Sat 121229 アクセス数が上昇 柴田師の思い出 グランプラス(ベルギー冬物語5) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sat 121229 アクセス数が上昇 柴田師の思い出 グランプラス(ベルギー冬物語5)

 今井ブログへのアクセス数がたいへんなことになっている。先週末から急上昇して、1日7000件を超えたと思ったら、センター試験の終了した1月20日には1万件を超え、翌21日にも約9000件を記録した。
 毎年のこととは言え、センター試験でうまくいかなかった人たちを中心に「どうしたらいいんだ」「どう考えたらいいんだ」、または塾や予備校の若い先生がたの「生徒にどう言ってあげたらいいんだ?」など、そういう疑問に対する一種の駆け込み寺になっているようである。
市庁舎
(ブリュッセル・グランプラス 市庁舎)

 その気持ちはイヤと言うほどよく分かる。おおむかし、センター試験がまだ始まる前のこと、センター試験の前身にあたる「東大1次試験」というのがあった。3月3日が1次試験。1次合格発表が6日、同じ日に早稲田政経の合格発表もあって、翌々日3月8日が2次試験。おお、まさに過密スケジュールである。
 「東大は論述力の戦いだ」と信じ、他人の作った選択肢を選択するだけの試験を軽蔑し、ひたすら論述力だけを鍛えてきた受験生の前に、まさにその「選択肢を選ぶだけ」「時間との勝負」の東大1次試験が立ちふさがった。
 「何で、あんなのが必要なの?」と東大受験生の多くがこぼしていた。2次なら自信があるが、とにかく1次がコワい。1次の現代文(当時は「現代国語」と呼んだ)が一番イヤだ。だって、選択肢のすべてがマヌケに見えて、どれを選んでもマトモな答えとは思えない。文型の優秀な学生は「1次の現代国語が不安」「英語もイヤ」と口を揃えた。
王の館
(ブリュッセル・グランプラス 王の館)

 今井君は何とか1次試験を通過。生まれてこのかた今井君は、選択肢に対するオトナの対処が絶妙で、選択肢を作成した出題者の心理を、魔法のように正確に読める。勉強していない科目だって、選択肢だけ見れば正解が見える、そういうコズルイ人間なのである。
 しかしいくらコズルイ人間でも、東大の2次論述試験を勝ち抜くことは出来ない。3月20日、東大本郷の合格発表に、今井君の名前は掲示されていなかった。あの春の日に、絶望をかかえて本郷3丁目の駅から乗り込んだのが、地下鉄丸ノ内線の池袋行き。ついこの間、ブエノスアイレスの裏町で偶然の邂逅を果たしたあの車両である。
ブエノスアイレス地下鉄
(当時の地下鉄丸ノ内線。ブエノスアイレスで邂逅)

 早稲田政経政治か、1年予備校に通って東大を目指すか。若き今井君はマコトにせっかちだったから、電車が茗荷谷→新大塚と進んで池袋に着くまでに、もう「早稲田は蹴ろう。駿台に行こう」と決めていた。「早稲田を蹴る」「滑り止めには行かない」など、今考えればホントにイヤらしい言葉遣いを平気でしていたころのことである。
 実際には、もう駿台の入学試験にも合格していた。東大の感触があまりに悪かった今井君は、3月11日の駿台入学試験を受けて、当時は超難関だった「東大コース文科1類」に合格してしまっていたのである。数百年むかしのこと、「ホンキで東大を目指すなら、駿台」と憲法にも書かれていたほど♨。今とは全く違っていたのである。
ブエノスアイレス地下鉄2
(丸ノ内線の車内風景。ブエノスアイレスで)

 駿台では、ひたすら数学と世界史の授業を受けた。ダメだった理由が世界史と数学だったのは、火を見るよりもあきらか。昔の予備校では「もぐる」という行動はごく当たり前のこととして、暗黙の了解事項。文1の生徒が文2(一橋コース)や特文(その他コース)の授業にもぐっても、誰にも文句を言われなかった。
 数学で、長岡亮介師と秋山仁師の授業にもぐるのは、当時の駿台生の常識。人気にも実力にも翳りの見えていた3N(野沢/根岸/中田の各師)より、まず長岡、次に秋山、他に蓼沼師などというのも「まあ人気」「関脇クラス」扱いになっていたかもしれない。
ギルドハウス1
(ブリュッセル・グランプラス 中世のギルドハウス群 1)

 世界史は、文1が大岡、文2が柴田、特文が関の各師。大岡と柴田は大学教授タイプの授業で、座ったまま目いっぱい語りまくる。昔の予備校では、この「座ったままウルトラ早口で語りまくる」というスタイルの先生がむしろ普通だった。
 関はいかにも予備校講師タイプの芸術的な授業で、教室に入るとまず巨大な黒板に1本の横線を引く、50分かけて、この1本の横線を中心にカラフルに書き込みを入れ、今では多くの予備校講師のスタンダードになった「要点ボード」「解説パネル」を作成していく。
 完成した黒板を写真に撮れば、そのままキレイな参考書が出来上がるはずだが、昔のマジメな学生はもちろんそんなことは考えない。50分×2コマ、ひたすら関師にあわせてノートに板書を写していく。「予習」と称して、ノートに1本線を引いてくるだけのヤツも多かった。
ギルドハウス2
(ブリュッセル・グランプラス 中世のギルドハウス群 2)

 当時の今井君が一番好きだったのは、文2担当の柴田師である。何しろ東大に行くために浪人した生徒たちがほとんどだから、文1担当:大岡師の人気が圧倒的なのは当たり前。しかし若き今井君は、あくまで知的でエネルギッシュな柴田師の授業に魅了された。
 今井君は記憶力抜群であるから、今でもなお柴田師のマネが出来るほどである。4月、最初の授業で「衛青・霍去病の活躍」と先生が板書した文字まで覚えている。「えいせい・かっきょへい」? そんなの、それまで世界史の教科書でも問題集でも、見たことも聞いたこともなかったから、今井君は大いに傷ついた。
ギルドハウス3
(ブリュッセル・グランプラス 中世のギルドハウス群 3)

 「ベルガエ族」というのもあった。カエサルが優れた文章家であることぐらいは知っていても、「ガリア戦記」の中身までは知らない。今のベルギー周辺を支配していたのがベルガエ族だったような気がするが、カエサルがどうガリアを支配下に収めていったか、火曜日の朝、眠気の支配する教室で、柴田師は滔々と説いていった。
 その帰り、御茶ノ水の丸善で、岩波文庫の「ガリア戦記」を購入。当時は埼玉県大宮に住んでいたから、大宮—御茶ノ水の通学電車内で、丸1ヶ月かけて「ガリア戦記」を読破。副将ラビエヌスの活躍に胸を躍らせた。
市庁舎拡大
(ブリュッセル・グランプラス 市庁舎拡大図)

 10年に及ぶガリアでの戦いで、英雄カエサルもしょっちゅう危機に陥るのである。真冬の荒野の真ん中で裏切ったガリア軍連合に包囲されたり、「アレシアの戦い」では敵の若き闘将ヴェルチンジェトリックスの前に。危機一髪の状況にまで追い込まれたりする。そのたびに、マコトに見事にカエサルを救うのは、副将ラビエヌスなのである。
 その後、カエサルがポンペイウスと対立して「ルビコンを越える」をやってしまったとき、とうとうラビエヌスはカエサル派からポンペイウス派に変わる。そこからのラビエヌスの没落は、秋の日のつるべ落としのようである。
 諸君、18歳の今井君は「もし将来、歴史小説を書くことがあったら、ラビエヌスの生真面目な生涯を上下巻にわたって丹念に描きたい」と決意したほどであった。生真面目にカエサルを支える前半、カエサルの元を去って一気に下り坂を駆け下りる後半。この対照があまりにも感動的だろう、そう考えたのである。
白鳥
(ブリュッセル・グランプラス 白鳥さんのレストラン)

 柴田師の授業では、「ウォータールー」という一言にも感激した。それまでの今井君の知識の中では、Waterlooはあくまで「ワーテルロー」。ナポレオンと言えば、何が何でも「ワーテルローの戦い」であって、ワーテルローはスタンダール「パルムの僧院」の前半の白眉でもある。
 ところが柴田師は、何のタメライもなく「ウォータールーの戦い」とおっしゃる。200名の生徒たちも、全く当然のように「ウォータールーの戦い」とノートをとる。うにゃにゃ、さすがに都会の先生&都会の生徒。田舎者丸出しだった18歳のサトイモ君は、そんな一言にさえ感激の涙が流れそうであった。
白鳥拡大
(白鳥さん、拡大図)

 そして2013年1月、御茶ノ水のあの日から幾星霜、ついに巨大サトイモに成長した今井君は、かつてベルガエ族が支配したはずのベルギーの荒野に立つ。ナポレオンが戦ったウォータールーも、ブリュッセルからバスで1時間足らずの平原にある。
 マコトに「因果は巡る糸車」。前夜、フランクフルト経由でブリュッセルに到着した焦げサトイモは、1月12日朝、とうとうブリュッセルの中心「グラン・プラス」に出た。気温は氷点下1度、凍えるような寒さである。
LeROY
(暖かい火の燃えさかる「Le Roy」。氷点下の広場で、何度も救われた)

 13世紀から15世紀のかけて。フランドル地方の繊維工業の中心地として栄えたGrand Place。英語のグランド・プレイスは、フランス語ならグラン・プラスだ。もっとも、ブリュッセル周辺は圧倒的にオランダ語が優勢。ブリュッセルだけが、オランダ語の海に浮かんだフランス語の島みたいなものだ。この朝から、今井君はオランダ文化圏の真っただ中に立っていたわけである。
 
1E(Cd) Richter:BACH/WELL-TEMPERED CLAVIER 3/4
2E(Cd) Richter:BACH/WELL-TEMPERED CLAVIER 4/4
3E(Cd) Glenn Gould:BACH/GOLDBERG VARIATION
4E(Cd) Fischer & Budapest Festival:BRAHMS/HUNGARIAN DANCES
5E(Cd) Hungarian Quartet:BRAHMS/CLARINET QUARTET・PIANO QUINTET
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