Tue 121106 昼食はケムケムか否か ブエノスアイレスに無事帰還(ンラゼマ地球一周記21) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 121106 昼食はケムケムか否か ブエノスアイレスに無事帰還(ンラゼマ地球一周記21)

 そういうつまらないことを延々と考え続けていたが(スミマセン、昨日の続きです)、つまらないことを考えすぎて、クマ蔵は猛然と腹が減ってきた。メシ食うべ、メシ食うべ。さすがに世界遺産の町だけあって、観光客を見込んだメシ屋は、荒涼とした岬の周囲に4~5軒が軒を並べている。
料理
(ウルグアイの昼食)

 しかし問題は、「どこへ入ってもヒョーロクダマ」という状況である。とにかく周囲を見渡しても、観光客なんか数組しか見当たらない。みんなヒョーロクダマ状態になることを恐れて「アンタ、先に入りなさいよ」「アイツが入ったら、オレたちも行こうぜ」「とにかく、最初に入るのはイヤだな」と互いに牽制しあうばかりだ。
 派手に窯からケムリをあげて「さあ、肉を焼きましょう」みたいな声を張り上げている店もあった。ガイドブックにも紹介されている店で、「プエルト・マデーラ」。著者によると「岬の近くに立つオシャレなパリージャ。客席に面して大きな窯が置かれ、肉の焼ける香ばしい匂いが食欲をそそる」とある。
お店1
(青いケムケムのプエルト・マデーラ)

 おお、まさにほとんど記述の通り。大きな窯から青いケムがモクモク&ケムケムあがって、泥色の岬をケムくさく彩っている。しかし問題は「そのケムが食欲をそそるかどうか」。少なくとも今井君の食欲はゲンナリと萎えていく。
 だって、お客が誰一人いないのだ。屋内とテラス席で100名ほどは収容できそうな大型店。店員さん5~6名が盛んにお客を物色しているが、なかなか親切に声をかけてはくれない。鋭い視線で「この客は儲かりそうか?」を値踏みしている様子である。
お店2
(オシャレそうなお店もあった)

 ガイドブックにはもう1軒「パリジャーダ・エル・ボルトン」も紹介されている。こちらは岬から離れて街中に入り、「大通りに面し、地元の人に人気のパリージャ」「食事時は大勢の人で賑わっている」と、ガイドブックは紹介している。
 ところが「大勢の人で賑わっている」はずの食事時の真っ最中なのに、外から偵察したかぎりでは、お客の数は3。「3」を「大勢」と表現するかどうかは、まあその人の好みと趣味と感性の問題だが、育ちの悪い今井君にとって、大勢:X≧100は譲れない。やっぱり、大台を超えていないと「大勢」という言葉はなかなか遣いにくい。
のらわんこ1
(寂しげな野良ワンコ 1)

 この状況下で、サトイモ閣下は一番目立たない店を選択。青いケムケムを窯からあげて岬をケム臭くするド派手店も悪くないが、ハデハデしタぶん「アイツだけ」になったときの惨めさが大きい。だって、万一たくさんの観光客が大型バスで岬に押し寄せてきたとき、そりゃまるっきり動物園のクマさん状態である。
 「お、食ったぞ」「お、また食った」「おお、今度はビール飲んだぜ」「ケッコ、可愛いんじゃね?」「足、みじけェ!!」「げろ、ケッコ態度デカイよな」みたいな感想を、遠巻きにした人々が大きな声で述べあい、語り合い、互いにケナしあう中で、ウシの臓物を平らげるなんて、サトイモ閣下はゴメンでござる。
のらわんこ2
(寂しげな野良ワンコ 2)

 それに、選択した地味な店の若い店主の優しい誘い方も気に入った。「これがオススメだ」「オススメ以外にもいろいろありますよ」「ビアもあれば、ワインもあります」。当たり前のセリフに過ぎないが、見慣れない東洋人に積極的に話しかけてくれた温かさがいいじゃないか。
 入ってみると、確かに間違いなくヒョーロクダマ。他の客は誰もいないし、今日1日店を開いていても、おそらくお客は1人も来ない。今井君が今日唯一の客、今井君が帰ったら、すぐにでも店じまいしよう。変な東洋人だが、コイツを相手にせいぜい仕事しよう。そういう雰囲気で、店はパッと色めき立った。
街の風景
(コローニアの街)

 キウィ軍曹が注文したのは、まず普通ビアと赤いビア。料理は若いダンナのオススメを1皿。ついでにロゼワイン1本。いきなりビア2本とワインをボトル1本を注文したから、お店の人も慌て気味。「は? そんなに飲んじゃうんですか?」と驚きの表情である。
 ビアはすぐに来た。普通ビアは爽やか系。赤いビアはビター系。どちらも旨い。店内の寒々とした様子、町の寂寥感と停滞感、どちらを見ても「ビアもあんまり期待できないな」とあきらめ気味だったクマ蔵の心を、冷たいビアが明るくしてくれた。
赤いビアと普通ビア
(赤いビアと普通ビア)

 そして、その瞬間である。サトイモ男爵の心が明るくなったのとほぼ同時に、ドヤドヤと店内にお客の集団が踏み込んできた。アメリカ人中高年の団体である。すぐ目の前にはいかにもアメリカ人の好きそうな「青いケムケム有名店」もあるのに、いったい何で彼らがここを選んだのか、よく分からない。
 おそらく、彼ら彼女らの選択の原因になったのが、何を隠そう「今井君の存在」なのだ。「見ろよ、東洋のクマみたいなヤツが、旨そうにビア飲んでやがるぜ」「あら、可愛いじゃない。アタシたちも入ってみましょうよ」。議論はカンタンに一決したに違いない。
ロゼ
(ロゼワインはチリからの輸入ワインだった)

 しかし諸君、アメリカ人中高年集団というものは、なかなか始末に終えないワガママ集団であることが多い。20名も入れば満員の店に30名近くでドヤドヤ押し掛けて、まず全員で順番にトイレ。やおらメニューをめくって、「あれはないか?」「これはないのか?」と無理な注文を店主に雨あられと浴びせる。
「誰と誰が同じテーブルに着くか」
「誰が屋内のテーブルに座り、誰が寒いテラス席で我慢するか」
「いったい何を食べれば旨くて、何を食べれば失敗か」
「酒は飲むべきか、ソフトドリンクで抑えるか」
議論と論争のタネは尽きず、注文は一向に決まらない。
ピルゼン
(帰りのフェリー乗り場でもウルグアイ・ビアを堪能)

 しかし結局、食べるものはみんな今井君と同じオススメ料理になったようである。酒を飲む者どうしが同じテーブルに着くことになって、その問題も落着。同じ料理が一斉に店中に行き渡り、たいへんな騒ぎの中、みんな仲良く同じ食べ物に集中しはじめた。これはまさに学校給食の風景である。
 そのオススメ料理が、今日1枚目の写真に示したシロモノである。目玉焼き2個。ハム2枚。ベーコン2枚。以上がお皿の上に乗っかり、その下には大量のフライドポテトと、キャベツとキューリとトマトが敷きつめられている。
ラ・プラタ河1
(帰りの船が埠頭を回る)

 人々は黙々と目玉焼きの黄身を割り、黄身の中身をその他すべてに絡ませて食する。うにゃにゃ、見た目にはたいへん乱雑であり、たいへん汚らしい食べ方であるが、アメリカ中高年集団は、何の文句もなく嬉しそうに平らげた。平らげるに従って静寂が破れ、店内は再びとんでもない騒ぎになった。
 いやはや、とにもかくにも楽しい昼食だった。この店を選んだクマ蔵の勝利。青いケムケムの中、見物人の目にさらされながら動物園のクマのマネなんかしないで、ホントによかった。元気なアメリカ中高年に囲まれて、マコトに楽しかった。サトイモ男爵の存在は、それだけできっと人を呼ぶのである。
ラ・プラタ河2
(帰りの船からのラ・プラタ河)

 さて、温かい思い出につつまれながら、たったこれだけでクマ蔵はウルグアイを後にする。いまの昼食で、ウルグアイがヤタラに気に入ってしまった。うぉ、単純なクマであるが、サトイモもピーナツもキウィも、その単純さにこそ味があるのだ。今度は首都モンテビデオまで侵入し、モンテビデオの寂しい店を一気に盛り上げてあげたいと思う。
 16時、Last but oneのお船でブエノスアイレスに戻る。さすがにラストのお船にしてしまったら、「万が一乗り遅れたら、どうすんべ?」という不安を抑えきれないだろう。だってこんな寂しい町だ。緊急に宿泊する小さなホテルだって、カンタンには見つかりそうにない。
ブエノスアイレスが見えてきた
(ブエノスアイレスが見えてきた)

 こうして再びお船に乗って、海より広漠としたラ・プラタ河を西に向かう。今回の地球一周で、西に向かって旅したのは、この船の旅だけである。1時間半後、激しく雨の降るブエノスアイレスの町が、泥の上に浮き上がるように見えてきた。
 おお、無事に帰ってきた。ブエノスアイレスの街に「ただいま。無事帰ってきたよ」と挨拶することがあろうとは、日本にいた頃のクマ蔵は想像したこともなかった。旅とは、ホントに不思議なものである。

1E(Cd) Michael McDonald:SWEET FREEDOM
2E(Cd) THE BEST OF JAMES INGRAM
3E(Cd) Peabo Bryson:UNCONDITIONAL LOVE
4E(Cd) Four Play:FOUR PLAY
5E(Cd) Deni Hines:IMAGINATION
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