Thu 120125 知的クマ男爵の1日 フロでフロベール 雅楽の世界 サントリーホール | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 120125 知的クマ男爵の1日 フロでフロベール 雅楽の世界 サントリーホール

 2月25日、2月中旬を中心に連続した12回の講演会の疲労からも、そろそろ何とか立ち直った。3月にも23日で合計16回の講演会が待ち受けているから、とにかく早急に疲労回復をはからなければならない。
 クマ蔵は肉体的にはあまりにも健康であって、まさに「疲れを知らない」を地でいくが、心のほうはきわめて脆弱である。ホントは「繊細」と表現したいけれども、クマのゴツい外見からして「繊細」という形容詞はどうしても似つかわしくない。
 ダラしない心、脆弱な精神。慣れない土地で12回も講演会が連続すれば、ホンのちょっとしたことでもクマの心は激しく傷ついて、「何にもしたくない」という鬱々とした日々が3日も4日も続くことになる。
 そういう場合の特効薬は「久しぶりに知的な1日を満喫する」である。こう見えてもクマ男爵はかつて非常に知的な獣だったのであって、今もなお熱くたぎる知性の血は、3~4枚の皮膚の下でマグマのようにフツフツ燃え続けている。
 予備校講師になって以来すでに数百年、クマはそのマグマを抑圧して生きてきたが、1年に十数回は上手にガス抜きをしてあげないと、マグマは内側から皮膚を破って噴出しそうになる。ロンドン・ビクトリア駅の階段では、つんのめって右手の皮膚を分厚く破ってしまったし(昨日の記事参照)、平常の生活の中なら、皮膚は内側から激怒のように破裂するのである。
雅楽基本
(国立劇場に雅楽「蘇合香」を見にいく)

 2月25日、そろそろマグマの圧力に耐えられなくなったクマ男爵は、「ホントに久しぶりに知的生活に没頭するしかなさそうだ」と判断。まず早朝から超♨長時間の入浴をして、ゆらめく湯けむりの中、フロベール「ボヴァリー夫人」を読破した。
 諸君、フロで♨フロベール。それだけでも十分オヤジギャグとしては秀逸であるが、実際に「フロで♨フロベール読破」を実現できるオヤジとなると、そりゃ心の底から熱いクマ男爵以外、なかなか考えられない。
 冗長な19世紀フランス文学の中でもダントツな冗長ぶり。田舎の医者のオクサマが、田舎の金持ちや書記見習いと不倫を重ねたあげく、カネに行き詰まって服毒自殺するだけのストーリーである。朝の湯けむりの中で2日酔いに苦しみながら、2段組や3段組の分厚い文学全集に取り組むクマ男爵の知性、その強烈さ&強靭さに驚愕したまえ。
舞台べた
(繊細なクマ蔵は、この程度の掲示でも傷つくのだ。もちろん「舞台シモテ」、それはわかっているけれども)

 続いて午前11時、早春の冷たい雨の中、クマ男爵は東京三宅坂の国立劇場にタクシーで到着。正午から午後4時まで、国立劇場大劇場で「雅楽」を満喫することにした。出演は宮内庁式部職楽部。あれま、これってどこで切れてるの? 式部/職楽部? 式部職/楽部? まあ、クマ男爵はチャンとわかっているが、わからないフリをしておくほうがカッコいいかもしれない。 
 演じられたのは、「蘇合香」。これで「そこう」と読む。明治時代以降、全曲通して演じられたことは1度もない。「古代インドのアショカ王が重病の際、蘇合香の草をクスリとして服用したら全快した。だからこの曲を作った」という伝説がある。ああ、しょうか。今ごろ日本全国数百万の中年オヤジが同じことを言っているだろうけれども、「序破急」3部に分かれた雅楽の大曲である。
 正午から、2011年撮影の「序」を1時間、映像で見る。何しろこっちは映像授業の大家であるから、映像雅楽だって存分に満喫できる。
 前後左右のオジサマ&オバサマは、開始5分までゴホゴホ咳をしまくり、10分後にようやく咳が収まると、今度はそこいら中から遠慮なしの高イビキ。グアッゴッゴゴー、グエッゴッゴゴーッ、パッコピチャ、フゲッゴゴー!! 「おやおや、呼吸できなくて死んじゃうよ」「いったい、何しにきたの?」であるが、ま、このぐらい優しく許してあげようではないか。
 午後2時から、ナマの演技が始まった。「蘇合香」序破急のうち「破/急」と、他に「納曾利(なそり)」「仁和楽(にんならく)」の2曲。「破」「急」というだけあって、音楽も舞も激しさを増し、笙や篳篥(ひちりき)の笛の音も最高潮になった。太鼓と鉦の音がお腹に響き、身体の底から古代日本のクマ男爵になりきったわけである。
ちらし
(雅楽の会のチラシ)

 だから、午後4時のクマ男爵は、このままヤマトタケルノミコトに変身してウワバミを退治に出かけそうな勢いであった。もちろんそんなこと言ったって、クマ男爵自身が実はウワバミでもあるのだから、自分で自分を退治しに出かけるわけにもいかない。
 延々と空間を支配する笙の笛がまず大きな異次元空間を構成し、篳篥(ひちりき)の鋭い声がその空間に具体性を与える。トルコ伝統音楽の響きに似て、人の心と頭を圧倒し、短時間でマヒさせる強烈な催眠力を感じる。オジサマたちの高イビキは、実は演ずる側の思うツボなのかもしれない。
 舞を舞う男たちの所作は、果てしない基本動作の繰り返しであって、基礎基本徹底こそが古代からの日本の伝統であることを力強く宣言するかのようである。
 6人で舞う「蘇合香」、2人で舞う「納曾利(なそり)」、4人で舞う「仁和楽(にんならく)」、どれも中年男たちの真剣な表情がたまらない。最初は違和感で笑いこけそうだったけれども、1つ1つの所作やその滑らかな流れの中に力が漲り、鋭利に張りつめていく。その力の圧倒的な大きさを感じ、目が覚める思いがする。
 どの曲もどの舞も、まぎれもなく我々の中の神を呼び出す力をもつのである。延々と鳴り響く笙と篳篥と太鼓と鉦にまず聴覚がマヒし、基本動作の果てしない反復に視覚もマヒし、見守る人々の催眠状態の中に、古代の神の幻が立ち現れる。
 しかし、あくまで穏やかな日本の神は、激しい怒りでヒトを打ちのめしたり、裁きもナシに打ち殺したりすることは決してない。一差しの大きな舞を舞ったあとは、再び神の座に戻っていくだけである。我々としては、舞の後で静かに立ち去る神の後ろ姿を温かい涙に酔いつつ見守るしかない。クマ男爵が雅楽に見て取った異次元空間とは、以上のようなものである。
シャンデリア
(国立劇場のシャンデリア)

 ちょうどこのころ、国立劇場に近い社会民主党本部では、幹事長選挙が行われ、いろいろ小政党に似つかわしくない激しいスッタモンダが展開されていた。
 今井君が幼い頃、父・三千雄は国鉄の巨大労働組合を向こうに回して日々戦う哀れな中間管理職だったから、今でもクマ蔵は日本社会党がキライ。当時の成田委員長/石橋書記長、そのあとの土井たか子だって大キライである。
社民党
(永田町の中国料理店、「社民党さま御席」の掲示)

 衆院選で140議席も獲得して、「保革伯仲」どころか「保革逆転」と気勢を上げていた社会党は、幼い今井君にとって脅威の対象であり、当時まるで社会党の機関紙みたいだった朝日新聞には、何となく今も嫌悪感を拭えない。
 しかし今や社民党は風前のトモシビな感じであって、永田町の老朽化した本部ビルはマスコミの揶揄の対象。「本部ビルどころか、政党本体が崩壊寸前」とまで書かれてしまう。
 国立劇場からサントリーホールに向かって歩きながら、古ぼけた中華料理店に「社民党さま御席、1階でございます」の貼り紙を発見。子供時代の嫌悪感は一気に哀惜の念に変わっていった。先月の党首選挙もスッタモンダ、今日の幹事長選挙もスッタモンダ。この店の酒宴も、そんなに和やかに終わりそうにない。
悟空ラーメン
(永田町「ごくうらーめん」)

 三宅坂→赤坂見附→溜池山王と45分かけて徒歩で移動し、18時からサントリーホール。スダーン指揮/東京交響楽団の演奏で、シェーンベルクとモーツァルトを聞いた。雨もすっかり止んだので、三宅坂から溜池の散歩は今井史上に残るほど楽しかった。
 コンサートまで時間があったので、お隣・ANAインターコンチネンタルホテルのロビーでビールを飲んだ。早春のホテルは結婚式でごった返し、結婚式直前カップルと御両家のパパ&ママが最終の打ち合わせに興じている。お隣のテーブルではシューカツの面接が進行中であった。
 こんな場所で就職面接とは恐れ入るが、30歳スレスレの主任or係長クラスが、2~3人のシューカツ生相手に大威張りでアドバイスなどしている姿は、もって他山の石とすべき光景である。諸君、クマ男爵も、もっともっと謙虚に生きなければいけないねぇ。
チケット
(2月25日のチケット類)

 コンサートは、激しいシェーンベルクが圧巻。ついでにオヤジのイビキと、オバサマたちのおしゃべりが圧巻。どうしてあれほど強烈なシェーンベルクの渦の中でイビキかいて熟睡できるんだ?
 サントリーホールから都バスで渋谷に出たクマ男爵は、今日一日の知的クマぶりに大満足で、南口歩道橋下の飲み屋に入った。注文したのは日本酒5合と、出汁巻きタマゴ/焼き鳥数本/蒸し野菜セット/蕎麦だし豆腐。1時間半、お客も店員も「あ、今井だ♡」「なんで、今井が渋谷駅前に?」。その驚嘆の視線を浴びながら、悠然と普段通りの晩酌を満喫して帰ってきた。
 ANAインターコンチのロビーもそうだったが、ここもタバコ吸い放題にビックリする。21世紀も半ばが見えてきた日本で、まだこんなにタバコのケムリに窒息しそうになるなんて、マコトに信じがたいものがある。
 知的♡クマ男爵は、子供時代からの喘息もち。タバコのケムリがあんまりキツイと、久しぶりに喘息がブリ返しそうでコワくなる。蘇合香の舞楽のヒトたちをお呼びして「タバコはヤメましょう」の舞でも舞ってもらいたいぐらいであった。

1E(Cd) CHOPIN FAVORITE PIANO PIECES
2E(Cd) José James:BLACKMAGIC
5D(Pl) 映像で見る大曲 蘇合香(序):国立劇場
8D(Pl) 国立劇場平成24年雅楽公演:蘇合香(破・急)/納曾利/仁和楽
11E(Cn) スダーン/東京交響楽団:シェーンベルク交響詩「ペレアスとメリザンド」/モーツァルト「バイオリン協奏曲第5番」
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