Tue 120403 オマージュとオマンジュー ホッマゲの正体 「しんどかったー」の叫び | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 120403 オマージュとオマンジュー ホッマゲの正体 「しんどかったー」の叫び

 渋谷ジャンジャンをはじめとする小劇場に入り浸っていたのは、1980年代の今井君である。90年代から先は予備校の授業が忙しすぎて、劇場からすっかり足が遠のいた。この10年、文楽と狂言と能と、海外旅行中に観る若干のオペラ以外は、演劇の世界とほとんど無縁の日々を過ごした。
 だからいまだに今井君にとって演劇とは、かつて「アングラ」と呼ばれた赤テントや黒テントであって、唐十郎に佐藤信に鈴木忠志でなければ、チャンと演劇を観ている気分になれない。野田秀樹や宮沢章夫でさえ、何だか新しすぎる気がするのだ。
 記憶を探れば、最後に観た演劇は「自転車キンクリートstore」の「マクベス」である。場所は新宿のスペース・ゼロ、主役マクベスはテレビで売れっ子になる直前の佐々木蔵之介。代ゼミで5時間目まで授業をして、ヘトヘトになって駆けつけた。1999年12月のことである。
美ネコ1
(美猫の肖像1 ウチワの上の証明写真)

 いやはや、あれから15年近くが経過した。人生とは、時間の経過とは、マコトに恐ろしいものである。かつてバイト代のほとんどを演劇に使い果たしていたヤツが、「仕事が忙しい」というだけの理由でキレイサッパリその世界を忘れてしまう。
 だから下北沢の本多劇場だって、ホントに久しぶりである。前回いつ来たのか、記憶は定かでない。泣く子も黙る超記憶魔♨今井君が思い出せないというのだから、これは相当なものである。
 下北沢には1997年から2002年まで住んでいた。本多劇場まで歩いて10分の家に住んでいて、それでも一度も足を向けなかった。いやはや、もう一度「人生とは恐ろしいものであり、時間の経過とは恐ろしいものである」と繰り返しておこう。
 下北沢が演劇の街に育ち、俳優がたくさん住むようになったのも、本多劇場があったからこそである。1982年、まだ今井君がちっとも忙しくなかった頃、唐十郎「秘密の花園」で劇場オープン。ほら、やっぱり唐十郎じゃんか。
美ネコ2視線
(美猫の肖像2 視線の飛ばし方)

 で、数百年ぶりの本多劇場で今井君が観たのは、ナイロン100℃「百年の秘密」。作・演出ともにケラリーノ・サンドロヴィッチ、主演・犬山イヌコ。ケラリーノであろうが、サンドロだろうがヴィッチだろうが、彼は純然たる日本人である。
 400人収容の劇場が、完全に満員になっている。平日の午後2時からの公演で400人の会場を満員にするというのは、これはたいへんな人気である。というか、日本というのはホントに平和で優雅で知的な、スンバラシイ国なのだ。
 萩原聖人が準主役級で客演していて、ロビーにはフジテレビからの大きな花束も飾られている。「もしや、この満員ぶりもそのおかげなのか」と思ったりするが、確かに女性客の比率が圧倒的に高い。休憩時間、女性化粧室前には驚くべき長蛇の列ができた。化粧室が少なすぎるのだ。劇場として早急に改善すべき点であるね。
美ネコ3アップ
(美猫の肖像3 アップその1)

 今回の作品は「現代アメリカ演劇へのオマージュ」とのこと。諸君、たいへんだ、オマージュであるよ、オマージュ。オマージュって、なあに? 中にアンコの入ったヤツ? それはオマンジュー。オマージュとオマンジューの区別がつかないようなら、チャンと先生に質問に行きなされ。でも、きっと先生もチャンとは知らないよ。
 で、頼りになる先生が近くにいないヒトは、やっぱり今井先生を頼るしかない。この先生、ブログを読むかぎりでは何の先生なのかサッパリわからない。世界史のセンセ? 古文か現代文のセンセ? 予備校的には英語のセンセらしいのだが、旅行ばっかりして、旅行記ばかり書いて、ホントに不思議なオジサマだ。
 悪いクセは、文章を書きはじめるといくらでも書きまくること。3人で酒を飲みにいってエダマメばっかり食べた話で4500字も書いちゃう。下北沢のラーメン屋でラーメン食べただけでまた4500字。今日は演劇の話だけで終わるが、明日はアボカド4個を一気に食べた話で4500字の予定。いやはや、付き合いきれない御仁であるね。
美ネコ4横顔
(美猫の肖像4 横顔にもスキを見せない)

 で、オマージュであるが、「広辞苑」はマコトに素っ気なく「①尊敬。敬意。②讃辞。献辞。」としか教えてくれない。いくら何でも素っ気なさ過ぎないか? そこで今井先生がごく大雑把に分かりやすく教えてあげると、「尊敬するヒトや影響を受けた作品への敬意を込め、その作風をマネて作品をつくること」である。
 フランス語でhommage。「男」「人間」を示すhommeに接尾辞ageをくっつけた感じだから、おそらく何か面白い語源物語やトリビアがありそうだが、詳しくはフランス語の先生に聞いてチョ。フランス語の専任教授ぐらい、どんな大学でも少なくとも5~6人はいらっしゃるはずだ。
 だって、さすがにフランス語じゃ、今井先生は責任を負えないざんす。白状すれば、たったいまhommageと書こうとした今井先生の目の前の画面に、「ほっまげ」の文字が現れた。は? ほっまげ? なまはげの一種? うんにゃ、PCのキーを英字にし忘れただけざんす。それにしてもオマージュをホッマゲだなんて、そういうセンセに難しいことを質問しても、マトモな答えは期待できない。
あんよとしっぽ
(美猫の肖像5 美脚と美シッポ)

 閑話休題、演劇の話に戻れば、さすがに「現代アメリカ演劇へのオマージュ」だけあって、ストーリーも演出もクマ蔵みたいな古い日本人にはちょいとキツかった。「大邸宅の庭に立つ楡の大木が、100年にわたる家族の秘密を見続けてきた」という大枠で、2人の女子の長い長い友情が描かれる。
 12歳で出会い、80数歳の夜、楡の木の下で同じ銃の銃弾に倒れるまでの友情物語。時計を巻き戻したり、一気に時計の針を進めたり、また巻き戻したり、ほぼ現代になったり、時代も状況もめまぐるしく変わる。変わらないのは舞台真ん中の楡の大木のみ。4世代にわたる複雑な家族の人間関係を理解するのは、なかなか容易ではない。
 「百年の秘密」の中身は2つあって、①手渡すと約束した手紙を手渡さなかったせいで悲恋になった年の差カップルの物語と、②愛し合う2人が実は兄と妹かもしれないという親の世代の秘密。大映テレビのドラマか、はたまた韓流かという激しいストーリー展開で、平手打ち、怒鳴り声、激しい叫びが乱舞した。
 さすがオマージュだけあって、物語の冒頭からヤタラに飲み物を飲む。パイナップルジュース、コーヒー、ビール、ウィスキー、温かいミルクなど。そのせいか、俳優も女優も頻繁にトイレに駆け込む。嬉しくても、悲しくても、憎しみあっても、みんなとりあえずトイレに駆け込んでみるらしい。
美ネコ5アップその2
(美猫の肖像6 アップその2)

 こうして、終演は5時を過ぎた。間に15分の休憩をはさんで、ほぼ3時間の大熱演である。俳優の皆さんもさすがに疲労のご様子だったが、これだけ複雑でこれだけ激しい人間関係を、100年にわたって見下ろし続けた楡の木さんもさぞかしお疲れだったろう。
 おそらく、それを上回る疲労を感じたのは、観客の皆様である。劇場を出ようと通路を歩いていたとき、一番後ろの席にいた大学生風の女子が、ノビをしながら大きな声で「しんどかったー♨」とマコトに素直で正直な感想を叫んだ。
 そうだねえ、いろんな意味でしんどかったでござる。周囲の人々は一斉に軽く噴き出して、「そうだ。しんだかったな」「その通り。しんどかったね」「しんどかった。さて焼き鳥でも食いにいこう」と囁きあっていた。オマージュって、オマンジューと違って、ホントにしんどいものなのだ。でも、とにかく楽しかった。
チケット
(諸君もオマージュ体験したまえ)


1E(Cd) Eschenbach:MOZART/DIE KLAVIERSONATEN 3/5
2E(Cd) Eschenbach:MOZART/DIE KLAVIERSONATEN 4/5
3E(Cd) Eschenbach:MOZART/DIE KLAVIERSONATEN 5/5
4E(Cd) Solti & Chicago:BEETHOVEN/SYMPHONIES③
7D(Pl) ナイロン100℃ 38th SESSION:百年の秘密:本多劇場
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