Wed 120314 マドリードを横断 凱旋門 チュロスを食す(サンティアゴ巡礼予行記12) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 120314 マドリードを横断 凱旋門 チュロスを食す(サンティアゴ巡礼予行記12)

 まず告知であるが、このブログで書き続けてきた旅行記11編を読みやすくまとめた「ウワバミ文庫」が完成した。目次をまとめただけではあるが、目次をクリックしていけば普通の本を読むように楽に読める。ごく近い将来の電子書籍化も視野に入れて整理した。ぜひ利用していただきたい。ま、「ウワバミ文庫を、検索!!」であるね。
シードラ
(スペイン名物シードラ)

 さて、12月17日の今井君はマドリードの市街を東から西に一気に横断、レティーロ公園からプリンチペ・ピオに向かった。東京でいうなら、日比谷公園から中央線で新宿に出たようなものである。目的は「CASA MINGO」のリンゴ酒「シードラ」と、チキンの丸焼きである。
 そもそもヨーロッパ人はリンゴが大好きなのだ。日本では「ヨーロッパ=とにかくワイン」というヒトが圧倒的に多く、ブドウとワインが徹底的に前面に出てくる。ボルドーやブルゴーニュの名前を聞いただけで目がウルウル潤んじゃうほど興奮するヒトは多いが、リンゴやリンゴ酒となると、日陰者の扱いをされざるを得ない。
カサミンゴ
(今井君が目指した名店カサ・ミンゴ)

 しかし実際にヨーロッパを電車で旅していると、ブドウ畑に負けないほどリンゴ畑は多い。イタリアからアルプスのトンネルを抜けてスイスに入るルートなんかだと、鉄道の沿線はずっとヒメリンゴの木が続き、赤い小さいリンゴの実がどこまでも可愛らしく成っている。フランス北部でもそう、ドイツも事情は同じである。
 リンゴ酒だって、アルコール度数の低いジュースみたいなヤツから、カルバドスのように強烈なものまで、たいへん多彩である。カルバドスなんか、意地になって飲んでいると「これは確実に胃と食道を傷めるな」と、酒豪クマ蔵でさえ何となく恐怖を感じるほどの濃さである。
くまとやまももとくま1
(酒豪の図、自分撮り。後方は「クマとヤマモモ」の像)

 大昔の小説「凱旋門」でも、カルバドスは大活躍する。主人公の外科医ラヴィックが、ヒロインのジョアン・マドゥーが初めて出会い、凱旋門近くのビストロでカルバドスを注文する。「雨の中で冷えきった身体を温めるため」だったはずだ。
 21世紀の大学生あたりだと「なーに? 『凱旋門』って」とマジメな顔で質問してくるのだが、諸君のオジーチャンやオバーチャンにとっては、ごく常識的な教養の一部分。シャルル・ボワイエとイングリッド・バーグマンの主演で映画にもなった。
 昭和一桁生まれのオバーチャンとしばらく話をしていないんだったら、今日すぐに電話をかけて「ねえ、オバーチャン、『凱旋門』って、知ってる?」と尋ねてみたまえ。電話の向こうでオバーチャンの顔がパッと明るく輝くのが感じられ、「おやおや、イングリッド・バーグマンかい?」「オバーチャンも若いころ憧れてねえ」と嬉しそうに語りはじめるはずだ。
凱旋門1
(高校生時代に読んだ「凱旋門」上下巻。1冊220円である)

 もっとも、映画は退屈かもしれない。DVD1枚300円か500円で買えるから、モノクロで雑音の多いDVDでよかったら、今すぐTSUTAYAに走りたまえ。リスニングの勉強にもちょうどいい。しかし今井君は小説でチャンと読むことをお勧めする。文庫本で2冊の分量だ。
 「ゲロ、長過ぎるぜ」と思うなら、諸君お得意の「速読」でも構わない。今井君は高校1年のとき、通学電車の中で読んだ。今も本棚の一隅に上下2冊が並んでいて、ホレ見ろ、こうして写真だってすぐ掲載できる。今はもう絶版になっているだろうが、その場合は図書館でどうぞ。
凱旋門2
(凱旋門。ページもすっかり赤茶けている)

 ナチスドイツからの亡命医師、ゲシュタポの暗躍、ポーランドの悲劇、いや当時の外科医学のレベルまで、20世紀半ばの世界を知るのに、これほどいい史料はないと信じる。舞台はパリとイタリアのリヴィエラだけれども、戦争が投げかけた重苦しく暗い影の本質を感覚的に理解するのにも、この小説は絶好だ。
 どうも大学生の読書が余りにもストレートすぎて、今井君は心配だ。マクニール「世界史」(中公文庫)とか、網野善彦「日本の歴史を読みなおす」(ちくま学芸文庫)とか、たいへんストレートなタイトルの本が大学生協でよく売れているらしいけれども、それって受験参考書マミレで育ったヒトたちの、寂しい本の選び方なんじゃないの?
 直球ばかりじゃなくて、いろいろ変化球も選びたまえよ。「誰それ?レマルク? 何か、怪しい小説家?」とかじゃなくて、ぜひオバーチャンやオジーチャンの本棚を見せてもらって、「これ、面白い?」と尋ねてみたまえ。
くまとやまもも
(クマとヤマモモの像。ソル広場の別の場所に移動していた)

 諸君だって、作者レマルクは知らなくても「西部戦線異状なし」というタイトルぐらいは聞いたことがあるはず。そのタイトルが余りに印象的なので、パロッたり、拝借したり、いろんなことをする人が後を絶たない。つい10年ほど前に「就職戦線異状なし」というテレビドラマがあったはずで、そのおかげで「西部戦線」のほうはまだ新潮文庫に残っている。
 ついでに「異状」と「異常」の違いぐらいは、チャンと学んだ方がいい。最近はマスメディアのヒトたちでさえ「命に別状なし」なのか「命に別条なし」なのか、正確にチャンと判断できないらしいが、そんなことでは英語ができて速読ができても、あまり大した自慢にはならない。
くまとやまももとくま2
(クマとヤマモモと、のりのり酒豪グマの自撮り)

 さて、今井君のマドリード戦線には異状があって、それが昨日書いたレティーロ公園事件だったのである。考えてみれば、ケッコ危機一髪だったのかもしれない。さっきのオジサンの軟体動物の触手のような手つきを思い出せば思い出すほど、嫌悪感はますます大きくなった。
 こりゃ、カサ・ミンゴに入る前にちょっと気分を直しておかないと、せっかくのシードラも、せっかくの鶏の丸焼きも、キチンと集中して味わうことが出来そうにない。
 食事でも飲み屋でも、何より大切なのは集中力であって、気がかりなことが一つでもあれば、酒も料理もチャンと味わうことが出来ない。そんなことでは酒を造ったヒト、料理を作ってくれたヒトに失礼である。
 悩みをかかえていたり、ショックを受ける事件があったりしたら、必ず次の食事までに一応の決着をつけてしまうこと。もちろん、最終的で決定的な決着を「次の食事まで」などというのは無理な要求であるが、「とりあえずの決着」ぐらいはつけて食事に臨むのが健康的な生き方である。
ピリンチペピオ
(プリンチペ・ピオの駅前)

 食べる時や飲むときは、一切悩みなしにする。まして、部下や同僚との食事の席で、相手を悩ませたりナジるような発言はしない。これは最低限のエチケットである。
 「悩んだり、ショックを引きずったりするのは、次の食事まで」とする。つまりショックを引きずったり悩んだりするのは、最大で6時間。人間の脳と身体が深い懊悩に耐えられるのは、6時間程度である。6時間経過すれば、ちょうど良くアッケラカンと腹が減って、悩みにもアッケラカンと一時的決着をつけてしまえるようになっている。
チュロス屋
(プリンチペ・ピオのチュロス屋)

 カサ・ミンゴに向かう前、プリンチペピオの駅前で旨そうなチュロス屋を発見。チュロスと言えば、ディズニーシーのキャラメルチュロスやチョコレートチュロスが大好きだったが、もう4年も5年もディズニーには行けていない。
 第一、今の今井君がディズニーなんか練り歩けば「あ、今井だ」「げろ、今井だ」「今井宏だ」「今井宏だ、すげ」「スゲんじゃね?」の嵐にとりまかれて、細いチュロスなんかちぎれてしまうだろう。
チュロス
(チョコチュロス。ちょうど「うまい棒」の大きさである)

 本場スペインのチュロスは、あんな生易しいチュロスではない。大きく、太い。その太さはハンパではないし、「お砂糖、かけますか?」と尋ねられて「はい、お願いします」と思わず頷いたが最後、胃袋がお砂糖まみれになるほどタップリのグラニュー糖で、チュロスが溺れてしまいそうになる。1本食べればきっと体重は1kg増加する、そういうシロモノなのである。
 もっとも、プリンチペ・ピオもレティーロ公園に負けないほど危険な「ターミナル駅」。駅前は改修されてキレイになったが、ついこの間まで治安の悪さで有名だったところである。ここは早めにチュロスを処理して、さっさとカサ・ミンゴに向かった方がいい。

1E(Cd) Holliger:BACH/3 OBOENKONZERTE
2E(Cd) Richter:BACH/WELL-TEMPERED CLAVIER 1/4
3E(Cd) Richter:BACH/WELL-TEMPERED CLAVIER 2/4
4E(Cd) Richter:BACH/WELL-TEMPERED CLAVIER 3/4
7E(Pl) 2011/12シーズン:OTELLO:新国立劇場オペラパレス
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