Sun 130407 ルーズベルト島の桜が逆転満塁ホームランに(アメリカ東海岸お花見旅10) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sun 130407 ルーズベルト島の桜が逆転満塁ホームランに(アメリカ東海岸お花見旅10)

 旅行記のタイトルが「お花見旅」であるからには、どうしても満開のサクラの花の下で深呼吸か背伸びぐらいはしてみせないと、お話にも何もならない。
 2日目の「サクラパーク」にはしてやられたし、3日目のセントラルパークでも、目立つのはマグノリアやスイセンばかりで、サクラのお花となるとマコトに地味なものばかり。走り回るリス君や、赤いお胸の小鳥さんたちばかりに目が行って、肝腎のサクラのほうは白っぽいボワッとした背景をなすに過ぎなかった。
サクラ1
(ルーズベルト島、満開の桜 1)

 ここは、起死回生の満塁ホームランがほしいところである。渋いポテンヒットや内野安打では、3日分の沈んだ空気を打ち破れない。ましてやボストンの爆弾テロがあって、おそらく計画変更を迫られることになりそうだ。
 もしボストン訪問をあきらめるとなれば、今回の旅のメインの目的地だったハーバード大学やMITにも行けないことになる。サトイモ君にとっては一大事である。
 「ハーバードにもMITにも行けない」と言っても、もちろん「進学をあきらめる」の類いの一大事ではない。要するに
「おみやげにするつもりだったハーバードのTシャツやMITのキャップが買えなくなる」「ブログにハーバードの写真を掲載して受験生諸君の励ましにしたかったのに、それも出来なくなる」
という程度のことでしかない。
サクラ2
(ルーズベルト島、満開の桜 2)

 しかしたとえその程度でも、やっぱり残念で仕方がない。もともとこの旅行記のタイトルは「アイビーリーグ探訪記」にするはずだった。ハーバード、イェール、プリンストン、ブラウンなど、東海岸の名だたる名門を巡り、サトイモ君が若いころ怠け放題に怠けつづけた結果、夢にさえ見ることの出来なかった世界の超名門大学の、雰囲気だけでもいいから味わいたかったのである。
 それなのに、到着寸前に起こってしまった悲惨な爆弾テロのおかげで、ただ単に「訪ね歩く」「観光で巡る」という程度のことさえ出来なくなってしまった。やむを得ず旅行記のタイトルも急遽「お花見旅」に変更。アメリカ中が緊迫している中、世にも暢気なツキノワグマさんみたいにサクラのお花を求めて散歩するような、何ともマヌケな旅に変わってしまった。
サクラ3
(和風ソメイヨシノも満開。イーストリバーの向こうは国連ビル)

 しかも諸君、「ワシントンのサクラは2週間前に満開、すでに花吹雪」という情報が、ヒコーキのCAからもたらされていたのである。ワシントンのサクラの花は、江戸末期から続く日本とアメリカの友情の印として有名。しかしそのサクラは、この段階でおそらくすっかり葉桜になってしまっている。
 ならばせめてニューヨークのサクラだけでも、逆転満塁ホームランと行きたいじゃないか。4月18日午前10時、サトイモ君は祈るような気持ちでホテルを出た。サクラよ、咲いていてくれ。サクラよ、満開になっていてくれ。そういう気持ちで、冷たい風の吹く花曇りの空の下、一路ルーズベルト島を目指した。
 祈るような気持ちの割には途中で劇場に立ち寄り、今夜の芝居のチケットをゲット。今夜は「MATILDA」を観る予定。こういう行動をとっていると「祈るような気持ち」というコトバにさえ疑念を自ら差し挟むことになってしまうが、ま、あんまりウルサイこといいなさんな。
接近1
(桜に接近 1)

 ルーズベルト島は、マンハッタンとブルックリンを隔てて流れるイーストリバーの中洲である。インディカ米の巨大な米粒みたいに細長い姿で河に浮かび、マンハッタンの夜景スポットとしても有名らしい。
 2007年12月にニューヨークに滞在したときも、クマ蔵どんはこの島を訪ねた。何だか危険な香りの漂う裏町を通って、イーストリバーを渡るロープウェイに乗った。車体も鉄塔も何だか古めかしくて「今にも壊れそう」「すぐにも廃止されそう」というシロモノであるような気がしたものだ。
接近2
(桜に接近 2)

 あれは錯覚だったのだろうか。あれから6年、再び島を訪ねてみると、ロープウェイの乗り場は54丁目だったか53丁目だったか、アッパーイーストサイドの一等地に近い。車両だって鉄塔だってまだ真新しいものばかりで、危険なんかちっとも感じない。
 今回は、地下鉄Fラインでルーズベルト島にわたった。島で降りられる地下鉄はFラインのみ、10分か15分に1本の運行しかなくて、例の薄暗いホームでずいぶん長く待たされた。しかしやっぱり6年前よりも治安が決定的に改善されているので、ホームでいくら長く待っても、ちっとも危険のカホリがない。
リス君1
(リス君と桜の花びら 1)

 地下深い駅のホームから地上に出ても、なかなかサクラ並木は見つからない。遠足の高校生集団を発見、彼ら彼女らについて島の北側に向かってみたが、残念なことにサクラの木はホンの10本ほど。満開ではあるけれども、何だか白い薄汚れた花の枝が申し訳程度に風に揺れているばかりである。
 近くに日本料理屋があって、何とか営業は続けているようだが、昼時なのに中はガラガラ。店の前に小さなサクラの木が1本立っていて、うにゃにゃ、見れば見るほど裏ぶれた気持ちがつのるばかりでござる。
 ガッカリして帰ろうと思っていたちょうどそのとき、ありゃりゃ、今歩いてきたのと正反対、島の南の方角に、何だか大きくピンクに揺れる樹々の姿がある。「マグノリアかな?」と思って目を凝らすと、諸君、嬉しいじゃないか、川沿いに延々と、200メートルほどに渡って、美しいサクラ並木が続いていたのである。
リス君2
(リス君と桜の花びら 2)

 サクラ並木は、2段構えに作られている。手前の半分が八重桜の並木。4月18日の段階ではまだすべてツボミの状況だったが、10日も経てば重々しいピンクの花が満開になりそうだ。南寄りの半分は、ちょうどこの日が満開。日本のソメイヨシノよりもずっと赤味の強いキレイなピンクの花びらが、花曇りの空によく映えている。
 その美しさは写真で見る通りであるが、これはまさに逆転満塁ホームランの名に値する。こういう濃いピンクのサクラこそ、サトイモ君が自分の子供時代に見ていたサクラの記憶に合致する。
 21世紀の日本のサクラは白っぽく、むしろグレーの雲のように色あせてしまったと思うのだが、それは錯覚だろうか。サトイモ里之丞としては、いまルーズベルト島でみる濃いピンクのサクラこそホンモノ。こんなにキレイなピンクを見たのは、おそらく数百年ぶりである。
接近3
(ピンクの桜に涙しそうだ)

 花の下では、3グループがお花見の最中。もちろんニューヨークでは公共の場での飲酒は厳禁だから、お花見の席にもお酒の姿は一切ない。しかし、お酒なんか必要ないのだ。お花見の穏やかな宴に、泥酔した酔漢たちの罵声や、高歌放吟→落花狼藉のアリサマは相応しくない。
 サクラ並木の下には、日本人のママとコドモたちが2グループ、スペイン語を話す中南米のママたちが1グループ。日本の人々は山盛りのオムスビ、スペイン語の人々は山盛りのサラダを楽しみながら、穏やかに笑いさざめいている。その足許を大きなリス君たちが駆け回る。おお、こりゃホントに満塁ホームランだ。
リス君3
(リス君に最接近)

 そしてサトイモ君の頭の中では、10日後の計画も出来上がりつつあった。明日いったんニューヨークを離れてワシントンに向かうが、10日後には再びここに戻ってくる。そのころは八重の桜のほうが満開になっているだろう。万が一ボストンをあきらめるような事態になっても、満開の八重の桜の下で、もう1度お花見が出来るはずだ。
 今のところはボストンのことが気がかりで気持ちも沈みがちだが、2度目のお花見を楽しみに、旅を続けようじゃないか。そう気持ちを立て直して、「では、デッカイ牛の肉でもムサボリ食って元気を出そう」と、サトイモ君は一路ブルックリンを目指したのであった。

1E(Cd) Bobby Coldwell:AUGUST MOON
2E(Cd) Bobby Coldwell:CARRY ON
3E(Cd) Bobby Coldwell:COME RAIN OR COME SHINE
4E(Cd) Bobby Coldwell:BLUE CONDITION
5E(Cd) Boz Scaggs:BOZ THE BALLADE
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