Sat 120822 内藤武敏と横森良造の2氏を悼む シャープ危機に思う 復活を祈る | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sat 120822 内藤武敏と横森良造の2氏を悼む シャープ危機に思う 復活を祈る

「地球一周の旅から帰った直後で、今もまだ夢見心地」と言っても、夢から覚めたらまず留守中17日分の新聞をめくって、さっさと世界と日本の現実に合流しなければならない。
 うにゃにゃ、朝夕刊17日分はしんどいが、9月14日はほとんどそれに費やすことになる。いやはや、たいへんなことがたくさん起こっている。蒼井優が髪を切って「ベリーショート」になっちゃった。どうしちゃったの? 上戸彩がEXILEと結婚しちゃった。どうしちゃったの?
 ま、そのあたりの一番ラクな所を選んで、急角度で現実に突っ込んでいく。言っておくが、もちろんクマ蔵は、難しい経済や宗教の話、バカバカしい日本の政治の話にも強烈な関心を持っている。しかしそのぐらいは専門家に任せてあげないと、専門家が可哀想じゃないか。
にゃんこ
(ブエノスアイレスで出会ったネコ伯爵)

 昭和の名優・内藤武敏が亡くなった。例えばNHK大河ドラマ「天と地と」で、本庄実乃を演じた名脇役である。本庄は栃尾城城主。幼い長尾景虎時代の上杉謙信は栃尾に幽閉状態だったが、本庄に師事して軍学の基礎を学ぶ。後の川中島の戦いで、本庄は軍奉行の大役を務めている。内藤武敏は、そういう忠実な部下/誠実な刑事/親身だが厳しい父親や教師などを演じさせると、他の追随を許さない安定した演技を見せた。
わんこ1
(どこまでもついてきたウルグアイの哀愁わんこ)

 アコーディオンの名手・横森良造も亡くなった。昭和後期、NHKのど自慢の伴奏で一世を風靡した。もちろん幼い頃も今井君は「のど自慢」なんか見ないが、「のど自慢」のテーマ音楽は「さて、遊びにいくぞ」の合図。近くの公園に行けば仲間たちが待っていて、日曜は夕方まで軟式野球に興じた。
 その「のど自慢」の冒頭で、伴奏の人々が紹介される。「ピアノは今井宏サン、アコーディオンは横森良造サン、尺八は…」と続くのだが、その「ピアノじゃ今井宏サン」がクマ蔵と同姓同名だっただから、幼い今井君は日曜日ごとに仲間たちにからかわれた。その相棒の横森良造サンが亡くなったのである。やっぱり今井君のショックは大きい。
わんこ2
(ついてくるのをあきらめたウルグアイ哀愁わんこ 1)

 日立がテレビ生産事業から撤退、というのもまた「ウニャニャ、残念でござる」の一言だ。むかしむかし、今井君のパパと♡ママ♡が、清水の舞台から飛び降りる決意で初めて買い求めたカラーテレビが「日立キドカラー」だった。
 父・三千雄は、何しろ就職先に国鉄(入社を考えた当時はまだ「鉄道省」だったかもしれない)を選んだぐらいだから、権威主義もいいところ。シャープとかゼネラルとかサンヨーとかなら安く買えるのに、「ダメだ。日立かナショナルか東芝以外は、安物買いのゼニ失いだ」と主張して譲らなかった。
 諸君、どうだね、こうして家電メーカーの名前が列挙されれば、「昭和は終わったな」「時代は変わったな」「もう横森良造サンのアコーディオンや今井宏サンのピアノは聞けないんだな」を深く深く実感しないだろうか。
わんこ3
(ついてくるのをあきらめたウルグアイ哀愁わんこ 2)

 買った日立キドカラーは、愛称が「ポンパ」。「ポン」とスイッチを押せば「パ」と画面が明るくなる。それまでのテレビは真空管式で、スイッチを押してから明るくなるまで30秒もかかった。
 豪華家具みたいな四角い木製の20インチテレビが運び込まれた時、築50年の国鉄官舎が急に明るく感じられた。お相撲さんたちのマワシがキレイな紺色だとは知らなかった。横綱・北の富士のマワシがあんな派手な緑色なのが、むしろ恥ずかしいぐらいだった。
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(アルゼンチン土産の鍋敷き。ニャゴロワのザブトンにしたい)

 父・三千雄が「安物はダメだ」と一蹴したシャープは、今井君の人生をその後2度も席巻することになる。まず、シューカツだ。シューカツ期の今井君は、驚くなかれ「第7志望」としてシャープを受けてみることになった。その事情は以下の通りである。
 大学生の今井君は、両親から「国家公務員または国鉄職員以外はダメだ」と何度も念を押されていた。何しろ親族全体の期待を裏切って東京大学進学を断念した身だ。「早稲田に行かせてやったんだ。せめて就職は親の言うことを聞け」という両親のスタンスには、逆らいがたいものがあった。
 それを3年かけてじっくり説得し、電通/日立/NHK/講談社/博報堂/東京都庁の順で親の許可をとりつけた。諸君、要するに「安定した大企業なら、まあ仕方ない」「地方公務員でも、東京都なら許してやろう」ということであって、見る人が見れば「お前たち、ナニサマのつもりだ?」でござる。
みやげ2
(アルゼンチン土産の鍋敷き。ナデシコのザブトンにしたい)

 今井君のシューカツは最終学年10月1日から10日のたった10日間で終了。ヌケヌケと超難関・電通を仕留めたわけであるが、シューカツ日程に余裕があったので、「シャープにも行けるな」と判断。10月3日にシャープにノコノコ出向いてみたら、1回か2回スッタモンダがあって、その後「最終面接」ということになった。
 最終面接には、最高経営幹部がズラリと並んだ。「我が社に入ったら、どんな仕事がしたいのか?」「他に何社受けてるんだ?」「ホントに我が社に入社する気があるのか?」と経営幹部のオジーチャンたちに問いつめられ、ついバカ正直にホントのことを打ち明けた。
「就職活動の日程がポッカリ空いたので、ちょっと来てみただけです」
「ええっと、メーカーでは日立ですかね。子供時代のテレビが日立だったので」
「もともと就職する気なんか全然なくて、大学在学中に作家になるはずだったんです。その目論見が外れて、シューカツはイヤイヤやってるんです」
「他に受けてる会社ですか?電通/日立/NHK/講談社/博報堂ですかね。東京都庁も念のため受けてみたら、今のところ合格してます」
ここまで傲慢でバカな大学生が、この世の中に他に存在するだろうか。つくづく今井君はアホでマヌケでゴーマンな若者だったのだ。
みやげ3
(アルゼンチン土産の鍋つかみ)

 もっとも、電通ではこのバカ正直がウケた。人事局長は面接室で大笑いして、「じゃ、『本来は作家になるはずだった』って、いまこの場でキミの履歴書に書き加えたまえ」と言ってくれた。しかも驚くなかれ、今井君はすぐに椅子から立ち上がって、人事局長の目の前で万年筆を出し「作家になるはずだった」と、履歴書にサラサラ&ヌケヌケと書いてみせた。
 ところが、シャープではそうは行かなかった。「すると、当社は第何志望なんだ?」と最高幹部たちは顔を歪めた。その時の今井君の発言が、
「ええっと、うーん、第7志望になりますかね」
確かに、第1志望から順番に数えたら、第7志望だった。しかも当時の今井君には一点の悪気もなかったのだから恐れ入る。
紙幣
(10年前にデフォルトを経験したアルゼンチンのお札。アブラが染み通って、ボロボロのお札が多い)

 つまり、自分は遅かれ早かれ文章を書いて身を立てることになるのであって、少なくとも25歳までには永遠の夏休みを手に入れる。夏休みが永遠に手に入らないような人生なら、やっていても仕方がない。全ての企業はそれまで露命をつなぐコシカケであって、それでもいいなら雇ってくれたまえ。
 こんな発想で、エラいオジーチャンたちを上から見おろし、「どうせすぐにヤメちゃいますよ」とニヤニヤしていたのである。これが15歳か16歳なら笑って許せるだろうが、20歳すぎてこんな愚かだと、やっぱりすぐに社会の外にポンと放り出されることになる。
 案の定、20歳代終盤でポンと放り出された今井君は、やっぱり「露命をつなぐ」だけの目的で予備校講師の業界に手を伸ばす。それが思わぬ成功につながってオカネが入り、それまで我慢に我慢を重ねていた家電を一気にまとめて買いそろえる。
肉
(しかしアルゼンチンの人々は意気軒昂。この肉の赤い肉質のように元気いっぱいだ)

 30歳で買いそろえた電化製品は、電子レンジ、炊飯器、クーラー、ラジカセ、ワープロ、冷蔵庫、洗濯機。それまでは冷蔵庫や洗濯機も中古品をタダでもらって我慢していたのだ。オカネを手に秋葉原に走り、「でっかいわー、でっかいなあ」のCMがたくさん流れていた石丸電気の本店で、あれもこれもみんなマトメ買いした。
 しかし諸君、「因果は巡る糸車」であって。ふと気がついて確認すると、買いそろえた家電の全てがシャープ製。あれも、これも、みんなシャープ。シューカツ学生の身で「第7志望」と言い放った企業は、10年も経過しないうちに「目のつけどころがシャープでしょ!?」の先端大企業に急成長していた。
 ブエノスアイレス経由の東回り地球一周から無事東京に凱旋し、代々木上原の自宅を見回ってみると、あれほどあったシャープ製品は一つも残ってない。その代わり、半月分たまった朝日新聞のいたるところに「9月シャープ危機」「第2のシャープはどこだ?」の文字が溢れている。
 ボクは、シャープの復活を祈り、かつ信じている。東京・市ヶ谷、駿台の市ヶ谷校舎に向かうたびに、シャープ東京支社の建物を眺め、「ああ、シューカツの時、あのビルの中で大失態を演じたんだ」「あんな傲慢な失態を2度と繰り返してはならない」と、今井君は自らに言い聞かせてきた。シャープは、言わばオトナになってからの今井君の大恩人なのである。

1E(Cd) Rachel Podger:TELEMANN/12 FANTASIES FOR SOLO VIOLON
2E(Cd) Sirinu:STUART AGE MUSIC
3E(Cd) Rampal:VIVALDI/THE FLUTE CONCERTOS 1/2
4E(Cd) Rampal:VIVALDI/THE FLUTE CONCERTOS 2/2
5E(Cd) Anne-Sophie Mutter:VIVALDI/DIE VIER JAHRESZEITEN
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