Tue 120228 モロッコ料理屋で デビッドとアレクサンドラの物語(ロンドン滞在記20)
12月24日の夕暮れ近く(スミマセン、昨日の続きです)、ヘトヘトに疲れ果てたクマ蔵を救ってくれたのは、意外にもアラビア人街であった。モロッコ料理店、リビア料理店、レバノン料理店。アラブ各国料理の店が軒を並べている(失礼、ここまでは昨日の記事とのカブリ部分です。テレビのCM明けと同じ要領ですな)。
ロンドンのどの辺りだっただろう。これは決して観光客相手の店ではない。年配の女性客は多くがチャドル着用。男性はジャケット姿だが、この寒いのに、外のテーブルに何故か1人ずつ間をあけて腰を下ろし、闖入してきた日本のクマをいかにも胡散臭そうに睨みつけている。
心理的に縮こまりながらも、クマさんが選択したのはモロッコ料理店。特に理由はない。チャドルの奥から油断なくクマを監視するような年配の女性たちの視線に慌てふためき、一番手近な店に入っただけである。
![外のテーブル](https://stat.ameba.jp/user_images/20120401/02/imai-hiroshi/29/2c/j/o0360027011887379669.jpg?caw=800)
(モロッコ料理店。外のテーブルのヒトビト)
店内では、オルガンの電子音が圧倒的な大音量で鳴り響いている。ナマ演奏されているのは、たぶんモロッコのものと思われる民族音楽。オルガンの回りにはコドモたちが集まり、音楽に合わせて激しく踊りまくる。オトナたちはコドモの踊りに熱狂し、歓声があがり、オルガンの音に負けない手拍子が沸きあがったりする。
空席の全く見当たらない超満員。テーブルとテーブルの間はせいぜい20cmほど、すり抜けるスキマもない。やっぱり女性はチャドル姿が多い。全身まっ黒い布にポッカリあいた四角い穴から黒い瞳で凝視されると、招かれざる闖入者である今井君は、ただただ恐縮するばかりである。
![店内の様子1](https://stat.ameba.jp/user_images/20120401/02/imai-hiroshi/25/9d/j/o0360026611887379776.jpg?caw=800)
(店内の様子 1)
注文したのは、タジン鍋で供される本格派クスクス。今井君の大好きな♨野菜タップリ、スープもタップリ。勧められた香辛料の爆発的辛さは、食道と胃袋をいっぺんに裏返しそうである。まさに内憂外患。大音量の音楽とコドモとオトナの歓声が混じりあって、さすがのクマも、脂汗が背中をタラタラ流れていく。
旅の達人・松尾芭蕉は「幻の巷に離別の涙を注ぐ」と慨嘆したが、今井クマ蔵は「12月のアラブ人街に脂の汗を垂らす」というテイタラク。「大ピンチ」と心で叫んでみた。このピンチを救ってくれたのは、隣席を占めたイギリス人の白人カップルである。
![タジン鍋1](https://stat.ameba.jp/user_images/20120401/02/imai-hiroshi/74/c4/j/o0360027011887379878.jpg?caw=800)
(本格派のクスクス)
なぜこの2人がクリスマスイブにモロッコ料理屋を訪れたのか、よく分からない。「なぜ?」と訝っているのは、カップルの彼女も同じことのようである。怪訝な表情は、次第に激しい怒りの様相を帯びてくる。
「他にいくらでもステキな店があるのに、イブのデートに、どうしてわざわざココ?」。今井君には、彼女の気持ちもよく理解できる。仮に彼氏をデビッド、彼女をアレクサンドラと名付けよう。
今井君の観察では、デビッドは30歳、アレクサンドラは36歳ぐらいか。年下の彼が「面白い店を見つけたよ」「平凡な食事じゃ、ボクたちらしくないよね」と誘い、アレクサンドラも「あなた、責任もてるの?」「また失敗じゃないでしょうね」と苦笑しながら、いつも店の選択に失敗する年下のデビッドを見つめた。
![モロッコ料理屋看板](https://stat.ameba.jp/user_images/20120401/02/imai-hiroshi/a4/8c/j/o0360027011887380031.jpg?caw=800)
(店の看板)
ま、弟の失敗は姉にとって可愛らしいものである。6つ年下の誠実な彼。誠実であればあるほど、失敗もいっそう可愛く感じられる。ふと気がつけば、付きあいはじめてからもう1年が過ぎている。
自分の年齢に焦りがないこともないが、頼りないデビッドともうしばらく一緒にいてみようと思う。そういうアレクサンドラ。もしかしたら、デビッドの上司だったりするかもしれないが、それじゃいくら何でも勘ぐりすぎだ。
しかし諸君。年下の男子の可愛い失敗にも、やはり限度というものがある。そもそも、デビッドはデート前にこの店をチャンと自分で試してみたのか? 大切なデートなら、彼女を誘う前に1人で訪れてみるのが当然である。1人で入る勇気がなければ、友人を誘えばいい。デビッドは、きっとそれを怠ったのだ。
![タジン鍋2](https://stat.ameba.jp/user_images/20120401/02/imai-hiroshi/b7/97/j/o0360027511887380154.jpg?caw=800)
(本格派のクスクス 拡大図)
失敗は許せても、怠惰や放漫は許せない。年齢とともに、アレクサンドラも経験を積んでいる。目の前に座ったデビッドが、失敗したのではなく、自らの怠惰を放置したのだとすれば、それを許すわけにはいかない。
というより、試す努力を放棄して「ま、ブッツケ本番でもOKだんべ」と考えたのだとすれば、すでに2人の関係は終わりに近づいている。メシ屋の選択を「みみっちい」「その程度のことでウダウダ」と考えるようでは、まだまだ人生経験が薄っぺらいのだ。
むかしのヒトは「一事が万事」といった。「思い切って万事ジャンプ」とか、超オヤジギャグをカマして済ませられることではない。見守る今井クマ蔵の斜向いで、アレクサンドラの表情は「もう終わりにしたい」「こんなツマラナイ男の顔、二度と見たくない」「ワタシも、ずいぶん軽く見られたものだ」に変わっていく。
![店内の様子2](https://stat.ameba.jp/user_images/20120401/02/imai-hiroshi/16/4d/j/o0360027011887380272.jpg?caw=800)
(店内の様子 2)
やがて2人は、もう目と目を見合わせることもなくなった。互いに目を伏せ、アサッテのほうに投げやりな視線を投げて、とにかく相手を見まいとする。完全な沈黙が2人のテーブルを支配し、隣の今井君とヒジがお互い触れ合うほどギューヅメの店内で、その一角だけが静寂に重く沈む。
この激しい心理戦に、クマ蔵もコワくて目が上げられない。タジン鍋の中の野菜君たちと戦い、食べ慣れない香辛料に目を白黒させ、周囲のお客の厳しい視線に緊張の糸は張りつめる。しかしこのピンチの真っただ中で一番コワいのは、お隣のテーブルの沈黙の心理戦なのである。
![パブ・ロケット](https://stat.ameba.jp/user_images/20120401/02/imai-hiroshi/84/d4/j/o0360027011887380397.jpg?caw=800)
モロッコ料理が悪いというのではない。香辛料は咳が止まらなくなるほど辛いが、クスクスは本格的に旨い。しかし問題は店の雰囲気である。電子オルガンの大音量は、1時間半あまり一度も休むことがない。コドモたちの歓声も、それを囃すオトナたちの歓声も、完全にノンストップだ。
荷物を置く場所もないギューヅメ、湯気が上がるほどの蒸し暑さ。互いに会話もマトモに通じない騒然とした店を、2人きりのクリスマスデートに平気で選んだデビッドがイケナイのだ。仲間を10人も引き連れて疑似モロッコ体験を楽しむなら最高の店でも、年に1度のクリスマスデートに選択することはないだろう。
今井君には、アレクサンドラ(仮)の怒りがよく理解できた。というか、当のアレクサンドラ(仮)以上に2人の過去/現在/未来がよく見え、どうもとっくの昔に修復困難な関係に陥っていたことさえ、千里眼のように見通せた。
「その程度のことで、そんなに腹を立てるかよ?」「短気なオンナ!!」と言うなかれ。彼女にとってはそれなりの重みのある一夜だったのだし、2人のこれまでの歴史の中での細かい怒りや苛立ちの蓄積も考えてあげなきゃ、ダメじゃないか。
![スパイス](https://stat.ameba.jp/user_images/20120401/02/imai-hiroshi/88/11/j/o0360026111887380519.jpg?caw=800)
(咳が止まらなくなる強烈&凶悪なスパイスたち)
2人は間もなく、お互い完璧な無言のまま、店を出ることに決まった。2人が立ち去るためには、クマ蔵がまず立ち上がり、テーブルを脇へ寄せ、奥に座っていたアレクサンドラのために30cmほどのスキマを作り、この夜のために彼女が選んだ美しい衣装を、今井君のクスクスやソースで汚さないように、細心の注意を払わなければならない。
それだけ努力しても「ジャマな東洋人ね!!」という厳しい視線でニラミつけられる。「ジャマなクマね!!」「何よ、そのニヤけた妙な笑顔は?」「早くどきなさい。ワタシは一刻も早く、デビッドを別れちゃいたいんだから!!」。憤然と出て行くアレクサンドラの怒りは、背中からも、後頭部からも、熱い湯気となって噴き出しているのだった。
![寒かった一日](https://stat.ameba.jp/user_images/20120401/02/imai-hiroshi/39/e9/j/o0360027011887380628.jpg?caw=800)
(ホントに寒いクリスマスイブだった)
あれから3年半、2人のその後はどうなっただろう。取り返しのつかない男女のケンカを間近で目撃したのは、2005年春のウィーンに次いでこれが2回目。無言と沈黙が支配するケンカは、おそらくホントに取り返しがつかないのだ。
諸君、「危ないな」と思ったら、とにかく一緒にたくさん食べて、たくさん話すことである。いや、この忠告は男女関係に限らない。今井君は学部生時代、鴨武彦教授の国際政治学の授業で、「イマジネーションとコミュニケーションこそ、平和構築と平和維持の基本」と教えられた。
想像力を駆使して互いの状況や苦しみを理解し、綿密なコミュニケーションで状況と苦悩を伝えあう努力。疑念が生じたときこそ、イマジネーションをフル活動させ、あらゆるチャンネルで細心のコミュニケーションに全力を尽くす。さもないと、どんな関係もデビッドとアレクサンドラのような結果に終わりかねないのである。
![それでも朝はやってきた](https://stat.ameba.jp/user_images/20120401/02/imai-hiroshi/98/e4/j/o0360027011887380818.jpg?caw=800)
(それでもロンドンにクリスマスの朝は来た)
さて、単なる男女の痴話ゲンカを以上のように無意味に描写して、筆者である今井君はいったい何を描きたかったのか。もちろん、コミュニケーションと想像力に関する陳腐なアドバイスなんかしたかったのではない。
伝えたかったのは、このモロッコ料理店を支配していた雰囲気である。痴話ゲンカの情景を読みながら、12月24日夜のクマ蔵の困惑と混乱を読み取っていただけたら、クマどんにとってはまさに望外の幸せと言っていい。
1E(Cd) Sirinu:STUART AGE MUSIC
2E(Cd) Rampal:VIVALDI/THE FLUTE CONCERTOS 1/2
3E(Cd) Rampal:VIVALDI/THE FLUTE CONCERTOS 2/2
4E(Cd) Anne-Sophie Mutter:VIVALDI/DIE VIER JAHRESZEITEN
14F(β) NEW HISTORY OF WORLD ART 01:先史美術と中南米美術:小学館
total m170 y334 d8229
ロンドンのどの辺りだっただろう。これは決して観光客相手の店ではない。年配の女性客は多くがチャドル着用。男性はジャケット姿だが、この寒いのに、外のテーブルに何故か1人ずつ間をあけて腰を下ろし、闖入してきた日本のクマをいかにも胡散臭そうに睨みつけている。
心理的に縮こまりながらも、クマさんが選択したのはモロッコ料理店。特に理由はない。チャドルの奥から油断なくクマを監視するような年配の女性たちの視線に慌てふためき、一番手近な店に入っただけである。
![外のテーブル](https://stat.ameba.jp/user_images/20120401/02/imai-hiroshi/29/2c/j/o0360027011887379669.jpg?caw=800)
(モロッコ料理店。外のテーブルのヒトビト)
店内では、オルガンの電子音が圧倒的な大音量で鳴り響いている。ナマ演奏されているのは、たぶんモロッコのものと思われる民族音楽。オルガンの回りにはコドモたちが集まり、音楽に合わせて激しく踊りまくる。オトナたちはコドモの踊りに熱狂し、歓声があがり、オルガンの音に負けない手拍子が沸きあがったりする。
空席の全く見当たらない超満員。テーブルとテーブルの間はせいぜい20cmほど、すり抜けるスキマもない。やっぱり女性はチャドル姿が多い。全身まっ黒い布にポッカリあいた四角い穴から黒い瞳で凝視されると、招かれざる闖入者である今井君は、ただただ恐縮するばかりである。
![店内の様子1](https://stat.ameba.jp/user_images/20120401/02/imai-hiroshi/25/9d/j/o0360026611887379776.jpg?caw=800)
(店内の様子 1)
注文したのは、タジン鍋で供される本格派クスクス。今井君の大好きな♨野菜タップリ、スープもタップリ。勧められた香辛料の爆発的辛さは、食道と胃袋をいっぺんに裏返しそうである。まさに内憂外患。大音量の音楽とコドモとオトナの歓声が混じりあって、さすがのクマも、脂汗が背中をタラタラ流れていく。
旅の達人・松尾芭蕉は「幻の巷に離別の涙を注ぐ」と慨嘆したが、今井クマ蔵は「12月のアラブ人街に脂の汗を垂らす」というテイタラク。「大ピンチ」と心で叫んでみた。このピンチを救ってくれたのは、隣席を占めたイギリス人の白人カップルである。
![タジン鍋1](https://stat.ameba.jp/user_images/20120401/02/imai-hiroshi/74/c4/j/o0360027011887379878.jpg?caw=800)
(本格派のクスクス)
なぜこの2人がクリスマスイブにモロッコ料理屋を訪れたのか、よく分からない。「なぜ?」と訝っているのは、カップルの彼女も同じことのようである。怪訝な表情は、次第に激しい怒りの様相を帯びてくる。
「他にいくらでもステキな店があるのに、イブのデートに、どうしてわざわざココ?」。今井君には、彼女の気持ちもよく理解できる。仮に彼氏をデビッド、彼女をアレクサンドラと名付けよう。
今井君の観察では、デビッドは30歳、アレクサンドラは36歳ぐらいか。年下の彼が「面白い店を見つけたよ」「平凡な食事じゃ、ボクたちらしくないよね」と誘い、アレクサンドラも「あなた、責任もてるの?」「また失敗じゃないでしょうね」と苦笑しながら、いつも店の選択に失敗する年下のデビッドを見つめた。
![モロッコ料理屋看板](https://stat.ameba.jp/user_images/20120401/02/imai-hiroshi/a4/8c/j/o0360027011887380031.jpg?caw=800)
(店の看板)
ま、弟の失敗は姉にとって可愛らしいものである。6つ年下の誠実な彼。誠実であればあるほど、失敗もいっそう可愛く感じられる。ふと気がつけば、付きあいはじめてからもう1年が過ぎている。
自分の年齢に焦りがないこともないが、頼りないデビッドともうしばらく一緒にいてみようと思う。そういうアレクサンドラ。もしかしたら、デビッドの上司だったりするかもしれないが、それじゃいくら何でも勘ぐりすぎだ。
しかし諸君。年下の男子の可愛い失敗にも、やはり限度というものがある。そもそも、デビッドはデート前にこの店をチャンと自分で試してみたのか? 大切なデートなら、彼女を誘う前に1人で訪れてみるのが当然である。1人で入る勇気がなければ、友人を誘えばいい。デビッドは、きっとそれを怠ったのだ。
![タジン鍋2](https://stat.ameba.jp/user_images/20120401/02/imai-hiroshi/b7/97/j/o0360027511887380154.jpg?caw=800)
(本格派のクスクス 拡大図)
失敗は許せても、怠惰や放漫は許せない。年齢とともに、アレクサンドラも経験を積んでいる。目の前に座ったデビッドが、失敗したのではなく、自らの怠惰を放置したのだとすれば、それを許すわけにはいかない。
というより、試す努力を放棄して「ま、ブッツケ本番でもOKだんべ」と考えたのだとすれば、すでに2人の関係は終わりに近づいている。メシ屋の選択を「みみっちい」「その程度のことでウダウダ」と考えるようでは、まだまだ人生経験が薄っぺらいのだ。
むかしのヒトは「一事が万事」といった。「思い切って万事ジャンプ」とか、超オヤジギャグをカマして済ませられることではない。見守る今井クマ蔵の斜向いで、アレクサンドラの表情は「もう終わりにしたい」「こんなツマラナイ男の顔、二度と見たくない」「ワタシも、ずいぶん軽く見られたものだ」に変わっていく。
![店内の様子2](https://stat.ameba.jp/user_images/20120401/02/imai-hiroshi/16/4d/j/o0360027011887380272.jpg?caw=800)
(店内の様子 2)
やがて2人は、もう目と目を見合わせることもなくなった。互いに目を伏せ、アサッテのほうに投げやりな視線を投げて、とにかく相手を見まいとする。完全な沈黙が2人のテーブルを支配し、隣の今井君とヒジがお互い触れ合うほどギューヅメの店内で、その一角だけが静寂に重く沈む。
この激しい心理戦に、クマ蔵もコワくて目が上げられない。タジン鍋の中の野菜君たちと戦い、食べ慣れない香辛料に目を白黒させ、周囲のお客の厳しい視線に緊張の糸は張りつめる。しかしこのピンチの真っただ中で一番コワいのは、お隣のテーブルの沈黙の心理戦なのである。
![パブ・ロケット](https://stat.ameba.jp/user_images/20120401/02/imai-hiroshi/84/d4/j/o0360027011887380397.jpg?caw=800)
(こんな店のほうが、きっとアレクサンドラにはよかったのだ/昨日のパブ・The Rocket)
モロッコ料理が悪いというのではない。香辛料は咳が止まらなくなるほど辛いが、クスクスは本格的に旨い。しかし問題は店の雰囲気である。電子オルガンの大音量は、1時間半あまり一度も休むことがない。コドモたちの歓声も、それを囃すオトナたちの歓声も、完全にノンストップだ。
荷物を置く場所もないギューヅメ、湯気が上がるほどの蒸し暑さ。互いに会話もマトモに通じない騒然とした店を、2人きりのクリスマスデートに平気で選んだデビッドがイケナイのだ。仲間を10人も引き連れて疑似モロッコ体験を楽しむなら最高の店でも、年に1度のクリスマスデートに選択することはないだろう。
今井君には、アレクサンドラ(仮)の怒りがよく理解できた。というか、当のアレクサンドラ(仮)以上に2人の過去/現在/未来がよく見え、どうもとっくの昔に修復困難な関係に陥っていたことさえ、千里眼のように見通せた。
「その程度のことで、そんなに腹を立てるかよ?」「短気なオンナ!!」と言うなかれ。彼女にとってはそれなりの重みのある一夜だったのだし、2人のこれまでの歴史の中での細かい怒りや苛立ちの蓄積も考えてあげなきゃ、ダメじゃないか。
![スパイス](https://stat.ameba.jp/user_images/20120401/02/imai-hiroshi/88/11/j/o0360026111887380519.jpg?caw=800)
(咳が止まらなくなる強烈&凶悪なスパイスたち)
2人は間もなく、お互い完璧な無言のまま、店を出ることに決まった。2人が立ち去るためには、クマ蔵がまず立ち上がり、テーブルを脇へ寄せ、奥に座っていたアレクサンドラのために30cmほどのスキマを作り、この夜のために彼女が選んだ美しい衣装を、今井君のクスクスやソースで汚さないように、細心の注意を払わなければならない。
それだけ努力しても「ジャマな東洋人ね!!」という厳しい視線でニラミつけられる。「ジャマなクマね!!」「何よ、そのニヤけた妙な笑顔は?」「早くどきなさい。ワタシは一刻も早く、デビッドを別れちゃいたいんだから!!」。憤然と出て行くアレクサンドラの怒りは、背中からも、後頭部からも、熱い湯気となって噴き出しているのだった。
![寒かった一日](https://stat.ameba.jp/user_images/20120401/02/imai-hiroshi/39/e9/j/o0360027011887380628.jpg?caw=800)
(ホントに寒いクリスマスイブだった)
あれから3年半、2人のその後はどうなっただろう。取り返しのつかない男女のケンカを間近で目撃したのは、2005年春のウィーンに次いでこれが2回目。無言と沈黙が支配するケンカは、おそらくホントに取り返しがつかないのだ。
諸君、「危ないな」と思ったら、とにかく一緒にたくさん食べて、たくさん話すことである。いや、この忠告は男女関係に限らない。今井君は学部生時代、鴨武彦教授の国際政治学の授業で、「イマジネーションとコミュニケーションこそ、平和構築と平和維持の基本」と教えられた。
想像力を駆使して互いの状況や苦しみを理解し、綿密なコミュニケーションで状況と苦悩を伝えあう努力。疑念が生じたときこそ、イマジネーションをフル活動させ、あらゆるチャンネルで細心のコミュニケーションに全力を尽くす。さもないと、どんな関係もデビッドとアレクサンドラのような結果に終わりかねないのである。
![それでも朝はやってきた](https://stat.ameba.jp/user_images/20120401/02/imai-hiroshi/98/e4/j/o0360027011887380818.jpg?caw=800)
(それでもロンドンにクリスマスの朝は来た)
さて、単なる男女の痴話ゲンカを以上のように無意味に描写して、筆者である今井君はいったい何を描きたかったのか。もちろん、コミュニケーションと想像力に関する陳腐なアドバイスなんかしたかったのではない。
伝えたかったのは、このモロッコ料理店を支配していた雰囲気である。痴話ゲンカの情景を読みながら、12月24日夜のクマ蔵の困惑と混乱を読み取っていただけたら、クマどんにとってはまさに望外の幸せと言っていい。
1E(Cd) Sirinu:STUART AGE MUSIC
2E(Cd) Rampal:VIVALDI/THE FLUTE CONCERTOS 1/2
3E(Cd) Rampal:VIVALDI/THE FLUTE CONCERTOS 2/2
4E(Cd) Anne-Sophie Mutter:VIVALDI/DIE VIER JAHRESZEITEN
14F(β) NEW HISTORY OF WORLD ART 01:先史美術と中南米美術:小学館
total m170 y334 d8229