Wed 120222 ヤリカケとホッタラカシ ウェストミンスター(ひさびさロンドン滞在記14) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 120222 ヤリカケとホッタラカシ ウェストミンスター(ひさびさロンドン滞在記14)

 春の講演会ラッシュが終了し、心理的にも肉体的にも、思っていた以上に疲労したらしい。さすがに4722名の迫力(昨日の記事参照)は、中年のオジサンが素手で受けとめるには、見た目では分からない重量感があるのだ。
 疲れきったクマ蔵は、口をアングリあけたまま、ネグラでテレビを眺めて過ごした。センバツ高校野球に、大相撲春場所千秋楽。3月下旬の日曜日なら、お口あんぐりのクマどんにおあつらえ向きのスポーツ番組がいくらでも流れている。
ウェストミンスター寺院
(ロンドン ウェストミンスター寺院)

 久しぶりでネグラを見回してみると、ありとあらゆることがヤリカケのまま放り出してある。講演旅行の交通費やホテル代の領収書だって、早く整理をつけなければならないのだが、このお口あんぐり状態では何にも手をつける気にならない。
 そういうダラしなさは、自分が受験生だった頃からサッパリかわらない。受験生諸君にはエラそうなお説教をしても、実際のクマ蔵自身はママに叱られ放題の幼稚園児みたいに、ひっくり返したオモチャ箱を片付けられなくて途方に暮れているのである。
ロンドンタクシー
(大好きなロンドン・タクシー)

 講演ラッシュの最終盤も、ハプニング的出会いに満ちていた。朝に立ち寄った銀行のオネエサマに、いきなり「今日の授業は午後からですか?」と尋ねられる。むかし授業を受けたことがあって、最近テレビCMで今井君を発見し、受験生時代を思い出していたのだと言う。
 羽田空港では、修学旅行集団から数名の男子が飛び出してきて、「今井宏だ」「今井宏だ」「すげ!!」「まじ?」「今井宏だ」「すげ!!」「すげ!!」の大合唱になった。
 諸君、突然のクマ出没に驚くときは「今井だ」にしといてくれないかね? フルネームで「今井宏だ!!」は、さすがに恥ずかしい。「滝廉太郎だ!!」「内藤やす子だ!!」「海部俊樹だ!!」のレベルならいいが、地位も財産も権威もない人間をつかまえて「フルネームでびっくり」はイカンよ。
中庭1
(ウェストミンスター 美しい中庭 1)

 なお内藤やす子とは、1975年デビューのシンガー。デビュー曲「弟よ」と翌年の「想い出ぼろぼろ」がヒットして新人賞を総なめにした。いま聞いてみると「おお、昭和じゃ」であるが、立ち寄った飲食店でいきなり彼女の「弟よ」を聞いたのも一種のハプニング的出会いである。
 作詞:橋本淳。作曲:川口真。YouTubeから歌詞を聴き取って書き写すと、以下のようになる。何故だろう、今井君はこれをカラオケで歌える自信がある。
 ひとり暮らしのアパートで 薄い毛布にくるまって
 ふと思い出すふるさとの 1つ違いの弟を
 暗い 暗い目をしてスネていた 弟よ 弟よ
 悪くなるのはもうやめて あなたを捨てたわけじゃない
中庭2
(ウェストミンスター 美しい中庭 2)

 こういう暗く激しい歌を聴いた直後、(まあ口直しに)オシャレで落ち着いたワインの店に入って、外の雪を見ながらくつろいでいたら、ウェイトレスたちの様子がどうもソワソワしている。どうやら「モト生徒」のヒトたちである。
 勘定を済ませて店を出ようとすると「あれ、絶対そうだよね!!」「そうだよね!!」と感動と感激をぶつけあう甲高い声が響き渡った。諸君、お願いだ。チャンと声をかけてくれたまえ。サインぐらい書くし、クマと一緒で良かったら、記念写真もOKだ。
 仙台駅ではガンミの高校生、熊谷駅前では修学旅行に出発する女子高生集団。チラチラ視線を向けては、視線が合うと慌てて目を伏せる。その対応は間違いだ。クマと出会ったんだから、せめて「死んだフリ」ぐらいしなきゃダメだ。
中庭3
(ウェストミンスター 美しい中庭 3)

 さて、とうとう講演ラッシュが終わって、部屋の中もデスクの上も散らかり放題に散らかっているが、ヤリカケのままホッタラカシになっているのは、ブログ上の「ロンドン滞在記」も同様である。3月9日の記事でオックスフォードからロンドンへの帰還を書いて以来、気がついてみるとすでに2週間のホッタラカシだ。
 予定では、12日にわたるロンドン滞在を20回ぐらいで書ききるつもりでいて、その13回目が終了したところである。ずいぶん間が空いたから、ここで旅程表をもう一度確認したい。

  ① 12月15日 ロンドン到着 基本食料調達
  ② 12月16日 ロンドン基礎基本コース1
  ③ 12月17日 ロンドン基礎基本コース2
  ④ 12月18日 ロンドン滞在
  ⑤ 12月19日 ケンブリッジ
  ⑥ 12月20日 カンタベリー 
  ⑦ 12月21日 オックスフォード
  ⑧ 12月22日 ウェストミンスター グリニッジ
  ⑨ 12月23日 ブルームズベリ
  ⑩ 12月24日 ハロッズ ハイドパーク ノッティングヒル
  ⑪ 12月25日 ロンドン基本コース総復習 グローブ座など
  ⑫ 12月26日 ヒースローから帰国
中庭4
(ウェストミンスター 美しい中庭 4)

 すでに12月21日までは書き終えたわけだ。12月22日、しばらくロンドンに置き去りにされたクマ蔵は、重苦しい曇天のウェストミンスター寺院を訪れることにした。
 小学3年のとき、秋田市土崎の国鉄社宅にぶら下げたカレンダーを見て以来、今井君はウェストミンスター寺院の大ファン。あれま、ずいぶん太古の昔から大ファンであり続けたものである。
中庭5
(ウェストミンスター 美しい中庭 5)

 実際に入ってみるウェストミンスターは、何しろクリスマス直前の大混雑の真っただ中。イングランドは当然のこと、ヨーロッパ全域から押し寄せた善男善女でいっぱいだ。
 英国国教会の教会に、カトリックやプロテスタントのヒトが押し寄せて、それでホントに善男善女と呼んでいいのかどうか、無知な今井君にはよく分からない。しかしまあ難しい話はヤメよう、お寺はお寺。信心深いのは、とにかくいいことじゃないか。
中庭6
(ウェストミンスター 美しい中庭 6)

 しかし言語道断に騒がしいのは、どうしてもいただけない。あっちの柱にぶつかり、こっちの墓の上でピョンピョン跳ね、そのたびに係員に厳しく叱られたり、反論したり、頭を掻いたり掻かなかったり、そこいら中がそういう騒ぎでいっぱいだ。
 これでは、落ち着いて雰囲気を味わうどころの話ではない。ウンザリした今井君は、ヒトの姿の少ないほうへ少ないほうへと小さな逃亡を繰り返し、気がつくと美しい中庭に出ていた。
中庭7
(ウェストミンスター 美しい中庭 7)

 デジタルカメラの普及は、しっとり落ち着いた旅を不可能にしたようである。際限なく撮れるから、ヒトは所かまわず立ち止まり、遠慮なしに延々と撮影を続ける。フィルムカメラの時代には、24枚撮りとか48枚撮りとか、フィルムの数が人間のワガママな行動を抑制してくれていたのだ。
 静かな中庭も、いつのまにかワガママなヒトビトの欲望におかされはじめた。観光地のヒトビトは、どうも今井君の後ろを追いかけてくるようだ。今井君が見つけた穏やかな場所を、手に手にカメラを握りしめた集団があっという間に占拠する。
 結局、1時間余りウェストミンスターに滞在して、ほうほうのていで退散することにした。小学3年から「あそこ、じっくり見てみたいな」と思い続けた寺院だが、憧れはかくも長く、退散を決意するのは実にあっという間なのである。

1E(Cd) G.Gould:BACH/GOLDBERG VARIATIONS
2E(Cd) Rampel:VIVALDI/THE FLUTE CONCERTOS
3E(Cd) Solti & Chicago:BEETHOVEN/SYMPHONIES①
4E(Cd) Solti & Chicago:BEETHOVEN/SYMPHONIES②
14G(α) 塩野七生:賢帝の世紀(下):中公文庫
total m136 y300 d8195