Fri 120420 この町にたどり着いた巡礼の総数に身震いする(サンティアゴ巡礼予行記33) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 120420 この町にたどり着いた巡礼の総数に身震いする(サンティアゴ巡礼予行記33)

 長い苦難と苦闘の末、ついにこの大聖堂を仰いだ時、巡礼の感動と感激はどれほどのものであろうか。ピレネーの麓の小さな街から巡礼に出て、ひたすら西に向かって歩きに歩くこと750km。1日30kmを欠かさず踏破したとしても25日の道のりである。
 もちろん、道は平坦ではない。アップダウンの激しい山道が続き、道に迷って猛犬に吠えられることも数度。雨の日の風の日もあるから、思うように道のりははかどらない。途中でケガをしたり、ちょっと風邪を引いたりもするだろう。30日の予定が1日また1日と延びれば、焦りだって当然あるはずだ。
大聖堂近景
(サンティアゴ・デ・コンポステラ大聖堂 近景)

 そしていよいよ40日が経過しようとする日、最後の峠を越えると、夕暮れの迫った西の空はるかに、サンティアゴ・デ・コンポステラの大聖堂がついに姿を現す。あれはホンモノか。夢ではないか。仲間がいれば仲間どうし狂喜乱舞するうちに、目指したカテドラルがぐんぐん間近に迫ってくる。
 巡礼の前半のポイントは、レコンキスタの英雄エルシドの生誕地ブルゴス。中盤は美しい大聖堂が有名なレオンが山場。しかし一泊一泊する小さな街の一つ一つに由緒正しい聖堂があり、それぞれの街に中世から続く長い物語が存在する。旅人は40日の全てをかけ、スペインの果てしない歴史を背後へ背後へと追い抜いてきたのである。
聖堂正面のホタテ
(大聖堂にも、巡礼の象徴・ホタテ貝が)

 それに比べて、今井君の巡礼予行の何と薄っぺらいことか。まあ、あくまでも予行なのだから、薄っぺらい旅であってくれなければ困る。予行演習が重厚では、本番の立場がないじゃないか。軽薄OK。ワインとシードラに酔っぱらい、鶏や豚やハムを貪り食うだけの旅の締めくくりを、今井君は今井君なりにここでキチンとつけようと思う。
道路にもホタテ
(広場の路面、今井君の足許にもホタテ貝が)

 この町は、ローマとエルサレムに並ぶキリスト教の3大聖地。サンティアゴとはサント・イアーゴ、つまり聖ヤコブのことである。9世紀にこの町で「聖ヤコブのお墓」が発見されたことがキッカケになって、ヨーロッパ中から巡礼者が押し寄せるようになった。
 最盛期には1年で50万人が訪れたというのだから、たいへんなことである。50万人が、750kmを踏破して、それが1000年続いてみたまえ。ヨーロッパ人がヤコブを慕って歩いた総距離は、50万人×750km×1000yearsになる。
 まあこれは、「最盛期」が1000年続いたとしての計算だから、実際にはこの半分以下になってしまうだろうが、それでも驚くべき数字である。ボクチンにはもう単位が分からないぐらいだが、スマホの電卓クンに任せてみたら375,000,000,000kmだとさ。センセー、これって、何て読むの? ついでにMac君も「須磨穂」って、ヤメませんか。
 コンマごとにthousand→million→billion→trillionと単位を上げて確認すると、どうやら3千7百50億kmという数字になるようだ。ヒトからヒトへと1000年間バトンをつないできたヨーロッパ文化の迫力を痛感して、ほとんど身震いしそうである。
パラドール
(パラドール正面。15世紀末建築、元は総合病院である)

 もっとも、話を「地球の歩き方」的な観光にしぼると、町のスケールは急激にしぼんでしまう。確かに「地球の歩き方」に目を走らせると「観光は1日あれば十分だ」と、何とも冷酷に言い放っている。
 ヒトビトが歩き続けた4千億km近い道のりなんか、「観光客にはカンケーなぐね?」という冷酷さが、クマどんはキライござる。だって、地球一周は4万km。ヨーロッパ人は1000年かけて皆で地球を1000万回歩いて回ったのだ。は? 1000万周? 正しい地球の歩き方って、それなんじゃないの? なお、計算間違ってたらスミマセン。
広場の全景
(大聖堂のテラスから、オブラドイロ広場を望む)

 空港からのタクシーが着いたのがオブラドイロ広場。この広場の東側にそそり立つ黄色い石の巨大な建物が、1000年かけて5億人がつめかけた大聖堂。午後の遅い時間帯になると、西陽を正面から浴びた黄色い壁面が赤みを帯び始め、夕暮れにはオレンジから鮮やかなピンクにかわっていく。
パラドール内部
(パラドール、クマ蔵の312号室付近で。元病院の雰囲気が残る)

 大聖堂に背中を向けて、右手がパラドールである。今井君はここに4泊する予定。1499年建築。本によっては1489年建築。日本では、やっと応仁の乱は収まったころである。いよいよ戦国時代に突入して、21世紀日本中の歴女の諸君が一斉に色めき立ちそうな、そういう昔の建物だ。
 もとは巡礼者のための総合病院と宿泊施設を兼ねたものであって、カスティージャのイザベラ女王と、アラゴンのフェルディナンド王の命令による建築。こんな由緒正しいところにクマなんかが泊まって、大丈夫なんですかね。歩くたびに木材の床がミシミシッと音を立てて、深い歴史が床からも壁からも天井からも湧きだしてくる感覚である。
市庁舎
(市庁舎とクリスマスツリー)

 オブラドイロ広場をはさんで大聖堂と向かい合うのが、サンティアゴ市庁舎。この日はクリスマスイブであるから、市庁舎の前には巨大なクリスマスツリーが飾られ、その下の家畜小屋では、マツゲの長い優しそうな目の家畜たちが、生まれたばかりのキリストをマリヤ様と一緒に見守っている。
家畜小屋
(クリスマスツリーの下で)

 ガイドブックには名前も出ていないが、四角い広場の残った1辺がサンティアゴ・デ・コンポステラ大学。スペイン有数の名門大学で、入り口にはUNIVERSIDDADE DE SANTIAGO DE COMPOSTELAの重々しい表示が出ている。
 スペイン語だと、大学はuniversidadであって、universidadeの最後のeは不要なはず。しかし諸君、ここはスペインの北西、ポルトガル語の影響を強く受けるガリシア地方である。売られているビールの銘柄だって、ESTRELLA GALICIA。スペインからの独立心は強いのだ。大学がuniversidadeの看板を掲げるのも、ポルトガル語の影響と思われる。
図書館
(パラドール、図書館 兼 談話室)

 さて、パラドールにチェックインしたクマ蔵は、荷解きもそこそこに、もちろん観光もそこそこに、何よりもまず食料と酒を確保しに街に出た。今日が12月24日、翌日25日のクリスマス本番はもちろん、26日のボクシングデーだって、街中の店はみんなシャッターを下ろして休業することが予想される。
 少なくともガイドブックにはそういう注意書きが出ているし、たくさんのネット情報も「みんな閉まっちゃう」「交通機関もほとんどがお休み」「身動きが取れない」「ご用心」と、口を揃えてオソロシイことを言っている。
中庭
(パラドールの中庭)

 今井君の長い経験によれば欧米のクリスマスは、そんなにみんながこぞって脅かすほど、「店はシャッター」「移動も困難」が徹底してはいないようだ。地下鉄もバスも、試してみれば「なんだ、動いてるじゃないか」と拍子抜けするのであって、運行頻度が半分程度になるというのがほとんど。意外に何とかなるものだ。
 レストランやバルやパブだって、要するに根気よく探せば何とかなる。ロンドンのHenry’sは24日も25日もやっていたし、ヴィクトリア駅前のShakespeareだって開いていた。イザとなれば、レバノン料理屋やモロッコ料理屋、中華料理店でも何とかなる。
 しかし今回だけは話が違う。さすがにキリスト教3大聖地サンティアゴは、大聖堂の周囲にも黒々とした修道院や神学校がズラリと立ち並び、荘厳で厳粛なイメージ。クリスマスに酒をくらってヘベレケなんてことは、町の歴史と威厳が許してくれそうにない。
銘菓の箱
(路上で試食させてくれた銘菓カプリチョス)

 酒と食料を求め、スーパーを目指して町を歩いていた今井君は、路上でお菓子を試食させている女性に遭遇した。彼女が手にしているのは、銘菓Caprichos de Santiago。カリカリのクッキーであるが、非常用食料には悪くない。今日から3日間、部屋でこれをかじってゴマカしても、神様のバチが当たることはないだろう。躊躇することなく1箱購入することに決めた。
カプリチョス
(箱からカプリチョスを2個出してみた)

 彼女について店に入ると、夢ではないか、店の棚には旨そうなワインがズラリと並んでいる。赤もあれば白もあり、「ロゼちゃん」などという可愛いヤツも並んでいる。一も二もなく、赤と白1本ずつの購入を決意。パラドールを出てわずか数分のうちに、今井クマ蔵はクリスマス飢餓のピンチを見事に脱したのである。

1E(Cd) Solti & Chicago:BEETHOVEN/SYMPHONIES⑥
2E(Cd) Solti & Chicago:BEETHOVEN/SYMPHONIES⑥
3E(Cd) Eschenbach:MOZART/KLAVIERSONTEN⑤
4E(Cd) Eschenbach:MOZART/KLAVIERSONTEN①
5E(Cd) Eschenbach:MOZART/KLAVIERSONTEN②
total m107 y605 d8500