Thu 130103 ガラパゴス化を嗤うな いよいよ日本の世紀だ(ベルギー冬物語/番外編3) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 130103 ガラパゴス化を嗤うな いよいよ日本の世紀だ(ベルギー冬物語/番外編3)

 ムール貝にせよ、チョコやゴーフル(=ワッフル)やビアにせよ、ベルギーを歩いていると「あらら、こんなにガラパゴス化しちゃって、かえって売れないでしょうに」と心配になるぐらい、独自の進化を遂げてしまった食品が並ぶ。
 チョコやゴーフルについては近いうち書くチャンスがあるだろうから、今日は後回しにしておく。とりあえずムールであるが、コイツの進化はマコトに多種多様であって、「地球50億年の歴史に合わせて巧みに進化してきたクモ/ガ/軟体生物の諸君をも凌ぐか」と思われるほどである。
チョコイチゴ1
(チョコいちご大行進)

 こんなに地味な2枚貝の調理に、白ワインで蒸す、香辛料で蒸す、ビールで蒸すなど、多様な調理法がメニューに示される。単に「ビールで蒸す」と言っても、そのビアがまた多岐にわたり、普通のラガービアで蒸してもいいし、苦みもアルコール度もコクも深くて濃厚なトリプルビールで蒸してもいい。どのビアで蒸すかによって、ムールの味わいも全く違うのである。
チョコイチゴ2
(グループ分けされたチョコいちご君たち)

 こういう進化や深化のありようは、20世紀終盤から21世紀初期にかけて「ガラパゴス化」と揶揄された。「技術立国」だったはずの日本のエレクトロニクス業界も同じこと。海外諸国、特に日本をライバル視する近隣諸国からガラパゴス化を嗤われた。
 新製品を発表するたびに、海外のユーザーは「そんなの、オレたちは使いこなせない」「使える機能だけにしぼって、もっと安価な製品にしてほしい」と、失笑なり冷笑なりを隠さない。日本の優秀な技術者たちがどれほどツライ思いをしたか。クマ蔵は彼ら彼女らの悔しさを考えるだけで、熱い涙をこらえきれない。
 やがて海外の失笑と冷笑に耐えられなくなって、「誰にでも使いこなせる安価な製品」を作らせてくれる外国メーカーに、優秀な頭脳は次々と流出した。近隣アジア諸国のメーカーから、激しいヘッドハンティングが続いた。それに気づいた日本国内の人々も、自分自身をガラパゴスと呼んで自嘲。嘲笑と憫笑を自らに向けたわけである。
チーズムール
(チーズをかけられた、余りにシツコすぎるムール軍団。ここまでシツコイんじゃ、ガラパゴス化のソシリも免れない)

 しかし、そういう「ものづくり日本の終焉」みたいな自嘲的議論は、そろそろ終わりにしていいんじゃないか。「オレたちにも使いこなせる機能に限定した安価な製品」。そういう製品はやがて飽和状態になって、世界の消費者は遅かれ早かれ飽き飽きしてしまうのである。
「もっと高性能の製品はないのか?」
「安価で安易な商品の消費には飽きた。これからは、例えガラパゴスでもいい、独自に深く濃密に進化した、使って面白い製品を消費したい」。
世界の消費性向がその方向に変化しないと信じ、同じような劣等財を生産しつづける行動は、近い将来の破綻を免れない。
ベルギービール
(ガラパゴス的進化を遂げたベルギービア軍団。左から、高いアルコール度のせいで甘く感じるCHIMEY BLUE、「即死」を意味するMORT SUBITE、濃密な味わいのORVAL)

 22世紀か23世紀の歴史学者たちは、1990年から2010年に至る20年を「劣等財が世界を席巻した時代」と定義するだろう。サトイモ男爵はそう確信している。
 「劣等財って、何ですか?」というヒトもいるだろうから、中3社会の「公民」分野か、高校の「政治経済」で学ぶべき話を、ここに書いておくことにする。今井君が学んだ田舎の高校では教えてくれなかったので、サトイモ里之丞が「劣等財」について学んだのは、何と大学学部1年生の時であった。
馬ビア
(ウマ印のビア)

 バターとマーガリンが共存している市場で、「劣等財」と呼ばれるのは、安いマーガリンである。一般に、所得の上昇に伴って商品の需要も上昇するが、劣等財においては、所得の向上と需要増との健全な連動は発生しない。所得が上がれば、逆に需要が減り、所得が下がれば需要の向上する財、それを劣等財または下級財と呼ぶ。
 所得減に連動して需要が向上する財とは、具体的には何だろう。ホンモノのビールに対して、豆で作った「第3のビール」。本格ラーメン屋のラーメンに対して、激安カップラーメン。ホンモノの寿司職人が握った高級にぎり寿司に対して、ロボットがシャリを固めて作る格安回転寿司。まあ、マコトに分かりやすい話である。
パトラッシュビア
(ネロとパトラッシュがラベルの「フランダースの犬」ビア)

 授業料は高いが担任指導や確認テストが充実して、しっかり成績を伸ばしてくれる予備校に対して、「週2回くりゃいい。安いよ。メンドーな小テストなんか、全くないよ。放置してもらえるよ」と大宣伝する、安価で安易な予備校も劣等財である。
 センター試験の解答速報を見てみたまえ。東進なんか、「ダメな選択肢が何故ダメか」まで詳細に解説してくれている。これは上級財。それに対して、劣等財とハッキリ分かる予備校は、ムキダシの解答だけを提示し、「ダメな選択肢が何故ダメなんか、我々の知ったことじゃねえぜ」という姿勢を崩さない。
 「その予備校がどこか」を明示すれば営業妨害と言われかねないから、そこんところは読者諸賢が実際に調べてくれたまえ。筆者:サトイモ里之丞が言いたいのは、そういう個別の小さなことではない。
ブルージュビア
(これも苦くて濃密なブリュージュ・トリプル)

 この20年の世界では、「劣等財優先、ガラパゴス化してヤタラに高級化した上級財より、最低限の需要を満たす劣等財でかまわない」という消費性向が圧倒的に優勢だった。
 こういう世界の中で、ガラパゴス日本が苦境に立たされるのは当たり前。20年、近隣諸国の冷笑に歯を食いしばって耐えながら、世界の消費性向が変質(正確に言えば、成長ないし成熟)するのを、じっと待ちつづけてきたのである。
 途上国はまだ貧しくて、日本の成熟した製品に手が出ない。先進諸国は、デフレ的に縮小しつづける経済の中で、やっぱり成熟しすぎた日本の製品に手を出す経済的余裕がない。「ホドホドでいい」「最小限でいい」、世界のみんながそう感じそう考えつづけた20年、日本が長期的に不調に陥ったのは、むしろ当然であった。
レフブロンド
(今井君がベルギーで一番気に入ったレフ・ブロンド)

 この程度のことは、今井君みたいな愚かな予備校講師が、予備校の小さな小さな世界から窓の外を覗いてみただけで、ハッキリ分かることである。
 「ソコソコでいい」「ホドホドでいい」という消費性向を「ソコホド主義」と呼んだのは、駿台の世界史講師:鴨下師である。鴨下氏は、「カリスマ」と呼ばれることもなかったし、超人気講師でもなかった(mac君の変換は「町人寄港し」である)。今もなお講師を続けているかどうかは今井君の知る所ではないが、しかし、名言というものはいつもカリスマの口から飛び出すものではない。
 世界が「ソコホド主義」に甘んじていた20年、ガラパゴス的にでも尖端を進みつづける日本が不調に陥っていたのは当たり前。しかし諸君、いまや途上国の人々も「ソコホドな製品は使い飽きた」と漏らし、欧米先進国も21世紀初期10年の絶不調からようやく脱しつつある。
レフブラン
(同じレフだが、こちらはレフ・ブラン)

 多少のヒイキメ目はあるものの、ボクチンは「やっと日本の時代が巡ってきた」「ココからは、我々が攻める番だ」と感じるのである。それもクダらない嫉妬とか、「中国と韓国を見返してやる」とか、何だか面倒なコンプレックスの裏返しじゃなくて、「日本が世界をシアワセにする」という決意であってほしいのだ。
 ヨーロッパの小国ベルギーで、進化しすぎたビールを満喫し、チョコにワッフルにムール貝を眺めながら、サトイモ君は以上のような確信を獲得。日本の若者たちに早く伝えたくてたまらなかった。
 ベルギーの旅行記に「番外編」を付け加える気になったのは、その確信のせいである。「ビールなんか、全部ラガーでいいじゃないか」なら、手っ取り早く大量生産して「規模の経済」の効率を見せつけられる。しかし、一人一人の消費性向に注目して、それに丁寧に応えようとすれば、ごく自然に多種多様なベルギービアの世界が構築される。
 こうして、ベルギーの人たちは、こんなに優しくなった。乱暴に大雑把に世界をヒトククリにして、「英語を身につけなきゃ」「いや、これからの世界は中国語だ」と妙竹林な方向に前のめりになってもいない。
 彼ら彼女らは、ひたすら優しく穏やかに微笑みながら、自分たちの大好きな食品を「もっと進化させよう」「もっとガラパゴス化させよう」「ビアとチョコとムールとゴーフルで、世界をもっとシアワセにしよう」と日々励んでいる。マコトに21世紀的であるとサトイモ男爵は感じるのである。
レフロイヤル
(4度も入ってナジミになった「LE ROY」のウェイターに奨められた、レフ・ロワイヤル)

 諸君、ソコホドな劣等財が世界を席巻する時代は、まもなく終わりを告げる。ハッキリと個性を主張し、ハッキリと進化の方向性を示せる財にしか、世界は注目しなくなる。世界を旅しつづける今井君の鼻がそう感じるのだ。何の根拠もないが、おそらくこれは正解の一部分ではある。
 すると、若い諸君は何を努力目標にすべきだろうか。ソコホドに満足して、センター試験みたいな画一的テストの高得点だけに集中すべきなのだろうか。それとも、諸君自身が人財として、高級財ないし優等財に育つ努力を、熱く激しく継続すべきなのだろうか。その解答は、小林秀雄や加藤周一を読み込むまでもない。余りにも明らかであると信じる。

1E(Cd) Barenboim & Berlin:LISZT/DANTE SYMPHONY・DANTE SONATA
2E(Cd) Barenboim & Berlin:LISZT/DANTE SYMPHONY・DANTE SONATA
3E(Cd) Barenboim:MENDELSSOHN/LIEDER OHNE WORTE①
4E(Cd) Barenboim:MENDELSSOHN/LIEDER OHNE WORTE②
5E(Cd) Gradys Knight:JUST FOR YOU
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