Tue 120410 クリスマスのマドリードで熊谷直実を思う(サンティアゴ巡礼予行記28) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 120410 クリスマスのマドリードで熊谷直実を思う(サンティアゴ巡礼予行記28)

 本当なら、「充実のホテルライフを満喫」すべきところなのかもしれない。出発前に予約したのは普通の部屋である。ホテルリッツなんかに宿泊すること自体、十分に常軌を逸した贅沢と言うヒトもいるだろうし、ジュニアスイートにアップグレードしてもらえただけで大幸運なのだ。
 ところが、何かの間違いでその部屋にまだ客がいて、「ええい、仕方ない、ダブルアップグレードで、ホンモノのスイート」ということにしてもらえた。こりゃ、鶏の丸焼きなんか食べに外出するのはもったいない。1分1秒を惜しんで、部屋のスミズミまで一瞬一瞬を舐めつくすようにエンジョイするべきなんじゃないか。
ミンゴ外観
(今井君が再び目指したCASA MINGO)

 払う料金はモトモトの「普通の部屋」の料金。約2万円で、リッツのスイート。ロンドンやパリのリッツと比較すれば、マドリードは若干安いはずだけれども、本来の料金の約1/20から1/30と思っていい。うにゃにゃ、ボクは何で外出してしまったんだろう。
 とりあえず目指すのは、プリンチペ・ピオのCasa Mingoである。ホテルから徒歩5分のバンコ・デ・エスパーニャから地下鉄2号線に乗り、4駅目のオペラで乗り換え。最近出来たばかりのR線で、プリンチペ・ピオまで1駅である。
 R線は今のところ、オペラ-プリンチペ・ピオ間の1駅区間だけを往復で運転している。ニューヨークにもグランド・セントラルとタイムズ・スクウェアを往復するS線があるが、ちょうどあんな感じ。S線とは、要するにShuttle線の略である。大いに便利で、大いに贅沢で、大いにムダ遣いな感じである。
ミンゴ内部
(CASA MINGOの店内)

 東京なら、新宿-渋谷シャトルとか、銀座-六本木シャトル。大阪なら梅田-なんばノンストップシャトルみたいなものを、新しく作っちゃったわけだ。おお、贅沢。おお、見境ないね。とても未曾有の経済危機で、失業率24.4%の国とは思えないでござるね。
 しかしマドリード市民はたいへん嬉しそうにこれを利用する。まるでディズニーリゾートの乗り物に乗り込むように、オトナも子供もみんなヨダレを垂らさんばかりの笑顔でR線に走る。動き出してしまえばたった5分で折り返しの駅に着いちゃうのに、その5分を惜しむかのようである。
チキン
(チキンの丸焼き)

 考えてみれば、Casa Mingoにはホンの6日前に来たばかりだ。たった1週間のうちに、同じ日本人旅行者が同じ店にきて、同じニワトリを貪り食い、同じリンゴ酒「シードル」をガブ飲みする。
 従業員のオジサマたちから見ればさぞかし不思議な光景だろう。東洋人というもんは、大型バスの団体客でやってきて、嵐のようにテーブルを占領し、出されたものを素直に無言で平らげ、嵐のようにバスで帰っていく。規律正しい団体行動をその特徴にしているはずなのだ。
チキンの果て
(15分後の残骸)

 ところがこの濃いヒゲのクマは、ヒゲが濃いばかりではない。何だかサトイモ風の風貌でもある。ジャガイモだと思えばジャガイモにも見える。いや、どうもキウィフルーツのようにも見える。
 サトイモやキウィに似て見えるのは、どうやらヘアスタイルが原因のようであるが、とにかく団体行動が苦手な生物であるらしい。個人で来て、個人で注文して、個人でリンゴ酒をボトル2本、あっという間に平らげる。
シードラ
(リンゴ酒 シードラ)

 年季の入った熟年オジサマ・ウェイターがわざわざ「シードラはデカイですよ。とても個人では飲みきれませんよ」と忠告したのに、そのシードラが15分後にはカラッポになって、サトイモのクセに「もう1本下さい」とか、生意気なことを言う。
 「ホントか?」と肩をすくめてみせたのも束の間、15分も経過すれば、またまたカラッポ。3本目を思いとどまらせるには、氷のように冷たい視線を浴びせるしかない。「おまえ、キウィかパタータのクセに(パタータとはジャガイモのこと)、クマみたいによく飲むな。もうそのぐらいにしとかないと、ホテルまでたどりつけなくなるぞ」という視線である。
オリーブ
(オリーブ)

 そこで今井君は、前回は注文しなかったトルティージャを試してみることにした。まあ、スペイン風オムレツであるね。やがてキウィグマの前には、夢のように大きな、至近距離で見た満月みたいなトルティージャが運ばれてきた。
 「夢のように」とはどのぐらいの大きさかと言えば、直径約30cm、厚さ約5cm。中にはタップリのジャガイモがムッチリ&ミッチリ入っていて、「さてこれからゆっくり冬眠するか」というツキノワグマにこれ1個与えれば、1個で十分に満足して、春4月の山の雪解けまでグースカ前後不覚に眠るだろう、そういうシロモノである。
トルティージャ
(トルティージャ、スーパームーン風)

 こうしてキウィグマの食卓に並んだのは、まず主役のニワトリさん。ホンモノのクマも大満足の巨大オムレツ(5ユーロ)。タップリのオリーブ(約30個で5ユーロ)。タップリのハモンセラーノ(5ユーロ)。フグの薄造りみたいな生ハムが数枚「高級です!!」という雰囲気で静々運ばれてきて1500も2000円もするような、日本のハモンセラーノとは迫力が違う。
 ただ、問題は「腹がハチ切れないか」である。今井君はいまやホテルリッツのスイートを占領しているヤンゴトナキ身の上。こんなヤンゴトナキ人物が、チキンとオリーブと生ハムとオムレツを食べ散らかし、2本も3本もシードラを飲み干して、万が一お腹が破れでもしたら、「マジメでおとなしくて勤勉」という日本人の評判を一気に地に落としかねない。
ハモンセラーノ
(ハモンセラーノ)

 ま、いいか。もしそんなことになったら、「いいえ、私は日本人ではありません。クマなんですから、人とは違います」と答えておけばいい。でも「えっ、クマなんですか? キウィかと思ってました」「サトイモじゃないんですか?」と驚かれたらどうしよう。
 もちろんその時は、今井兼平か畠山重忠か熊谷直実のつもりで、堂々と名乗りを上げればいい。水戸黄門みたいにフトコロから印籠を取り出してもいいね。「ズが高い、ひかえおろう。このワタシをドナタと心得る。畏れ多くもホテルリッツのスイートルームを占領しておる天下の副将軍であるぞ」、そういう勢いである。
 しかし諸君、時代は変わっていく。あと5~6年すれば、「センセー、水戸黄門ってなんですか?」と真顔で尋ねる世代が予備校に入学してくるだろう。助サン格サンだって、通じなくなる。風車のヤシチも飛びザルも由美かおるも、記憶と歴史の彼方に消えてしまうだろう。
リッツ
(何とかホテルリッツに帰り着く)

 そのぐらい、人の記憶とはハカナイものなのだ。ましてやテレビにあんまり出ないヒトたちの記憶は、あっという間にアヤフヤになっていく。イマイカネヒラって、キミはチャンと読めたかい? ハタケヤマシゲタダは?
 彼らは、大河ドラマで源義経や頼朝や北条政子を扱う時の、チョイ役でしか登場しないじゃないか。今年は平清盛だから、彼らにとって久しぶりのチャンスだが、どうも清盛自身が大ピンチらしいから、とてもカネヒラやシゲタダどころじゃないかもしれない。
 まして熊谷直実となると、一の谷の戦の日、平敦盛が討ち死にする数分しか活躍の場が訪れない。「須磨の嵐に聞こえしはこれか、青葉の笛」とか、まあそんな場面である。近代日本人の常識だった彼も、どんどん忘れられてしまってもう見る影もない。
 驚くなかれ、とうとう「センセー、ブログに出てたクマガヤ・ナオミって、誰のことですか?」「センセー、熊谷ナオミって、どこの48メンバーですか?」、そういう時代がやってきた。諸君、クマガイナオザネである。ナオザネは仕方ないとしても、クマガヤって、さすがにそりゃないんじゃないか。
フルーツ
(部屋にサービスされたフルーツ)

 こうやっていつもの通りまた話が大きくそれて、マコトに申し訳ない。しかし諸君、12月22日のマドリード・キウィグマはもうホテルに帰るだけである。スイートルームに収まって、ホテルからプレゼントされたフルーツをむさぼり食う。無料だからといってエスプレッソを10杯近く続けざまに飲んだ。諸君、大量のリンゴ酒に酔っぱらってフラフラなのに、大量のエスプレッソのせいで目が冴えて、もうマンジリともできない。
 「マンジリ」って、なあに? 漢字でどう書くの? 英訳したらどうなるの? 以上、マンジリともできないせいでクマの興味はどこまでも拡大して、宇宙の謎にまで迫りそうだ。そうねえ、英訳ねえ。コムズカシク言えば
① be wide awake all night
② have a sleepless night
③ do not get a wink of sleep
あるいはもっと単純に
④ do not sleep at all
おお、まるで英語のセンセーみたいだ。

1E(Cd) Max Roach:DRUMS UNLIMITED
2E(Cd) Max Roach:DRUMS UNLIMITED
3E(Cd) Argerich:SCHUMANN/KINDERSZERNEN
4E(Cd) Richter:BACH/WELL-TEMPERED CLAVIER①
5E(Cd) Richter:BACH/WELL-TEMPERED CLAVIER②
total m52 y550 d8445