Mon 120430 サンティアゴ巡礼予行記は最終回 36時間の難行苦行の末、無事帰京する | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Mon 120430 サンティアゴ巡礼予行記は最終回 36時間の難行苦行の末、無事帰京する

 昨日の記事の最終パラグラフが何となく感嘆調&感激調だったから、多くの読者は「ははーん!! これでサンチャゴ旅行記は完結したんだな」「ボタフメイロの揺れと、疲労の果ての仮眠の夢を重ねたんだな」「今井としては、ずいぶん陳腐な締めくくりかたをするじゃないか」と思ったに違いない。
 その辺が、諸君、まだまだ読者として甘いところなのである。地球の裏側と言ってもいいほど遥かな土地まで旅をしておいて、まさか今井ともあろうものがそんなにカンタンに旅行記を終わりにするなんて、ありえないことなのだ。
駅
(夜10時、サンティアゴ・デ・コンポステラ駅)

 もっとも、「地球の裏側」などと大きな口をきくのはまだ早い。東京から見てホントの地球の裏側は、南米アルゼンチンのブエノスアイレス、ブラジルのサンパウロあたり。ニューヨークで乗り継いでブエノスアイレスまで26時間。またはオーストラリアのシドニーまで先に南下してから、真東に向かってブエノスアイレスまでやっぱり26時間である。
 近い将来の予定として、今井君は東京→ニューヨーク(3泊)→ブエノスアイレス(8泊)→フランクフルト(3泊)→東京の世界一周を敢行する予定。このレベルになると、機内泊3泊を余儀なくされる。うにゃにゃ、ハードではあるが、今からもう待ちきれない気分だ。
夜のホーム
(夜のプラットホームに出てみる)

 いや、それより先にまずイスラム圏への旅を敢行する。とりあえず初級者篇ということで、トルコのイスタンブール2週間を予定。人口1200万、2020年オリンピック候補として東京の最大のライバル。元ビザンチン、元コンスタンティノープルである。
 そういう一種強烈な旅に比較すれば、サンティアゴ・デ・コンポステラから東京への帰還は一見地味な旅である。しかし、たとえ一見地味であっても、やはりこの帰還の旅も合計36時間の難行苦行が待ち受けていた。
列車が来る
(まもなく列車が到着する)

 「巡礼予行の記録」を名乗るなら、旅の最後に待ち構えていたこの難行苦行について、どうしても若干の記録を付け加えておかなければならない。ま、五木寛之が言い出して流行中の「下山の思想」であって、「登山の楽しみの半分は下山の道」「下山をどうこなすかが、達人であるかないかの試金石」という話である。
 今井君が思うに、この本を執筆したこと自体が作家・五木寛之氏の下山道の成熟を示すものである。ボクらの世代がまだ高校生とか中学生だった頃、五木寛之は全力で高山の岩壁にアタック中の超流行作家であった。ベストセラー「蒼ざめた馬を見よ」「青春の門」があり、「四季」シリーズというのもあった。
 波留子、奈津子、亜紀子、布由子。春夏秋冬のヒロインを書いて4部作という発想は、今では若干陳腐な感じも否めないが、烏丸せつこ主演で映画まで制作された。当時の五木寛之なら、下山のことなんか頭をよぎりもしなかったに違いない。
列車が来た
(列車が到着。停車時間はわずかしかない)

 かく言う予備校講師・今井君だって、90年代からの20年近く「下山」ということは全く考えなかった。ひたすら上に登ることだけを考え、一気に山頂を目指して強引に登りまくった。しかもその登り方がいかにも乱暴。リフトも使えば、ロープウェイも使った。
 あんまり苦労知らず、かつ急速だったから、ほとんどヘリコプターで山頂近くまで来て、20年近く山頂のレストランでランチでも楽しんでいたかのような感覚。2012年現在、「さてと、予備校講師としてはそろそろ下山のことも考えなきゃな」「10年弱かけて、ゆっくり降りていくか」という心境である。
 今回のサンティアゴ巡礼予行だって、十分に強引だった。ひたすら西に向かって、気がつけば東京まで36時間かかる西の果てに立っていた。以下は、36時間に及ぶ難行苦行についてのカンタンな記録である。
四角い座席
(Turistaクラスの四角い座席)

 パラドールをチェックアウトしたのが午後9時半。仮眠はとったが、ボタフメイロの揺れる不安定な夢をみて、「かえって眠らないほうがよかったな」というボーッとした目覚めである。タクシーでサンティアゴ駅へ。列車の到着まで30分以上待たなければならない。
 夜行列車の旅では、「ホントに列車は来るのかな?」という不安が一番大きい。小さな町の暗い小さな駅で、列車を待つ他の客が余り見当たらない時はなおさらである。夜行バスだとその不安がもっともっと大きくて、「今度のバスで行くぅー。西でも東でもぉー」(ジョニーへの伝言)みたいな放浪志向の気持ちになりがちだ。
ワイン
(列車の中でこっそりワインを楽しむ)

 ましてここはヨーロッパだ。突然「運休です」と一言言われてしまえば、もうどうにもならない。ローマでは13号車の指定席を持っていたが、12号車までしかなかった。「13号車はありません」の一言しかなかった。ブダペストでは12号車の指定券を持っていて、来た列車は4号車で終わりだった。
 朝のマルセイユではいきなり「今日のTGVは全面運休です」と、それだけ告げられた。フランクフルトでは「乗り継ぎはできません。アナタのフライトはキャンセルされました」で突き放された。
 アビニョンでは乗るはずの電車が運休になり、代わりに乗った電車はデモに向かう若者たちに占拠された。パリではいきなり地下鉄の入り口にテープが張られ、「メトロはすべて運休」「復旧のメドは立ちません」と告げられた。ヨーロッパとは、そういう大陸である。
到着
(午前6時過ぎ、薄明のマドリード・チャマルティンに到着)

 しかしこの夜のサンティアゴでは、予定の夜行列車は時刻どおりにやってきて、時刻どおりに出発した。自分の席に他の客がすでに座っていて車掌を交えて小トラブルになったりすることも多いが、この夜はそういうこともなかった。
 こうして、静かな夜の旅が始まった。次の次の駅でたくさんの乗客が乗り込んできて、車内はほぼ満員になった。4人がけの席に4人が座って、とにかく明日朝6時過ぎのマドリード到着まで、固く突っ張らかって座っていかなければならない。
 こういう時、積極的なヒトなら「地元の人々とコミュニケーションをとろう」と考え、早速それを実行に移して、7時間あまりを楽しく夜明けまで語り明かしして過ごそうとするだろう。
 しかし諸君、幼児や乳児を含め、あっという間に寝静まった狭苦しい車内である。変に積極的になって「コミュニケーションをとっ」たりするのは、他の全ての乗客が大迷惑する。せっかく大人しく眠っている乳児が目を覚まして大声で泣き出したりすれば、車内全ての乗客の一夜が台無しになってしまう。
到着と自分撮り
(チャマルティンで余裕の自分撮りだが、さすがに疲れている)

 今井君はリュックからとっておきの赤ワイン1本を取り出した。ワインオープナーも、陶器のカップも準備おさおさ怠りなしである。ここはガラスのワイングラスではなくて、どうしても陶器のカップ。うまく隠せば「何だ、コーヒーか」ぐらいには見えるはずだ。
 さすがにコルクを抜く「ポンッ!!」という音が車両全体に響き渡って周囲のヒトを驚かせ、カップに赤ワインをドクドク注ぐ今井君の毒々しい笑顔は、周囲の乗客をますます縮み上がらせたが、夜行列車を十分に楽しむには、そんなことに頓着してはいられない。
 真っ黒な夜の中、ゴツい機関車が我々を引っ張って走るのは、1500年までの800年間レコンキスタの主戦場となった荒れ果てた山中である。キリスト教勢力とイスラム教勢力が延々と戦いを繰り広げ、やがて無法地帯となって山賊が跋扈し、それでも人々は数十世代にわたって黙々と耕作と牧畜と酪農を営み、サンチャゴへの星の降る道を黙々と歩き続けた。
ルフトハンザ機内食1
(ルフトハンザのメシ 1)

 そういうことを思いながら、赤ワイン1本がカラッポになる頃には、さすがのクマ蔵どんも疲れ果てて眠ってしまった。目が覚めると、マドリードまであと2時間あまり。かつて秋田から上野に向かう夜行急行でも、黒磯か宇都宮か小山あたり、「あと2~3時間」という駅に停車して目覚めるのが常だった。
 マドリード・チャマルティン駅到着、午前6時過ぎ。疲れ果てた人々は、幼児や乳児まで含めて足早に薄闇の中に消えていった。まだ薄暗いチャマルティンには、どうも挙動不審なヒトビト(いわゆる「キョドイ」人々)が多いから、すぐにタクシーでバラハス空港に向かった。
ルフトハンザ機内食2
(ルフトハンザのメシ 2)

 さて、今度はこの広大なバラハス空港で、7時間を過ごさなければならない。搭乗手続きが始まるまで3時間ほどは、エスプレッソを舐めながらひたすらカフェで耐え忍ぶ。3時間後、搭乗手続きさえ済んでしまえばこちらの思うツボ。飛行機の出発まで残り4時間は、スターアライアンスの豪華ラウンジで仮眠をとって過ごした。
 ここから先の難行苦行については、詳しく書き記すほどのことはない。マドリード→フランクフルト3時間。フランクフルト空港での待ち時間・3時間は再び豪華ラウンジで。フランクフルト→成田はANAのエコノミー席で12時間。成田から渋谷まで、リムジンバスが大渋滞にはまり込んで2時間半かかった。
 12月27日の9時半にサンティアゴのパラドールを出てから、12月29日19時半に代々木上原の自宅に帰り着くまで、まさに難行苦行の数十時間を経て、サンティアゴ巡礼予行の旅はようやく終わりを告げることになった。翌々日はもう大晦日。残り50時間ほどで、2012年を迎えようとしていた。

1E(Cd) Solti & Chicago:BEETHOVEN/SYMPHONIES②
2E(Cd) Solti & Chicago:BEETHOVEN/SYMPHONIES③
3E(Cd) Eschenbach:MOZART/KLAVIERSONTEN⑤
4E(Cd) Eschenbach:MOZART/KLAVIERSONTEN①
5E(Cd) Eschenbach:MOZART/KLAVIERSONTEN②
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