Thu 121108 釜本伝説の記憶 3軒目のステーキ屋・ミラソル(ンラゼマ地球一周記22) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 121108 釜本伝説の記憶 3軒目のステーキ屋・ミラソル(ンラゼマ地球一周記22)

 9月6日、こうして無事にウルグアイから帰還してみると、ブエノスアイレスの街が懐かしい故郷のように感じられるから、人とは不思議なものである。茶褐色の大河をホンの2時間、それだけで水も空気も生き物たちも、全く異質に感じられるのだ。
 ウルグアイについての記憶を、もう1つだけ書いておきたい。今井君にとってのウルグアイは、専ら釜本邦茂伝説につながっている。1968年、メキシコ・オリンピックで日本サッカーが銅メダルを獲得した直後、日本の少年がみんなサッカーに夢中になった時期があった。
雨のブエノスアイレス1
(雨のブエノスアイレス ファエナホテル付近)

 小学館の学習雑誌「小学X年生」が全盛の頃で、少年マガジンや少年サンデーは買ってもらえなくても、「小学X年生」だけは別格。「1年生」から「6年生」まで、オバケのQ太郎もパーマンも、ウメ星デンカも背番号ゼロも、「おそ松くん」のイヤミやデカパンにも、今井君は小学館の「小学X年生」の中で親しんだ。
 その中に、「釜本邦茂の伝記」があった。少年時代の釜本邦茂は、野球少年。地元の少年野球チームでもピッチャーで4番。今日もまたホームランを打って、「きっとプロ野球のスター選手になる」と自分も周囲も信じきって暮らしていた。ところがある日、ある熱血先生にサッカーの素晴らしさを教えてもらう。
雨のブエノスアイレス2
(雨のブエノスアイレス ウルグアイへのフェリー乗り場付近)

 「野球なんか、日本とアメリカと、アメリカの近くの2~3の国でやってるだけだ」
「サッカーなら、ボール1個あればどこでも出来る」
「例えば、ウルグアイという貧しい国がある。しかしウルグアイは、ワールドカップで2回も優勝している。日本だって、きっと出来るはずだ」
 先生はこんなふうに熱く語る。日本は戦争で敗れたばかり。貧困の極限と言ってもいい。邦茂少年はサッカーに目覚め、1945年8月15日の終戦からたった23年で、日本サッカーを銅メダルの栄光に導くのである。
ミラソルにて
(ブエノスアイレス「ミラソル」店内)

 うにゃにゃ、今井君が「ウルグアイ」という国の名前を心に刻んだのは、あの小学館「小学X年生」の伝記の中だったのだ。以後、今井君はウルグアイについて無関心なまま。今回の訪問も、全く偶然のなせるワザ、または単なる気まぐれ、その程度であった。
 パラグアイなら、その直後に日本の少年を熱狂させた「切手収集ブーム」の時に、何故か「パラグアイの記念切手」が日本に大量に流入したし、ついこの間のワールドカップでも、日本の最後の対戦相手はパラグアイだった。しかしウルグアイとなると、うーん、どうも、関心の持ちようがないじゃないか。
 しかし、こうやってホンの気まぐれで半日をウルグアイで過ごし、目玉焼きをかき混ぜ、野良犬を撫で、色とりどりのビアを飲み、それだけでウルグアイが大好きになる。「次は絶対に首都モンテビデオまで行ってみよう」と決意する。やっぱり、旅はスンバラシイものである。
前菜
(名店「ミラソル」の前菜)

 さて、ブエノスアイレスに再上陸すると、朝のうちから降っていた雨はいっそう激しさを増し、とても傘なしで歩ける状態ではない。断捨離寸前、8年も世界を一緒にのし歩いてきた折り畳み傘にも、最後の活躍の場がやってきた。
 冷たい雨に震えながら、サトイモ男爵は「やっぱり肉をワシワシやっていこう」と決意する。これほど寒いと、さすがに「ホテルの部屋でスナック菓子と熱いスープの夕食でゴマカしちゃおう」という選択肢はボツである。
ワイン
(ワインは単純に「トランペッター」に決めた)

 肉、とにかく肉。クマの肉体の極めて深いところから、そう命ずる声が聞こえた。肉をムサボリ、赤ワインをグビグビ。出来れば、熱いスープを思い切り塩辛く味付けして、冷えきった肉体を温めたい。
 入った店は、フェリー乗り場から近い「ミラソル」。「あれれ、ラ・エスタンシアを裏切るの?」「エスタンシアにミサオを立てないの?」という声に関しては、「ミサオを立てないわけじゃない」「裏切ったわけじゃない」と力強く答えておこう。裏切る気は一切ないが、この雨の中、フェリー乗り場からではあまりに遠すぎたのである。
お肉1
(ミラソルの巨大ステーキ)

 「ミラソル」は、運河に面して高級飲食店がズラリと並んだ一角、最も港寄りの店である。激しい雨の向こうに、オレンジ色の看板がいかにも暖かそうに浮かんでいた。
 時刻は18時まえ。「夕食」というには早すぎて、どうしてもヒョーロクダマ状態は免れないが、身体が芯から冷えていて、とてもそんなことを気にしていられる場合じゃない。他のお客が1人だけ存在することを確認して、安堵の胸を撫で下ろしながらテーブルについた。
お肉2
(ジューシーな切り口 1)

 さすがに高級店であって、ワインの種類も「エスタンシア」とは比較にならないぐらい多い。とは言っても、もちろん今井君は「旨けりゃ、安くても構わない」「楽しけりゃ、銘柄なんか一切うるさく言わない」タイプ。一番安直なワインを一本注文して、それをグビグビ飲み干せば、今日1日の幸福は確定する。
 ステーキは、ホントに分厚いフィレ肉が500グラム。切り口はローストビーフと一緒である。粒のままの黒胡椒がタップリ数十個も載っかって、その軟らかい粒をかむたびに、爽やかな辛さが肉の味を引き締める。おお、若干値段は張るけれども、今夜この店を選んでホントによかった。
お肉3
(ジューシーな切り口 2)

 付け合わせをわざわざ注文しなくても、写真のような大きなグラタンが黙って運ばれてくる。中身はポテトとブロッコリーである。確かに東京でもニューヨークでも、ステーキ屋さんの付けあわせと言えばポテトとブロッコリーが普通だから、この際2つを1皿にマトメちゃったということである。
グラタン
(これが「付け合わせ」とは信じがたいグラタンちゃん)

 19時過ぎ、そろそろ他のお客さんたちがお店を訪れはじめる時刻になって、満腹の今井君は「ミラソル」を後にした。もっとも、この冷たい雨だ。「他のお客さんたち」の出足は極めて悪い。そもそも、運河沿いにズラリと並んだ高級店の旗色は、あまりよくないようである。
 日本のガイドブックにデカデカと紹介されている「ブラジル風シュラスコの店」は、この夜もお客の姿は全く見えない。「店員さんに頼めば、その場で陽気に肉を切り分けてくれる」というスタイルの店が、こんなに閑散としていたのでは、さすがにお客だってチョイとツラそうであるね。
 こうして、クマ蔵は無事にファエナ・ホテルに帰還した。雨はそのまま翌朝まで降り続き、翌日も1日強い雨の予報である。アルゼンチン滞在は明日が最終日になるが、「さてと、雨じゃ困ったな」「何もすることがないや」、そういう若干ガッカリなお天気になった。

1E(Cd) George Benson:STANDING TOGETHER
2E(Cd) Chicago:CHICAGO
3E(Cd) Take 6:BEAUTIFUL WORLD
4E(Cd) Kazuhiko Komatu & Saint Petersburg:貴志康一/SYMPHONY ”BUDDHA”
5E(Cd) Akiko Suwanai, Dutoit & NHK響:武満徹 ”FAR CALLS” ”REQUIEM FOR STRINGS”etc
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