Sat 130518 ちょいヌルオヤジたち 54丁目あたりのこと(アメリカ東海岸お花見旅46) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sat 130518 ちょいヌルオヤジたち 54丁目あたりのこと(アメリカ東海岸お花見旅46)

 ニューヘイブンからニューヨークに戻るのは、始発電車だからたいへん気楽である。ニューヨーク・グランドセントラル駅まで1時間半、始発でゆっくり座っていける。千葉とか平塚とか高崎からの通勤電車で東京に戻るような感覚だ。
 その電車の中で、缶ビールを飲んでいる中年男女がいる。2人ともヤンキースの帽子をかぶっていて、どうやらこれからヤンキースタジアムで野球観戦ということらしい。2人が盛り上がっているだけではなくて、その楽しそうな様子に周囲まで触発されて、何だか車内全体がウキウキし始めた。
駅舎
(ニューヘイブン駅)

 しかし諸君、これは紛れもない「アウト」なのである。日本なら「缶ビールぐらいいいじゃないか」であって、混雑した夕暮れの通勤電車の中でビールとか発泡酒とか、それどころか日本酒や焼酎をチビチビやっているオジサンをよく見かけるし、そういうオジサンは「ついでに」という感じでサキイカや竹輪なんかをモグモグやりはじめたりするが、ニューヨーク近郊では、これは御法度である。
 通報されれば、警察官が飛んでくる。もちろんホントは走ってくるのだが、東京のDJポリスみたいな優しく粋な行動は一切期待できない。警察官のIDを示し、公共の場での飲酒違法であることを冷徹に告げ、罰金、場合によっては逮捕→拘留、そういう恐るべき世界が待っている。
 そういう運命がわかっているから、ニューヨークでは路上喫煙をほとんど見かけないし、バーやレストラン以外で飲酒という光景もまずありえない。だから、ヤンキースキャップの中年男女は、ガマンできないほどのノリノリ状態だったのだ。
駅構内
(ニューヘイブン駅構内。若干高齢化が進んでいますかな?)

 周囲の人々も、まあ笑って眺めている。初老な感じの車掌さんが回ってきたが、「おやおや、これから野球観戦ですか?」と穏やかに質問しただけで、まあ「大目にみる」という甘い選択をしたらしい。
 確かに、缶ビールは紙袋の中にしっかり隠す感じで大人しくチビチビやっていたし、今井君が観察したところでは、1時間半経過してもまだ飲み終わっていなかったのだから、メクジラを立てるほどのことではなかったのかもしれない。
 そこで「メクジラとはいったいどんなもの?」ということになるわけだが、「目鯨」と勘違いして「目が鯨さんみたいに潮を吹き上げるのかい?」などとバカなことを考えたりする。もともとはメクジラじゃなくて、「目くじり」であって、今度は「クジリってなあに?」ということになってしまう。
銅像
(イェール大学構内、大昔の偉い人の像♡)

 こうやって素朴な疑問に付き合っているとキリがないけれども、クジリは「抉り」であって、「抉って穴をあけるための先の尖った道具」なのである。「は? クジル? その動詞の指し示すのは、どんな行動なの?」とますますキリがなくなって、国語辞典の大活躍が始まることになる。
 けれども、ここはむしろ和英辞典のお世話になることにして、英語ではscoop out/hollow outと言うことを発見する。おお、「大スクープ」の時のscoopであり、むかしの映画SLEEPY HOLLOWのhollowであるね。すると何だか鋭い道具で穴をあける感じも体感的に理解できるような、できないような、梅雨のように鬱陶しい世界にはまっていく。
 余談であるが、というか、今井ブログは余談なのだし、そもそも余談以外の何を求めてブログなんかクリックするのか分からないが、幼稚園児の今井君の愛読書だったのがスリーピーホローを子供向けに書き直した「ねむり穴」(アービング原作、文・大石克己、絵・石垣好晴 日本書房)であった。大好きだったオバケの挿絵を写真で見てくれたまえ。
挿絵1
(ねむり穴、大好きだったオバケの絵。真ん中の怒った顔のヤツが特に好きだった)

 さて、話をそろそろ元に戻さないと、ますます鬱陶しい気分になって、せっかく「水不足解消かな」と日本の期待を一身に集めている台風3号までが、南の海で消えてしまいそうだ。
 そこでボクチンは再びニューヘイブンからニューヨークに戻る電車に話題を戻すことにするが、実はこの電車でもう1人、缶ビールを飲んでいた人物がいた。こちらは20歳代後半の男性で、スクリューキャップの缶ビールを持って途中駅から乗り込んできた。
 この男に対する周囲の視線は非常に厳しかった。「通報の一歩手前」という厳しい視線が飛び交って、「大目に見てやろう」というホンワカムードは全く感じられない。紙袋で隠そうともせずに、さも当然であるかのような傲然とした表情で車内を睨み回していたのが強い反感を買ったようだ。
挿絵2
(ねむり穴、このデカイヤツも好きだった)

 何であんなにムリするんだか、サトイモ君には理解できない。さっきの中年男女だって、こっちの傲然男子だって、たった330mlの缶ビールを結局グランドセントラルに到着するまでに飲みきれなかったのだ。手のひらの熱でずいぶん温まって、ほとんどヌル燗な感じのマズいビアになっちゃっただろう。
 何も危険を冒してまで電車に持ち込まなくたって、駅に着けば安いバー、高いレストラン、いくらでも安心しておおっぴらにグイグイやれるじゃないか。イタリアなんかだと、せっかくお店に入ってもヌルいビアが出てきて唖然&呆然とすることがあるが、ここはニューヨーク。そんな心配だっていらないはずだ。
オイスター
(この夜は54丁目「ウォルフガング」で生牡蠣を食べてみた)

 むかしむかしの日本の高校生たちには、補導されることを覚悟の上で通学電車の中で喫煙を試みるヤカラがたくさん存在した。ま、当時のコトバで「ワル」である。
 「ワルのほうが女子の人気が高い」という定説だったので、今井君みたいな超&超優等生を除けば、女子にキャーキャー言われたい→ワルじゃないのにワルのフリをする→危険を冒しても電車の中で喫煙を繰り返す、というマコトにバカバカしい流れになった。そのまま大きくなっちゃったのが、10年前に流行した「ちょいワルオヤジ」の群れである。
 まさか、今頃になってニューヨークには「ちょいワル」が流行りはじめているのだろうか。喫煙のところをビアに代え、飲めないビアを1時間お手手でしっかり温めて「ちょいヌル」にしてしまう。今井君はそういう「ちょいヌル・アメリカンオヤジ」の姿を眺めながら、午後5時、大混雑のグランドセントラルに到着した。
パーティー
(ウォルフガングで。向こうの大テーブルでバースデーパーティーが始まった)

 この日の夕食は、ウォルフガングのフィレステーキに決めた。ウォルフガングには昨年9月からすでに4回も通っていて、こりゃ相当なお気に入りなのだが、今夜は54丁目店に行ってみることにした。33丁目店は2007年からのお馴染み。トライベッカ店も昨年秋に入ってみて大好きになったが、54丁目店は今日が初めてだ。
 54丁目まで北上すれば、そこはもう超高級住宅地・アッパーイーストサイドと言ってよくて、SEX and the CITYのキャリーやシャーロットが歩いていても不思議じゃないし、GOSSIP GIRLのチャックとブレアを乗せて、黒塗りのリムジンが向こうの角をゆっくり曲がってきそうな雰囲気である。
居酒屋
(54丁目付近の居酒屋「有吉」。このあたりにニュー・リトルトーキョーが出来つつある)

 どうしたわけか、そんなアッパーイーストサイドの一画に、今やリトルトーキョーが出現しつつある。ダウンタウンにあった元々のリトルトーキョーは、韓国勢と中国勢に押しまくられて今や見る影もないが、リトルトーキョーから撤退した日本勢はこちらに移動してきたらしい。
 いろいろな店を覗いてみると、54丁目近辺の和食屋は、ほぼ例外なく真正の和食屋。中国系や韓国系の「なんちゃって和食」とは違うようだ。居酒屋もあれば、天ぷら屋もあり、日本の食品や日用品をキレイに並べたスーパーもある。
 ニューヨーク滞在中に日本が恋しくなったら、リトルトーキョーやタイムズスクエア周辺の和食屋を探すより、アッパーイーストサイドに足を向けるという時代になりつつあるのかもしれない。

1E(Cd) Luther Vandross:ANY LOVE
2E(Cd) Luther Vandross:LUTHER VANDROSS
3E(Cd) David Sanborn:INSIDE
4E(Cd) David Sanborn:TIME AGAIN
5E(Cd) David Sanborn:LOVE SONGS
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