Fri 121109 キライなものを好きになる法 ポカポカ・タクシー(ンラゼマ地球一周記23) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 121109 キライなものを好きになる法 ポカポカ・タクシー(ンラゼマ地球一周記23)

 12月2日夕暮れ、今井君がどれほど意気消沈していたか。その意気消沈ぶりは、滅多な人が理解できるレベルではなかった。銀座線を渋谷で降りて、クリスマス迫る夕暮れの街にフラフラと歩き出したクマさんの風情は、いま自分で思い出してみても余りに可哀想で、思わず熱い涙が滲んできそうなほどである。
 その意気消沈の原因が何かというと、「ラグビーで早稲田が負けた」だけだというから、自分でも恐れ入る。後半30分まで32-19でリード。うまく行けば、またまたいつもの年と同じように大量リードを奪えそうな展開だった。それがロスタイムに入って1点差の劇的な逆転負け。これで意気消沈しなかったら、おかしいじゃないか。
ヒレ角
(意気消沈のクマどんは西麻布「トラジ」にヒレカクを食べに出かけた)

 しかし不思議なもので、最近5年ぐらいの今井君は「早稲田ファンだが、明治ファンでもある」という裏切り者状態にある。「この15年の明治があんまり弱かったから、日本人独特の判官ビイキで明治が好きになった」というのが正確なところだが、もう1つ、「明治大学入試の過去問解説授業をやった」のも、明治ファンになった一因である。
 30年前のラグビーにおける明治の強さは圧倒的だった。伝説の「重戦車フォワード」はホントに間違いなく重戦車であって、昨日みたいにレフェリーが認定トライを与えなくても、他大学のフォワードなんかカンタンに蹴散らす迫力があった。
ユッケジャン
(食べかけの真っ赤なユッケジャンスープ)

 圧倒的な強さが「憎らしいほど強い」と思わせるのは、全盛時の北の湖、全盛時の白鵬、昨年までの帝京大ラグビーを凌駕するほどであった。幼い頃の今井君はたいへん依怙地なコドモだったので、「憎らしいほど強い」と思った瞬間、ホントに心から憎らしくなる。コグマ今井は、明治のラグビーが憎らしくて憎らしくてたまらなかった。
 しかし諸君、「キライだ」「憎たらしい」と無意味に嫌悪していても、人生で得るところは何一つない。「キライだ」と感じたら、何をおいても好きになる努力をすることである。
センマイ
(センマイを焼いて食べられるのが嬉しい)

 毛嫌いして、コッソリ陰で悪口を言ったり書いたりしているのが最も幼稚なので、自分が幼稚なままでいるのが情けないなら、キライなもののフトコロに入ってヒトアバレしてみたまえ。あっという間に「アイツも悪いヤツじゃないな」とニヤニヤ出来るぐらいにはなるはずだ。
 いまや今井君は、ラグビー早明戦の真っただ中に「明治、頑張れ」「明治、行け!!」「明治、チャンスだ!! 押せ、押せ!!」と絶叫できるようになった。早稲田が大好きなのは1mmたりとも変わらないが、早稲田が好きだから「慶応を嫌悪する」「明治なんかサイテーだ」と言い放つのは、ホントのライバルとは言えない。どうしようもなく幼いだけである。
チャミスル
(トラジではいつも「チャミスル」。文字を知りコトバを学ぶと、自ずと親近感が湧く)

 コドモのころの今井君は、中国と韓国がどうしても好きになれなかった。我ながら情けなかったし、どうにか事態を改善したくても、「キライなものはキライ」「好き嫌いはどうしようもない」「ニンジンが好きじゃないのと同じこと」と、平然とウソブク自分を抑えられなかった。ホントに芯からコドモだったのでござる。
 意味のない「キライ」の感情は、意味がないからこそ、逆に振り払うのが困難。この場合、キーになるのは「親近感」である。どんなことでもいい、親近感さえ居抱くことができれば、情けない感情からの脱出は目の前だ。
ガレリア
(ブエノスアイレスのショッピングモール、ガレリア)

 そこでコグマ今井君は一計を案じ、NHKラジオの語学テキストを2冊購入。中国語講座とハングル講座の4月号である。4月に始まった当時の「入門編」は、9月までの半年で完結する。コトバと半年つきあえば、その国も大好きになりそうな予感があった。
 どんなことも長続きしないコドモ時代のボクチンは、結局7月号だったか8月号だったかまでしか継続することができなかったが、中国語と韓国語、1日20分ずつ4~5か月付きあったおかげで、どちらの国にもグッと親近感を居抱くようになった。コトバをホンの少しカジっただけで、人の幼稚な感情は大きく変化するものである。
アキアバラ
(ブエノスアイレス「アキアバラ」。秋葉原は南米でも大人気だ)

 語学をカジる程度の忍耐力がなかったら、サッサとその国を旅してみるのも悪くない。出かける前のアルゼンチンは、ほとんど恐怖の対象だった。経由地のニューヨークで3泊しながら、「何とか逃げ出そう」「とにかく逃げ出そう」と企んでいたほどである。
 ガイドブックやら体験記やらネットの治安情報なんかに、あれほど「コワい」「危険」「要注意」「身ぐるみ剥がれる」「全て奪われる」「命さえ奪われなければヨシとすべし」という情報が溢れていれば、命からがらのオッカナビックリも仕方ないじゃないか。
アキアバラ遠景
(アキアバラ、遠景)

 しかし、何事も怖がらずに飛び込んでみることだ。ブエノスアイレス滞在7日目、9月7日の今井君は、すでに「ヨユウのヨッチャン」に変身している。おお、古くさいねえ。ヨユウのヨッチャン、ジョーダンはヨシコさん、バッチ・グーの世界でござるよ。
 冷たい雨が降りしきる中、ヨユウのサトイモ君は、ホテルスタッフにお願いしてタクシーを1台呼んでもらった。この雨だ、外出にタクシーぐらい、悪くないじゃないか。ホンの7日前、
「空港からホテルまでのタクシーは危険」
「タクシードライバーが犯罪組織とグルになっていることがあります」
「ワザと犯罪多発地帯にクルマを乗り入れ、観光客から金品を巻き上げます」
などの情報に惑わされ、目の前が真っ赤になるほどのオッカナビックリで、「比較的安全」と言われる「レミース」に全てを託したキウィ君の臆病な面影は、もうここには残っていない。
ABC
(ブエノスアイレスで発見、ドイツ風ビアホール「ABC」。次回のアルゼンチン訪問で必ずこの店に来ようと思う)

 雨のせいか、タクシーはなかなかやってこない。20分近く待って、ようやくホテルマンが「タクシーが来ました」と今井君を呼びにきてくれた。黒を基本に少し黄色をあしらったデザインの、ブエノスアイレスを最も多く走り回っているタクシーである。
 今日のサトイモ男爵は、ブエノスアイレス最大のショッピングセンターに出掛けようと思う。デパートやショッピングセンターは、間違いなく面白い。ベルリンのデパートKDW(カー・デー・ヴェー)、バルセロナの巨大なコルテ・イングレス、ニューヨークでもエジンバラでもミラノでも、デパート見物は今井君にとって観光の目玉の1つである。
 目指すは、ショッピングモール「ガレリアス・パシフィコ」。タクシードライバーに告げると、すぐに頷いて雨の中を走り出した。
ABC遠景
(ビアホール「ABC」遠景)

 ところが諸君、明らかに道が違う。こんなの、滞在たった7日目のクマ蔵だって一瞬で「道が違うよ」と分かる。だって、完全に反対の方向に右折したんだ。今井君は、すぐに最悪の事態を覚悟した。ネット情報にあった「ワザと犯罪地帯にクルマを乗り入れる」というヤツである。
 「最終日に至って、油断しすぎたか」という後悔が、胃液タップリのゲップのように苦く酸っぱくこみ上げてきた。その瞬間である。突然ドライバーが、自分の頭を大きな動作でポカリと殴った。ポカリ、またポカリ。絶対痛くないように注意しながら、自分のバカさ加減を戒めるように、ポカリと殴っては、
「ボクの、バカ!!」
「バカ、バカ、andバカ」
「オレって、なんてバカなんだ」
「オレには、もうこれ以上タクシー運転手なんか、続ける資格はない」
と、吐き捨てるように呟きつづける。身悶えするほど、強烈に後悔しているようである。
 つまり彼は「ワザと遠回りする」というこの業界の古典的ズルを試みたわけである。21世紀の日本、少なくとも東京では考えられないが、クマ蔵がまだコグマだった頃の日本のタクシー運転手は、よくこの手を使った。
タクシー1
(ブエノスアイレスのタクシー 1  本文の内容とは関係ありません)

 だから今井君の母・快傑ババサマなんかは、今でも運転手さんを信用しようとしない。ちょっとでもいつもと違う道に入れば、すぐに「ゴマかそうとしてるんじゃないか」「ワザと遠回りしてるんじゃないか」と疑いはじめる。
 しかし、今はまあいいじゃないか、許してあげよう。今日は日曜日、しかもこんな雨の中だ。高級ホテルに呼ばれて、「すわ、空港までか。ならば大きな稼ぎになるな」と喜び勇んで走ってきたのだ。それなのに、たったワンメーターで行きつきそうな「ガレリアまで」だって? そりゃ、むしろお客の方が悪いのかもしれない。
 彼はまだ自らを責めさいなむマネをしている。5分経過しても、まだ自分をポカポカ殴っては、「オレはダメなヤツだ」「オレはバカな運転手だ」をやりつづけている。結局15分もかかって目的地に着いたが、タクシーメーターは2000円程度だった。
タクシー2
(ブエノスアイレスのタクシー 2  本文の内容とは関係ありません)

 いいから、いいから。そんなに自分を懲らしめるフリをしなくても、2000円ぐらいチャンと払ってあげるから。これからは、日本人のお客が乗っても、そんな見え透いた古典的テクニックは使わないでね。
 おお、さすがに今井君。コンスタントに精神を成長させつづけている。つい半年前、イスタンブールの路上でタクシー運転手と怒鳴りあった幼稚な姿は、もう微塵もない。あの時は最終的にガッチリ勝利してみせたけれども、その勝利にどれほどの意味があるのか。丁寧に運転してくれたこと、自分をポカポカ殴るパフォーマンスへのチップのつもりなら、2000円ぐらい、まあいいじゃないか。

1E(Cd) Amalia Rodrigues:SUPERNOW
2E(Cd) Haydon Trio Eisenstadt:JOSEPH HAYDN:SCOTTISH SONGS 1/18
3E(Cd) Haydon Trio Eisenstadt:JOSEPH HAYDN:SCOTTISH SONGS 2/18
4E(Cd) Haydon Trio Eisenstadt:JOSEPH HAYDN:SCOTTISH SONGS 3/18
5E(Cd) Haydon Trio Eisenstadt:JOSEPH HAYDN:SCOTTISH SONGS 4/18
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