Wed 120812 「ニャン」フェンブルク城 おあつらえビアガーデン(ミュンヘン滞在記4) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 120812 「ニャン」フェンブルク城 おあつらえビアガーデン(ミュンヘン滞在記4)

 5月19日、ミュンヘン滞在2日目の午後は、定番中の定番ニンフェンブルク城を訪問しようと思う。岐阜に行って稲葉山城、姫路に出かけて姫路城、熊本を訪ねて熊本城。ミュンヘンのニンフェンブルク城は、それに負けないぐらいの定番であって、もしもそれを見逃せば「いったい何しにミュンヘンに行ったの?」と難詰されること請け合いだ。
ニンフェンベルク城
(ニンフェンベルク城 正面)

 6年前の今井君は、まだそういう難詰をオソロシイと思う程度には臆病だったから、一夜のうちに膝まで積もった大雪(昨日の記事参照)をモノともせずに、一路ニンフェンブルクに向かったものである。
 さすがのミュンヘンも大雪で交通機関がマヒ。路面電車もバスも、時刻表通りになんか走れるわけがない。路面電車の停留所で、クマ蔵は雪国のコドモらしく、来ない電車を我慢強くジーッと待ち続けた。笠地蔵になる寸前だったと言っていい。
 20分ぐらいして、積もった雪を踏み分け踏み分け、一人の白髪のオバーチャンがこちらに向かってやってくる。その歩みのたくましさと言ったら、今井君が長い人生で目撃した中で最も信頼できる着実な歩みであった。
池とお城1
(池とSchloss Nymphenburg 1)

 船が遭難して、無人島に打ち上げられたとする。もう1ヶ月、船の帆影も見えない。島に自生するヤシの実で渇きを凌いできたが、さすがに体力の消耗は覆うべくもない。その時ふと、深いあきらめに朦朧とした視界を、おお夢ではないか、大きな船影が近づいてくる。
 我が存在に気づいてくれたのだ。まさにその時、船の着実な接近が我々にもたらす安心感、信頼感、「ついに救われた」「神は我をお見捨てにならなかった」と天を仰ぎ気を失いかける絶頂感。おお、諸君、それを思ってみたまえ。
池とお城2
(池とSchloss Nymphenburg 2)

 雪に停留所に立ち尽くしたクマ蔵は、バーチャンの着実な歩みにそのぐらいの安堵感を覚えたのだ。うにゃにゃ、機械の力でいくら除雪してもまだ降り積もる雪の彼方から、バーチャンは今井君を救い出すために、一歩、一歩、また一歩、確実にこちらに向かって歩みを進めてくる。
 バーチャンというものは、いつでも涙ぐんでいるものだ。黒っぽいスカーフで顔を覆ったドイツ・バーチャンの目にも、やっぱり涙が浮かんでいた。クマ蔵のすぐ目の前に立って、バーチャンはあきれたようにニヤリと笑った。
トラム
(シュトラーセン・バーンこと、ミュンヘンのトラム)

 こういう場合のバーチャンの笑いは、「ニヤリ」とか「ニタリ」とかちょっと皮肉のニュアンスを混じえたもののほうがクマ蔵は好きである。
「おやおや、何でこんな大雪の日に、あんたは日本なんかから来たんだね?」
「日本のクマは非常識だねえ。こんな日は、宿の部屋でヌクヌクしているもんだよ」
「どうだい、あったかいスープでも。湯気でお鼻を真っ赤にしながら、スープの中にパンをたくさん千切って入れて、お椀の中にスープをポタポタ垂らしながらすすってごらんよ」
「ニンフェンブルクなんかに出かけるより、そっちのほうがずっと気が利いてるよ」
 この類いの意地悪で皮肉な指摘なり提案なりをして、ニヤリと笑って去っていく。バーチャンがあんまり優しすぎると、クマ蔵は泣きそうになって声も詰まっちゃうから、ぜひそのぐらいで勘弁してもらいたい。
運河
(お城の前の運河)

 6年前の大雪バーチャンは、「おやおや、寒いだろうに」みたいなことをモグモグ呟いたあと、「バスに乗んなさいな」「こんな雪じゃ、シュトラーセン・バーンは全然走らないだろうからね」と、こちらの期待通りニタリと微笑んだ。涙も凍りそうに寒い午後だったから、バーチャンも口がよく回らなかった様子である。
 ところが、そのバーチャンのすぐ後ろからシュトラーセン・バーンの姿が見えた。マコトに奇跡的なことだが、膝まで埋まるような大雪の中、バーチャンと同じぐらい年とった昔ながらの路面電車がゴトゴト走って近づいてきた。
 そう言えば、「シュトラーセン・バーン」という言い方も、もう滅多に聞かないようである。トラムの車両もこの6年ですっかり新しいものに切り替わり、オシャレな「ライトレール」としてスマートに走る。2005年にはまだ「ベルリンの壁崩壊」「東西ドイツ統合」の余韻が残っていたが、この6年の変化は我々の考える以上に大きかったようである。
黄色い教会の見える風景
(5月19日。黄色い教会の見える公園は美しい新緑だった)

 ニンフェンブルク行きのトラムは17番。カールスプラッツから20分ほどでお城の入り口に到着する。6年前とは打ってかわって穏やかで麗らかな初夏の日で、トラムを降りるともうビールが飲みたくなった。
 お城の前の運河も噴水池も、6年前には真っ白く雪に埋まっていて、どこが池でどこが道なのか見分けもつかないありさまだったが、今日は水鳥たちが暢気に泳ぎ回っている。遠足の小学生たちも、手をつないで元気に行進していく。ちょっぴりウルサいが、まあいいじゃないか。
お魚
(運河ではおサカナがたくさん泳いでいる)

 城の中は、美人画ギャラリーで有名。何しろ、シュロス・ニンフェンブルク=妖精の城、ニンフの城だ。お城の名前それ自体からして、妖艶な雰囲気が溢れていて当然なのだ。ルードヴィヒ1世が愛した美女36名の美人画が所狭しと展示されている。ま、いろいろイケナイこともしただろうし、「乱暴狼藉」に該当することもたくさんあったんだろうさ。
 じゃあ、そんな妖艶なお城に「小学生が遠足に来るって、どうよ?」であるが、そういうメンドクサイ話は、「どうよ?」「いかがなものか?」というメンドクサイ言い回しとともに日本に置いてきたほうがいい。
お城のニャゴ
(ニンフェンブルクにもニャゴがいた)

 かく言うクマ蔵どんは、美ネコ画ならともかく、美人画にはほとんど関心がないので、美しい城をひたすら外から眺めて楽しむことにした。どうだろう、美ネコ画で有名な「ニャンフェンベルク城」などというバッタもんを日本に作るのは? もちろん、ニャゴロワとナデシコの美ネコ画がギャラリーの真ん中に据えられることが条件だ。
ビアガーデン
(発見したビアガーデン)

 2時間近くお城を眺めて堪能したころ、もうクマ蔵は無人島で飢え渇いた人のように「Beer!!」「Cold Beer!!」「コオゥールド・ビアー!!」とウワゴトを言いはじめていた。何しろこの日のミュンヘンは初夏のような陽気。騒がしい小学生集団も暑苦しかったし、美人画集団だって、ただの絵のクセにやっぱり暑苦しくて、今井君はやたらに喉が渇いた。
 お城を出て、トラムの駅と反対側にホンの少し行ったあたりに、旨そうなビアガーデンを発見。こりゃ、まさにおあつらえ向きである。爽快で穏やかな風、南ドイツの初夏の日差し、風に吹かれてテーブルの上をチラチラする木漏れ日。ガーデン席でドイツビアを満喫するのに絶好の条件がすべて揃っていた。
フランケンワイン
(ビアガーデンのフランケンワイン)

 外のテーブルは15卓ほど。屋内にはもっとたくさんのテーブルがあるが、他のお客もみんな外に出て、暢気な午後のビアを楽しんでいる。こりゃ、ホンマ、答えられまヘんなァ。
 クマ蔵は、まず一番大きなビア。立て続けに、もう1杯ビア。やがてビアに飽きたので、いよいよ白ワイン。せっかく南ドイツなんだから、丸いボトルのフランケンワイン。これで幸せになれなかったら、「いったいどんな幸せを要求してるんだ?」と真顔で聞き返したくなるほどの、マコトにマコトに満ち足りた午後であった。

1E(Cd) Sonny Clark:COOL STRUTTIN’
2E(Cd) Kenny Dorham:QUIET KENNY
3E(Cd) Shelly Manne & His Friends:MY FAIR LADY
4E(Cd) Sarah Vaughan:SARAH VAUGHAN
5E(Cd) José James:BLACKMAGIC
total m60 y1330 d9225