Sat 121117 とむらい合戦でサントリーホール 高級オジサマ軍団 しっかりシマチョウ | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sat 121117 とむらい合戦でサントリーホール 高級オジサマ軍団 しっかりシマチョウ

 12月10日昼過ぎの今井君は、「今日はどうしても芝居かオペラかコンサートに行かなければ済まさない」と、固く固くコブシを握りしめていた。森光子、中村勘三郎、小沢昭一、こう立て続けに訃報に接すれば、シロートながら昭和の時代から舞台を愛しつづけてきたクマ蔵としても、一種のトムライ合戦に出なきゃイケナイじゃないか。
 1週間前、急に思い立って新国立劇場にオペラ「セビーリャの理髪師」を観に行った時、今井君は「All work and no play makes Jack a dull boy」というコトワザを思い浮かべたのだった。
「そう言えば最近のワタクシは仕事ばっかりだ。日本中を飛び回って仕事に没頭、ついでにplay=『遊び』もやっているが、playには『芝居』『演劇』だってあるはずだ。仕事と遊びばっかりで『演劇』に触れていなければ、やっぱりジャックはdullになるはずだ」
こう考えてコワくなり、dullなクマにならないように、慌ててオペラパレスに飛んでいった。
チケット
(サントリーホール、当日券)

 あれから約1週間、中村勘三郎が世を去り、小沢昭一までが逝ってしまった。訃報に接し、悄然としながらサトイモ男爵が考えたのは、
「どうしてもトムライ合戦だ。今日は意地でも劇場に出掛けようじゃないか」
「そもそも、playには『遊び』『芝居』以外に『演奏』だってあるだろう。仕事ばかりで『演奏』に触れていなければ、やっぱりジャックはdullになる。今日のトムライ合戦は、サントリーホールか東京文化会館で、熱い『演奏』を聴くことにしよう」
ということであった。
サントリーホール前
(サントリーホール前のクリスマス・イルミネーション)

 さっそくHPを調べてみると、サントリーホールは大ホール&小ホールとも当日券がある。小ホールの「飯塚優子が語るオペラハイライト」も悪くなさそうだが、大ホールはソヒエフ指揮、トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団。S席17000円、A席でも15000円。うーん、値段は張るけれども、トムライ合戦におサイフの中身なんか気にしてちゃダメだ。
 曲目は、サン=サーンスのヴァイオリン協奏曲3番と、ベルリオーズの幻想交響曲。Mac君、何なんだい、「玄宗交響曲」ってのは? 玄宗と楊貴妃が出てきて長恨歌でも歌いだすのかい? しかも「何なんだい?」を「何難題?」って、どこまでも逆いつづける気かい? 「逆らいつづける機会?」ときたね。やるじゃないか、君は。
サントリーホール1
(サントリーホール、エントランスのデコレーション)

 ま、Mac君との激しい戦いの記録はこの程度にして、サン=サーンスのほうには諏訪内晶子の名前がある。「吸わない亜希子」とか、バカなことをやってる意地っ張りなMac君にこれ以上付き合うのはヤメにして、諸君、「諏訪内晶子なのに当日券が残っている」という、ホンの7~8年前なら信じがたい僥倖に、今井君は狂喜乱舞した。
 サトイモ閣下がまだ代ゼミのトップ講師♡だった頃、諏訪内晶子の人気はまさに絶頂。彼女がソリストとして登場するサントリーホールなんてのは、ほとんどプラチナ・チケットと言ってよかった。
サントリーホール2
(開演10分前)

 彼女がお医者さんと結婚したのは、何年前だったか。世の中のクラシックファンのうち、いったい何割がホンモノのクラシックファンで、残る何割がアイドルのオッカケなのか分からないが、オッカケのヒトビトは彼女の結婚を機に諏訪内ファンもヤメてしまったらしい。
 5年ぐらい前のいろんなブログなんかをみても、「諏訪内さんの結婚がショックです」と書いているオジサマがホントに多い。結婚しようがしまいが、彼女の音楽にそんなに大きな変化があるはずはないのだが、うーん、やっぱり偉大なアイドルだったのだ。
 しかし諸君、ファンをヤメなかったヒトも多い。今夜のサントリーホールは、男子率の高さに驚かされる。男子は、一見して「超一流会社の部長クラス」「お医者さん? 弁護士さん?」「大学の先生ですか?」という知的ムードをムンムン発散している男子ばかり。「予備校講師」なんてのは、今井君ぐらいだ。
和服のオカタ
(ANAインターコンチネンタルホテル。ツリーと、和服のスタッフ)

 そこで愚鈍なサトイモ閣下は、彼ら知的男子軍団に対抗するために、開演前にお隣りのANAインターコンチネンタルホテルに闖入。2階のシャンペン・バーでシャンペンを痛飲した。ホテルは完全にクリスマスモード。クリスマスツリーの下で、和服姿の女性スタッフが宿泊客の対応にあたる姿が、マコトに健気である。
 しかしそれだけじゃとても知的男子軍団に対抗できそうになかったので、36階のバーにも闖入。18時からの「ハッピーアワー」で、500円のスパークリングワインを2杯、15分で片付ける。眼下には、真っ暗な国会議事堂と、明々と灯のともる赤坂見附の街が広がっていた。
夜景
(ANAインターコンチ36階バーからの夜景。赤坂見附方面)

 18時45分、知的男子率のいよいよ急上昇するサントリーホールに舞い戻り、いよいよトムライ合戦の開始でござる。どういうわけか、当日券のクセに今井君の席は前から7列目。指揮者もソリストも、クマ蔵から10メートルも離れていない。
 うほ、こりゃスンバラシイ席でござる。3ヶ月も4ヶ月も前から発売の前売り券だって、こんなにステージ間近で演奏に見入ることは出来ない。武者ぶるいにブルブル震えだしたクマ蔵の前には、諏訪内どんのスケジュールを知りつくしたオジサマたち、ファンクラブの皆様。おお、「敵陣に深く侵入」という状況でござる。
 諏訪内どんの演奏はもちろん圧巻の出来映えであったが、サトイモ君としては特に後半のベルリオーズ「幻想交響曲」に感激。いつまでも止まない大喝采に応えてアンコールを3曲やってのけた指揮者にも大感激である。
 中でも素晴らしかったのはまだまだ若い女性のコンサートマスター。聴衆に決して媚びることのない毅然とした笑顔と、笑顔でも威厳の溢れ出る立ち姿は、未熟なクマどんにとって大いに学ぶところがあった。まさにフランス人女性らしい、人前で演ずる者としてのお手本を示したもらった気がする。
焼肉
(西麻布「十々」で祝勝会)

 しかしそんなこと言ったって、スバラシイ演奏を聞き終わった後は、当然のことながら祝勝会である。祝勝会は、自分が語りまくった後だけにあるのではない。素晴らしい演技、素晴らしい演奏、そういうものを200%楽しんだら、もちろんその後にも祝勝会は欠かせない。
 まして今夜はトムライ合戦だ。締めくくりは心行くまでお酒を飲んで、昭和の名優たちの思い出をたどりたい。サトイモ男爵は、西麻布「十々」を選択。ロースにモモ肉にミノ、焼き肉屋さんとしては全く儲からない安いお肉を炭火の上に載せてチリチリ焼きながら、昭和の思い出に耽ることにした。
 入店してすぐに「あ、今井先生だ」のオトナ女子に遭遇。マコトに残念なことに彼女は声をかけてくれなかったが、その異様に盛り上がった様子と表情から、明らかにモト生徒である。10年ぐらいまえの生徒でござるかな?
ロース
(ロース3人前)

 しかし何しろ彼女はデート中。お相手の男子のほうは今井君をご存じないらしくて、怪訝そうな表情で今井君をニラんでいる。「あれって、誰なワケ?」であり「何だよオマエ、あんなサトイモみたいなオヤジが気になるワケ?」である。
 そりゃ、気に入らないのも当たり前だ。男子とは、嫉妬深い生物である。相手の女子がキャーキャーいう対象は、何でもいいから敵なのだ。先生、教授、上司。パパ、お兄ちゃん、親戚のオニーチャン。オジーチャンだってイヤだ。大事なカノジョがワイワイ言えば言うほど、絶対に許せない敵対者にしか見えなくなってしまう。
 「あれは、英語の今井先生。テレビ画面でずっと受講してたんだ♨」「面白いんだよぉ」などという説明は、カッとなった彼氏の頭になんか絶対に入らない。「何だよ?あのサトイモ」「何だよ?あの楕円形オヤジ」「何だよ?あの変なニヤニヤ笑い」。ま、クリスマスも近い。そういう敵愾心もまたスバラシイことじゃないか。
モモ肉
(モモ肉3人前)

 さて、「今井先生ですか?」のヒトも去り、サトイモ君はここからじっくり落ち着いて飲もうと思う。ミノとかギアラとかシマチョウとか、このところホルモンに凝っていて、今夜もミノ3人前とシマチョウ1人前をさっそく注文した。そうなれば、
「今日はシマチョウにシマチョウ」
「シマチョウは脂が多い。しっかり焼くようにシマチョウ」
「脂がはねてヤケドするから、気をつけるようにシマチョウ」
「オヤジギャグはヤメにシマチョウ」
その他、もう誰にも止められないオヤジギャグの無限ループが始まる。
ミノ
(刻みネギまみれのミノ)

 それはそれでいいのだ。昭和のオヤジギャグを、ウンザリするぐらい言いつづけマチョウ。
「もうこれぐらいでヤメにシマチョウ」
「ほらまだ言ってる。ヤメにシマチョウって言ったら、チャンとヤメにシマチョウよ」
「カチョウもブチョウも、ケンカはもうヤメマチョウ」
「ほら、もっとチャンと焼きマチョウ」
「もう1皿注文シマチョウ」
 こうやってクリスマス2週間前の大寒波の夜が更けていけば、聞き慣れたオヤジギャグに表情を緩ませながら、昭和の名優たちは手を取り合って天国に昇っていってくれたものと信じる。
「しょうがねえなあ」
「つまらねえ、つまらねえ」
「まだまだオレたちの出番はあったはずなんだけどねえ」
酔っぱらった名優たちの笑い声が、おそらく空耳なんだろうけれども、寂しいサトイモ閣下の心を、ほんのわずか和ませてくれたのだった。

1E(Cd) Ashkenazy(p) Müller & Berlin:SCRIABIN SYMPHONIES 2/3
2E(Cd) Ashkenazy(p) Müller & Berlin:SCRIABIN SYMPHONIES 3/3
3E(Cd) SECRET OF ISTANBUL
4E(Cd) 1453
7E(Cn) ソヒエフ指揮 諏訪内晶子(v) トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団:サントリーホール
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