Thu 120315 男子は悪い子、女子は叱り役 カサ・ミンゴ(サンティアゴ巡礼予行記13) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 120315 男子は悪い子、女子は叱り役 カサ・ミンゴ(サンティアゴ巡礼予行記13)

 スペインでもギリシャでも、とにかく南ヨーロッパの男たちは立ち飲みが大好き。すぐそばに空いたテーブルが並んでいようが、座り心地の良さそうなソファがあろうが、彼らはカウンターに肱をついて、立ち話をしながら酒を飲むのが大好きなのである。
 飛行機の中などで、それが癇に障ることがある。機内アナウンスで何度も繰り返し「着席中はシートベルトをお締めください」と言っているのに、いったん楽しく立ち話を始めた南欧の男たちを席に戻らせるのは至難のワザである。
 2時間でも3時間でも、とにかくそれが「罪になる」「罰金を科される」ということにならない限り、彼らはオシャベリをヤメない。「罰金をとられますよ」と言われたって、大きく肩をすくめ「なぜ?」「おお、コワい」「そんなコワい顔しなくても」と、小バカにしたような薄笑いを浮かべてやり過ごそうとする。
チキン
(CASA MINGOのチキン丸焼き。うーん、写真では旨さも豪快さも伝わりにくいものであるね)

 同じ南欧人でも、女性たちがそういう態度をとるのはあまり見かけない。対する男子軍団は、無邪気を通り越して「悪い子ばっかり」な感じ。男の子からオニーサン、オジサマからオジーサンまで、チャンとヒトの言うことをきく男子はなかなかいないようである。
 むしろ「悪い子」であることに、人生のすべてをかけているぐらいの勢いなのだ。「ママや奥方や娘の叱責を無視して生きるのが生き甲斐」なのかもしれない。南欧の男子の人生は、身の回りのオンナたちに厳しく叱責されつづけ、むしろそれを楽しむ80年なのである。
ほね
(クマに襲われたチキン君の残骸)

 コドモの頃は「悪い子だね」とママやオバーチャンに叱られる。オトナになれば「悪いヒトね」「イケナイ人ね」と愛する女性を嘆かせる。やがて「パパ、みっともないからそんなバカなことヤメてよ」と娘に叱られ、「何だ、オマエは最近ママそっくりになってきたな」と頭を掻くようになる。
 70歳を過ぎても「オジーチャン、何やってんの?」とマゴ娘に叱られる。気がつくと、妻であるバーチャンと、ママになった娘と、小学校に入学したてのマゴ娘が、そろって目の前で腕組みをして、「オジーチャン、メッ」と睨みつけている。
 そういうとき、南欧の男性の顔一杯に広がる嬉しそうな苦笑は、ほとんど人生の絶頂を思わせる。「イケナイ人ね」「アナタって、悪いヒト」「いったいどこまでヤンチャなの?」と呆れられるほどでなければ、男性として一人前じゃないと信じているのかもしれない。
カサミンゴ
(CASA MINGO。イタズラっぽい男子がたくさん集まっていた)

 友人でも息子でも親戚でも、「悪いヒト」と叱ってもらえない品行方正な男子がいれば、むしろ気がかりの種になる。男子なのにマジメな人、ルールをチャンと守るヒト、悪いことやイタズラをしないヒト。そういうヤツがいたら、「オマエって、大丈夫?」とホンキで尋ねかねない。
 日本人やイギリス人やドイツ人の典型みたいな勤勉でルール遵守のヒト、座れと言われれば座り、シートベルトをしなさいと言われる前からしてるヒト。そういうのを見かければ、皆で取り囲んで「イタズラぐらいしてみろよ」ということになる。昔のイタリア映画やギリシャ映画には、そういうシーンがよく挿入されていたものである。
シードラとビア
(シードラとマホウビール。マホウビールは、ギリシャのMythosに並ぶ旨さだった)

 一方、女子の役回りは男子を厳しく叱りつけることである。まあどうみても損な役回りだが、幼い頃はオジーチャンを、娘時代にはパパを、若い頃は彼氏を、結婚すればダンナを、墓場に入るまで細かくチェックし、チャンと叱ってあげなければならない。男子は叱られることに快感を覚えるので、叱ってあげないのは虐待なのである。
 そういうふうだから、南欧のレストランに入ってビックリするのは、入り口でタムロしてワイワイ騒いでいる大量の男子軍団である。外から見れば「超満員」「立錐の余地もない」であって、事情を知らないヒトはサッサとあきらめ、スゴスゴ家路につく。
 だって、エントランス付近でさえあんなにたくさんお客がいて、ワイワイガヤガヤ大騒ぎだったんだ。「中のテーブルにつくなんて、夢のまた夢、何時間待ちだろう?」と思って当然だ。
テーブルクロス
(1888年創業。CASA MINGOの紙のテーブルクロス)

 ところが諸君、実際に混雑しているのはエントランスの立ち飲みスペースのみなのだ。中に入ってよく眺めてみれば、テーブルはガラガラ、大人しく座って飲み食いしているのはホンの数組だったり、誰一人いなかったりすることも珍しくない。
 12月17日、目指したカサ・ミンゴにたどり着いてみると、案の定、入ってすぐの立ち飲みスペースはパンパンの満員。1888年創業当時のままの古色蒼然たるスペースには、お馴染みさんらしい怪しいオジサマとオジーサマたちがズラリと並び、入ってきた東洋のクマをいっせいに眼光鋭く睨みつけるのだった。
店内の様子
(カサ・ミンゴの店内。残念ながら、この写真では店内のたいへんな賑わいがちっとも伝わらない)

 ところがさすがに人気店、中のテーブルも超満員である。立ち飲みスペースにテーブルを待つ列ができ、みんな背伸びして店内を見回している。列には、家族連れ、カップル、十数人の大家族、男子6~7人の仲間たちもいる。いやはや、賑やかなことだ。
 さすがにクリスマス1週間前だから、みんなでチキン丸焼きを楽しく頬張ろうというわけだ。オトナたちはリンゴ酒(シードラ)を飲んで盛り上がり、軽いイタズラもタップリして、オンナたちにタップリ叱られたい。オンナたちは、男子をタップリ叱り飛ばしたい。男も女も自分の役どころをしっかり理解している様子である。
樽
(テーブルの脇に積み上げられたシードラの樽)

 客の回転は意外に早くて、長い列の前から5番目ぐらいに並んだ今井君は、10分ちょっと待っただけでもうテーブルに案内された。大きなリンゴ酒の樽の並んだ、店の一番奥のテーブルである。
 ウェイターは総勢15~6名いるだろうか。30歳前後から70歳近いと思われるオジーチャンな感じのヒトまでいる。例外なく動きが素早く、テキパキと力強く仕事をこなしている。
 チキンを運ぶのも、シードラを注ぐのも、椅子にテーブルを並べ替えるのも、「オレはこの店で人生やってんだ」というガッチリしたプライドが感じられて、マコトに爽快である。店の方針なのか、従業員は全員男性。ウェイトレスというものは1人も見かけない。
王宮
(帰りは王宮を経由してブラブラ歩いた)

 メニューはカンタン、単純明快だ。プラスチックのケースに入ったA5版ぐらいの紙が1枚。「チキン」「ブタ」「ヒツジ」の類いの単語がスペイン語で並んで、難しい話は一切ナシ。サイドメニューも「オリーブ」「ハモンセラーノ」「パン」「トルティージャ」ぐらいである。
 酒も「シードラ」「ワイン」「ビア」であって、「この店は、難しいことをいう店じゃないんだ」「とにかく、たくさん食って、たくさん飲んでくれ」「難しいこと言うんなら、別の店に行ってくれ」「文句があるなら、帰りゃいいじゃないか」という勢い。今井君の一番好きな、爽快でキップのいい店である。
おじさんみっきー
(王宮前に立っていたミッキー。中身は腹の出たオジサンだった)

 注文したのは、チキン丸焼きと、ビール1本とシードラ1本。オジーチャンのウェイターが「シードラのボトル1本はデカイぞ。大丈夫か?」と確認してくれたが、日本の酒豪グマを軽く見てもらっては困る。ついでに、オリーブ1皿と生ハム1皿も注文。せっかくの南欧だ、今井君もイケナイ男子になって食べまくり、飲みまくってやる。
 周囲のお客を見ると、チキンの食べ方の見事さにビックリする。隣のテーブルは家族連れだったが、ママも上手、小さな娘も上手。大きなチキンはあっという間に骨だけになっていく。
オリーブと生ハムとパン
(オリーブと生ハムとパンの光景)

 オリーブや生ハムの分量にも驚く。日本で生ハムなんか注文すれば、フグの薄造りみたいな上品なのを4~5枚、静々と捧げ持つように運んできて1皿1500円もするが、たった5ユーロで大皿1枚が山のようになったのを、威勢のいいウェイターがドンと置いて去っていく。
 オリーブも同様。青々とした旨そうなヤツを山盛りにして「どうだ、食いきれるか?」というニヤニヤ笑いを浮かべてみせる。ギリシャでもポルトガルでも事情は同じだが、「この国ってホントに経済危機なの?」と首を傾げるほどの豪快さである。
やまもも?
(ヒメリンゴの木かと思ったら、ヤマモモの木でございましたよ マドリード市街で発見)

 入店したのは午後3時、思わず「シードラもう1本ください」をやってしまったので、店を出たのは5時。3時には超満員だった店も、5時にはもうガラガラになっていた。残ったお客は、4時半過ぎて入ってきたカップル1組と、大学教授とそのゼミの学生たちだけだった。
 「クリスマスだし、今日のゼミは、メシを食べながらにしますか?」と教授から誘ったに違いない。学生たちも「それなら、CASA MINGOでチキンがいいですね」と応じたのだろう。教授と学生の間がこんなふうに良好に進んでいるのをみて、何だかとても羨ましくなりながら、夕暮れのマドリードをブラブラ歩いて帰ることにした。
 帰り道は、プリンチペ・ピオから王宮の丘を登り、王宮→マジョール広場→ソル広場→セビージャ→ホテルリッツ。約1時間も暢気に暢気に歩いて無事ホテルに帰還した。明日は朝のバスでグラナダに出発だから、これからじっくり荷造りである。

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