Wed 120516 ヒルトップへ ヒツジやウサギとクマとの関係(スコットランド周遊記12) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 120516 ヒルトップへ ヒツジやウサギとクマとの関係(スコットランド周遊記12)

 9月2日午前8時、宿泊先OLD ENGLANDの窓からキレイな虹が見えた。荒々しい北欧の雲の間から、夏の太陽が時々顔を出す1日で、虹はウィンダミア湖の上から向こう側の丘に美しい弧を描いていた。
 夢中で写真を撮るうちに、陽光が一瞬強くなって、目を凝らすと虹は2重になっている。虹の足はすぐ近くの湖面にあり、ボート乗り場に並んだたくさんの小舟のあたりで湖の水に沈んでいる。
 人間の気持ちなどいい加減なもので、昨日まで重く沈んでいた今井君の気分は、虹の発見で浮き立ってしまった。昨日のアンブルサイドは冷たい雨に濡れて悲しかったが、①今日はもっと楽しくやろう、②もっと旨いメシを食べて、③土産物屋でも覗いてみよう、とすっかり前向きに変わった。
虹1
(ホテルの窓から虹を発見)

 そこで、まず①「もっと楽しくやろう」から取りかかることにして、行き先はヒルトップに決めた。ヒルトップとは、言うまでもなくHill Topであって、ホテルから湖をはさんで向かい側の丘のテッペンである。
 今井君の長い人生の中でHill Topと言えば、東京・御茶ノ水の「山の上ホテル」以外にない。昭和の有名作家たちが部屋に缶詰にされ、編集者の監視のもと、締切ぎりぎりの原稿を仕上げたことで知られる「山の上ホテル」。英語名Hill Top Hotelである。
虹2
(虹は2重に重なった)

 何しろ元の勤務先・駿台予備校とは目と鼻の先である。自分が18歳で駿台に通った頃には高嶺の花だった「山の上ホテル」に、高給取りの講師として足を運ぶ。天ぷら「山の上」に初めて入った日、まるで天下を取ったような、昂った晴れやかな思いだった。
 本館のバー・ノンノン、別館のバー・モンモンにもよく通った。駿台をヤメて代ゼミに移る決心をした頃、1人の酒好きな先輩講師と急激に仲良くなった。毎週顔を合わせるたび、「行きますか?」とニヤニヤ笑いながら、バー・ノンノンに自然に足が向いた。
 すると、ノンノンやモンモンだけで話は終わらない。ノンノンやモンモンでちょうどいい具合に酔っぱらうと、お腹も減ってくる。すると、料理も旨いワインバー「アビアントー」が別館で待ち受けていて、そこでまた飲みなおす。本館の「葡萄酒ぐら・モンカーブ」でも話は同じことである。
虹3
(虹は手にとれるほど近かった)

 まだ30歳代半ばなのに贅沢がすっかり身についてしまって、22時過ぎにすっかり酔っぱらうと「帰りはタクシー」ということになる。この先輩講師がタクシー好きなヒトで、「朝の出勤もタクシー、帰りもタクシー」というオカタ。清貧な聖人君子が多かった当時の駿台講師の中で、我々2名は異色の存在だった。
 男2人で飲んで、そのうちの1人がタクシーに乗って帰るのに、もう1人が「ボクは電車で帰ります」というのは、シラケる話である。場合によってはせっかくの酒が台無しになったり、友人関係にさえ影響しかねない。諸君、男同士というのは、ケッコ難しいものである。
ヒルトップ
(ウィンダミア、たいへん地味なヒルトップ)

 で、中央線沿線に住む先輩はいいだろうが、当時の今井君は埼玉県久喜市の先の鷲宮町というところに住んでいた。アニメか何かで聖地になった鷲宮神社のすぐそばである。御茶ノ水からタクシーに乗って「久喜の先まで」と言えば、メーターは2万円を越える。
 それに高速料金をプラスする。首都高速と東北自動車道と、高速代も2つ分である。先輩と山の上ホテルで飲むのは毎週月曜日。飲み代は別にしても、タクシー代だけで1ヶ月10万円かかる。うにゃにゃ、贅沢な日々を過ごした。あの先輩とも、もう10年もほとんど音信不通である。
 諸君、Hill Topという言葉で今井君が連想するのは以上のような話である。マジメな読者にはマコトに申し訳ないが、ウィンダミア湖のヒルトップとは何の関係もない。
ポターの家
(ピーターラビット作者の家)

 ウィンダミア湖のヒルトップには、まずボウネス港から船に乗って対岸に渡り、そこからワンボックスの連絡バスに乗り換える。バスには10人ちょっとの乗客がいて、約10分でヒルトップに到着した。
 ここには、ピーターラビットの作者ビアトリクス・ポターが住んだ家と農場がある。ピーターラビットのファンならば歓声をあげるであろう「挿絵そのままの光景」が保存されている。牧草地にヒツジが走り、畑をミツバチが唸り声をあげて飛び回る。
ポターの道
(ピーターラビットの道)

 ではクマ蔵がそういう可愛らしい農場の家に何か興味があるかと言えば、話はカンタンで、「そりゃ、あるわけがない」の一言だ。ヒツジは食うもの。ウサギも食うもの、ハチミツはムサボルものである。
 ウサギはポルトガルで食べてみたが、骨だらけで非常に食べにくかった。ヒツジについては、ついこの間イスタンブールで連日貪り食い、ケバブ屋のトルコ人を呆れさせた。いきなり「3人前ください」と言い放ち、金串に直接かぶりつくような乱暴な生物は、トルコにもそんなに生息していないようである。
ヒツジ
(近くで黒いお顔のヒツジたちが草を食んでいる)

 ハチミツも、トルコの朝食で巣ごとワシワシ毎朝ムサボった。どうせ無料のビュッフェだから、ムサボらないほうが損である。毎朝ムサボった分量をネットで調べたら、デパートなら5000円もするハチミツを、巣の6角形の蝋蜜ともども、ワシワシというよりガシガシ噛み砕いて飲みこんだ。
 それを2週間続けて、すっかりミツバチの天敵だ。ヒツジさんとウサギさんの天敵でもある。天敵がイングランドの上品なウサギの住処に上がり込んだら、「いったい何の用ですか?」と尋ねられて当然。絵本にするとしたら、ノックしている大っきな黒いクマさんの様子を、ドアの影に集まったウサギさんたちが怪訝そうに伺いながら、ヒソヒソ相談しているところでも描けばいいかねぇ。
ヒツジたち遠景
(ヒツジたち 遠景)

 そろそろ②「旨いメシを食べる」に移行したほうがよさそうだ。「うまい酒を飲む」も付録でくっついてくれば、クマはさっさとそちらへ移行し、可愛いラビットちゃんたちも「ボクらを食べるんじゃないんだ」とホッと安堵の胸をなでおろすだろう。
 ところが諸君、時折バラバラ落ちてくる大粒の雨を避けて駆け込んだ店は、「やってますか?」「今日はお休みですか?」と確かめなければならないぐらい閑散としている。幸い、今井君の後ろからきたイングランド人家族が平気でそこいらに座り始めたからいいが、彼らがいなかったら、今井君はさっさと諦めてスゴスゴ山を下りたところである。
めし1
(ようやくありついた昼メシ)

 そういう店だから、当然メシは旨くない。「旨いメシを食おう」という企画で山に登って、旨いメシが出てこなかったのだから、今井君の落胆はたいへんなものである。メシが旨くない店で、酒が旨かった試しはない。またまたヌルい白ワインが出てきて、常温の白ワインが湖の風より生温かったのは、昨日と同じことである。
 こうも企画倒れだと、③「土産物屋で覗いてみる」の頃には、クマの機嫌はもうすっかり最悪である。しかも、「何でこんなに何もかもうまくいかないの?」と責めるべき人は誰もいない。
 ダブリン→ウィンダミア→エジンバラという旅行先を選んだのはクマ蔵自身であって、周囲の「メシ、マズいぞぉ」という助言を振り切り、「マズいメシも悪くないもんだ」とか強がっていたのはつい1週間前のことである。
めし2
(湯気もたたない灰緑色のスープ。うわ、こりゃ旨そうだ♨)

 ヒツジの群れが舗道を横切って、向こう側の牧場に移動していく。その様子を眺めながらクマ蔵は山を下りた。桟橋から船に乗ってボウネスに戻り、土産物屋がズラリと並ぶあたりにくると、この賑わいは晩夏の軽井沢とソックリである。
 前から目をつけていた陶器店に入って、ヒツジさんのお顔のついたマグカップを購入。ヒツジを焼いて貪り食う乱暴者ではあるが、それでもネコやヒツジの顔を眺めていると心が芯から癒される。クマにだって、優しいところはチャンとあるのだ。
ネコとカップ
(ネコと土産のカップたち)

 いやはや、今日も1日すっかり雨に濡れた。今井君は雨が降っても滅多に傘をささない。日本でもそうである。傘を持てば、電車の中で本が読みにくい。ちょっとぐらい濡れたって、乾かせばいいだけのことだ。「風邪ひいたらどうするの?」と聞かれたら「治せばいいじゃん」「クスリ飲めばいいじゃん」である。
 風邪を引いてくれる人がいなければ、梅ちゃん先生みたいな内科のお医者さんが生きていけない。パブロンやベンザやルルの製薬会社も、薬剤師もクスリ屋さんも、みんな商売あがったりだ。風邪薬のCMを制作する電通や博報堂の人だって、やっぱり困るじゃないか。風邪ひきさんがいるからこそ、健全な経済活動が保持できる道理だ。
カップたち
(左2個がウィンダミア土産。右はマドリード土産のBAD TOROカップ)

 傘なんかもって歩くと、いちいち「あ、店に傘を忘れてきた」「あ、タクシーに傘を置いてきた」ということにもなる。もって歩くから傘を忘れるので、持ち歩かなければ傘を忘れてくるようなドジもしない。そそっかしいヒトほど、傘を持たずに出かけるべし。これもまた道理である。
 ところがイングランド湖水地方の今井君は、おそらく幼稚園以来はじめて傘の必要性を痛感。ベルリンの雨の中でも傘をささなかったクマ蔵が、「雨だから、傘」という常識に素直に従ったのだ。
「傘をさしたクマさん」という可愛い絵本の図柄が出来上がったわけだが、諸君、イングランドやスコットランドの雨はそれほど強烈だということを、以上の事実から悟っていただければ幸いである。

1E(Cd) Wand & Berliner:BRUCKNER/SYMPHONY No.4
2E(Cd) Blomstedt & Staatskapelle Dresden:BRUCKNER/SYMPHONY No.7
3E(Cd) Wand & Berliner:BRUCKNER/SYMPHONY No.8 1/2
4E(Cd) Wand & Berliner:BRUCKNER/SYMPHONY No.8 2/2
5E(Cd) Solti & Chicago:BEETHOVEN/SYMPHONIES⑥
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