Sun 140112 高松から長岡への旅 ダイエットの決意とその崩壊 クマの腹が太くなった | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sun 140112 高松から長岡への旅 ダイエットの決意とその崩壊 クマの腹が太くなった

 2月2日の高松は、朝から雨。ただし、さすがに「明日は節分、明後日は立春」という1日、四国の雨はもうすっかり春の雨であって、12月のパリの冷たい雨とは風情が全く違う。晴れ間がのぞきそうなほど明るい薄曇りの空から、草も花も樹々の芽も大喜びしそうな優しい雨が落ちてくるのだった。
 これからサト助は、新潟県長岡に移動する。「高松から長岡への旅」となると、マコトにご苦労な感じがするけれども、羽田までヒコーキ、羽田から東京駅に電車移動して、残りは新幹線。待ち時間を含めても5時間ほどで長岡にたどり着く。
 「何となく地味ですね」と言われれば、確かに地味であることは間違いない。「那覇から札幌に一気にビューン」とか、そういう華々しい移動のほうが明らかにカッコいいのであるが、諸君、これはあくまで仕事の旅だ。ビューンとか、カッコいいとか、華々しいとか、そんな贅沢を要求してはならない。
 「高松から長岡」なんてのは、華々しさはなくとも、十分に気楽な移動である。これが例えば①愛媛県宇和島から秋田県男鹿とか、②山形県米沢から長岡だったりしてみたまえ。その面倒臭さはカンタンにはコトバに出来ない。
 ①の場合、宇和島から、まずJRで松山へ。松山駅から松山空港までタクシー。松山空港からは「ヒコーキでビューン」だが、それはあくまで羽田まで。羽田で秋田行きのヒコーキに乗り換えて、秋田までビューン。しかし諸君、「秋田空港から男鹿へ」と考えただけで気が滅入る。試しに駅探で調べてみたら、何と移動時間は9時間である。
雪国
(クマ蔵は雪国に向かう。越後湯沢ー長岡間の新幹線より)

 ②となると、考えるだけで空しい。直線距離なら「すぐそこじゃん?」であるが、山形と新潟の間には、六十里越とか八十里越というキビシイ山道が横たわっていて、戊辰戦争当時、長岡藩の河井継之助が傷ついた身体で行き悩んだ峠は、21世紀の今も厳然としてヒトビトの前に立ちはだかるのである。
 そこで現代人は、米沢から福島を経由して新幹線でひたすら南下、埼玉県大宮を目指す。地図で確認してみたまえ。山形県と新潟県は長い県境を共有していて、ヘリコプターならあっという間のはずだ。それなのに我々は、何のカンケーもない福島→栃木→埼玉を移動するのだ。
 大宮で上越新幹線に乗り換えて、再び何のカンケーもない群馬県を縦断。川端康成が例のネコ顔で語ってみせた通り「国境の長いトンネルを抜けると、そこは雪国」なのであるが、その雪国の白い風景の中を延々と走って、ようやく長岡に到着する。
 「3:4:5の直角三角形」は高校入試数学の花形であるが、こうして我々は米沢から柏崎へ、地図上「3」で行けるところを、まず大宮まで「5」を走破し、大宮→長岡の「4」を駆け抜ける。足し算すると5+4=9であって、いやはや、直線なら3、実際には9、直線の3倍もの距離を移動しなければならない。
高松風景
(高松はもう春の風情だった。正面が屋島、左が高松港、右が高松城址。ホテルクレメント17階より)

 以上が、宿泊していたホテルクレメント高松からタクシーで高松空港に向かう途中の、クマ蔵の思考の再現である。
「何だ、クマ蔵って、普段からそんなクダランことを考えて時間をムダにしているんだ」
であって、ホントならPCのキーをたたきまくって仕事を進めたり、ポケットから1冊の分厚い文庫本を取り出し、古今東西の偉人たちの思考を追体験して、時間を有効活用すべきなのかもしれない。
 しかしそうは言っても、サト助としては以上のような無意味で怠惰な思考が大好きなのだから、許してくれたまえ。熱くなってPCを殴りつけるようにガシガシたたきまくったり、偉人とばかり付きあいたがったり、そんなに人生をガメつく生きる必要はないのである。
 つまりでござるね、あまりにガメつく「仕事だ」「読書だ」「自分磨きだ」とヒートアップしていると、やがてヒトはスタミナ切れを起こすのであって、その先にあるのは「怒鳴り散らす」「ワガママし放題」「唯我独尊」など、マコトに滑稽で醜い姿しかない。
 だから若い諸君は特に「余裕を大切にする」という美徳を身につけたまえ。何でもかんでも「役に立つかどうか」を価値判断の基準にしてしまうと、「気がついたら、ビジネス書しか読まない人間になっていた」というテイタラクになっている。
 諸君、100%ムダでいいから、ゾラを読みたまえ。フロベールにモーパッサンを読みたまえ。もしも書棚に「○○が3時間で分かる本」「オカネが面白いほどたまる本」「5日でラクラク痩せる本」みたいなのばかり目立つようなら、それは明らかに重症だ。
 もっと余裕をもって、「丸1日PCを触らない日」とか「カロッサとジードだけを読む1ヶ月」とか、他人から「ホントに何の役にも立たない過ごし方だねえ」と、呆れて失笑or冷笑されるような時間を設定すべきだ。サト助はそう愚考する。
長岡
(長岡の風景。春はまだ遠い。ホテルニューオータニ12階より)

 さて、そんなことを書いているうちに、高松から乗ったヒコーキはビューンと飛んで、あっという間に羽田に降りた。羽田も優しい春の雨。この日あたりから中学受験の合格発表が始まっていて、12歳のコドモたちや、パパ&ママ、塾の先生の熱い涙が流れ、熱い歓呼の声が響き、東京はすっかり熱してしまっているが、どんなにヒトビトが熱していても、春の雨はあくまで優しく彼ら彼女らを包み込んでいるのである。
 問題は、昨日から反省してダイエットを始めた今井サト助である。どんなに反省しても、腹は減る。腹が減ると、反省はカンタンに吹き飛んでいく。「明日からでも大丈夫」の言い訳とか、「チャンと食べなきゃダメだよ」というありがたいアドバイスとか、その類いの甘いコトバが巨大な誘惑のカタマリになってサト助の決意を押しつぶす。
 羽田空港からモノレールと山手線を乗り継いで東京駅までたどり着いた頃、誘惑のカタマリは膨らし粉を入れて念入りにかき混ぜたみたいにブワーッと膨張。そのせいでサト助のお腹まで膨張し、「どうしても何か食べなきゃ」「チャンと食べないと、いい仕事ができないよ」という囁きがサト助の背中を後押しする。
お弁当
(誘惑との空しい戦いの果て)

 まさにその時「駅弁屋」「全国のおいしいお弁当」の看板が目に飛び込んでくる。看板まで旨そうで、思わずクマは看板にバリバリかじりつきそうな勢い。こういう場合のクマどんは、「その場で一番豪華な弁当を買う」という厄介な習慣の持ち主だ。
 購入したのは、「冬の彩り」1300円。Suicaをタッチしてピピッとカンタンに会計が済むと、でっかいシャケを1匹つかまえたクマさんよろしく、意気揚々と上越新幹線ホームに上がった。長岡まで1時間半、このお弁当を心ゆくまでワシワシやっていけば、今日のお仕事もまた絶好調になりそうだ。
 そして諸君、やがて新潟行き「Maxとき」が発車して、お弁当は大宮に到着する前に全てポンポンの中に消えた。欲望の満足とは、マコトに空しいものであって、満足した瞬間にもう激しい後悔に苛まれるのは、どんな欲望でも同じことなのかもしれない。
中身
(お弁当は、あっという間にカラッポになった)

 高崎を過ぎてしばらくすると、新幹線は長い長いトンネルに入る。川端康成が描いたトンネルは新幹線ができるより遥かに昔の清水トンネルだから、通過するのにさぞかし時間がかかっただろうが、現代日本人の誇る新幹線のトンネルもまた「ずいぶん長いね」と感じさせることでは同じである。
 国境の長いトンネルを抜けた時、そこは確かに雪国であって、ヤスナリ君のセリフに決してウソはなかった。夜の底は、きっとホントに白くなったのだろう。しかし時刻はまだ午後2時前。「夜の底」も何も、トンネルの向こうの越後湯沢はまだ真っ昼間なのであった。
 あえてこの瞬間を描くとすれば、
「国境の長いトンネルを抜ける遥か前に、弁当はとっくに空になっていた。クマの腹が太くなった」
という程度。まあそんな、マコトに暢気で間抜けな午後であった。

1E(Cd) Solti & Wien:MOZART/GROßE MESSE
2E(Cd) Tuck & Patti:CHOCOLATE MOMENT
3E(Cd) 村田陽一 & Solid Brass:WHAT’S BOP
4E(Cd) Shiff:BACH/GOLDBERG VARIATIONS
5E(Cd) Shiff:BACH/GOLDBERG VARIATIONS
total m60 y60 d12980