Sat 120829 富山食べ歩き 旨くもなければマズくもない あやしうこそものぐるほしけれ | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sat 120829 富山食べ歩き 旨くもなければマズくもない あやしうこそものぐるほしけれ

 19日の富山でいったん講演会ラッシュは終わり。9月中の予定は、熊本講演会が25日、吉祥寺での授業収録が27日。それだけだから、まあ一休みというところである。
 13日にブエノスアイレス→フランクフルトから帰国したばかりで、15日にはもう神戸に入って4連続の公開授業。正直言って目が回った。ここでちょっと気を抜いて、2~3日は食べたり飲んだり遊んだり、カラダを休めようと思う。
 そこで9月20日、東京に戻る前にまず富山で「食べたり飲んだり」を開始することにした。もちろん今井君の「食べたり飲んだり」はたいへん地味であって、シャケよりドングリを好むクマさんのタイプ。オカネの使い方もたいへん地道である。
 諸君、この地味なお蕎麦の写真から見てくれたまえ。富山城のすぐ近く、富山大手町の「生蕎麦 青山」で注文した「冷やしオロシそば」である。
蕎麦1
(冷やしオロシそば)

 マトモな人の食べ歩きブログなんかだと、写真でも映像でも「おや、こりゃ旨そうだ」とヨダレが出そうになるものだが、今井君独特の食べ歩きは「何でこんなのにしたの?」と、誰もが首を傾げる類いのものが主役を務めることになる。
 だって仕方がないじゃないか。全日空ホテルの周囲を何度か行きつ戻りつし、「どこか食べ物屋はないか」「もっと派手な、いかにも『食べ歩き』っぽい店はないか」と探しまわったあげく、発見できたのはラーメン屋1軒とこのお蕎麦屋さんだけだったのだ。
外観
(お蕎麦屋さん 外観)

 あえて言えば、富山全日空ホテルの5階に和食「雲海」というのがあって、その鉄板焼コーナーでランチということにしてもよかった。近江牛ランチ、4500円。オーストラリア牛ランチ2800円。ホテルのレストランとしては、値段もリーズナブルである。
 しかし、何しろクマ蔵どんはアルゼンチンの巨大ステーキを食べ慣れてきたばかり。400g、500g、肉だけで「もうこれ以上はポンポンに入りません」というデカイのをワシワシ咀嚼して帰国したばかりだ。
 そのボクチンにとって、100gとか150gとか、チマチマしたチッコイお肉を細かく切り分けてくれる日本の芸術的鉄板焼きでは、クマにキャンディー、トラにおまんじゅう、ウマにおせんべいみたいなもの。オイチイことは間違いないが、食欲を満たすには何とも心もとない。
店内風景
(お蕎麦屋さんの店内)

 そこで、妥協に妥協を重ねた結果がこのお蕎麦屋さんである。店に入ってみると、他にお客はオジーチャンとオバーチャンが3~4人。写真に後ろ姿が写っている上品なオバーチャンは、さっき富山城前の交差点で出会ったばかりのオカタである。
 お店を切り盛りしているのは中年後半の感じのいいオバサマと、これもまた中年後半の無愛想なオヤジ。ま、オヤジなんてものは、愛想がちょっと悪いほうがむしろ好感が持てる。今日は授業も講演もないから、お昼前だけれども蕎麦屋の流儀で冷や酒を1杯注文すると、オヤジの愛想はいっそう悪くなった。
富山城
(富山城)

 お蕎麦については、特にここで感想を述べるほどのことはない。マズくはないが、旨くもない。お酒も同じことで、富山の銘酒「銀嶺立山」であるが、常温でコップにつがれた酒は、やっぱり旨くもなければマズくもない。
 今井君の意見として、蕎麦屋というものは「旨くもなければマズくもない」がベスト。マズすぎるお蕎麦は論外だが、旨すぎる蕎麦、絶品の蕎麦、長く忘れられない蕎麦、そういうのもまた論外である。
 米のメシも、うどんも、同じこと。「ほどほど」が主食の必須条件であって、「何だ、こりゃ? 旨い、旨すぎる!!」と思わず立ち上がってワナワナするような食べ物は、主食にはならない。ついでに言うとお酒もそうで、テレビのグルメ番組みたいに毎回あまりの旨さに腰を抜かしているようでは、長い付きあいは不可能である。
蕎麦2
(冷やしオロシそば。オロシとネギがタップリでござる)

 予備校の授業にも同じことが言えて、誰にもよく分かること、常に分かりやすいこと、いっぱい笑えることを必須条件に、生徒たちの主食として「激しすぎない」がベスト。「何だ、こりゃ?」と、感動のあまり生徒たちがそこいら中で立ち上がって踊りだしたり、抱き合って涙を流し、「せんせー、せんせー、ありがとー!!」と絶叫するようなのは、主食として失格である。
 というわけで、マコトに残念ながら、マトモなブログみたいにビックリマーク洪水にして「絶品でした!!」という発言はしないし、反対に「2度と行きません」とプンプンすることもしない。旨くもなければ、マズくもなかった。大根オロシの量にちょっと度肝を抜かれたが、お酒とお蕎麦と合わせて1000円、その1000円分をしっかり満喫して店を出た。
富山
(富山市。全日空ホテル16階から)

 富山市街から富山空港は、驚くほど近い。ホテルからタクシーに乗ったら、ごく普通の田舎町をごく普通に走って、20分で着いてしまった。長崎や広島だと、高速道路をすっとばして1時間、その分オサイフの負担も大きくて、1万円札1枚では足りない。富山空港だと、3000円もかからない。
 ところが「あっという間に着いちゃった」には困った側面もあって、空港で1時間以上の待ち時間が出来てしまった。サビれた地方空港のロビーで1時間。どう時間をつぶせばいいのか、見当もつかない。唖然&呆然と立ち尽くすばかりである。
ホテル
(富山の全日空ホテル。気持ちのいい応対が印象的だった)

 というのはもちろんウソで、クマ蔵の目の前には小さな食堂があり、ガラスのサンプルケースの中には「晩酌セット」の文字が見える。「晩酌」と言っても時計はまだ13時チョイであるが、何とこの晩酌セットには「10時からOK」の文字が。もちろん午後10時ではなくて、午前10時からOKなのである。何とも念の入った臨機応変ぶりではないか。
 臨機応変には臨機応変で応じるのが、この世の中のルール。ルールと言って悪ければ、幸せに生きるタクティクスであり、勝利のストラテジーである。杓子定規に「まだ昼だぞ」とお目目を四角くして諌めるのは、無粋というもの。無粋はヒトを幸せにしない。
 今井君のお仕事は、ヒトを幸せにすることであって、ヒトを幸せにするためには、まず自分がまずチョー幸せでなければならない。チョーのつくハッピーは、10時からOKの臨機応変な晩酌に、13時からホクホク応じることから始まる。
晩酌セット
(1600円。10時からOKの晩酌セット)

 以上のような回りくどい考察のモト、今井君はヒトを幸せにするために店に入り、ヒトを幸せにするために「晩酌セット」を注文した。気のよさそうなオバサマ店員さんが、オバサマとしては最高の笑顔を見せて「はいはい、晩酌セットね♡、はい」と笑った。ほら見ろ、今井君はまず手始めにこのオバサマ1人を幸せにしたじゃないか。
 運ばれてきた晩酌セットは、上の写真に示したようなシロモノ。右からカマボコ3枚、白エビ十数匹、ホタルイカ数匹、これに日本酒かビアがつく。「これで1600円は高すぎる♨」などとすぐさまプンプンするのは、ツイッター的短気であって、今井君の1600円はオバサマ店員の笑顔でとっくに報われているのである。
白海老くん
(哀れや、白エビくん)

 さて、こうして富山での「飲んだり食ったり」はオシマイ。飛行機の中で小瓶のスパークリングワインを1本飲んだけれども、そのことについて取り立てて書くことはない。何とも地味な飲んだり食ったりであるが、繰り返すように、いちいち絶品だったり、いちいち感動だったり、いちいちプンプンだったり、そんなに慌てふためいて生きるのはツライ。
 旨くもなければマズくもない、そういう平凡の積み重ねこそが人生の妙味であって、ブログというのも実は全く同じである。これといって驚きのない平凡な日々の記録を、ビックリマークなしに穏やかに日がな1日書き続けていると、まさに「あやしうこそものぐるほしけれ」な気分になっていく。

1E(Cd) Holliger:BACH/3 OBOENKONZERTE
2E(Cd) Richter:BACH/WELL-TEMPERED CLAVIER 1/4
3E(Cd) Richter:BACH/WELL-TEMPERED CLAVIER 2/4
4E(Cd) Richter:BACH/WELL-TEMPERED CLAVIER 3/4
5E(Cd) Richter:BACH/WELL-TEMPERED CLAVIER 4/4
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