Wed 130116 古老の暴論 緊迫した労使関係の復活を 劣等財は卒業→上級財に戻ろう | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 130116 古老の暴論 緊迫した労使関係の復活を 劣等財は卒業→上級財に戻ろう

 最初に言っておくが、サトイモ君は政治や経済のことはちっとも分からない。ズブのシロートが、それでも789年生きてきた人間界の長老として、古老の知恵を披露するだけである。
 古老の知恵には、もちろん何の科学的根拠もない。しかし「ワシの数百年にわたる経験に照らせば」と虚空を見つめながら古老が語りはじめたら、若いモンたちは「論理がどうの」「定説がどうの」というありふれた議論を脇に置いて、こぞって尊敬または敬愛の念を示さなければならない。これは人類の文化すべてを貫く不文律である。
なかよし1
(なかよし 1)

 専門家や学者とは、キツツキのような存在である。若いころ、広大無辺の森の片隅に、他に誰も魅力を感じないツマラナイ1本の樹木を発見し、「ここは自分の陣地だ♡」と決めて、瞳をキラキラ輝かせる。
 あとは残りの人生すべてをかけ、固いクチバシでひたすらこの樹木に穴を掘る。穴の中にたくさんデータを運び込めば、穴はホカホカ居心地もいい。他者が接近すれば、縄張りを侵そうとするこの他者を猛然と排撃し、次第に深くなっていく安住の穴の中から、広大な世界に向けて警告と憎悪の信号を発信するのである。
 それに対して古老とは、専門知識に守られず、また頼ろうとすることもない。その意見には権威も根拠も論拠もない。データになんか見向きもしない。しかし数百年にわたって広大な森林を渉猟してきた経験は、ほぼ本能のように彼を正しく導き、天から危険が降りそそげば地に伏し、地に危険が満ちれば、老いた手で枝をつかんで軽やかに危険をやり過ごす。
なかよし2
(なかよし 2)

 で、古老サトイモ里之丞は、昨年11月下旬から突如として日本を包み込んだ好景気と、デフレ脱出の好機、財政危機脱却のチャンスに、「さあ、労働組合の出番じゃ」「さあ、久しぶりの本格的な春闘じゃ」と感じ、「それなのに社会党は何をやっておるんじゃ?」と、あまりのもどかしさに眼を剥いているのである。
 おお、労働組合。春闘。20世紀の物置で分厚いホコリをかぶったまま忘れ去られた存在に聞こえるが、巨大企業の労働組合員諸君、官公労の諸君、「今コソ団結シテ、賃上ゲ要求ヲ貫徹スベシ」である。
 天国の物置でホコリをかぶったマルクスだるまやエンゲルスじいさんが、熱い声援をおくってくれている。啓蟄も近いから、オヒゲのレーニンだって地底で久しぶりに蠢き出す。日本経済に大声援をおくるのは、決してケインズだけではない。春闘だ、賃上げだ。ベースアップだ、徹夜の団交だ。「巨大企業の労働者よ、団結せよ」である。
 どうだい、古老の意見は。だから念を押しておいたじゃろ(Mac君は「念を押して老いたJARO」であるが)、「論理も根拠もないよ」って。「何で突然そんなにカビくさいものが復活しなきゃいけないの?」。若い諸君は1970年代の労働組合の大活躍を知らないから、きっと首を傾げるじゃろう。
なかよし3
(なかよし 3)

 ここでもう1度断っておくが、今井君は幼い頃から労働組合が大キライだ。今井君の父親なんか、労働組合運動をヤメさせる側の中間管理職だったから、毎年の春闘のたびに、危うくクビになりかけた。
 父がクビになれば、もちろん幼い今井君だって、路頭に迷うハメになるところだった。だから、コドモのころの今井君は社会党と共産党がキライ。驚くなかれ、小学3年生で根強い自民党支持者になって、労組と聞いただけで虫唾が走ったものである。
 なお、「ムシズが走る」には「虫唾」と「虫酸」の2通りの漢字があって、フリガナも前者なら「むしづ」、後者なら「むしず」である。寄生虫の吐く唾だから「虫唾」、それがこみ上げると酸っぱい味がするから「虫酸」。いやはや、どう考えてもムカつくコトバであるね。
なかよし4
(なかよし 4)

 しかし、高度成長だって、あくまである側面であるが、労働組合の大活躍が支えたのである。ベルリンの壁が崩壊し、東西冷戦が終わった瞬間から、日本経済の長い停滞と緩やかな崩壊が始まった理由を、古老なりにここに述べてみるから、諸君、「バカだなあ」という皮肉な笑いを浮かべながらでもいいから、我慢してよく聞くのじゃ。
 東西冷戦が終結した瞬間から、それまで世界で垂れ流されていた莫大な軍事予算が、一斉に産業再生に向かいはじめた。それまで軍事産業とは無縁のところで繁栄していた日本経済には、入り込むスキマがなくなっちゃった。この20年の日本の停滞を説明する一番普通の説明はそれじゃった。
 しかし実際には、社会主義の崩壊とともに、日本社会党がやる気をなくしちゃったのが、日本の停滞の原因なのじゃ。社会主義だの労働組合運動なんて、古くさくて、カビ臭くて、カッコ悪くて、若者にソッポを向かれる。だから、党名も「社会民主党」と変更して、もっとカッコつけようじゃないか。冷戦終結とともに、幹部がヒヨってそう考えちゃった。
 確かに、労働者が団結して、みんなでハチマキして、「カネよこせ」「カネよこせ」「もっと給料上げろ!!」「給料上げないと、働かないぞ!!」とシュプレヒコールするなんて、おぉカッコ悪い。まるで「お小遣いくれないと勉強しないぞ」と駄々をこねてひっくり返っている小学生みたいだ。
退院1ヶ月1
(結石の手術から、はや40日 1)

 しかしむかしは、毎年3月が来るたびに、労組と大企業経営陣とが対決して、1週間も徹夜の団交を続け、「100円玉3個の争い」と大新聞に揶揄されながら、着実に定期昇給と賃上げを勝ちとりつづけた。あの戦いがあったこそ、21世紀の日本人の給与水準はこんなに上がったのである。
 日本の不幸は、高い給与水準が実現された途端に、「もう御用済み」と言わんばかりにマルクスとエンゲルスが物置の奥にしまい込まれ、「もう歴史的役割は終えた」という冷酷な認識とともに、労働組合が政治経済の表舞台で活躍しなくなったことである。
 バブル崩壊後の世の中は「価格破壊」「安くて旨くて超大盛」にばかり眼を向け、「更なる賃上げ要求」はカッコ悪い時代遅れなものと見なされるようになった。労働者は不況に喘ぐ大企業に協力し、給与水準の上昇よりも雇用の安定を確保することを優先するようになった。
 かつて労働組合運動を支えた「メーデー」「共産党」「社会党」の旗印だって、いつの間にか「安定」「もったいない」「倹約&倹約」「節約&節約」ばかりになってしまった。今井君が幼いころ大キライだった労働組合が、最近は何だか可哀そう。「絶滅危惧種」のレッテルだって準備しなきゃならない気がする。
退院1ヶ月2
(結石の手術から、はや40日 2)

 あんまりカッコ悪いから、20世紀中盤に猛威をふるった「総評」というものもなくなった。時を同じくして国鉄が分社化。労働組合運動の2本柱だった「国労」「動労」も過去の亡霊となった。「カネよこせ!!」「待遇改善!!」とカッコ悪く叫ぶヒトビトは、日本から姿を消した。
 代わりに出現したのが「連合」という名前の、たいへん物わかりのいい団体。経営側と穏やかな笑顔で話し合い、「経営が苦しいんだから、労使の協力が大事」と、むしろ労働者側から経営陣に歩み寄って、「おカネは要りません」「賃金はほどほどで結構です」とヒザを屈する始末。「あの物わかりの悪いガンコな労働運動は、どこに消えちゃったの?」である。
 1980年代には「風前のともしび」だった民社党勢力が、21世紀になって生まれた選挙互助会:民主党なるものの中で、隠然たる力をふるいはじめた。民社党系の労組は70年代80年代のゼネラル・ストライキの最中に経営側が唯一頼りにする存在だった。民社党系が中心の労働組合運動はますます物わかりがよくなって、「おカネより生き甲斐と働き甲斐だ」と、ニコヤカに経営者側と握手を交わすようになる。
退院1ヶ月3
(結石の手術から、はや40日 3)

 2013年、円安の進行で企業業績は急カーブで上昇しつつあるが、春闘はちっとも盛り上がらない。コブシを振り上げる労働者は画面に現れないし、社民党なんか、話題にさえ上がらない。
 1980年代まで健在だったマルクス主義経済学の学者は、巣を見捨てたキツツキよろしく「むしろマルクスは社会学者として復権すべきだ」と寂しい笑顔。「日本社会党よ、いまこそ復活のときだ」と、崩壊しかけた本部ビルの支柱になろうとする専門家は出て来ない。
 こうして、むしろ経営側から「賃上げでもしましょうか?」とオズオズ言い出す始末だ。「年収アップとはスバラシイ」と、政府首脳がニコニコしている図は、嵐のような1970年代を知るサトイモ君としては、「異様だ」と言うしかない。
 本来なら、経団連の米倉どんみたいに、「賃上げなんて、何をタワケたことを」と長い眉毛を振り立ててせせら笑うのが経営陣の基本のはず。経営陣は労働者の要求を頑としてハネつけ、その重く固い扉を労働者が団結してコジ開ける、その緊張関係の中から経済の活力は生まれるのだ。
おふろ
(ニャゴは今日もアッタカお風呂)

 諸君、今こそ「もっとおカネを」と叫ぶ時なんじゃないか。おカネをたくさんもらって、そのぶん税金をタップリ払おうじゃないか。せっかくの利潤を社内に留保して、ただでさえ税率の低い法人税をさらに節税してばかりいるから、国庫はちっとも潤わない。
 どんどんおカネをもらって、どんどん所得税と消費税を払って、どんどん国の税収を増やそうじゃないか。「おカネはいらない」とは「税金はあんまり払わない」ということであって、そういう20年が過ぎれば、あっという間に財政赤字は1000兆円になる。
 社会党が衰退し、労働運動を先導するヒトがいなくなり、労働者のリーダーが経営陣にすりよって、緊張感に欠けたダラしない労使関係が日常化すれば、必然的に税収減と財政危機につながる。今こそ社会党が復権して、たやすいリストラや、生産拠点のたやすい海外移転を許さない、厳しく充実した労使関係を日本に復活させるべきである。
うるさくて
(ニャゴがうるさくて)

 そもそも社会党の勢力が衰退したのは、消費税導入時の「牛歩戦術」からである。衰退が進むと、「おカネよこせ」「もっとおカネと安定を」という労働者支援の基本を忘れ、「護憲」ばかり言うようになった。護憲は素晴らしいことだが、社会党の本来の存在意義は、給与アップを通じて日本の税収を安定させ、社会の安定と向上に資することであったのだ。
 さすがに、今は21世紀だ。かつての親方日の丸は許されない。巨大企業の労働者と官公労のヒトビトが、自分たちの豊かさだけを求め、エゴをムキダシにするのは余りにもオロカ。そんなことで世論の支持を受けるのは不可能だ。
 中小企業で働く人々、全ての非正規労働者、働きたくても働けない人々をも、その運動に巻き込まなければならない。安定した巨大企業で働く者の社会的責務とは、彼ら彼女らのリーダーとして、みんなの生活の安定と向上を要求すること。リーダーが「カッコ悪い」とハニかんで、キレイゴトばかり並べていてはならない。
 ちょっと見にはエゴと見えるような「とにかく賃上げだ」「とりあえずベースアップだ」も恥ずかしがらずにどんどん振りかざさなきゃ。「だって、もっとたくさん税金を払って、福祉社会を充実させたいんだ」であるはず。健全な先進社会には、労使の馴れ合いではなく、健康な緊張関係が不可欠なはずである。
ねむれない
(ナデシコは眠れない)

 諸君、この急激な円安を見てみたまえ。円安で欧米からの輸入品の価格が上昇する。1ユーロ90円で買えていた品物が、125円出さなきゃ買えない。ならば、900円の時給を1250円にあげてもらわなきゃ困るじゃないか。業績が向上するはずの大企業が、まず真っ先に考えるべきなのは従業員の給与アップである。
 ところが新聞各紙やテレビ各局の論調は、この辺に関して信じがたいほど及び腰である。「物価ばかりが上昇して、もし給料が上がらなかったら、生活は苦しくなる」と、余りに当たり前と言うか、幼稚園児でも分かりそうな解説を記事に掲げ、テレビのコメンテーターは「うーん、それじゃ不安ですね」と腕組みしてみせる。
 給料が上がらないと困るなら、物価上昇分に見合った賃上げ要求を恥ずかしがっているのはオカシイ。まして、増税が待っている。巨大企業の収益が上向くだろうことが予想されるなら、社会に対する労組の責任として、増税に見合う給与水準のアップを要求しなければならない。
「給与を上げてくれ。そしたら、サムスンじゃなくて国産の高級液晶テレビを購入する」
「給与を上げてくれ。そしたら、ハイアールの冷蔵庫じゃなくて、東芝か日立の高機能冷蔵庫を買ってみたい」
「給与を上げてくれ。そしたら、息子は高1から予備校に通って、学力をどんどん伸ばし、大学でも先端的研究に取り組んで、もっともっと日本にも世界にも貢献できるようになるだろう」
ま、そういう話である。ある意味で初歩的な発言をすること、初歩的な要求を突きつけることを怠ると、国家は衰退する。
ねんね
(ニャゴはサッサとネンネする)

 「安くて旨くて超大盛」の価格破壊グルメ番組を見てみたまえ。3人かかっても食いきれない巨大天丼を前に女性キャスターが「これで500円ですかぁ?」と絶叫しているのをみると、この国がこの20年でどれほど滑稽な国になってしまったかを実感する。
 そんな絶叫の前に、「給与をあげてくれ。そしたら1000円のチャンとした天丼をゆっくり落ち着いて食べてやる」と、恥ずかしがらずに口に出すことである。「500円で3人前」にビックリして、吐きそうになるほど胃袋に詰め込むよりも、1000円でキチンと味わう。それが正しい消費者の行動である。
 日本は、上級財の国である。劣等財は、キライなのだ。「クオリティ国家」とか、そんなコトバを今さら持ち出す必要はない。もともと、高いおカネを出して、高い品質のものを手に入れるのが大好き。「給料はいらないから、ホドホドのもので我慢します」みたいなヤセガマンはしないで、「いい仕事、どんどんしますから、おカネももっとください」と、遠慮せず大きな声でハッキリ言おうじゃないか。
 以上、土曜日の昼下がり、チョイと二日酔いの残る古老の暴論でござった。

1E(Cd) Barenboim:MENDELSSOHN/LIEDER OHNE WORTE②
2E(Cd) Barenboim:MENDELSSOHN/LIEDER OHNE WORTE①
3E(Cd) Perlea & Bamberg:RIMSKY-KORSAKOV/SCHEHERAZADE
4E(Cd) Alirio Diaz:RODRIGO/CONCIERTO DE ARANJUEZ
5E(Cd) Alirio Diaz:RODRIGO/CONCIERTO DE ARANJUEZ
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