Sat 130525 終わったら、終わる 知的なアメリカ人家族(アメリカ東海岸お花見旅51) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sat 130525 終わったら、終わる 知的なアメリカ人家族(アメリカ東海岸お花見旅51)

 午後6時半に試合が終了すると(スミマセン、昨日の続きです)、スタジアムを埋め尽くしていた観客は一斉に家路を急ぐ。多くの人がヤンキースTシャツに野球帽を着用して、みんなホントに熱心なファンではあるらしいのだが、日本の野球ファンみたいに「いつまでも余韻を楽しむ」ということはしないのである。
 日本のヒトビトの場合は、余韻の満喫の仕方がハンパではない。野球でもラグビーでも、試合終了後に30分も1時間もスタンドに残って、チームの応援歌をみんなで大合唱したり、大学の試合なら、肩を組んで校歌の熱唱が続く。
 それが早稲田なら、まず校歌、続いて「紺碧の空」、それでも足りずに相手の大学の校歌や応援歌まで歌いあげる。スタジアムに「蛍の光」が流れ、係の人たちに追い出されるまで居残って余韻を満喫するのだ。スタンドのゴミ拾いを買って出る感心な人たちだって少なくない。
 コンサートや演劇でも同じことである。クラシックでもそれ以外でも、アンコールの回数は3回にも4回になる。「もう1曲!!」「もう1曲!!」とおねだりする拍手のあの執拗さは、海外ではあまり見たことがない。
試合終了
(試合終了の風景)

 普段そういう国に住んでいるから、欧米人が淡白に家路を急ぐ姿に違和感を覚える。ヨーロッパならまだ日本っぽいところもあるが、話がニューヨークになると、ニューヨーカーの淡白さは「違和感」どころではなくて、ほとんど驚嘆または驚愕に値する。
 つまり、「終わったんだから、終わったんだ」ということらしい。「終わったんだから、つまり終わったのであって、いつまでもしつこく余韻に浸っているのはオカシイ」「サッサと次に進みましょう」と、ホントにあからさまに席を立つ。
 今井君は、どちらかと言うとニューヨークのほうが好き。特に職場で毎晩「余韻を楽しむ」タイプの談笑タイムがあると、「仕事は終わったんだから、早く終わりにしましょう」「仕事を仕上げたら、サッサとプライベートな世界に行きましょう」とキッパリ言いたくなる。
 ところが、日本ではそれがダメなようなのだ。仕事の余韻の中、中年男子たちはモウモウとタバコの煙を上げながら、上司や同僚の批判なり品定めをしてダラしなく談笑が続く。それに加わらないでプラーベートな世界に向かえば、その瞬間「総スカン」のエジキになる。
タイムズスケア
(タイムズスクエア近くに「タイムズ・スケア」がある。アメリカ版オバケ屋敷であって、怪物の扮装をした男が店先に立ち、いかにも怪物らしい声で「次は22時からだ、わかったか!!」と客引きをしている)

 一度ニューヨークでミュージカルを観てみたまえ。カーテンコールは1回だけ。絶対に1回だけであって、それが終われば容赦なく客席の照明が全開になり、俳優たちは決して再登場しないから、観客もサッサと劇場を出る。出ないと、叱られる。
 涙を流して大喝采していたのに、ものの30秒も経過しないうちに、観客のアタマの中はディナーと帰り道の心配でいっぱいなのだ。確かに、劇場周辺のレストランはあっという間に満員になる。下手すれば食いっぱぐれて、ハンバーガーかピザを立ち食いすることになる。
早朝1
(早朝のハドソン川、遠景)

 今までで一番ビックリしたのは、クリスマス直前のニューヨークでヘンデルの「メサイア」を聴いたときである。最終盤、ハレルヤコーラスが始まったところで、リンカーンセンター埋め尽くした観客全員が起立した。「起立するのが当たり前」という態度で全員が粛々と起立し「ハーレルヤ、ハーレルヤ、ハレルヤハレルヤ、ハレールヤー」に聴き入った。
 ところがである。それが終わるや、まだ曲は続いているのに、観客の大半は残りを無視して家路につきはじめた。「は?」「あんなに熱心にハレルヤコーラスに聴き入っていたのに、残りは無視して帰っちゃうの?」「この人たちって、いったい何なの?」である。
 確かに、すでに時刻は23時をとっくに過ぎていたし、2007年のニューヨークはまだ「治安は改善したが、深夜はまだまだ危険」という段階だった。でも、ここまでくると「余韻を楽しむ習慣も趣味もない」というのを超越している。
 余韻も何も、まだ終わっていないのに、端っこのほうを自分でスッパリ切っちゃって「終わっていないけど、終わらせちゃった」というセッカチさ。さすがにちょっと行き過ぎなんじゃないかね。
早朝2
(ワールドトレードセンターの跡地に「ワンワールドトレードセンター」建設中。すでに完成間近である。これも早朝に撮影)

 4月27日のヤンキースタジアムは、試合が終わった瞬間にみんなスパッと席を立った。逆転また逆転の連続で、最後まで結果の分からない好ゲームだったから、試合の途中で帰っちゃう人は少なかったけれども、とにかく「終わったんだから、終わったんだ」という発想は同じことである。
 しかもここはむかし悪名高かったブロンクス。ガイドブックにも「暗くなってから街を歩くのは非常に危険です」「寂しい脇道に入り込まないように注意」「イベントが終わったら、すぐ立ち去りましょう」とある。ニューヨーカーの意識も、こんな感じなのかもしれない。いやはや、みんな一斉に地下鉄駅に急いだ。
居酒屋
(夕飯は「有吉」と決めていた)

 今回の旅の最後の晩飯は、昨日決めておいた54丁目の居酒屋「有吉」。「アメリカの旅の締めくくりに日本酒と焼き鳥」などというのも、別に悪くない。外見はなかなかオシャレな店だが、中に入ってみると意外なほどシンプルな居酒屋。家族で経営しているようである。
 こういう店で寿司や天ぷらを食べるとビックリするほど高くつくので、注文したのは冷奴・枝豆・焼き鳥5本セットなど。寿司は、日本で食べりゃいい。欧米で食べるお寿司は、ホンモノの和食屋でも「マヨネーズたっぷりの巻物ばっかり」ということが多い。
 店の壁には、松井選手のサイン色紙が飾られている。ちょうどこのころ、長島氏と松井氏の国民栄誉賞が決定したのであるが、確かに松井はヤンキースの元大スター。店の人に「松井はこの店によく来たんですか」と尋ねるのをウッカリ忘れてしまったが、ホントなら、今日のヤンキースタジアムでイチローと一緒に大活躍する姿を見たかった。
サイン
(松井秀喜氏のヤンキース時代のサインを発見)

 今井君のお隣のテーブルでは、いかにも賢そうなアメリカ人家族が穏やかに語り合っている。パパ&ママ、お兄ちゃんと妹の4人家族である。妹は15歳か16歳、お兄ちゃんは大学1年生か2年生。「お兄ちゃんを尊敬しています」という妹のマナザシがあり、お兄ちゃんもマナザシを意識して誇らしげである。
 パパの穏やかな語り口もいい。ママは、語るパパを柔和な笑顔と態度で軽く牽制しながら、しかしやっぱりパパの賢さに誇りを感じている様子。パパは大学教授、息子はコロンビアかイェールの学生、妹は優秀で将来有望な高校生という配置のようである。お寿司の定食をみんなで上品に口に運んでいる。
店内風景
(居酒屋「有吉」店内風景)

 息子が「○○教授とこんな話をした」「学部長に呼ばれて、じっくり話をしてきた」と、大学での自慢話をする。妹もママも嬉しそうにお兄ちゃんの話に聴き入っている。すると、パパがゆっくりとお箸を置いて、マコトに穏やかな声で息子を制した。
「オマエがどんな分野を専攻するしても、いつかは教科書に書いてあることから離れ、教授の指導から卒業して、オマエだけのオリジナルな思考と思索に励まなければならない時が、sooner or laterやってくるんだよ」
 うひゃ、すげー。うぬぬ、すげー♡すげー♠すげー♨。げろろ、すげー。日本のイカレタ里芋サト助のテーブルと、この優秀で上品なアメリカ人家族のテーブルとの間には、ホンの50cmのスキマしかない。しかしサト助には、その50cmが太平洋よりも広大に思えた。
 もちろんそれはウソであるが、太平洋とまでは言わなくても、天竜川か淀川ぐらいの幅はあっただろうと思う。びっくり仰天してモジモジしていると、パパはいきなり今井君のほうを向いて、「もじもじサトちゃん」に悠然と声をかけてくれた。
「あなたがいま召し上がっているのは、それは何という食べ物ですか?」
「は、これはオムスビでございます」
「なんだ、ライスボールですか。失礼しました。何か、デザートのようなものだと思いました」
「ははははは!!」
ま、こんな会話であるが、里芋サト助としては、こんなに知的で豊かな愛情に満ちたアメリカ人家族の会話の輪の中に、例え一瞬であっても、ホンの端っこであっても、加わることができたのが感激であった。そしてサトちゃんがそんな感激に震えているうちに、知的米国人家族4名はサッサとお勘定を済ませて、お店を出てしまっていたのである。

1E(Cd) Haydon Trio Eisenstadt:JOSEPH HAYDN:SCOTTISH SONGS 9/18
2E(Cd) Haydon Trio Eisenstadt:JOSEPH HAYDN:SCOTTISH SONGS 10/18
3E(Cd) Haydon Trio Eisenstadt:JOSEPH HAYDN:SCOTTISH SONGS 11/18
4E(Cd) Haydon Trio Eisenstadt:JOSEPH HAYDN:SCOTTISH SONGS 12/18
5E(Cd) Haydon Trio Eisenstadt:JOSEPH HAYDN:SCOTTISH SONGS 13/18
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