Tue 130108 出撃→撤退のクマ時計 吹きっさらしの熱い屋台スープ(ベルギー冬物語11) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 130108 出撃→撤退のクマ時計 吹きっさらしの熱い屋台スープ(ベルギー冬物語11)

 1月15日、すでに滞在5日目であって、ブリュッセルにもすっかり慣れた。ただし、慣れたのはあくまで「街に対して」であって、「寒さに対する慣れ」のほうは、さすがの今井君もまだまだである。
 秋田で18歳まで過ごしたのだから、雪のほうは「なんの、これしき」で済ませていられるが、この日のブリュッセルは最高気温マイナス5℃、深夜早朝にはマイナス10℃。「北海道の真ん中あたりの寒さに匹敵するんじゃないか」という寒さで、本来なら暖かい穴蔵で冬眠中のはずのクマ蔵としては、マコトに情けないことに、とても寒さに対抗できない。
 こうして、「出撃しても、寒さに耐えられず、すぐに撤退」の日々をダラしなく繰り返すことになる。クマ蔵が撤退するのは、①ホテルのお部屋(ホテル・アミーゴ344号室)②火のアカアカと燃え盛っている飲み屋(ムール貝とお酒があれば文句なし)、以上の2種である。
オランダ語表記
(今日は、サン・カトリーヌ教会を訪ねる。地下鉄駅のこの表記はオランダ語である)

 その結果、思わぬ成果が2つ現れて、まず、①ベルギービールに一気に詳しくなった。ベルギーのビールはたいへん奥が深くて、さすがにワインの世界ほどではないにしても、一朝一夕に精通することはできない。
 成果の2つ目は、②ハウスキーピングのオバサマと打ち解けた、である。何しろしょっちゅうクマがお部屋に戻ってくるから、オバサマと顔を合わせることも多くなる。いつも同じオバサマが部屋をキレイにしてくれていたので、自然に挨拶を交わすようになった。
 お礼の気持ちをこめて、ハウスキーピングのヒトにはいつもチップを多めに置くようにしている。するとオバサマもウホウホ笑って「Thank you very much for the tips」とお礼を返してくれる。「アンタの部屋の掃除は、他の人には絶対やらせないよ」と、マコトにキップのいい、やる気に溢れたオバサマであった。
教会1
(ブリュッセル、サン・カトリーヌ教会)

 こういうキップのいいオバサマが念入りに掃除してくれるから、今井君のお部屋はいつもたいへん心地よかった。夜中にハチミツ入り紅茶を飲みながら読書に励むことができたのも、このオバサマのおかげである。
 諸君、外国で宿泊した時は、「サービス料も部屋代に入っているんだから、チップは必要ない」などと冷たく言うなかれ。感謝の気持ちをこめて、1ユーロ玉でも2ユーロ玉でも、自分のフトコロ具合に合わせてチップを置くのはスンバラシイことだ。出来れば、「Thank you」でも「Merci」「Danke」でも、「Arigato!!」だっていい。一言メモ書きを添えればもっといい。
教会2
(サン・カトリーヌ教会 正面)

 さて1月15日、さすがに滞在5日目ともなれば、カッコー時計じゃあるまいし、出撃と撤退を繰り返してばかりもいられない。臆病なクマ時計のクマどんは、降りしきる雪の中、クリスマス市で有名なサン・カトリーヌ教会を訪ねることにした。
 ところが、何しろ雪道で下ばっかり見て歩いているものだから、頻繁に道に迷う。地下鉄でたった2駅の距離なのに、北に向かって進みすぎたり、西に曲がる曲がり角を間違えたり、「ここだ、この教会だ!!」とたどり着いたつもりが、全く別の名もない教会だったりする。
ベギナージュ教会1
(道を何度も間違えて、地味な名もない教会の裏に出てしまった)

 もっとも、ラッキーなサトイモ軍曹はどこまでもラッキー・サトイモでいられるもので、「間違えてたどり着いた教会」が、「名もない」どころか、むしろ目的地よりも由緒ある教会だったりする。
 その名は「ジャン・バプティスト・オ・ベギナージュ教会」。十字軍に参加して男子が故郷を離れた後、庇護を求めて多くの女性がベギン修道会に集まった。ブリュッセルのこの教会の最盛期は14世紀。1200人の尼僧が集まっていたという、マコトに歴史の長い教会なのであった。
ベギナージュ教会2
(教会は「名もない」どころか、有名なベギナージュ教会だった)

 雪道をさらに進んで5分ほど、とうとう目的のサン・カトリーヌ教会を発見。観光客は他に2~3組が、遠慮がちに写真を撮っているだけである。その代わり、地元の男子高校生たちが目いっぱいの歓声をあげながら、元気にジャレあっている。こういう姿を眺めるのも、外国旅行の楽しみの1つである。
 残念ながらサン・カトリーヌ教会は改修中で、中には一歩も入れない。普通のヒトなら「残念」「せっかく来て、損した」「サイテー&サイアク!!」と吐き捨てるところだが、そこはそれ、すでに789年も生き延びてきたサトイモは、こんなときにも余裕で楽しみを見つけるのである。
 教会前の吹きっさらしに(Mac君、「不喫茶裸子」とは?)、立ち食い&立ち飲みの旨そうなメシ屋を発見したのだ。その名は、オランダ語でNOORDZEE。日本語なら「北海」であるが、何しろベルギーはオランダ語とフランス語とドイツ語の混在する国である。看板にはフランス語で「MER DU NORD」と併記されている。
NOORDZEE1
(遠くから「NOORDZEE」を発見)

 氷点下5℃、しかも雪の降りしきる中、吹きっさらしの立ち食い&立ち飲みはチョイとつらそうだが、お客の様子を見るに、15分ぐらいなら十分に我慢できそうだ。店の奥にはたくさんの鍋が煮立っていて、グツグツ煮える鍋からは、温かそうな真っ白い湯気が盛んに上がっている。
 「凍てつく吹きっさらしの中で、濛々と湯気のあがるスープ」。諸君、白い湯気の中に、クマの鼻面をつっこんで、塩辛いスープの匂いを嗅いだ瞬間のシアワセを想像してみたまえ。「これはどうしてもスープを一皿、ジュルジュルすすっていかなくちゃな」。臆病なクマさんだって、必然的にそう決意する。
NOORDZEE2
(NOORDZEE、近景)

 北海は、ドイツ語ならNORDSEE。シーフード専門のファストフード店として、NORDSEEはドイツ全国にチェーン展開している。ドイツばかりではなく、オーストリアなど近隣諸国でもよく見かける。ウィーン、インスブルック、ザルツブルグなど、中規模以上の都市なら、NORDSEEは少なくとも1軒は見つかるはずである。
 今井君も、すでに何度かNORDSEEのお世話になった。今でも記憶しているが、ベルリンで1回、ウィーンで2回。小腹が空いたときのサンドイッチやスナックなら、NORDSEEはなかなかオススメだ。
エスカルゴ
(まずエスカルゴと白ワインを注文。ありゃりゃ、パリのエスカルゴと全然ちがう)

 しかしいま目の前で湯気をモウモウと上げているNOORDZEEは、ドイツ有名チェーンのNORDSEEとはどうやら全く別物のようである。まず、看板に描かれたオサカナの絵が、「シロートが有名店のマネして描きました」と言わんばかりのバッタモン臭さに満ちている。
 そもそも、ドイツのNORDSEEはこんなに湯気を朦々と上げてはいない。サラダとかサンドイッチとかが中心のチェーンで、いろんなスープが日本の温泉の源泉かけ流しみたいに煮え立っていたりはしないし、「氷点下の吹きっさらしで立ち食い&立ち飲み」ということもない。
コロッケ
(さらに、スープとコロッケを注文)

 しかし諸君、たとえバッタモノであったとしても、こっちのほうがサトイモ閣下の嗜好にはピッタリなのである。同じ嗜好のベルギー人がどんどんこの店に集まってきて、中年のオバサンとオジサンが2人で切り盛りするこの店は、昼飯時をすぎてもまだまだ大繁盛の様子だ。
 言語道断の寒さの中で鼻水を拭いながら、ヘタクソなフランス語で注文してみたまえ。両手をこすりあわせながら、熱いスープの皿を抱え込んでみたまえ。白ワインさえ凍りつく寒さの中で、揚げたてコロッケを2つに割って、中から上がる熱い湯気を胸の奥深くまで吸い込んでみたまえ。まさに「こりゃ、たまらん」でござるよ。
スープ
(スープとワインとコロッケ)

 周囲はサン・カトリーヌ教会のお膝元だけあって、旨そうなレストランがズラッと並んでいる。その多くが「ミシュランで星をもらいました」という有名店で、入り口のドアにはいかにも自慢げにミシュランの星を貼り付けている。
 どうもミシュランの評価はフランス語圏では大甘のようであるが、人々はそういう店にはあまり興味がないようだ。NOORDZEEを目指して、次々に客が訪れる。親しげに注文を告げ、店のオバサンが客の名前をメモし、料理が出来上がると、大声で名前を呼んで、料理と一緒にナイフとフォークとスプーンのセットを手渡してくれる。
レストラン1
(この店もミシュラン星つき)

 どの客も、熱いスープのお皿を抱え込んで「おお、救われた」という満面の笑みを浮かべる。もしも「フランダースの犬」の主人公ネロがこの店に救いを求めたら、そして「お客さんの残り物でいいですから、この犬に食べさせてくれませんか?」と尋ねることができたら、ネロとパトラッシュはもっと幸せな一生をおくれたかもしれない。
レストラン2
(サン・カトリーヌ教会付近。旨そうなレストランが並んでいた)

 さすがに、吹きっさらしの中で15分が経過が経過すると、自堕落な日本のクマはもう寒さに耐えられなくなる。かわいそうなパトラッシュの運命なんかすっかり忘れて、いったん暖かなホテルに退却することに決めた。
 しかし諸君、せっかくフランダースの犬:パトラッシュを思い出したのだ。明日はブリュッセルから電車で1時間弱のアントワープを訪れ、ネロとパトラッシュが天国に旅立ったアントワープ大聖堂に入ってみたい。
 薄れゆく意識の中でネロが最後に見たルーベンスの傑作「キリスト昇架」「キリスト降架」は今もそこに残っている。さらに「聖母被昇天」も、アントワープ大聖堂の祭壇に飾られているはずなのである。

1E(Cd) Barenboim:MENDELSSOHN/LIEDER OHNE WORTE②
2E(Cd) Barenboim:MENDELSSOHN/LIEDER OHNE WORTE①
3E(Cd) Barenboim:MENDELSSOHN/LIEDER OHNE WORTE②
4E(Cd) Barenboim:MENDELSSOHN/LIEDER OHNE WORTE①
5E(Cd) Barenboim:MENDELSSOHN/LIEDER OHNE WORTE②
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