Tue 120424 味の素にまつわる思ひ出の数々 テルマエロマエ 下北沢で締めくくる | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 120424 味の素にまつわる思ひ出の数々 テルマエロマエ 下北沢で締めくくる

 昨日の演劇はなかなかツライ話だったが、化学調味料「味の素」が舞台を支配する楽しい5分間が挿入されたおかげで、クマ蔵はだいぶ救われた気持ちになった。
 老いた元料理人(江守徹)が、亡き妻の懐かしい野菜スープをどうしても再現したい。あれこれ努力してみるのだが、どうしてもあの味が出ない。いつもホントに「あと1歩」まで迫るのだが、目指すスープの味とはどうしても違うのである。
 「何かが足りない」「何が足りないんだろう」と悩む父親に、インチキ料理を出し続ける人気シェフ(仲村トオル)が、「ほらオヤジ」と憮然とした表情で差し出したのが、「味の素」。ほんのヒトふり鍋に入れてみると、何と何と、夢ではないか、あの懐かしいスープの味が完璧に再現できたのだ。
控えめな背中
(控えめな背中)

 昔の食卓には必ず置かれていた味の素。いまや食卓に味の素のある家庭は、渋谷のナンパ男子同様すっかり激減してしまった。ほんの30年前は、「何が何でも味の素」というパパやママがたくさんいたものだ。
 若い諸君にとって味の素とはむしろAJINOMOTOであり、AGF(AJINOMOTO GENERAL FOODS)であって、もともと漢字で「味の素」と表記されるグルタミン酸系の化学調味料であることさえ、知らない若者だって存在するかもしれない。
白い優雅なあんよ
(白い優雅なアンヨ)

 グルタミン酸系の化学調味料には、味の素の他に「旭味」「ハイミー」「ミタス」「フレーブ」など。ハイミーって、きっと「ハイ味ー」なのだ。ミタスも、おそらく「味足す」。争って化学調味料を売り込んでいた各社にとって、「味」の一文字だけはどうしても欠かせない。例外はフレーブだけだが、それだっておそらくflavorを短縮しただけだ。つまり「味」「風味」である。
 むかしむかし「味の素を食べると頭が良くなる」という迷信みたいなものがあって、20世紀後半の教育ママたちは、何にでも味の素をふりかけたものである。味の素のインパクトはそのぐらい大きかったけれども、教育ママもグルタミン酸も今ではすっかり影が薄くなってしまった。
ちょい
(ちょいちょい)

 幼い今井君は、「味の素は絶対にイヤだ」と言い張って、周囲のオトナたちから「変わった子だね」「難しい子だね」と言われ続けた。そう言われて態度を改めるかと言えば、もちろんますます依怙地になって「絶対イヤ」を貫いた。「変わってる」「難しい」という評価をツライと思ったことなど一度もない。
 「ボクはどんなものにも絶対に味の素をかけないんだ」「刺身のお醤油にも味の素を入れないんだ」と友人たちにも宣言した。すると彼らは「そんなのウソに決まってる」「味の素を入れないヤツなんかいるはずがない」と真顔で絶叫。「でも今井はホントにかわったヤツだから、あり得るかもな」と表情を硬くするヤツもいた。
 しかしそういう友人たちの絶叫なり非難なり否定なりについても、むしろ誇り高い感じがした。いま思ってもイヤになるほど変で依怙地な小学生だった。「変だ」「変わっている」「難しい」「今井だったらあり得る」の類いを言われるたびに、嬉しくて嬉しくてたまらなかったものである。
テレビの上を確保
(テレビの上を確保する)

 じゃあ、何で幼いクマ君が「味の素は絶対イヤ」を貫いたのか。例えば「グルタミン酸などという不自然な食品を添加することで、食品本来の味をねじ曲げるのは正しいことではない」とか、マジメで優秀なことを論理的に考えていたのか。マコトに残念なことに、もちろんこのフマジメの権化♡今井君が、そんなコムズカシイことを考えつくはずがない。
 「味の素なんか大キライ」だったのは、「味の素をそのまま舐めてみた」のが原因。諸君、「他の食品にふりかけたり混ぜたりすれば、その旨味を増す」という脇役をいきなり主役に抜擢して、脇役オンリーで口に入れればどういうことになるか、幼稚園児や小学生の思いつくことではないのだ。
転がってみる
(転がってみると...)

 小学3年のキュートな今井宏君は、「そんなに美味しいものなら、ペロペロなめてみたら、きっと飛び切りおいしいだろう」と、学校の帰り道に思いついてウキウキした。「今日こそ決行」「明日こそ決行だ」と思いあぐねながら、「急に味の素の量が減って、もし親に気づかれたらイヤだ」と躊躇するうち、数日が経過した。
 で、ついに忘れられないその日がやってきた。スプーン1杯分の味の素を手のひらに載せて、直方体の白い結晶がキレイに並んでいるのを眺め、ウットリするような気持ちでそれを口に運んだ。
 その結果がどうなるか、好奇心旺盛な諸君は自分で一度お試しあれ。ただし、口に運ぶ量はできるだけ少なめに。あの白い結晶の5粒か6粒ぐらいにしておくことをオススメする。さもないと、今井君と同様、「味の素なんか、これから一生自分の半径5m以内には侵入させないぞ」と決意するハメになる。
おヒゲが引っかかる
(おヒゲがひっかかる)

 さて5月15日であるが、芝居が終わったのが16時。何とも中途半端な時間に終わってしまったので、メシには早すぎるし酒を飲みにいくこともできない。2時間程度の時間を持て余した今井君の目に留まったのが「テルマエロマエ」の文字である。
 渋谷パルコ9階がパルコ劇場。テルマエロマエはパルコ8階の映画館でやっている。要するに同じビルの1フロア下に降りればいいいいわけだ。しかも映画の設定は今井君の大好きなローマの五賢帝時代。市村正親がハドリアヌスをやる。
 こりゃいいや。映画館に降りると、「上映中」とは言わず「入浴中」の文字が。フルーツ牛乳も売っているし、「ケロリン」の黄色い洗面器もある。ケロリンの洗面器は、7月下旬の東進河口湖合宿で毎年お世話になる旅館「美富士園」の部屋に、今も普通に備えつけられている。それもそれで、大いに楽しみになってくる。
控えめな横顔
(ローマ金貨の皇帝像のような、優雅で控えめな横顔)

 映画については何も書かないでおこう。少なくとも、今井君自身10回は爆笑した。激しい号泣に映画館全体が包まれるという経験はしばしばするが、大爆笑が映画館を10回も揺るがすような映画って最近あまり観ない気がする。たまにはこういうのも悪くない。
 映画館を出ると、渋谷の街はほぼ雨も止んで、初夏の夜が始まっている。大混雑の井の頭線で下北沢に移動。今夜は下北沢の居酒屋で過ごすことに決めた。
 夕方の井の頭線の混雑ぶりは異常である。あれは昭和ニッポンが大躍進していたころの混雑。「国電」と言わずに「酷電」と書いて、通勤通学ラッシュの異常を嘆いた時代を髣髴とさせるほどのものであった。特に渋谷駅の混雑は、一刻も早く対策を考えたほうがいい。
 こうして渋谷と下北沢で楽しく過ごした今井翁の1日は、ほぼ丸々1日レトロなものを回顧して過ぎていった。銀座線のレトロ電車から始まって、自販機コーヒー、JeanJean、ナンパ。味の素、旭味にハイミー、教育ママ。フルーツ牛乳、ケロリン洗面器、国電に酷電。雨がやんだ下北沢の路地の飲み屋街には、こういう1日を締めくくるのにピッタリの、しっとり湿った夜気が流れていた。

1E(Cd) Solti & Chicago:BEETHOVEN/SYMPHONIES④
2E(Cd) Solti & Chicago:BEETHOVEN/SYMPHONIES⑤
3E(Cd) Eschenbach:MOZART/KLAVIERSONTEN③
4E(Cd) Eschenbach:MOZART/KLAVIERSONTEN④
7D(Pl) 蓬莱竜太演出:ハンドダウンキッチン:渋谷パルコ劇場
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