Fri 131011 パリ野田岩 不機嫌オジサマ ワインバー(第2次ンラゼマ地球一周記48) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 131011 パリ野田岩 不機嫌オジサマ ワインバー(第2次ンラゼマ地球一周記48)

 実を言うと、11月は連日「教育講演会」「公開授業」で全国を飛び回る日々で、3日前は千葉県稲毛、一昨日は立川、昨日は静岡でお仕事だった。今日はこれから千葉県習志野に向かわなければならない。
 ホントならブログでもその模様を詳細に記録していくべきところだが、「ンラゼマ」もあと2回か3回で最終回を迎える。長々書いてきた旅行記の最後の数回を、11月下旬とか12月上旬まで延期するのも変だから、ここは先に旅行記を完成させておこうと思う。
 クマ蔵どんが訪れる場所では、必ずと言っていいほど何かが起こる。サンチャゴ・デ・コンポステラではスペイン新幹線が横転し、アテネとサンパウロとイスタンブールでは暴動が起こり、4月のボストンでは爆破テロがあった。
 すると今度はシカゴ・オヘア空港で「ワニが出た」。体長50cmに満たない小さなワニではあるが、何と言ってもワニはワニであって、今夜はそこいら中のお父さんが「とってもコワいわに♡」と駄洒落のつもりで口に出し、家族の失笑や冷笑を買うことになりそうだ。
 しかしそうは言っても、オヘア空港は今回の「ンラゼマ」の出発点になった場所。夏の終わりの蒸し暑い朝、重苦しい曇天のシカゴに到着したのが8月28日。「なるほど、あんなところにワニが出たんじゃ、そりゃみんなびっくりするわに」である。
鰻
(野田岩パリ店のうな重。超肉厚である)

 さて、今日の記事は9月11日の夕食の記録である。長い旅を締めくくる夕食に、なんとサト助は「うなぎ」を選択した。ヴァンドーム広場からサントノレ通りを左に曲がってすぐのところに、「野田岩パリ店」を発見したのである。
 「野田岩のうなぎなんか、東京に帰ってから食えばいいじゃん」という批判と非難はマコトにもっともだ。本店まで行かなくても、銀座店もあれば日本橋高島屋の中にも店を出している。サト助のオウチのすぐ近く、下北沢駅前の店もある。
 本店は、麻布というか飯倉というか、芝というか赤羽橋というか、マコトに微妙な難しい位置にあって、「飛騨高山から古民家を移築した」という味わい深い店舗である。
 ボクチンは昔わざわざこの本店までうなぎを食べに出かけ、足を蚊に刺されてたいへん痒い思いをした。きっと野田岩のうなぎの血をたくさん吸って、ウルトラ級のイヤらしい蚊に成長していたのだ。うなぎの血を吸った後では、クマやサトイモでも悶絶させるほど、強烈な痒さをもたらす蚊になっていたにちがいない。
野田岩1
(野田岩パリ店 1)

 しかし「野田岩は東京にもたくさんあるよ」と言ったって、パリのうなぎを試してみちゃいけないということにはならない。「パリなんだからフランス料理」と決めてかかったのでは、そりゃ何とも貧しい発想の旅じゃないか。
 今年は「明神下神田川」その他、東京のうなぎの名店に何度も足を運んで、値段の高騰した貴重なうなぎちゃんたちをたっぷり味わった。「今年のうなぎの締めくくりに、一風変わったパリのうなぎを味わってみよう」。ほれほれ、なかなかオシャレじゃないか。
 18時、予約なしに店を訪ねてみると、テーブルはほぼ埋まっていて、まあまあの盛況ぶり。奥には座敷もあって、日本人のサラリーマンが4~5人、フランスのオカタを懸命に接待している様子。クマ蔵はカウンター席を選んだ。
 カウンターにはすでに日本人カップルが一組いて、コース料理を賞味中。パリで修業中の美容師であるらしいカレが、カノジョに向かって盛んに仕事の自慢をしていらっしゃる。
 店員さんは、日本人の女性1人と、フランス人の中年男性が1人。このフランス人が、ビックリするほどキレイな日本語を話す。
「ハイ、まずビールを1本ですね」
「ハイ、次に熱燗ですね」
「ハイ、熱燗もう1本ですね」
「ハイ、熱燗まだもう1本ですね」
と、外見は完全にフランス人だが、カンペキな日本語を話す。これほどカンペキだと、かえってワガママな違和感を感じるぐらいである。
 サト助が選んだのは、中ぐらいの大きさのうな重。1本目の熱燗をカラッポにして、2本目も半分ぐらい空けたところで運ばれてきた。タイミングもなかなかいいじゃないか。
 お重のフタを開けると、まず温かい湯気が立ちのぼって、例の香ばしいカホリがお顔を包んだ。すっかり冷え込んだ9月のパリで、この湯気の温かさはマコトに素晴らしい。「今夜はうなぎにしてよかったな」と感じる一瞬である。
野田岩2
(野田岩パリ店 2)

 「で、肝腎のお味はいかが?」であるが、その点については余り詳しく論じないことにしよう。パリで温かいうなぎにありつき、熱燗3本ですっかり身体が温まった。それだけで満足すべきであって、味を詳細に論じてせっかくの思ひ出を台無しにするのは愚かである。
 そりゃ、素材にやっぱり無理があるのだ。どれほど腕のいい職人が焼いたって、もともと脂ののっていないうなぎが素材では、どうしても「絶品!!」「んんんー!!」「うまい!!」と絶叫するには至らない。しかし、これはこれなのであって、日本の絶品うなぎとは全く別の食べ物だと考え、「それなりに旨かった」とホッコリすればいいのである。
 そう思っていると、今井君のお隣に底抜けに機嫌の悪い中年の日本人オヤジがやってきた。何だか常連っぽいオカタ。メニューも見ないで注文したから、やっぱり常連さんなのかね。日本人の女性店員に話しかける横柄な態度も、サト助としてはあんまり気に入らない。
 カウンター脇のテーブル席に座って、いきなり「週刊文春」を読みはじめた。「おやおや、パリって、そんなのもカンタンに手に入るんだ」とビックリしていると、このオジサマのうなぎはあっという間に運ばれてきた。サト助がいま食べ終わったのと同じ、超肉厚のうな重である。
 サト君はお酒をもう1本注文し、すっかりいい気持ちになってニタニタその辺を眺めていたのだが、おや、オジサマは半分も食べないでヤメてしまった。箸を投げ捨てるようにして、またまた週刊文春を広げ、難しい顔をして読みはじめた。
ワインバー
(近くのワインバーにハシゴすることにした)

 しばらくしてこの不機嫌オジサマに、日本人従業員が「もう召し上がらないんですか?」声をかけた。その時の不機嫌オジサマの返答が、あれから2ヶ月も経過したのに、サト助はどうしても忘れられないのである。
「いらない。ちっともおいしくない。もう下げて」
と、不機嫌さのあまりすっかり黒ずんだ顔で言い放ったのである。うにゃにゃ、何なんだ、このオッサンは。周囲の客がみんな上機嫌でホッコリしていたのに、この無礼な一言で全部ブチコワシじゃないか。
 あまりのことに、しばらくサト助は「言ってやろうかな」と考えた。他のお客が「おいしいな」「おいしいな」と笑顔で食べているものを、「ちっともおいしくいない」「いらない」とは、何事であるか。どんなに不機嫌な時も礼儀を守るのが、日本人の素晴らしさじゃないか。
 しかし、ま、こういうヒトは他人からどんな忠告を受けても、一切聞く耳を持たないものだ。何も地球一周の記念すべき最終日に、こんなオカタと事を構えて思ひ出を台無しにする必要はないだろう。サト君はそそくさと退散することにした。
自分撮り
(ワイン樽のテーブルで久々の自分撮り。カウンターのオジサマが優しかった)

 問題は、「どこに退散するか」であるが、せっかくホッコリしかけたところだし、ホテルに戻っちゃうのももったいない。サト助が選んだのは、近くに発見しておいた立ち飲みのワインバー。店の中に入ってもいいが、外の路上に並べたワインの樽をテーブルにして飲んでもいい。
 カウンターにいた優しそうなオジサマ・バーテンダーに「赤ワインをグラスに」と言ってみると、「ボルドーにしますか? それともブルゴーニュ?」とニッコリ微笑んでくれた。すぐにボルドーを選び、そのボルドーを2杯飲むうちに、さっきの不機嫌オジサマの黒ずんだ顔も忘れ、すっかり上機嫌グマに戻って、午後10時、無事にホテルに引き上げることにした。

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