北斗星デビューから30年、日本で一番進化したのはトイレなんじゃないだろうか。イスタンブールでもパリでもサンパウロでも、この2~3年ようやくウォシュレットが普及してきた。ただし諸君、日本のウォシュレットみたいな至れり尽くせりを期待してはならない。
「お湯」を期待するほうが甘え過ぎなので、欧米で出てくるのは、あくまで冷水。しかも普通の水道の蛇口が便器の脇についていて、そのホースを握って自分で例の場所に噴射するという恐るべきシステムだ。
それでもまあウォシュレットと言えばウォシュレットなので、ないよりはマシである。ホンの数年前のトルコなら、便器の横にバケツが置いてあって、そのバケツの水を手ですくって例の部位を手で洗う形式。「紙」という便利で清潔なものも存在しなかった。
これから17時間を過ごす「北斗星」のトイレは、ウォシュレットですらない。便座をシュワシュワしたビニールが覆っていて、スイッチを押すと便座が回転して、新しい清潔なビニールが出てくるシカケ。「だから清潔だ」「不潔ではない」と言い張るわけだが、2014年の日本人の感覚だと、そのシュワシュワなビニールがかえって気色悪い。
(登別の駅に停車)
A寝台の個室だから、「さぞ広々しているだろう」「さぞ快適だろう」と期待していると、その狭さに一驚を喫する。デスクと椅子はあるけれども、そのデスクで読書や仕事ができるほどではない。要するに「設置しました」「存在します」「スゴいでしょ♡」というだけのことである。
そりゃ、昔のB寝台とは雲泥の差だ。あの頃は、3畳間ほどのスペースに6人、向かい合わせの上段・中段・下段に「まるで蚕棚みたいですね」とお互い苦笑しながら収まって、朝までの数時間をただひたすら耐えた。寝台幅52cm。今思えば、ほとんど「非人道的」というか、「人類の生存に適さない」という某国首都のようなアリサマであった。
だから、比較の問題としてはこの個室はマコトに素晴らしい。しかし諸君、これで「列車ホテル」と豪語するには、さすがにちょっと気が引ける。あえて言えば、ビジネスホテルというところか。
今井君はあんまりビジネスホテルというものを利用しないが、昨年だったか一昨年だったか、大分のホテルが軒並み満室で、万やむを得ず「グリーンリッチホテル大分駅前店」といふモノに宿泊を試みた。
あの体験と感激はいまだに忘れられない。クマのデカい肉体を、四角い檻の中に畳み込むように詰め込むと、丸いカラダが四角くなった。どこかの塾のつまらん広告コピーに「四角い頭を丸くする」というのがあるけれども、「丸いカラダを四角くする」となれば、それもまた一生モノの感動である。
(B寝台個室「ソロ」。この字体の古くささが素晴らしい)
3月6日、列車ホテル「北斗星」のA寝台個室に収まったクマ蔵は、再び丸いカラダを四角くなりそうな17時間を経験しようとしていた。椅子とデスクの間に肉体を折り畳んでハメ込んでみると、今度はそこからなかなか脱出できない。
クマ蔵は異様なほど肉体が硬い。前屈なんか、両手が膝に届くか届かないぐらいだ。そこで、どうせ椅子とデスクの間から脱出できないなら、意地でも脱出してやらないことに決めた。だって、たとえその場所から脱出できたとしても、特にやるべきことも見つからないのである。
むしろその狭い空間にはさまったまま、果てしなくお酒を楽しむほうがいい。札幌駅で購入した300ml×3本の「北海道の日本酒きき酒セット」を取り出し、チビチビやりながら夕暮れの車窓を眺めていれば、怠惰なサト助にとってこれ以上の幸せは考えられない。
まもなく列車は南千歳に到着。ついさっきまでこの辺りで「松尾ジンギスカン」を堪能していた。ついで苫小牧に停車。できたら今年の夏にでも、苫小牧のでお仕事に呼ばれたい。苫小牧でもぜひ奮闘して、もっともっとこの地域の高校生を元気づけたいのである。
苫小牧を過ぎて室蘭に近づく頃から、外はほぼ真っ暗になって、窓には今井クマ蔵の激しい姿が映る。車窓に映った自分の姿に見とれているうちに、日本酒1本目がカラになった。
まもなく洞爺に到着。一昨日のローカル線の旅で、五十鈴バーチャンやホッキ貝バーチャンに出会った駅である。「花咲か爺さん」の中に「正直じいさん」と「意地悪じいさん」の名コンビが登場するけれども、まさにあの2人に匹敵するような、素晴らしいバーチャンコンビであった。
(B寝台)
長万部を過ぎる頃、クマ蔵は食堂車「グランシャリオ」に移動。グランシャリオでは、18時から1回目、19時半から2回目のフランス料理フルコースが出て、予約なしのお客はシャットアウトだが、21時を過ぎると「パブタイム」にかわり、フリーの客でもテーブルにつける。
何しろ乗客のほとんどが乗り鉄の皆様と思われるから、パブタイムの利用も皆さんマコトに抜け目がない。10あまりのテーブルがほとんどとっくに塞がっていて、「ご相席でよろしければ」とウェイターに済まなそうな声で告げられた。
もちろん今井君は贅沢グマではない。ご相席、上等じゃないか。30歳代後半と思われるオネーサマが上品にビーフシチューをすくっていらっしゃったテーブルに「相席」になり、無遠慮に「カレー」「ピザ」「ビール」「赤ワイン」と注文しまくった。
(食堂車「グランシャリオ」の風景)
「まもなく函館」のアナウンスとともにオネーサマが席を立って、テーブルはクマの独壇場になった。おそらくオネーサマは、函館の駅で行われる機関車の付け替えを撮影に走ったのである。
函館までの「北斗星」は、ディーゼル機関車の2連結。函館で電気機関車に交代する。その機関車の付け替えが、乗り鉄&撮り鉄の両刀使いの諸君にはまさにMustの対象なので、この寒いのに函館駅ホームは撮り鉄の皆様で大賑わいになる。
もちろん、グランシャリオも相変わらず大盛況。テーブルが空けば、そのテーブル目がけて新しいお客が殺到してくる。その顔つきや体つきも、どういうわけかソックリであって、聞こえてくる会話も鉄道の裏話ばかりである。
「ホントは、廃止直前の『あけぼの』を狙ってたんですよ。でもやっぱりチケットがとれなくて、『北斗星』がむしろ狙い目かと考えたんです」
「ホントに残念ですね、『あけぼの』。最後にもう1回でいいから乗ってみたかったな」
と、そんなふうに熱く語りあい頷きあう乗り鉄の諸君を睥睨しながら、サト助は22時30分のラストオーダーが近づく頃まで、グランシャリオのテーブルを占領して赤ワインを飲み続けたのである。
いつしか、列車の進行方向は反対向きになっていた。函館駅は、ヨーロッパによくある終着駅タイプ。ここを発着する全ての列車は、進行方向が反対向きにならざるを得ないのである。
1E(Cd) Karajan:BACH/MATTHÄUS PASSION③
2E(Cd) Karajan:BACH/MATTHÄUS PASSION①
3E(Cd) Karajan:BACH/MATTHÄUS PASSION②
4E(Cd) Karajan:BACH/MATTHÄUS PASSION③
5E(Cd) Karajan:BACH/MATTHÄUS PASSION①
total m101 y256 d13176