Sun 120318 パラドールの朝食 目玉焼き 寄木細工の店(サンティアゴ巡礼予行記16) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sun 120318 パラドールの朝食 目玉焼き 寄木細工の店(サンティアゴ巡礼予行記16)

 12月19日朝、パラドール・デ・グラナダでの1泊目が無事に明けて、外は快晴である。昨夜は少し飲み過ぎたらしく、「その後」のことをよく記憶していない。
 何しろパラドールはアルハンブラ宮殿の中にあるわけだから、頭の中にはタレガ「アルハンブラの思い出」のメロディーが流れ続け、一瞬たりともそこから離れられない。つまり、シラフでも酔っていても、寝ても覚めても、朝も夜も、ずっとずっと憂いと哀愁に満ちたメロディーが頭を占領している。
アルハンブラ
(さて、アルハンブラを散策だ)

 むかしむかし受験生のころ、英語と現代文の試験の最中にこんな事態に陥り、成績が散々になった経験がある。英語のときは西城秀樹の「Young Man」、現代文は「水戸黄門のテーマ」である。
 どちらにも余りに当然なキッカケがあって、英語は長文問題の冒頭の単語が「Young man」だったし、現代文も読解問題の最初に「人生」の一言があった。「人生」を見れば「楽ありゃ苦もあるさ」が当たり前のように続く。我々の世代の日本人の宿命である。
 今井君は大昔からKusoマジメな人間ではないから、試験などというものは大キライ。とにかく遊んで怠けて楽をしていたい。英語の長文なんか読むより、楽しくお歌を歌っていたい。試験時間中ずっと頭はお歌を歌い続け、とても読解どころではなくなった。
サンタマリア
(サンタマリア教会。日光を浴びて美しいオレンジやピンクに染まる)

 今回は、それが「アルハンブラの思い出」だ。しつこいようだが、「チャーラぷーるリー、チャーラぷーるリー、チャーラぷーるぷりー、チャーラぷーるぷりー」である。
 NHK「名曲アルバム」でこの曲を取り上げたことがあって、画面には庭園の美しい噴水が映し出された。夏の日差しを受けて飛び散る水しぶき、咲き乱れた花の中を涼しげに走る澄みきった水の流れ、音声は憂鬱で物悲しい「チャーラぷーるリー」の果てしない連鎖。おお、今井君はまさにあの庭園のすぐ間近まで来ているのだ。
パラドール内
(パラドール内にも史跡がある)

 二日酔いが若干残っているが、まあ大丈夫。朝食はいつものように無料だし、今日は長距離移動もないから、下のレストランに降りてゆっくり朝食を味わうことにした。移動さえなければ、お腹の調子のせいでピンチも小規模で済む。
 タマゴ料理も無料であって、クマ蔵はさっそく「目玉焼き、半熟で2個」を注文。これは嬉しい。贅沢なホテルで豪華なビュッフェ形式の朝食でも「タマゴ料理は有料です」が多い。たかが600円か700円のオカネを請求してお客を失望させるのは得策とは思えないが、そういうホテルのほうが圧倒的に多い。
拡大図
(パラドール内の史跡、拡大図)

 うにゃにゃ、端っこがカリカリに焼けた半熟の目玉焼き、クマ蔵の朝の大好物である。塩とコショーをふりかけて、絶対に黄身を割らないように用心深く白身から片付けていく。黄身を割らないのは、黄身が割れてお皿にこびりつくと、見た目がとっても悪いからである。
 見た目が悪ければ、味わうほうの気分も悪くなる。気分が悪ければ、味わう料理もマズく感じられる。美味しく食べるには、キレイに食べるに限る。
 そもそも、お皿を洗うヒトの苦労を考えてみたまえ。目玉焼きの黄身がメトメトこびりついた皿を洗えば、誰だって機嫌が悪くなる。皿を洗うヒトの機嫌が悪ければ、食べた人間の後味も悪い。いいかね諸君、食事ほど関わる全員の気分を大事にしなければならない場面は、滅多に考えられないのだ。
日なたネコ1
(アルハンブラの日なたネコ 1)

 そこで、自分が「グラナダでアルハンブラのパラドールに宿泊中」という人生の晴れ舞台に立っていることを一切忘れ、今井君は「目の前の目玉焼きの黄身を割らないこと」に自分の全存在を賭けることにする。
 黄身は、最後の最後までまん丸に残し、細心の注意を払ってフォークで持ち上げる。その温かい感触を楽しみながら、舌で上アゴに押しつけると、黄身についた塩が溶け、コショーの風味が鼻から抜けていく。「ああ、オレはいま、大事に大事に丸く残したタマゴの黄身を、とうとう無慈悲に食べてしまうんだ」という緊張と切迫感が、クマの脳を痺れさせるほどである。
 舌の圧力が加わるにつれて、薄い薄い黄身の膜はその圧力に耐えかね、今にも破れそうな断末魔の中で身をよじる。塩は溶けつづけ、コショーは花やかに香り、ついに限界を超えた薄膜がプチッと音をたてて弾けた瞬間、トロリと口全体を満たす黄身の、その生命力漲る風味こそ、諸君、人生の幸福が見事に濃縮された味なのだ。
日なたネコ2
(アルハンブラの日なたネコ 2)

 こういうふうで、朝食にはタップリ30分かかった。もう1度繰り返すが、今井君はいま「グラナダのアルハンブラ宮殿内のパラドールに宿泊中」「今日はこれからアルハンブラ宮殿を散策だ」という、人生の晴れ舞台に立っている。ブログに書いているのは、チャーラぷーるリーな晴れ舞台の1日の記録なのだ。
 それにも関わらず、目玉焼きの黄身の食べ方について、徹底的に詳細に書かずにはいられない。悪いですか? いけませんか? もっと要点を知りたいですか? でもね、旅に要点なんか求めると、みんな同じになっちゃいますよ。「要するに何を見て何をしたのか」なんか書くんだったら、別にガイドブック読みゃいいじゃないですか。
寄木細工
(アルハンブラ、「ラグーナ」の寄木細工 1)

 目玉焼きにこれだけ狂喜乱舞してるんだから、この日の今井君は実はハシャギにハシャイでいたのだ。
「ほほお、朝の目玉焼きでこんなに盛り上がっているとは、よほどハシャイでたんだな」
「目玉焼きの食べ方の描写で、今井は晴れ舞台に手放しでハシャグ無邪気な心を描きたいんだな」
「アルハンブラでの感動を、目玉焼きという思いがけない素材で描こうとしたわけだ、なるほど、達人かもしれないな」
と理解する、そういう優しさと想像力と読解力を、読者諸君には育んでいただきたい。物事をストレートに説明することしかできないんじゃ、なかなか人生の妙味を味わいつくすことはできませんぞ。
拡大図
(アルハンブラ、「ラグーナ」の寄木細工 2)

 宮殿と庭園の入場券は、インターネットで日本から購入できる。4ヶ月前の夏のさなかに12月の入場券を買ったので、たいへん楽に購入できた。しかしシーズン真っただ中の夏の入場券を手に入れるのは難しいらしい。ましてや「現地に行ってから入場券を手配する」などという暢気なことをやっていたら、入場できずに終わる悲劇になりかねない。
チケット発券所
(入場券の発券機。みんな窓口でもらうので、機械の人気はイマイチ)

 宮殿と庭園は明日12月20日13時からのチケットを買ったから、今日は周辺の散策で暢気に1日を過ごすことにする。パラドールから30秒ほどの所にお土産屋があって、グラナダ名産の寄木細工を製造&直売中。ガイドブックにも掲載されている有名店「ラグーナ」である。
 40歳過ぎぐらいのオジサンが夢中で製作している姿を眺めながら、「こりゃ買わなきゃ」と決意。しかしお土産を買うのはあまり得意じゃないから、グラナダの最終日まで「苦手なことは後回し」、どこまでもダラしないクマを貫くことにした。
職人のおじさん
(寄木細工を製作中のオジサマ)

 アルハンブラは、野良猫の天国である。さすがに入場料をとる宮殿とヘネラリーフェの庭園では見かけないが、チケット売り場もパラドール周辺も、赤や黒や三毛やシマシマのネコが我がもの顔に闊歩する。この季節のスペインの日差しは柔らかくて、ネコが日なたぼっこをするにはピッタリ。ネコたちも目を細め、たいへん気持ちよさそうである。
 そういう姿を眺めるにつけ、今井君は日本に置いてきたニャゴロワとナデシコのことを思い出して、泣きたいほどに寂しくなる。アイツら2匹も連れてきて、スペインのネコたちと一緒に日なたぼっこをさせてやりたかった。
日なたネコ3
(アルハンブラの日なたネコ 3)

 実は、それを思っただけで今井君の脳裏を深々とした憂愁と哀愁が流れ、目玉焼きの黄身がプチッと破れて以来すっかり失念していた「チャーラぷーるリー♡チャーラぷーるリー」がまた始まってしまった。しかしまあそれも悪くない。アルハンブラ散策の心の準備完了ということである。
 だから、明日こそマジメなアルハンブラ紀行を書くことになりそうだ。Kuso-Majimeなタイプの諸君、明日まで腹を立てずに忍耐強く待っていていただきたい。

1E(Cd) Argerich:SCHUMANN/KINDERSZERNEN
2E(Cd) Argerich:SCHUMANN/KINDERSZERNEN
3E(Cd) Solti & Chicago:BEETHOVEN/SYMPHONIES③
4E(Cd) Solti & Chicago:BEETHOVEN/SYMPHONIES③
5E(Cd) Solti & Chicago:BEETHOVEN/SYMPHONIES④
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