Wed 120411 今日は泣きそうだ アランフエスとモナムー(サンティアゴ巡礼予行記29) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 120411 今日は泣きそうだ アランフエスとモナムー(サンティアゴ巡礼予行記29)

 5月6日の午後、日本中みんなが泣きそうな気持ちの時間帯である。あんなに楽しみにしていた連休の1週間が、刻一刻と終わりに近づいている。明日は月曜日で、また「普段」が始まってしまう。これからずっと、夏休みが来るまでまでずっと、毎朝同じ時刻に起きて、同じルートで職場や学校に出かけて、同じ仕事や同じ勉強を続けなければならない。
 若い諸君、誤解してはイケナイ。一番泣きそうなのは、諸君の目の前にいるパパである。パパが不機嫌でも、ムクれてはならない。パパは今日、悲しくて悲しくてならないのだ。だって、若い諸君の退屈な日常は3年か4年で確実に変化が訪れる。それに比べて、パパの日常は20年も30年も「これでもか」と続くのだ。
プラタナスの道1
(スペイン、アランフェスのプラタナス並木。2012年12月23日)

 今日の夕暮れ、ちびまる子ちゃんやサザエさんが始まる頃のパパが一番イケナイ。「おサカナくわえたドラ猫追いかけて、ハダシで駈けてく陽気なサザエさん」、その声を聞いただけで、パパはホントに泣きそうだ。「買い物しようと街まで出かけたが、財布を忘れて愉快なサザエさん」。陽気でも愉快でも何でもない。要するに財布を忘れただけである。
 なぜフジテレビは日曜の寂しい夕暮れに、平凡な家庭の平凡な日常を見せつけようとするのだろう。連休の終わりに限らない。毎週の土日だってそうだ。あんなに輝かしく楽しかった休日の終わりに、「さあお前たちも、明日からはこんな日常に戻るのだ」と冷酷に宣言する。それを見せられたパパが、どれほどの悲しみに沈むことか。
宮殿1
(誰もいないアランフェス宮殿 1)

 そしてその2時間後、その冷酷な宣告を再確認するかのように、NHK大河ドラマが始まる。これで、もう取り返しはつかない。どうしても月曜日がやってくる。大河ドラマが終われば、その9時間後か10時間後にはもう起床の時間。どうしても顔を洗って、いつもの電車で職場に向かわなければならない。
 しかし諸君、みんなで「平清盛」を見ようではないか。低視聴率ここに極まれり、いよいよ10%を切ってヒトケタ台に落ちていこうとしているが、面白いのはこれからだ。保元の乱、平治の乱、福原遷都、日宋貿易、源平の戦い。血湧き肉躍る花やかな世界は今夜から始まる。
 先週まで「画面が汚い」とかツマラン批判を浴びせていた諸君。それは画面が汚かったのではない。描かれる対象のヒトビトがまだまだ光り輝いていなかったのだ。今夜あたりからは、清盛もきっとピカピカに輝くよ。ならば、我々も輝こうではないか。
駅に到着
(アランフェスに到着した中距離電車。スペイン人の日常を思う)

 平凡な1週間が始まることで悲嘆にくれている諸君、いきなり輝きだす清盛どんを眺めて、「よおし、オレも(アタシも)明日から輝こう」とコブシを握りしめ、ついでだからそのコブシを天に突き上げたまえ。ネコがビックリして垂直に飛び上がるほどの迫力で、雄叫びを上げたまえ。「いつ輝くべか? 今だんべ」「今輝けねえヤツは、一生輝けねえべ」と叫ぶのだ。
 その程度のことで、気持ちはカンタンに力強く動き始めるものだ。今夜はおそらく満月で、いつもの満月より14%大きく30%明るいスーパームーンになるとのこと。雷雨になる予想が出ているが、もし月が出ていたら、そのスーパームーンに向かって何かお祈りでもしてみるといい。
アランフェス駅
(アランフェス駅でスペイン人の日常を思う)

 今井君がいま一番心配なのは、「受験生諸君の気持ちが萎えていないかな」ということである。連休中に、おそらく何か大事な模擬試験があったはず。5月3日あたりかね。結果が返ってくるにはまだ間があるが、数字になって戻ってこなくても「ダメだったな」というのは肌で感じるものだ。
 ダメだったな。このままでは、おそらくダメだろうな。ダメだ♠ダメだ。そう落ち込んでいるのに、月曜日がやってくる。憂鬱な朝がやってくる。東京竹橋の国立近代美術館に国吉康雄「夜明けがくる」という絵があるが、絶望的な夜明けが確実に近づいてくる。うにゃにゃ、今井君はあの深い憂鬱があまりにもよく理解できる。
 パパも、受験生も、みんな泣きそうだ。泣きそうなときは、泣けばいい。サザエさんや平清盛やスーパームーンを眺めて泣けばいい。それでも泣けなかったら、「泣きそうだ」「くじけそうだ」「ダメになりそうだ」と自分に告白すればいい。素直になることが、悲しみを克服する最高の方法だ。
 それでもダメなら、音楽に頼るしかない。憂愁に満ちた「アルハンブラ宮殿の思い出」か「アランフエス協奏曲」を聴いて、10時間後に日常に帰らなければならない定めを嘆きたまえ。YouTubeに頼れば、あっという間にそこはアルハンブラ。クリック一つでアランフエス。深い憂愁のメロメロメロディーがアナタをメロメロ包み込む。
誰もいない電車
(アトーチャーアランフェス間で。乗客はどんどん減っていった)

 12月23日、今井君はアランフエスを訪れた。マドリード・アトーチャ駅(Mac君は「阿戸—茶」という意味不明の変換をしてくれたが)から中距離電車で1時間ほど。アトーチャでは満員だった車内は、赤茶けたスペインの荒野を走るうちにいつの間にかカラッポになって、こりゃチョイと恐ろしい。
 終点アランフエスで下車すると、観光客の姿は全くない。「あんまりいない」ではなくて、ホントにゼロ。地元民以外の人影は見当たらない。「なぜキミは今日ここにきたの?」と、街も風景も青い空もクマ蔵に向かって怪訝そうに首を傾げてみせるようである。
赤茶けた平野
(車窓には赤茶けた大地が広がる)

 駅も工事中で、風情なんか一切ナシ。駅前で大学生風の男子が近づいてきて「両替してくれ」「両替してくれ」とせがむ。これは明らかに無視すべき対象。そこいら中に地元のオジサマ&オバサマがいくらでもいるのに、ワザワザ一目で観光客と分かる東洋人になぜ両替をせがむんだ?
宮殿2
(誰もいないアランフェス宮殿 2)

 駅からアランフエス宮殿までは、プラタナスの並木道を15分ほど歩いていく。ホントに、全くヒトがいない。動くものは、落ち葉だけ。プラタナスの枯葉の茶色は、もし絵に描くなら赤をつかいたいほどに濃厚である。その大きな枯葉を踏んでいくと、乾いた枯葉がくだける音が気持ちいい。そのぐらい街は静まり返っている。
 あんまり静かだから、今井君の頭蓋骨の中をアランフエス協奏曲が占拠。「チャラプー」「チャラプー」「チャリーラプル、チャラプー」である。
宮殿3
(誰もいないアランフェス宮殿 3)

 昨夜「マンジリともしない」状況で(原因については昨日の記事参照)ホテルの部屋でYouTubeをいじって、アランフエスに歌詞をつけた「恋のアランフェス」や「我が心のアランフェス」まで聴きまくったから、「チャラプー」はやがて「モナムー」に変わり(詳しくはYouTube参照)「モナムー」「モナムー」「モナムー」の洪水である。
 こうして、昨日のキウィグマはモナムーグマに変身。サトイモグマもモナムーグマに変貌。クリスマスイブイブの全く人影のないアランフエスで、頭の中でひたすら「モナムー」を繰り返すうち、モナムーは思わず口をついて声になり、帰り道はちょっと大きめの声でモナムーを歌いながら駅に向かった。
プラタナスの道2
(チャラプーでモナムーなプラタナス並木)

 以上が、今井君のアランフエス物語。帰りもまたまたカラッポの電車に乗って、15時すぎにアトーチャ駅に戻ってきた。宮殿がどうとか、庭園がどうとか、ガイドブックに山ほど書かれていることよりも、深く静まり返った並木道の風景と、プラタナスの枯葉がカサカサ崩れる乾いた音のほうが印象に残っている。
 
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