Wed 120321 身辺雑記2 西新宿でオペラ「オテロ」を観る すまいとばし思うて? | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 120321 身辺雑記2 西新宿でオペラ「オテロ」を観る すまいとばし思うて?

 西新宿の新国立劇場でオペラ「オテロ」を観たのは、もう1週間も前のことである。今井君は3月31日から4月9日にかけて、厳しい禁酒とダイエットを実行。体重は4kg減、禁酒のおかげですっかり頭がよくなり(というか復活を果たし)、読書量も読書意欲も復活して、すべてが好調に推移し始めていた。
 シェイクスピアの有名作品の中で、今井君が唯一首を傾げるのがオセロ。いま路上で「オセロ」と叫べば、誰かがすかさず「中島」と応じ、話題はロートに吸い込まれる液体のように「占い師」「洗脳」「復帰」「家賃未払い」とどこまでも流れていって、ダイエット後の知的ニュー今井を失望させる。
とことんねむい1
(春のネコはとことん眠い 1)

 今井君が初めて「オセロ」を読んだのは、中2から中3になる春休み。実家の押し入れでカビが生えかけていた坪内逍遥訳シェイクスピア全集を発見し、まず「ハムレット」「ジュリアス・シーザー」、続いて「オセロー」と進んだ。
 うーん、伯父さまが学生時代に購入した昭和8年のゴホンだけあって、表紙もページもシミだらけ、和訳の日本語は古色蒼然としている。中2から中3になりかけたばかりの少年が、こんな古い日本語をよく我慢して読んだものだ。だって、こんなの丸っきり古文じゃないか。
 坪内訳「ハムレット」のオフィーリアのセリフに「すまいとばし思うて?」というのがある。留学を前にした兄レイアーティーズが「オレにキチンと手紙を書くんだぞ」と、妹に命じた返答がこれである。「すまいとばし思うて?」。なんだそりゃ? 現代語訳すれば「お兄さま、私が手紙を書かないとでも思うの?」である。
とことんねむい2
(春のネコはとことん眠い 2)

 この坪内訳を読んだ太宰治が、パロディ「新ハムレット」の中でこのセリフを茶化して遊んでいる。「すまいとばし思うて?」と発言したオフィーリアに、太宰版レイアーティーズがお説教を始めるのだ。
「何だそりゃ。妹、最近オマエはそんな厚化粧なんかして、何だかダラしないぞ。『すまいとばし思うて?』って何なんだ? イヤらしいじゃないか」
「だって、坪内サマが…」
「言い訳はヤメたまえ。坪内先生は偉い学者だが、時々凝りすぎることがあっていけない。うーん、『すまいとばし思うて?』はヒドいなぁ」
 今井君の記憶によれば、こんな感じである。中3になりかけた今井君は、坪内訳シェイクスピアを読むために、やむを得ず古語辞典を買いに行った。今もあるかどうか分からないが、ブルーの表紙の「新明解古語辞典」である。
とことんねむい3
(春のネコはとことん眠い 3)

 坪内訳だと「から騒ぎ」も「むだ騒ぎ」。「尺には尺を」(原題Measure for Measure)は「以尺報尺」。「ヂュリヤス・シーザー」「ヂュリエット」となると、「それは誰ですか?」の世界。ブルータスに刺されたヂュリヤスどんは「ブルータス、お前までもが…ぢゃ、モウ」と呻いて息絶える。
 オセロも最後が伸びて「オセロー」。で、やっと話がモトに戻ってきたが、その「オセロー」は、坪内訳も福田恆存訳も小田島雄治訳も読み、そのたびに「これってホントに『4大悲劇』に入れちゃっていいの?」と慨嘆するのである。
 だって、いくらなんでも「イチゴのハンカチーフ」が活躍しすぎなんじゃないの? 40歳だか50歳だかの大のオトナ、英雄視される大将軍オセローが、若い妻にのぼせあがったあげく、「オマエにプレゼントしたイチゴのハンカチーフ、出してみせろ!!」と駄々をこね、後半から終盤にかけては「イチゴのハンカチーフ♨」「イチゴのハンカチーフ♨」の連発に終始する。
 まあ、それだけ「のぼせあがった中年はコワいっチューネン♨」ということなのかもしれないし、「つまらない嫉妬ですら、大将軍をも破滅させる毒をもつ」という教訓にもなるわけだ。しかし、あんなに「イチゴのハンカチーフ!!」ばかり絶叫し続けると、読んでいて気恥ずかしくなってくる。
 ヴェルディが4幕のオペラに作り替え、タイトルも「オテロ」ということになると、このあたりがスッキリまとまって、観ていて気が楽である。「花柄のハンカチ、どこ行った!!」の絶叫も3回で済む。むしろ幼稚でダラしない中年の喜劇として、笑いながら観ていられるし、悪役イアーゴの小者ぶりも、喜劇ならあんまり気にならない。
とことんねむい4
(春のネコはとことん眠い 4)

 ウィーンのオペラ座、ミュンヘン州立歌劇場、ベルリンのシュタットオパー、ブダペストのオペラ座その他、その4~5年でクマ蔵どんはヨーロッパの主要なオペラハウスに足を踏み入れてきたけれども、東京のオペラパレスは規模も設備もなかなかのもので、ヨーロッパの名門に決してヒケをとらない。
 今日の「オテロ」の舞台装置も見事だった。オセロでもオテロでも本来の舞台はキプロスのはずだが、舞台にホンモノの水を大量に引いて、すっかりヴェネツィアの大運河周辺を思わせる舞台に作り上げた。むしろ3階席か4階席からの方が装置と演出を楽しめる作り方である。
 ただし、そのせいではないだろうが、お値段が高すぎる。今井君が座った3階席で14000円。1階席だと26000円もする。
 例えば若い男女2人が「オペラ座デートをしよう」ということになって、彼氏は当然見栄を張るから「せっかくのデートだし1階席で」と考える。その瞬間、まず52000円が飛んでいく。時給1000円のバイトなら52時間分。1日8時間バイトしたとしても、約7日分じゃんか。
とことんねむい5
(春のネコはとことん眠い 5)

 いったん見栄をはれば、どこまでも張り続けなければならないから、幕間にシャンペンを飲んだりする。よく冷えてないシャンペンが1杯1300円。彼氏だってまさか一人で飲むわけにも行かないから、彼女の分も買って、ハイ2600円。プログラム1冊2000円。
 場所が京王線初台という中途半端な場所だから、「新宿までタクシー」、ハイ1000円。「食事でもする?」、で高層ビルのイタリア料理屋に入ると、うにゃうにゃうにゃにゃ、まさか「ワリカン」というワケにはいかないから「お会計、ご一緒で20000円になります」。
 こうして電車代は考えなくても、1回の見栄はりオペラデートは80000円もかかるのだ。ちょっとやそっとの彼氏の給料では、ポケットにおっきな穴が空いちゃったようなものである。3回のオペラデートで、若い新入社員の給料では貯蓄がマイナスに転じる。
 ボクらオトナ世代の責任として、オペラやコンサートや展覧会のお値段を、何とかもっともっと安くしてあげたい。先進国って、そういう努力をチャンとしてる国のことなんじゃないのかねえ?

1E(Cd) Solti & Chicago:BEETHOVEN/SYMPHONIES⑤
2E(Cd) Solti & Chicago:BEETHOVEN/SYMPHONIES⑥
3E(Cd) Solti & Chicago:BEETHOVEN/SYMPHONIES①
4E(Cd) Argerich:SCHUMANN/KINDERSZERNEN
7E(Cn) トマス・バウアー 大友直人/東京交響楽団:マーラー歌曲集 スクリャービン交響曲第2番:サントリーホール
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