Tue 131210 地元のヒトも震える強風 それでもスープと牡蠣を満喫する(マタパリ11) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 131210 地元のヒトも震える強風 それでもスープと牡蠣を満喫する(マタパリ11)

 ま、以上のように(スミマセン、昨日の続きです)いろいろなことがあって、サト助がオンフルールにいだく気持ちはなかなか複雑である。実は、「ヨーロッパで『メニュー』というと『定食』が運ばれてきてたいへんなことになります」という作り話をしたのも、昨日の話に登場したオバサマのセンセが最初であった。
 それにしても、ノルマンジーはあまりに寒い。ついさっきまでルアーブルの海岸で震えていたサト助であるが、ルアーブルからセーヌの河口を横断してついにたどり着いたオンフルールの寒さは、またヒトシオ。つい2~3年前まで日本には「オグシオ」というフシギな世界があったが、ヒトシオな寒さはオグシオの感激をしのぐものがあった。
 だって諸君、オンフルールでお店を営む酒屋のオネーサマでさえ、このオグシオの寒さに震えていた。おっと間違えた、正しくは「このヒトシオの寒さに震えていた」でなければならない。
牡蠣
(オンフルールで、大好物の生牡蠣を食す)

 なお、受験生の諸君。ヒトシオを漢字で書くとどうなりますかね? 「ヒトシオの寒さ」。おお、こりゃクイズに出題されそうだ。クイズ番組なんかにも出演しなきゃいけない時代だから、予備校講師もウカウカしていられない。
 「ヒトシオ」は、「一塩」じゃなくて「一入」と書くのである。一入は、「他の場合に比べていっそう程度が増すさま」。「一塩」じゃ、お魚などに薄く塩を振ることになっちゃうよん。ぜひ、漢字の問題で気をつけておかなきゃね。
 北国生まれのくせに、今日の今井君がこんなに寒さを感じるのは、昨日のリヨンとの比較のせいであるらしい。昨日の午後8時までウダウダしていたリヨンは、ビックリするぐらい暖かかった。あのリヨンに比べると、骨の髄まで痺れるような冷たい風がオンフルールには吹き荒れていた。
 そりゃそうだ。昨日のリヨンはイタリアにも近い南の国。リヨンからパリまで、TGVで2時間北上。今朝はパリから特急で1時間半も北上。北上した距離を合算してみると、それがもし日本だったら「鹿児島から松江へ」「東京から盛岡へ」という移動に該当する。骨の髄から痺れるのも当たり前なのだ。
お店
(港を見渡すこんな店に入った)

 オンフルール名物の木造教会でホンの一息ついた後、お酒屋さんに入ってオミヤゲのカルバドスを選んでいると、酒屋さんのオネーサマまで寒さに震えてみせた。
 「こんなに寒いんじゃ、カルバドスぐらい欲しくなりますよね」と言いながら、実は「15年もののカルバドスを買ってほしい」ということなのだったが、何のことはない、今井君は別に何も言われなくても、3年ものの若いカルバドスなんかより、ちょっとぐらい値段が張っても、15年→20年→25年、しっかり年期の入ったベテランの濃密なカルバドスが欲しかった。
 こうしてオミヤゲも手にしてしまうと、必要なのは温かい昼飯だけである。温かい昼飯と旨いワインさえ胃袋に流し込んでしまえば、あとはちょっとやそっとの寒さが襲ってきても生きられる。逆に空きっ腹で強烈な寒さにさらされたら、ヒトタマリもない。
 人間とは、実はそのようなマコトに頼りない存在であって、そういうのは日々高級なオハナシに夢中になっていらっしゃる知識人に共通の弱点である。難しいことなんか言いなさんな。とにかく、温かいものを飲んで食う。食って食って喰らい尽くす。寒風ふきすさぶ北の国で生き抜く極意は、それである。
11761 港にて
(オンフルールでも自分撮りに励む)

 これが秋田なら、何が何でもきりたんぽ鍋。福岡なら、鶏の水炊き。冬の福岡は玄界灘から吹きつける北風のせいで、九州とは思えない寒さにさらされるが、水炊きで骨付きの鶏肉にかぶりつけば、「寒さなんかどこ吹く風」の平然とした笑顔を取り戻せる。
 去年1月のベルギーでは、その鶏肉をムール貝に代えて、2週間連続してムール貝の酒蒸しで心の底から温まりつづけた。ノルマンジーの港町・オンフルールで鍋物やムール酒蒸しの代役を務めるのは、何と言ってもオニオングラタンスープである。
 チーズは、入れ放題。冷たい北風をビニールの幕1枚で防いだつもりのお店の中に、それでも冷たい風が意地でも吹き込んで、身体は足許からどんどん冷えていく。その寒さを、チーズのたっぷり融けたスープで追い払う。メガネが真っ白に曇り、チーズが胃袋の壁にはりついて、クマの肉体は胃袋の形のまま温まっていく。
オニオングラタン
(オンフルールのオニオングラタンスープ)

 選んだのは、オンフルールの旧港に面した家族経営のお店。港の眺めは「マルセイユのミニチュア」と言ってよくて、ホンモノのマルセイユを見たことのある者にとっては何だか物足りないが、まあ何とかマルセイユ気分にはなれる。
 マルセイユなら、魚介タップリのブイヤベースで心底からもっと温まれるけれども、オニオングラタンスープで舌をヤケドするのだって、決して悪いことではない。お願いした赤ワインも、リーズナブルな値段の割には十分にしっかりしていて、こういう濃厚なワインが好きなサト助はもう完全に満足である。
 しかし諸君、さすが真冬のノルマンジーは侮れない。ビニールの幕の中は暖房もキッチリ。「こりゃ気持ちいいや」「こりゃあったかいや」とすっかり油断していたクマ蔵の耳元で、いきなり世界にヒビが入ったような大音量が轟いた。
オンフルール
(港に強風が吹きすさぶ)

 この時、まず「おすすめメニュー」を書いた黒板が強風に飛んだ。続いて、店の前の全てのクリスマスデコレーションが、バラバラになって飛んでいった。
「カモメが飛んだぁー、カモメーが飛んだぁー、アナタは、は!! 一人で、は!! 生きられるのねウェー♨」
と、懐かしの渡辺真知子どんが歌っているうちはまだ懐メロで済むだろうが、黒板なんかがビュンビュン飛びはじめたら、もう店を閉める以外になさそうだ。
 今井君としては、「スミマセン、もう店を閉めたいんで」という声がいつかかるか、戦々恐々として待ち受ける気分。でも店の優しいオネーサマは、まず飛んでしまった黒板を整え、クリスマスデコレーションを整え、そういうことをしながら、優しくこちらにも「大丈夫ですよ」と声をかけてくれた。
 いやはや、こんな強風の吹きすさぶ土地でレストランなんか経営するのは、マコトにたいへんなことである。北風の真っただ中、こうしてクマどんたちが「何かあったかいものを食べさしておくれ♡」とツブヤキながら訪れるのだ。下手をすれば海のアザラシさんだって「お腹減ったよ」と訪問しかねない。
 それでも、クリスマスイブイブの12月23日、店のオネーサマは最後まで優しい笑顔を絶やさなかった。諸君、今井君はこういう店が大好きなのだ。諸君もぜひ来春、5月か6月のハイシーズンに、バスケットに赤ワインとフランスパンを携え、温かい目玉焼きを求めてこの店を訪れてみたまえ。きっと一生フランスが好きになるに違いない。

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