Tue 131119 金沢は暴風雨 「かあさんの歌」と根雪(第1993回 カウントダウン7) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 131119 金沢は暴風雨 「かあさんの歌」と根雪(第1993回 カウントダウン7)

 書いている時点で、12月13日午前11時45分。金沢のANAクラウンプラザホテルにいる。外は激しい風雨。暴風雨と言っていいかもしれない。天気予報によると、このあと雨は雪に変わり、雪は明日→明後日と降り続くとのこと。いよいよ本格的な根雪になる可能性もある。
 暖かい地方に住んでいるヒトは「根雪」というコトバを知らないかもしれない。春が来るまで2ヶ月も3ヶ月も地面をおおって消えない雪のことで、北海道ならちょうどこの時期に根雪がつもり、3月中旬まで消えることがない。
 今井君が生まれ育った秋田では、12月下旬にドカ雪がきて根雪になり、根雪が融けるのは2月末から3月初め。大学入試に向かう頃にはまだ根雪があって、合格発表や卒業式の日には根雪が融けている。
 もちろん温暖化のせいで状況は若干変わったかもしれないが、こういうのは雪国のヒトにしか分からない、素晴らしい季節の変化である。入試の試練が続く時期には、踏みしめられて凍りついた雪に大地は閉ざされる。試練を通り抜けて新しい未来がひらける3月には、足許には懐かしい暖かな土の色が広がっている。
空
(12月の金沢の空は暗鬱である)

 ダークダックスやペギー葉山が歌い、NHK「みんなのうた」で有名になった「かあさんの歌」の中にも「根雪」が登場する。「かあさんは夜なべをして手袋編んでくれた」であり、「いろりのにおいがした」であり、「せめてラジオ聞かせたい」であって、1956年に書かれたこの歌詞を読むと、この60年がどれほど長かったを痛感する。「根雪」が登場するのは3番の歌詞である。
 作詞者の窪田聡は、開成高校の出身。「早稲田大学に合格したが、1日も通わなかった」という伝説が残っている。「文学者を志願した」というのだから、マトモな世間のヒトから見れば要するに「ブラブラしていた」に過ぎないのであるが、今井君なんかは当時の彼の気持ちが痛いほどよく分かる。
 歌詞を書いた当時はまだ20歳の青年で、そりゃ「こんな息子になってしまって、かあさんに申し訳ない」という悲しみでいっぱいだったはず。そこへ「手袋を編みました」などという小包が来たら、湧きあがる熱い涙を拭いもせず、不朽の名作「かあさんの歌」の原型を、手許にあったワラ半紙に一気に書き上げたことだろう。
ツリー
(ホテルロビーは華やか)

 諸君の世代には、「ワラ半紙」などと言ってもきっと通じないのである。「西洋紙」とも呼んだ。1枚1円なら白い上質のワラ半紙。1枚50銭なら茶色っぽい破れやすいワラ半紙。それを近くの文房具屋で100枚単位で買ってきて、日常の勉強に使う。今なら「ミスコピー用紙」という位置づけである。
 幼い今井君は、1ヶ月に100枚ぐらいのワラ半紙を買った。50円玉を握りしめて文房具屋の薄暗がりに駆け込み、「50銭のワラ半紙を100枚ください」と小声で告げるのである。文房具屋は「おきなや」か「柴英」。「勉強家の今井君」は、文房具屋でも親切にしてもらえた。
ステーキ弁当
(大阪から金沢へは「特急サンダーバード」。ホームでお弁当を購入した)

 「かあさんの歌」3番の歌詞は「かあさんのあかぎれ痛い、生味噌をすりこむ」で始まる。「あかぎれ」「生味噌」ともにほとんど死語になりかけていることに愕然とするが、諸君、冬の水仕事でパクッと割れた手の皮膚に、昔は味噌をすりこんで、それが治療のつもりだったのだ。「痛さに耐えれば、傷は治る」。20世紀中ごろまで、日本人はそういう考え方をした。
 そしてその直後に窪田聡は「根雪もとけりゃ、もうじき春だで、畑が待ってるよ」と書いた。2月末に根雪が融けても、3月いっぱいはまだ雪が積もったり融けたりを繰り返して、畑はどろどろ。まだ農作業はできない。
 雪の2月の試練に耐えて大学に合格した息子や娘が、3月末には親元を離れて上京してしまう。「とうさん」も「かあさん」も、突如として家庭を訪れた硬質の静寂に驚き、心にはポッカリ穴があいてしまう。しかしそのとき、目の前には黒い大地が広がっており、「おお、畑が待っていた」。そういうことである。
中身
(神戸ステーキ弁当の中身。肉はガンガンにかたくて、噛めば噛むほどアゴが痛くなる。まさに今井君好みのお肉である)

 正午を過ぎて、金沢の豪雨はますます激しくなってきた。真冬の稲妻が走り、重い雷鳴が何度も繰り返し轟いて、ホテル17階の窓には大きな雨粒が朝からもう4時間も5時間も休みなくたたきつけている。こんな天気で、果たして小松からのヒコーキはチャンと東京に飛ぶんだろうか。次第に不安が大きくなってくる。
 もっとも、我が友Mac君がクマ蔵の不安を癒してくれる。「あまつぶ」と入力して「尼粒」。「何なんだ? 尼粒って」と、笑いながらもう1度変換すると「海女粒」。意地でも「雨粒」だけは画面に出さない。そういうケナゲさこそ、我がMac君の最大の取り柄である。
 さて、もうお昼すぎだ。お昼のニュースを見ていたら、「秋田市で大雪、積雪30センチ」ということである。さすがにクマ蔵は野生生物だ。野生の鼻でチャンと生まれ故郷の大雪を察知し、ニュースを見る前から雪の話題をブログ原稿に書いていたのである。
 3日前に金沢市内で発見されたクマのことも心配だ。兼六園を見物し、金沢城趾をウロウロしていて見つかっちゃったのだが、冬眠もせずに市内をノコノコ歩き回っていたノンキさが大好きだ。
 「くまもん」大好きの国民だから、まさか無惨&無慈悲に射殺したりはしないだろうが、この冷たい雨に濡れて、どこかでブルブル震えていたら、可哀そうで、あんまり可哀そうで、サト助なんかはふと涙が湧き上がってくる。
窓
(列車が北陸トンネルを過ぎると、天候が急変。車窓を激しく雨が流れた)

 しかし今井君。そろそろホテルをチェックアウトしなきゃいけませんぞ。何しろこのホテルの「プラチナ・アンバサダー」メンバーだから、16時までのレイトチェックアウトが無料であるが、今日は19時から東京・大泉学園で約100名の高校生たちを相手にお仕事に励む予定。小松空港15時すぎの羽田行きに乗らないと、大泉学園で生徒たちが待ちぼうけということになる。
 冬の稲妻や雷鳴、大きな尼粒や根雪や「かあさんの歌」、そういう感慨にいつまでも浸っているわけにはいかない。ホントにもうお部屋を出なくちゃ。「あれれ、昨日の金沢でのお仕事の話は書かないの?」であるが、それはまた明日のお楽しみだ。
 金沢では約330名の受講生を相手に、「センター試験への戦略と戦術」の話でビシッと90分奮闘した。そういうマジメなお仕事の話は、タップリ、チャンとお伝えしなければ気が済まない。

1E(Cd) Brian Mcknight:BACK AT ONE
2E(Cd) Norah Jones:COME AWAY WITH ME
3E(Cd) Isao Tomita:Shin Nihon Kikou
4E(Cd) Ralph Towner:ANA
5E(Cd) Stan Getz & Joao Gilberto:GETZ/GILBERTO
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