Sat 131109 セレモニー 恵比寿祝勝会 炭水化物だ(第1983回 カウントダウン17) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sat 131109 セレモニー 恵比寿祝勝会 炭水化物だ(第1983回 カウントダウン17)

 12月1日午後3時50分、すでに冬の陽は大きく西に傾いて、国立競技場のスタンドは濃いオレンジ色に染まっていた。
 それも夕陽を正面から浴びる東側と北側のスタンドだけであって、今井君が陣取った南側の明治サイドスタンドも、ついさっきまで熱戦が繰り広げていたフィールドも、もうすっかり陽が陰って、ヒトビトは寒さにブルブル震えている。
 今井君のお隣では、全く見ず知らずの40歳代女性2人組が、マコトに寒そうに身体を縮めている。大昔のラグビーファンらしくて、「ラグビーってホントに久しぶり!!」「ルール、全然覚えてないや!!」と、試合の間ずっと肩を叩き合って笑い転げていた。
 試合終了後の彼女たちが震えているのには理由があって、それは試合中にカラッポにしたホットワインのせいである。久しぶりに会った友人どうしらしく、最初にうちは2人とも互いに敬語なんか使って固まっていたが、片方が気をきかせてポットに入れて持参したホットワインをグイグイあおるうち、ハーフタイムに入る頃からは、すっかり学生時代の親友どうしに戻った様子だった。
 しかし諸君、ホットワインなどというものは、いったん酔いから醒めると、かえって寒さを増幅するのである。今井君は、それを経験から身に染みてよく知っている。ブダペストで、ウィーンで、パリで、どこのクリスマス市もホットワインの屋台がいくらでも並んでいるが、不用意にそんなもので酔っぱらうと、醒めた後で収拾がつかないほどの寒けに襲われる。
試合終了後
(試合終了後の国立競技場。1964年10月10日、オリンピックの入場行進はこのトラックを進んできた)

 フィールド正面スタンド前に整列した早稲田明治両校の選手たちも、可哀そうなぐらいに寒そうである。試合が終わって20分、汗でビッショリのジャージも短パンももうすっかり冷えきってしまっただろうに、全員整列したまま、セレモニーの開始を待って1列に並んでいなければならないのだ。
 セレモニーは、「サヨナラ国立競技場」。来年には建て替えが始まる国立競技場に敬意を表し、1964東京オリンピック以来、半世紀にわたって日本の元気の象徴だった国立競技場に、お別れを言おうという企画である。
 セレモニーのメインは、ユーミンこと松任谷由実が絶唱する30年前の名曲「No Side」。大昔のラグビー人気を陰で支えてくれた名曲であって、当時は「ニューミュージック」と呼ばれたジャンルの代表格であった。
 しかし諸君、そのジャンルに夢中になった世代は、今や50歳代&60歳代。選手や学部生から見たら、もう両親の世代と祖父母の世代にまたがってしまっている。やがて登場した「ユーミン」という女性も、下手をすれば祖父母の世代に近いかもしれない。
 今井君のお隣のホットワイン2人組は、ユーミンの絶唱が始まるやいなや泣き崩れてしまい、「何をゴールに決めて、何を犠牲にしたの?」のあたりで、感極まって腕を組み合ったままベンチに倒れ込んでしまった。うにゃにゃ、ホットワインがずいぶん利いたんでござるね。
ユーミン
(ユーミン熱唱の姿が巨大スクリーンに映し出された)

 さすがに、この名曲は5万人の胸に強く響いた。早稲田キャプテン・垣永も、さっきまであんなにゴツい戦い方を見せていたクセに、目の前で歌い上げるユーミンを見つめるうちに、とうとう熱い涙が頬を伝いはじめた。
 残酷なことに、その表情が巨大スクリーンに長時間映し出されてしまい、「何だ、意外に可愛いヤツだったんだ」と、5万のヒトビトはおそらくみんな垣永が大好きになってしまった。
 セレモニーが終了して、5万人は一斉に家路についた。5万人が一度に移動するのは、ほとんど「ゲルマン民族の大移動」と同様の大混乱を巻き起こす。国立競技場からは、千駄ヶ谷・信濃町・青山一丁目など、様々な駅が利用できるけれども、どこの駅も1時間ほどは機能不全に陥ったはずである。
 昔のサト助は、ラグビー観戦の後はいつも友人たちと渋谷駅まで歩いた。ちょうど神宮のイチョウ並木の黄金色が真っ盛り。地面を埋め尽くした黄金の落ち葉が、足許に柔らかいジュータンのように感じられ、たった今の試合の感想を披露しあいながら、5人か6人で横隊になって暢気に歩いていくのは、いま考えてもマコトに楽しい冬の夕暮れの記憶である。
 ただしそういう時にも、学部生1人1人にはそれぞれ抱えている悩みがあった。シューカツをいくら頑張っても内定がとれずに困り果てている者、シューカツどころか怠けすぎて卒業さえ危ぶまれている者、夢が叶わずに退学さえマジメに考えている者。ま、さまざまな悩みを抱えながら、渋谷まで1時間をトボトボ歩いたものである。
ビア
(恵比寿で乾杯)

 あれから幾星霜、今井君は今やそんな世界をはるか眼下に見下ろせる境地に達してしまった。別にそんなにシャカリキにならなくても、飄々と生きていればチャンスはいくらでも訪れる。
 今があんまりうまく行っていると必ずシッペ返しがきて、手に入れた分を全て奪い取られ、やがて手許に何も残っていないことに気づいて呆然とする。ヒトの一生はそういうことの連続であって、ヤタラに「勝ち組になろう♨勝ち組になろう」と夢中になっていると、一生シアワセにはなれないものである。
 そこでサト助は、「とりあえず今日の祝勝会をやろう」と考え、タクシーに乗って恵比寿に向かった。国立競技場付近ではタクシーさえつかまらない大混乱になっていたから、青山通りまで15分も歩かなければならなかった。
 で、恵比寿に出たからといって、必ずしも高級店に入らないのが「今井君らしさ」である。恵比寿なら、十数年前の「東京ホテル御三家」=ウェスティンホテルの高級店で「ツバメの巣」に舌鼓でも打ちそうなものだが、今井君が選んだのは何と「銀座ライオン」である。
 恵比寿ガーデンプレイスは、もうすっかりクリスマスムード。そこいら中で熱いカップルが熱いカップルらしい熱い行動をとっているが、そういう行動はあくまで熱いカップルに任せておけばいい。ボクチンはそんなことより、何よりもまず巨大ローストビーフに、熱い命をかけたいのである。
ローストビーフ
(ローストビーフ。キングカット300グラム)

 店に入るなりまず「ローストビーフ、キングカット300グラム」を注文する。席についたのが17時。「焼き上がり時刻は18時になります」「1時間ほど待っていただくことになります」と、困惑の表情で今井君に告げるウェイトレスに構わず、「いいです。1時間待ちます。とにかくキングカット300グラムお願いします」と畳みかけた。
 祝勝会の食材は、他にポテトサラダ、チーズ盛りあわせ。マコトにシンプルなツマミで、ビールをいくらでも飲み、ワインもカンタンに1ボトルをカラッポにして、熱いローストビーフを熱く待ちうけた。
 しかも諸君、そのローストビーフもあっという間に食いつくし、お隣のテーブルの「スイミングクラブご一行様」の会話にいろいろとチョッカイを出し、そのまた向こうのテーブルのオジーチャン十数人のパーティーにもチョッカイをかけた。おお、こんなに楽しく過ごせた夜は、久しぶり。おそらく2日か3日前以来、こんなに楽しかったことは長く記憶にない。
牡蠣鍋うどん
(牡蠣鍋うどん)

 そういうことになると、どうしても2次会が必要だ。考えてみると、今夜は炭水化物をお腹に入れていない。エラいお医者さまたちが、あんなに難しい顔をして「バランスのとれた食事が大切です」「お肉ばかりはいけません」とおっしゃっているのに、お肉ばっかり300グラムじゃ、お医者さまのプライドを台無しにしちゃうことになる。
 よおし、お医者の言うことを素直に従い、お医者さまのプライドもキチンと立ててあげなくちゃ。そのためには、何と言っても炭水化物に殺到するしかない。天空の星々が、クマ蔵に激励の声をかけた。
「進め、サトイモ!!」
「進め、クマ蔵!!」
「目指すは、炭水化物!!」
「敵は、炭水化物にあり!!」
「行け、進め」
「突き進め、ためらうな。いまこそニックき炭水化物の首をとるのじゃ。前進あるのみ」
「進まば、極楽浄土。引かば、無間地獄」
ホントにそういう声が天空に鳴り響いていた。目指すは蕎麦屋。カレー屋でもヨシ。
 サト助だって、極楽浄土がいい。無間地獄だなんて、そんなコワい所は真っ平だ。そこでサト助は、近くの蕎麦屋に闖入し、注文したのは「牡蠣鍋うどん」。大きな牡蠣が5個も6個も泳ぎ回っている熱い味噌煮込みウドンをすすりながら、すでに極楽浄土の幸福を噛みしめているクマ蔵なのであった。

1E(Cd) Tomomi Nishimoto:TCHAIKOVSKY/THE NUTCRACKER(2)
2E(Cd) Pešek & Czech:SCRIABIN/LE POÈME DE L’EXTASE + PIANO CONCERTO
3E(Cd) Ashkenazy(p) Maazel & London:SCRIABIN/PROMETHEUS + PIANO CONCERTO
4E(Cd) Ashkenazy(p) Müller & Berlin:SCRIABIN SYMPHONIES 1/3
5E(Cd) Ashkenazy(p) Müller & Berlin:SCRIABIN SYMPHONIES 2/3
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