Wed 130515 茂山千作 100m決勝 ニューヘイブンへ(アメリカ東海岸お花見旅43) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 130515 茂山千作 100m決勝 ニューヘイブンへ(アメリカ東海岸お花見旅43)

 6月8日、今井君は完全にテレビっ子になって、午後2時から「狂言師・茂山千作さんをしのんで」、午後4時からは「陸上日本選手権」を午後6時まで、合計4時間もテレビに夢中になっていた。
 もちろん狂言というのは、あんまり夢中になって見つめているべきものではないのかもしれない。しかし何しろ亡くなった茂山千作(ここから敬称略)の特集だ。「素袍落」「萩大名」「花子」の3本は、やっぱり3本とも夢中になってしまって然るべき、茂山千作の名演中の名演である。
 サトイモ君が最後にナマの茂山千作を見たのは、2年前だったか3年前だったか、国立能楽堂の素狂言である。狂言師4人が舞台の真ん中に座ったままでの狂言には、最初のうち大きな違和感があったが、あっという間に引き込まれてしまったのを記憶している。
グランドセントラル1
(ニューヨーク、グランドセントラル駅 1)

 本来なら、ここは声をそろえて「惜しい人をなくした」と言うところであるが、茂山千作の場合は、何しろ普段からあんなに全てが楽しそうな豪快オジーチャンだ。惜しい人も何も、もうとっくに神の領域に達していて、この世とあの世の境界線あたりを長いこと自由自在に往復しながら、
「あれれ、私はまだ生きているんでしょうかね、それとも生きてはいないんでしょうかね」
「まあどっちでも同じことですけど」
「いつまでもこの世の重力に引っ張られているのは、何ともシンドイことですな」
と、常に呵々大笑しているような、超々♡好々爺。もうずっと、もしも亡くなったら優先的に天国に招待されるべき人間のナンバーワンだったように思われる。
 なんであんなに楽しそうなんだ? 舞台の上の彼を一目見ただけで、何故か観客も口がゆがむほどに嬉しくなってくる。サトイモ君としてはまさに理想のオジーチャン像。30年ぐらいしてあんなふうになれたら幸福の極致。そういう感じの素晴らしいオジーチャンであった。
グランドセントラル2
(ニューヨーク、グランドセントラル駅 2)

 それに比べてマスコミの人々は、さすがにちょっと性急すぎるんじゃないか。「高まる9秒台の夢」とか、メッタヤタラに盛り上げるものだから、陸上日本選手権はチケットが売り切れになる大盛況。優勝したヤマガタ君も、ちょっと力が出し切れなかった感のあるキリュー君も、あんまり期待されすぎてかわいそう。もう少しだけリラックスした状態で走らせてあげたかった。
 100メートルを10秒の壁なんか、マスメディアが安易に盛り上がるみたいにカンタンに突破なんか出来るはずはないのである。今井君はすでに数百歳のオジーチャンだから、その困難はよくよく知っている。
グランドセントラル3
(ニューヨーク、グランドセントラル駅 3)

 東京オリンピックの100メートルは、ダントツの強さでアメリカのヘイズが金メダル。記録は10秒00。「あんれえ、人類はどこまで速くなるんだべ?」と、田舎の子供から山の中のオヤジまで、みんなアングリ口をあけてヘイズの独走を見守った。
 その前の1960年ローマオリンピックで、西ドイツのアルミン・ハリーという選手が、10秒02で優勝。彼のベスト記録が10秒00だったから、「9秒台に一番近い男」と呼ばれた。
 さすがに1960年ということになると、年齢数百歳のサトイモ男爵でも直接に目撃はしていないが、ハリーの瞬発力は神話的なものであったらしくて、昭和の作家・倉橋由美子はローマオリンピックの100メートルレースを短編小説に描いている。スタートからゴールまでを文庫本で50ページも書いたのだから、さすがの手腕である。もし興味があったら、「倉橋由美子 100メートル」でググってみたまえ。
メトロノース1
(メトロノースライン、ニューヘイブン行き 1)

 小説に描かれるほどの神話的天才であっても、プレッシャーがかかれば10秒02で終わるのが100メートルレース。東京のヘイズのあと、世界中が「9秒台だぁ」「9秒台だぁ」と大騒ぎしすぎて、次の1968年メキシコオリンピックでは、マコトに平凡なレースになっちゃった。
 金メダルをとったのに「棚ぼた」と批判されたロシアのワレリー・ボルゾフが、クマ蔵は今でも可哀そうでならない。当時の世界中の失望は、アサヒグラフ・オリンピック特集のタイトル「吹き飛んだ9秒9の夢」に象徴される。
 あんれえ、あんまりでねえか。ボルゾフどんはチャンと金メダルとったんだべ。なのに何だか夢を台無しにした張本人みたいな、こんなヒドい書き方があっていいもんだべか。諸君、その辺に、米ソ冷戦の影があるのだ。
メトロノース2
(メトロノースライン車内。近郊からこの車両でNYに通勤する)

 いやはや、懐かしいね、「ソ」であるよ。平成ジャンプな生まれの人たちには理解できないかも知れないが、「ソ」とは「ソ連」の略であり、「ソ連」とは「ソビエト連邦」の略、「ソビエト連邦」とは「ソビエト社会主義共和国連邦」の略。当時は何でもかんでもメッタヤタラに略してしまうのが流行だったのである。
 日本でボルゾフが好かれなかったのは、彼がソの選手だったから。ソの選手とは、ソ連の選手であり、ソ連の選手とはソビエト社会主義共和国連邦の選手であって、そんな長たらしい名前の国の選手を応援していたんでは、なかなか10秒の壁を破れそうにない。もっと手っ取り早い国の選手を応援したほうが、人類の夢が手っ取り早く実現しそうな気がしたわけだ。
メトロノース3
(メトロノースライン、ニューヘイブン行き 2)

 で、せっかちな人類の夢の実現は1972年のミュンヘンオリンピックまで持ち越されてしまう。幼い今井君の目の前で、テレビの中のハインズ選手が9秒95で走り抜けた時、「あんりゃあ、とうとうやっちまったよぉ」と、地球上の35億人が同時にガッツポーズをしたのだった。
 なお、当時の世界の人口は35億。あれから人類は2倍に膨れ上がって、今や70億。ロンドンオリンピックのボルト世界記録が9秒63。9秒95から0.32秒の短縮のためには、ヒトの数が2倍にならなければならなかったのかもしれない。
 「アメリカのハインズ、走るの本当にハヤイんズ」。1968年、西ドイツを抜いてGNP世界2位に躍り出たことを祝いながら、日本中のお父さんたちがギャグのつもりで叫んだそのオヤジギャグは、当時の女子コーセーやOLたちの凍えるほど冷たい視線を浴びたものだった。
 しかし諸君、あれから40年が経過。冷笑していた当時の女子コーセーも、概算すると今や56歳から58歳におなりになられる。オヤジギャグを吐いたオトーサンが当時45歳だったとすれば、オトーサンは今年85歳なのである。
 だから諸君、マスコミの皆さんとともに、日本陸上の歴史的1ページがめくられるのを、もっと気長に余裕をもってゆっくりと眺めていようじゃないか。1960年ローマでハリーが10秒02。1972年のミュンヘンでハインズが9秒95。歴史の1ページをめくるには、少なくとも12年は悠然と見守っている必要があるようだ。
チケット
(NY⇔ニューヘイブンの往復チケット)

 そこで4月25日のサトイモ男爵は、「ではニューヨーク近郊、ニューヘイブンの街を散策してこよう」と決断した。
「記録更新は、今日か、明日か」
「歴史が変わるのは、今日か、明日か」
「ボクの成績が奇跡的に上がるのは、今日か明日か」
みたいに、血マナコになって「今日だ」「明日だ」「明後日だ」と余裕を欠いた生き方をしていれば、むしろ挫折が先にくる。「いますぐじゃなきゃ意味がない」と焦るんじゃなくて、「努力さえチャンと継続していれば、必ず打開局面はやってくる」というのが、正しい夢の持ちかたである。
 だから、サトイモはとりあえずニューヘイブンに出かけて、アイビーリーグの中でも3本の指に入る超名門・イェール大学を見学に行ってくる。ちょっと疲れ気味の「3本の矢」じゃなくて、3本の指。ハーバード、プリンストン、イェールの3校である。
ホーム
(グランドセントラルは20世紀ヨーロッパタイプの「行き止まり型終着駅」。乗降客でたいへんな混雑になる)

 さすがにニューヘイブンとなると、日本で手に入るどんなガイドブックにも掲載されていないから、頼れるものはグーグルマップのみ。しかもネット情報で見ると「ニューヘイブンは治安のとても悪い町です」と出ていて、うにゃにゃ、さすがの里芋サト助も少々心配でないことはない。
 でも、ま、いいじゃないか。すでに今回もアメリカ滞在11日目、治安も何も、だいたい感覚で感じられるようになって、グーグルマップ1つを頼りに知らない街をほっつき歩くぐらいは何とかなりそうだ。ただし、スマホのグーグルマップは今井君にとってイマイチ扱いにくいので、PCの地図をカメラに収めて、カメラを見ながら歩くことにした。
 昼前、ニューヨークのグランドセントラル駅から出発。この1カ月後に大きな事故を起こすメトロノースラインであるが、この日はマコトにスムーズにニューヨーク近郊を走り抜け、1時間半後、快晴のニューへイブンに無事到着した。

1E(Cd) Incognito:BENEATH THE SURFACE
2E(Cd) Incognito:100°AND RISING
3E(Cd) Incognito:LIFE, STRANGER THAN FICTION
4E(Cd) Incognito:FUTURE REMIXED
5E(Cd) Incognito:ADVENTURES IN BLACK SUNSHINE
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