Sun 130217 明石祝勝会 浪人初日「1日1冊」を決意 山口昌男死去 2301号室の記憶 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sun 130217 明石祝勝会 浪人初日「1日1冊」を決意 山口昌男死去 2301号室の記憶

 3月11日午後10時、今井君はまだ兵庫県明石にいる。これから校舎近くの居酒屋で大祝勝会である。ついさっきたっぷりイジられた司会者も、運営責任者も、教室後方から講演を盛り上げてくれた担任助手の諸君もみんな出席して、いつもに勝るとも劣らぬ賑やかで楽しい祝勝会になった。
 かつてC組→B組→A組と高速で今井君の授業を受けた男子は、第1志望・大阪市立大に合格して、現在は機械工学を専攻中。クマ蔵が代ゼミから移籍した直後に受講したという男子スタッフは、神戸大学大学院で数学を専攻した経歴の持ち主。5次元とか6次元とか、クマさんには想像もつかない難しい世界を研究したとのことである。
 女子のほうも多士済々で、生命科学専攻のオカタ、薬学部在学中で製薬会社を希望していらっしゃるオカタ。法学部在学中の男子1名を除けば、みんなみんな質実剛健な理系のヒトビトである。一方のサトイモ男爵は、出席さえマトモにしなかった軟弱な私立文系。何だか申し訳なくて、隅っこで小さくなっていることにした。
 残念なことに、祝勝会が始まって1時間も経たないうちに「飲み物も含めて全てラストオーダー」ということになってしまった。明石焼、鯛飯、車エビの天ぷら、旨そうなものが次々と登場して「さあこれから」と、ますます盛り上がっていくところだっただけに、無念もヒトシオである。
地下鉄
(この日は三宮から新神戸まで地下鉄で帰った)

 ただし、この夜のサトイモ君は調子がイマイチ。それもこれも、大阪空港でムリして食べたロースカツ定食のせいである。いまだにアブラが胃腸に重く、アブラのせいでヒタイの真ん中がズシリと重い。ビールの後はウーロンハイにしてみたが、それでもアブラがしつこく胃袋に粘り着いて、うまく流れていってくれない。
 急激に気温が下がって冷たい風が吹き荒れる明石から、最終の新快速で神戸に戻った。三宮で地下鉄に乗り換えようとすると、地下鉄も新神戸行き最終but one。誰もいないホームで、河合塾と駿台の巨大広告がシノギを削っていた。
 うーん、浪人生中心の予備校は、この3月を乗り切れるかが死活問題。生き残りをかけた乾坤一擲の広告合戦は、熾烈を極めているようである。関西では代ゼミがちっとも目立たないから、そのぶん河合塾と駿台の広告が目立つのかもしれない。
 しかし、これはいくら何でもやりすぎなんじゃないか。こんなにベタベタ見境もなくポスターを貼って、壁という壁、スキマというスキマが予備校のポスターばっかりだと、何だかエゲツナイ感じが否めない。
 本来、「浪人してまで第1志望をあきらめない」「ゆずれない」というほどガッツのあるヒトなら、予備校を選択する時にポスターをみて決めるとか、キャッチフレーズで決めるとか、そんな軽率なことをするはずはない。優れた教師を揃え、優れた教材を作り、優れたカリキュラムを確立して、あとは黙って生徒が集まってくるのを待つのがホントの姿なんじゃないか。
山口昌男1
(若き今井君は、山口昌男のファンだった 1)

 ポスターだらけの駅で何だか寂しくなったクマ蔵は、ホテルに戻ってからシミジミ自分の浪人生時代のことを思い出してみた。高3生の3月8日と9日、東京大学を受験して帰ってきた若き今井君は、「こりゃダメだ」「浪人して駿台に通うか」「または身のホドを知り、とりあえず合格した早稲田政経に通ってみるか」を思案して、いつまでも部屋の中を行きつ戻りつした。
 結論は「第1志望をゆずらない」。11日には早くも駿台の入学試験を受け、見事に合格して、浪人を決めた。「見事合格」というのは、決して冗談ではない。当時の駿台は、今とは全く違ったのである。滅多なことでは合格できないので、同じ御茶ノ水に並ぶ明治大学や中央大学や日本大学より、はるかに難関というウワサだってあった。
 で、駿台に合格した日に「1年間、毎日1冊ずつ岩波新書を読破しよう」と決意したのである。入学手続書類の封筒を片手に、御茶ノ水から神田神保町の古書店街をブラブラ歩いていたら、どの店先にも「文庫・新書どれでも50円」の棚が置かれていて、「1冊50円なら、1ヶ月に30冊読んでも1500円で済むじゃないか」とヒラめいた。
山口昌男2
(若き今井君は、山口昌男のファンだった 2)

 だって、悔しいじゃないか。同じ学年で現役合格したヤツらは、4月から毎日、駒場キャンパスで東大教授の講義を満喫できるのだ。東大教授の講義なら、冗談や余談や息づかいのスミズミまで、教養に満ち栄養が溢れていて、単に教室に座っているだけでいくらでも豊かになれそうだ。
 一方の哀れな今井君は、これから1年、駿台の教室に縛りつけられ、駿台講師のお話を聞き続けなきゃならない。教養は? 栄養は? 知性あふれる息づかいは? 諸君、現役時代にチャンと勉強しなかったダメでダラしないサトイモに、そんなものを要求する権利はない。「オマエは浪人生。キチンと授業に出て、テキストだけをやっていればいい」と冷たく言い放たれて終わりである。
 あんまり悔しいから、岩波新書を毎日1冊読破→1年で300冊を読破。もしそれが現実になれば、駒場で1年過ごす同い年のヤツらにヒケをとることはない。同じようなことをクヨクヨ悩んだ駿台生の中には、御茶ノ水から地下鉄で1駅の本郷に通い、東大の授業にモグって鬱憤を晴らしていたヒトも存在したらしい。
大阪1
(ANAクラウンプラザホテル23階から、昭和な梅田方面を望む)

 浪人時代の今井君の家族は、埼玉県大宮市にあった国鉄職員宿舎に住んでいた。大宮から御茶ノ水の駿台まで、片道1時間→往復2時間とすれば、行き帰りの電車の中で岩波新書に没頭できる。休み時間や昼休みにも読書に励めば、読書時間を合計4時間ぐらいは確保できるだろう。「毎日1冊の岩波新書」は、決してムリな話ではなかったのだ。
 だから通学経路も、大宮から神田まで京浜東北線、神田で中央線に乗り換えて御茶ノ水というルートを選択。
「バカだな、どうみても秋葉原で乗り換えだろ」
「西日暮里で千代田線に乗り換え、新御茶ノ水の駅を利用するほうが便利」
「上野まで東北線か高崎線で行くほうが早い」
など、周囲はいろいろなことを教えてくれたが、若きサトイモ里之丞は、どんな便利さよりも「始発駅から座って、落ち着いて読書に没頭」のほうを選んだ。いま考えてみても、よほど悔しかったのである。
山口昌男3
(記念すべき1冊目)

 その記念すべき1冊目が、山口昌男「アフリカの神話的世界」である。2013年3月、「山口昌男教授が亡くなった」という知らせを新聞で発見。1980年代の多くの若者がトリックスター論の影響を受け、何でもかんでもトリックスター論にもっていこうとするヒトによく遭遇したものだが、昭和の知の巨人が、また一人この世を去った。
 しかしサトイモ男爵にとっては、山口昌男はあくまで「記念すべき1冊目」のヒトである。1冊目があんまり面白かったので、「毎日1冊」の決意は4月5月とマコトに順調に進行。買いためた新書がなくなると、すぐに神保町の古書店を歩き回って「どれでも1冊50円」を10冊購入して帰った。
 計画が頓挫したのは、6月中旬である。当時の岩波新書はどれもこれも身震いするほど面白かったが、残念なことに駿台の授業に飽き飽きしてしまった。英語は「和訳するだけ」。現代文は「記号読解」。鈴木長十師などごく一部の先生の授業以外はサボってしまい、池袋や高田馬場の映画館に入り浸るようになって、結局は浪人の1年で100冊程度を読破しただけだった。
大阪2
(花やかな北新地も、上空からだと何とも昭和な眺めである)

 3月12日、大阪に移動。大阪もANAクラウンプラザホテルに宿泊する。案内された部屋が、思ひ出深い2301号室である。ほぼ2年前の2011年3月14日、東日本大震災の直後にも、この部屋に宿泊した。1フロア下の2201号室だった気もするが、部屋の作りは全く同じである。
 今井君の母親・快傑ババサマは宮城県仙台市にいる。震災直後には全く連絡がつかなかったが、14日にやっと電話が通じて、「食糧が不安だから、米を買ってきてほしい」という。東京でも食料品は品薄で、米もパンも全く手に入らない状況だったが、大阪なら何とかなるだろう。そう考えながらこの部屋に入った。
大阪3
(思ひ出深い2301号室)

 もちろん大阪を訪れたのは講演会のためだったのであるが、今井君の頭の中は「大阪・堂島なら米が買えるだろう」ということばかり。確かに今思えば、日本中があんな状況だった3月14日に公開授業を実施していたことに一驚を喫する。
 で、実際に堂島のスーパーで米10kgを購入。大阪ですら米は品薄になっていたが、何とかギリギリで手に入れた。その米をまず東京に宅配便で送り、東京から仙台までは背中にしょっていく予定だった。米を段ボールに入れて、ホテルのヒトに宅配便をお願いすると、「東京方面への宅配便は、いつ到着するか保証できません」と言われた。やっぱり、つくづくたいへんな日々だったのだ。
 結局それから1週間後、山形までJALの飛行機が飛びはじめ、山形空港から仙台まではタクシーに乗って、飛行機+タクシーで片道合計40000円かけて米10kgを運んだ。仙台付近のガソリンスタンドに並んだクルマの長蛇の列のことは、今でも忘れることができない。

1E(Cd) Stan Getz & Joao Gilberto:GETZ/GILBERTO
2E(Cd) Keith Jarrett & Charlie Haden:JASMINE
3E(Cd) Ann Burton:BLUE BURTON
4E(Cd) Harbie Hancock:MAIDEN VOYAGE
5E(Cd) Miles Davis:KIND OF BLUE
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