Fri 120413 「見残し」について マドリード大混雑に驚嘆(サンティアゴ巡礼予行記30) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 120413 「見残し」について マドリード大混雑に驚嘆(サンティアゴ巡礼予行記30)

 「それにしてもセンセー、アランフェスについての書きようが余りにソッケなさ過ぎませんか?」という意見がいろいろなところから寄せられて、「なるほどそういうものか」と秘かに頭を掻いている。
 確かに、アランフェスはマドリード近郊の有数の観光地。夏や秋の観光シーズンなら駐車場に入りきらなくなるほどたくさんの大型バスが押し寄せ、バスからは中国と韓国と日本のオジサマ&オバサマがいくらでも溢れ出て、この街を占領するのだ。
 さすがにグラナダには一歩譲るかもしれないが、コルドバ、トレド、セビージャ、セゴビアあたりと、十分に肩を並べることが出来る。グラナダの旅行記に10日以上も費やし、微に入り細を穿って書いておきながら、ホンの20行程度でアランフェスを通り過ぎてしまっては、アランフェスファンがあらぬ恨みをいだきかねない。
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(誰もいないアランフェスの静寂 1)

 そもそも、ホアキン・ロドリーゴに失礼である。「恋のアランフェス」「我が心のアランフェス」にも失礼である。たった20行のアランフェス紀行も、よく読んでみると「どれほどガラガラだったか」「どんなに『恋のアランフェス』の『モナムー』が強烈であるか」「周囲がどれほど荒れ果てた大地か」、そんなフザけたことしか書かれていない。
 これじゃグラナダとの差別待遇がヒドすぎる。確かにいま数えてみたらグラナダのブログ記事は計13回、掲載した写真も100枚を超える。それでどうしてアランフェスは20行、写真もたった9枚なの? しかも9枚のうち、アランフェス宮殿は3枚しかない。
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(誰もいないアランフェスの静寂 2)

 しかしその怒りはぐっと抑えてもらいたいのだ。今井君だって、ロドリーゴの協奏曲の「チャラプー」「モナムー」は大好きなのだ。その好きさ加減は、決して「アルハンブラ宮殿の思い出」の「チャーラりーらプー」に劣るものではない。あえて言えば、音楽的にはむしろアランフェスにクマ蔵の軍配は上がるのである。
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(誰もいないアランフェスの静寂 3)

 その証拠に、ホントに正直に告白するのだが、グラナダの今井君は「アルハンブラ宮殿の思い出」と「禁じられた遊び」の旋律を混同していた。
 つまり、アランブラ宮殿を回りながら口ずさんでいたのは「チャーラりーらプー」じゃなくて「チャララぴららプルルぺれれ、チャララぴららプルルぺれれ」のほうだったのだ。これも素直に告白するが、ホントにホントに声を出して口ずさんでいたので、そこいら中のヨーロッパ人が日本の音楽教育の現状を滑稽に思ったかもしれない。
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(誰もいないアランフェスの静寂 手前に地面には、おそらく子供が傘の先で描いたアランフェス宮殿の絵があった)

 こんな話をいくら熱意をこめて語ったところで、「今井はアルハンブラをエコヒイキした」「アランフェスを不当に扱った」という非難に対する弁解にはならない。でも、ウソでも何でもなく、意地でもアランフェスはガラガラだったのだ。ガラガラだったからこそ、そのぶんだけ今井君の記憶に鮮やかに残っている。
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(誰もいないアランフェス駅前の静寂)

 遠い将来になるだろうが、いつかもう1度どうしてもアランフェスを再訪しなければならない。今井君の言葉では、これを「見残し」という。どこか1カ所だけ大事な場所を見残して、「1度訪ねたことはあるけれど、…には行かなかった」「だからもう1度訪れなくては」というキッカケにしたいのである。
 例えばフィレンツェに行って、ピッティ宮に入らない。ヴェネツィアに行って、リド島で泳がない。ギリシャに行って、スーニオン岬の夕陽を見ない。エジンバラに行って、エジンバラ・ダンジョンを経験しない。その程度の見残しを残せば、必ずそこへ戻っていくことになる。トレビの泉にコインを投げ込むオマジナイみたいなものである。
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(誰もいないアランフェス駅構内の静寂)

 アランフェスからマドリードに戻って、アランフェスとは真逆の超・大混雑にビックリ仰天する。諸君、マドリード中心部は、まさに足の踏み場もない。アランフェスはじめ近郊の町のヒトビトは、みんなこぞって着飾ってマドリード中心部に押し寄せていたのだ。
 大袈裟でも何でもなくて、日本のクマなんかの足の踏み場は全く残されていない。確かに考えてみれば、12月23日、クリスマスイブイブである。午後3時すぎのプエルタ・デル・ソルは、毎朝の新宿駅西口地下や、週末の渋谷スクランブル交差点の雑踏を凌ぐ、常軌を逸した混雑であった。
 一昨日あたり、連休も押し詰まった原宿から表参道にかけて、東急プラザ原宿店のオープン直後でもあって、その混雑ぶりは筆舌に尽くしがたいものであったけれども、あの日のプエルタ・デル・ソルはあれに勝るとも劣らない。だって、スペインのクリスマスだ。一人一人の着飾り方がハンパじゃないのである。
 レストランだってカフェだって、こんなにたくさんの人が詰めかけたら全て超満員に決まっている。予約がいくらでも入っていて、いつかセゴビアのレストランで「今からですと5時間待ちです」と真顔で告げられたことがあったが、この状況だと「今日は皆が5時間待ち」「日付けが変わる頃までに入店できればラッキーなほう」と思われる。
オリーブ
(大混雑の市場で、オリーブを買ってつまむ)

 悲惨なのは、若い家族連れである。ママは目一杯着飾ってきた。パパだって、チャンと窮屈な一張羅を着た。幼い娘や息子にも「いかにもクリスマス」な晴れ着を着せてマドリードまで上京してきた。ところが、入れる店はおろか、座れるベンチどころか、しゃがんで待つ場所も、立ったまま話の出来る場所さえ全く見つからない。
 もちろんレティーロ公園あたりなら、しゃがむ場所ぐらいは見つかるのだが、レティーロはスリや置き引きがいて危険だし、田舎から上京したパパやママにはその場所さえ思いつかない。立ち止まっただけでジャマにされる大混雑の中、路面店で買ったピザを、仕方がないから立ったまま頬張って、4人でムクれているしかない。
 こういう時、何と言ってもまず男の子が「もう帰る」「もうイヤだ」と暴れはじめる。「地べたに座るな」とパパに言われたからこそ、どうしても地べたに座る。「汚いことはヤメて」とママに言われたからこそ、そこらに落ちていたゴミを口に入れてみせる。パパは怒鳴り、ママは涙ぐむ。
 すると今度は妹が「オニーチャン、大キライ」とむずかりはじめる。だってオニーチャンはママやパパを怒らせ、妹には一番してほしくないチョッカイを出すのだ。実はパパやママが一番恐れていたのが、その兄妹ケンカである。
 親ばかりではない。混雑の中で身動きが取れず、みんな肩を寄せあって路面店のピザで我慢しようとしていたのだ。静かでさえあれば、押し合いへし合いの中でピザをかじったって十分に我慢できる。それなのに、着飾ったこの4人家族が、せっかくの静寂を台無しにしてしまった。
生ハムとメロン
(ボディン「生ハムとメロン」の激しい光景)

 以上の描写は決して大袈裟なものではない。今井君自身、前に進むことも出来ず、後ろに退くことも不可能。右にも左にも人垣ができて、ここが広場なのか道路なのか、歩道なのか車道なのか、区別さえつかないアリサマだ。どのレストランの前も黒山の人だかりになって、下手をすればクマ蔵まで路面店のピザを買って、リッツのスイートルームに引き上げるしかなさそうだ。
 その時クマ蔵の脳裏を駆け抜けたアイディアは、「ダメモトで『ボディン』を試そう」である。世界最古のレストランのうちの一つ「ボティン」は1週間前にも訪れたが、「灯台モト暗し」ということもある。どうせ断られて「5時間待ち」を言い渡されるなら、他を当たるより一番有名なボティンを試すほうがいい。
 作戦は図に当たって、2階の奥のテーブルを確保。配膳台のすぐそばの落ち着かないテーブルだったし、担当のウェイターは余りの大混雑&大繁盛にテンパっている状態。注文をとる声もつい怒鳴り声になりがちだったが、「さもありなん」である。
ボティン店内
(ボディン店内。写真では店内の熱狂が伝えられなくて残念だ)

 2階は、ジーチャン&バーチャンを頂点とする大家族パーティーが2組。いや、ヒージーチャン&ヒーバーチャンだったかもしれない。マゴorヒマゴの諸君は、大混雑の中の大混乱パーティーにすっかり飽き飽きして、もう全員ニンテンドーの虜である。
 ホントは、彼ら彼女らこそ(ヒー)ジーチャン&(ヒー)バーチャンとの一瞬や1分1秒を大切にしなければならないはずなのに、身も心もニンテンドーに奪われて、もう心は3%もここにない。ヒージーチャンもヒーバーチャンも、何だかとっても悲しそう。2人とも足腰を悪くして、ボランティアの助けがなければ歩くこともままならないらしい。
パイナップルステーキ
(ほとんど「パイナップルステーキ」なデザート)

 もうすっかりおなじみかと思うが、クマ蔵はジーチャン&バーチャンの悲しそうな様子をみると、可哀想で可哀想で涙が止まらない。ワインだって喉を通らないし、何を食べているかも分からない。
 ついでに、担当のウェイターのテンパリぶりも恐ろしいほどになってきたから、早々に店から退散することに決めた。あーあ、混雑しすぎた街では、何もかもうまくいかないものである。

1E(Cd) Solti & Chicago:BEETHOVEN/SYMPHONIES⑥
2E(Cd) Solti & Chicago:BEETHOVEN/SYMPHONIES①
3E(Cd) Solti & Chicago:BEETHOVEN/SYMPHONIES②
4E(Cd) Solti & Chicago:BEETHOVEN/SYMPHONIES③
5E(Cd) Solti & Chicago:BEETHOVEN/SYMPHONIES④
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